――静岡県浜松市郊外
人気のない丘陵地に、古びた洋館がひっそりと佇んでいた。
「どこまで続くのよ、この廊下」
巫女服に身を包んだ女性――庵歌姫は、終わりの見えない回廊を睨みつけ、耐えきれないといった様子で吐き捨てた。
討伐対象の呪霊が展開した術式により、この洋館は完全な脱出不可空間と化している。試行錯誤を重ねながら進み続けてきたが、景色は一向に変わらなかった。
「ざっと三十分、十五キロくらいは移動したかな」
淡々とした声で応じたのは、ポニーテールの女性――冥冥だった。感情の起伏をほとんど見せないその表情は、まるで散歩の途中であるかのように落ち着いている。
廊下は、どこまでも続いていた。
直線のはずなのに、果てがない。視線の先には、ただ同じ構造が無限に連なっているだけだった。
このような事態は想定外であり、携行しているのは最低限の装備のみ。食料はおろか、水すらない。
脱出が叶わなければ、最悪の場合――死因は餓死となる。
「途中でつけた目印も、見当たりませんね」
壁や床に刻んだはずの印は、どこにも存在していなかった。
「……となると、この屋敷に巣食う呪霊の結界は、ループ構造ではなく、私たちの移動に合わせてツギハギしているのかもしれない」
冥冥は周囲を観察しながら、静かに推論を口にする。
二人は扉を叩き、壁に触れ、窓という窓を確認して回った。だが、どこも呪力で補強され、破壊の兆しすら見せない。
しばらく沈黙が流れた後、歌姫が足を止め、意を決したように冥冥へ向き直った。
「二手に分かれましょう。
ツギハギ説が一番有力ですよね。
できるだけ速く、大きく、不規則に動く。呪霊の結界構成が追いつかなければ、外に出られるはず。
どちらかが脱出できれば、外から叩くなり、応援を呼ぶなりできます」
一瞬の沈黙の後、冥冥は口元に微笑を浮かべた。
「いいね、試してみよう」
二人が同時に走り出そうとした、その瞬間だった。
――轟音。
洋館全体が揺れ、地鳴りが空気を震わせる。天井に亀裂が走り、壁が崩れ落ち始めた。
「助けに来たよー、歌姫。
……泣いてる?」
瓦礫に足を取られ倒れ込んだ歌姫の上に、軽薄な声が降ってくる。顔を上げると、そこには白髪の男――五条悟が、相変わらず小馬鹿にした笑みを浮かべて立っていた。
「泣いたら慰めてくれるのかな?」
冥冥が冗談めかして割って入る。
崩壊の只中にありながら、その佇まいは微塵も乱れていない。歴戦の術師としての余裕が、全身から滲み出ていた。
「……あんたは泣かないだろ」
そうツッコんだのは、蒼い風を纏った青年――神凪颯真だった。
その姿に気づいた冥冥は、わずかに目を細める。
「おや、神凪くんまで出張るとは珍しい」
学生でありながら一級術師として名を馳せる颯真。
そこに六眼と無下限を持つ最強の術師・五条悟が加わるとなれば、救援としては異様なほどの豪華さだ。
そんな違和感を抱く冥冥とは対照的に、歌姫は怒りを抑えきれず立ち上がった。
「五条!! 私はね、助けなんて――」
言い終わる前だった。
瓦礫の影から呪霊が飛び出し、一直線に歌姫へと襲いかかる。
一瞬の油断。反応が遅れ、無防備な姿を晒したその刹那。
蒼い風が渦を巻き、歌姫を包む防壁となった。
同時に、芋虫のような姿の呪霊が出現し、襲撃者を丸呑みにする。
「飲み込むなよ、後で取り込む。
……悟、弱い者いじめはよくないよ」
呪霊に命じながら、夏油傑が悟をたしなめる。
「強い奴いじめるバカがどこにいんだよ」
「君のほうがナチュラルに煽っているよ、夏油くん」
傑の言葉に、悟と冥冥が揃って笑う。
歌姫は怒りと羞恥で顔を真っ赤に染めたが、失態を犯した直後では言い返すこともできなかった。
「……油断しすぎだ」
颯真は小さく溜息をつき、風の防壁を解除する。蒼い風は、霧のように静かに消えていった。
「歌姫センパーイ、無事ですかー。心配したんですよ、二日も連絡ないから」
駆け寄ってきたのは、ショートカットの女性――家入硝子だった。その素直な心配に、歌姫は一転して表情を緩め、硝子に抱きついた。
「硝子!! アンタはあいつらみたいになっちゃ駄目よ!」
「あははは、なりませんよー。あんな屑ども」
軽く笑いながら答える硝子。
「……二日、か。どうやら、結界の内外で時間がズレていたようだね。
どうりで、応援要請もしていないのに豪華な顔ぶれだと思ったよ」
「そりゃ、あんたほどの術師と、ポンコツとはいえ二級術師が二人いながら、二日も連絡不能とあれば――下手すりゃ特級案件だからな」
冥冥の言葉に、颯真は苦笑した。
――最強の術師・五条悟。呪霊操術を操る夏油傑。学生ながら一級術師の実力を持つ神凪颯真。反転術式をアウトプットできる希少な術師、家入硝子。
救援としては、あまりにも過剰な戦力だった。
疑問が解消され、任務も完了。想定外の長時間労働に見合う報酬を思い浮かべながら、冥冥はふと気づく。
「……ところで、君たち。帳は?」
その一言に、悟、傑、硝子の表情が一斉に凍りついた。
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――東京都立呪術高等専門学校
正座する三人の前で、夜蛾正道が仁王立ちになっていた。
「この中に、『帳は自分で降ろすから』と言って補助監督を置き去りにした挙句、帳を降ろし忘れたやつがいる。……名乗り出ろ」
沈黙の中、悟がすっと手を挙げた。
「先生!! 犯人探しはやめませんか!?」
「悟だな」
即断と同時に、教育的指導の拳骨が悟の頭に落ちた。
夜蛾はそのまま、背後で涼しい顔をしている颯真を静かに睨みつける。
「颯真。お前、帳を降ろし忘れていると気づいていただろう。なぜ降ろさなかった」
「そりゃ、依頼されていないからな。俺が依頼されたのは、一級術師冥冥と二級術師庵歌姫の救援だけだろう?」
颯真は悪戯が成功した子どものように笑う。
「そういったアフターサービスまでお望みなら、報酬額を引き上げてくれれば考えるよ」
肩をすくめ、そう言い残して颯真は立ち去った。
夜蛾は、問題児たちの後始末と総監部への報告を思い浮かべ、深く、長い溜息をついた。
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない