呪術高専の敷地内、苔むした石畳の階段に、五条悟と夏油傑は肩を並べて腰を下ろしていた。
夕暮れの気配が忍び寄る中、二人は無言のまま、缶ジュースのプルタブを引く。乾いた音だけが、やけに大きく響いた。
「……すまないね、悟」
沈黙を破ったのは傑だった。缶を見つめたまま、わずかに声を落とす。
「五条家の力まで借りることになるなんて……」
悟は一拍置き、空を仰いだ。薄く伸びる雲が、どこか鬱陶しく見える。
「……いや。あれはパイセンが悪いわけじゃないっしょ」
そう言ってから、口元を歪める。
「よく半殺しで我慢したよ。マジで」
五条家当主として目を通した、あの報告書――
傑と颯真が直に見てきた、人間の醜悪さが凝縮された記録が、否応なく脳裏に蘇る。悟は、吐き出すようにため息をついた。
「……俺だったらさ。殺しても、たぶん何も感じなかったと思う」
その言葉は軽くもなく、冗談でもなかった。
「……私だって同じだよ」
傑は静かに応じた。
「神凪先輩がいなかったら、私は――あの場にいた連中を、皆殺しにしていたと思う」
そう漏らした瞬間、脳裏にあの光景が蘇る。
人間の、どうしようもない醜さ。
守るべき弱者だと信じていた非術師たちが見せた、底知れぬ汚濁。
自分が拠り所にしてきた「正義」が、音を立てて揺らぐ感覚。
それでも堕ちきらずに済んだのは――
自分以上に、明確な怒りをもって愚行を断罪した存在が、あの場にいたからだ。
「それにしても……」
傑は、少しだけ肩の力を抜き、戯けるように言った。
「あの時の先輩は、正直怖かったよ。
あの人だけは、絶対に敵に回しちゃいけないって、心から思った」
泣き叫び、許しを乞う村人たちを一顧だにせず、淡々と“半殺し”にしていく颯真。
そこにあったのは躊躇でも激情でもなく、ただ裁定だけだった。
修羅――あるいは夜叉。そんな言葉が、嫌でも重なる。
実際にその場を見ていないはずの悟も、その光景を容易に想像できてしまい、思わず苦笑する。
「……たしかに」
缶ジュースを一口あおり、ぽつりと呟いた。
「敵に回ったパイセンは……相当おっかなそうだな」
夕風が、二人の間を静かに通り抜けていった。
「……ここに居たのか」
低く落ち着いた声が背後から降ってきた。
悟と傑は同時に振り返ることもなく、気怠げに視線だけを向ける。
そこに立っていたのは夜蛾正道だった。
「まったく……颯真も、お前らも。どいつもこいつも、手を焼かせてくれる」
苦虫を噛み潰したような表情で見下ろしてくる夜蛾に、二人は揃って小さく苦笑する。
今回の一件――
颯真に情状酌量の余地があることは、誰の目にも明らかだった。
だが同時に、教え子である颯真の行為が「明らかにやり過ぎ」であったことも否定できない。
その処罰に、半ば力ずくで割り込み、異議を唱えたのが悟と傑だった。
監督責任者である夜蛾のもとに、総監部の長老たちから非難が殺到していることを――
二人は、理解していないわけではなかった。
「……すみません」
先に頭を下げたのは傑だった。
「仕方ないっしょ?」
悟は肩をすくめ、どこか投げやりに続ける。
「パイセンを、処分させるわけにはいかないし」
対照的な二人の反応に、夜蛾は短く息を吐いた。
「……まぁな。颯真の気持ちも、お前らの立場も、分からんでもない」
そう言いながらも、表情は厳しいままだ。
「先生……」
傑が、少し躊躇いがちに口を開く。
「あの時、保護した女の子たちは……」
虐待されていた二人の女児の姿が、脳裏から離れなかった。
夜蛾は、その不安を見透かしたように、静かに頷く。
「安心しろ。二人とも高専で保護している。今は専門のカウンセリングと治療を受けさせているところだ」
一瞬言葉を切り、夜蛾は続けた。
「……心の傷は、正直言って浅くはない。だがな」
傑を真っ直ぐに見据え、力を込める。
「お前たちは、間違いなく彼女たちを救った。それだけは、誰が何と言おうと事実だ」
やり方に問題があったことは否定できない。
だが、あの現場で冷静さを保てという方が酷だったことも、夜蛾は分かっていた。
傑自身が負った心の傷も、決して小さくない。
その言葉に、傑の肩からわずかに力が抜ける。
一方で、二人のやり取りを黙って聞いていた悟は、いつになく考え込んだ表情を浮かべていた。
「……先生」
不意に、悟が口を開く。
「俺、強いよね?」
唐突な問いに、夜蛾は一瞬だけ眉を上げ、それから鼻を鳴らした。
「あぁ。生意気にもな」
「だよね」
悟は小さく笑い、しかしすぐに視線を落とす。
「でもさ……どうも、それだけじゃ駄目らしいんだよ」
缶ジュースを指先で転がしながら、続ける。
「パイセンに、傑に、俺。
どんだけ強くなってもさ、救えるのって――結局、手が届く範囲の奴らだけなんだ」
その言葉に、傑の脳裏にも、ある声がよぎった。
無邪気で、真っ直ぐな、灰原の言葉。
沈黙の中、悟は顔を上げ、はっきりと告げる。
「……先生。俺、教師になるよ」
夜蛾が息を呑むのとほぼ同時に、傑が隣で肩をすくめた。
「悟だけじゃ、不安だな」
そして、穏やかに笑う。
「私も付き合うよ」
二人の言葉に、夜蛾は目を丸くしたまま、しばらく動けずにいた。
やがて、諦めにも似た小さな笑みを浮かべる。
「……やれやれ」
夕暮れの石畳に、三人分の影が静かに伸びていた。
とても難産でした。
リアルが忙しいことと、遅筆なせいで遅くなってしまい申し訳ありません。
今後も、時間を見つけて更新していこうと思っていますので、よければお付き合いお願いします。
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週末、週明けと寒くなるようですので、皆様風邪など引かぬようご自愛くださいませ。
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない