呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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更新遅くなり申し訳ありません


第21話

 呪術高専の敷地内、苔むした石畳の階段に、五条悟と夏油傑は肩を並べて腰を下ろしていた。

 

 夕暮れの気配が忍び寄る中、二人は無言のまま、缶ジュースのプルタブを引く。乾いた音だけが、やけに大きく響いた。

 

「……すまないね、悟」

 

 沈黙を破ったのは傑だった。缶を見つめたまま、わずかに声を落とす。

 

「五条家の力まで借りることになるなんて……」

 

 悟は一拍置き、空を仰いだ。薄く伸びる雲が、どこか鬱陶しく見える。

 

「……いや。あれはパイセンが悪いわけじゃないっしょ」

 

 そう言ってから、口元を歪める。

 

「よく半殺しで我慢したよ。マジで」

 

 五条家当主として目を通した、あの報告書――

 傑と颯真が直に見てきた、人間の醜悪さが凝縮された記録が、否応なく脳裏に蘇る。悟は、吐き出すようにため息をついた。

 

「……俺だったらさ。殺しても、たぶん何も感じなかったと思う」

 

 その言葉は軽くもなく、冗談でもなかった。

 

「……私だって同じだよ」

 

 傑は静かに応じた。

 

「神凪先輩がいなかったら、私は――あの場にいた連中を、皆殺しにしていたと思う」

 

 そう漏らした瞬間、脳裏にあの光景が蘇る。

 

 人間の、どうしようもない醜さ。

 守るべき弱者だと信じていた非術師たちが見せた、底知れぬ汚濁。

 自分が拠り所にしてきた「正義」が、音を立てて揺らぐ感覚。

 

 それでも堕ちきらずに済んだのは――

 自分以上に、明確な怒りをもって愚行を断罪した存在が、あの場にいたからだ。

 

「それにしても……」

 

 傑は、少しだけ肩の力を抜き、戯けるように言った。

 

「あの時の先輩は、正直怖かったよ。

 あの人だけは、絶対に敵に回しちゃいけないって、心から思った」

 

 泣き叫び、許しを乞う村人たちを一顧だにせず、淡々と“半殺し”にしていく颯真。

 そこにあったのは躊躇でも激情でもなく、ただ裁定だけだった。

 修羅――あるいは夜叉。そんな言葉が、嫌でも重なる。

 

 実際にその場を見ていないはずの悟も、その光景を容易に想像できてしまい、思わず苦笑する。

 

「……たしかに」

 

 缶ジュースを一口あおり、ぽつりと呟いた。

 

「敵に回ったパイセンは……相当おっかなそうだな」

 

 夕風が、二人の間を静かに通り抜けていった。

 

「……ここに居たのか」

 

 低く落ち着いた声が背後から降ってきた。

 

 悟と傑は同時に振り返ることもなく、気怠げに視線だけを向ける。

 

 そこに立っていたのは夜蛾正道だった。

 

「まったく……颯真も、お前らも。どいつもこいつも、手を焼かせてくれる」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で見下ろしてくる夜蛾に、二人は揃って小さく苦笑する。

 

 今回の一件――

 颯真に情状酌量の余地があることは、誰の目にも明らかだった。

 

 だが同時に、教え子である颯真の行為が「明らかにやり過ぎ」であったことも否定できない。

 

 その処罰に、半ば力ずくで割り込み、異議を唱えたのが悟と傑だった。

 

 監督責任者である夜蛾のもとに、総監部の長老たちから非難が殺到していることを――

 二人は、理解していないわけではなかった。

 

「……すみません」

 

 先に頭を下げたのは傑だった。

 

「仕方ないっしょ?」

 

 悟は肩をすくめ、どこか投げやりに続ける。

 

「パイセンを、処分させるわけにはいかないし」

 

 対照的な二人の反応に、夜蛾は短く息を吐いた。

 

「……まぁな。颯真の気持ちも、お前らの立場も、分からんでもない」

 

 そう言いながらも、表情は厳しいままだ。

 

「先生……」

 

 傑が、少し躊躇いがちに口を開く。

 

「あの時、保護した女の子たちは……」

 

 虐待されていた二人の女児の姿が、脳裏から離れなかった。

 夜蛾は、その不安を見透かしたように、静かに頷く。

 

「安心しろ。二人とも高専で保護している。今は専門のカウンセリングと治療を受けさせているところだ」

 

 一瞬言葉を切り、夜蛾は続けた。

 

「……心の傷は、正直言って浅くはない。だがな」

 

 傑を真っ直ぐに見据え、力を込める。

 

「お前たちは、間違いなく彼女たちを救った。それだけは、誰が何と言おうと事実だ」

 

 やり方に問題があったことは否定できない。

 だが、あの現場で冷静さを保てという方が酷だったことも、夜蛾は分かっていた。

 傑自身が負った心の傷も、決して小さくない。

 

 その言葉に、傑の肩からわずかに力が抜ける。

 

 一方で、二人のやり取りを黙って聞いていた悟は、いつになく考え込んだ表情を浮かべていた。

 

「……先生」

 

 不意に、悟が口を開く。

 

「俺、強いよね?」

 

 唐突な問いに、夜蛾は一瞬だけ眉を上げ、それから鼻を鳴らした。

 

「あぁ。生意気にもな」

 

「だよね」

 

 悟は小さく笑い、しかしすぐに視線を落とす。

 

「でもさ……どうも、それだけじゃ駄目らしいんだよ」

 

 缶ジュースを指先で転がしながら、続ける。

 

「パイセンに、傑に、俺。

 どんだけ強くなってもさ、救えるのって――結局、手が届く範囲の奴らだけなんだ」

 

 その言葉に、傑の脳裏にも、ある声がよぎった。

 無邪気で、真っ直ぐな、灰原の言葉。

 

 沈黙の中、悟は顔を上げ、はっきりと告げる。

 

「……先生。俺、教師になるよ」

 

 夜蛾が息を呑むのとほぼ同時に、傑が隣で肩をすくめた。

 

「悟だけじゃ、不安だな」

 

 そして、穏やかに笑う。

 

「私も付き合うよ」

 

 二人の言葉に、夜蛾は目を丸くしたまま、しばらく動けずにいた。

 やがて、諦めにも似た小さな笑みを浮かべる。

 

「……やれやれ」

 

 夕暮れの石畳に、三人分の影が静かに伸びていた。

 




とても難産でした。

リアルが忙しいことと、遅筆なせいで遅くなってしまい申し訳ありません。

今後も、時間を見つけて更新していこうと思っていますので、よければお付き合いお願いします。
高評価、感想など頂けると、泣いて喜びます。


週末、週明けと寒くなるようですので、皆様風邪など引かぬようご自愛くださいませ。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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