呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第24話

「……小癪な小僧どもめ」

 

 吐き捨てるような低い呟きが、洞窟の奥で湿った反響を残す。

 

 自らが生み落とした眷属は颯真に葬られ、必殺の糸槍は、傑の呼び出した牛鬼にいとも容易く両断された。

 

 土蜘蛛は、憎悪を滲ませた視線を二人に向け、忌々しげに唇を歪める。

 

「ならば――これで葬ってくれる」

 

 叫ぶと同時に、人型の腕が複雑な掌印を結ぶ。

 大地に沈殿していた呪力が、濁流のように噴き上がった。

 

「領域展開――『国蝕土牢』!!」

 

 呪術の極致が、唐突に世界を書き換える。

 

 咄嗟に、傑と颯真は簡易領域を展開し、自身の周囲に防壁を構築した。

 

 だが、結界を持たぬ牛鬼だけが取り残される。

 

 次の瞬間、無数の蜘蛛糸が放射状に伸び、牛鬼の巨体を雁字搦めに絡め取った。

 

 一方で、烏賊型の呪霊は、何事もなかったかのように宙に漂い続けている。

 

「……巣穴に設置している“もの”を、必中で拘束する術式、ってところか」

 

 眷属への拘束の有無、その差異から、颯真は即座に領域効果を見抜き、小さく呟いた。

 

 直後――

 蜘蛛糸に縛られていた牛鬼の身体を内側から突き破り、無数の蜘蛛がわらわらと這い出してくる。

 肉を苗床に、呪力を養分にした冒涜的な光景だった。

 

「そして捕らえられたが最期、餌にされ、眷属の苗床にされる……というわけか」

 

 傑は冷静に状況を分析しながら、わずかに肩をすくめる。

 

「ですが、浮遊していれば捕捉できないのなら――やりようはいくらでもあるね」

 

 そう言い放ち、眷属の対処を颯真に任せると、傑はさらに烏賊型呪霊を増殖させる。

 全方位に展開された呪霊たちが、土蜘蛛へ向けて一斉に呪力砲を放った。

 

「呆気者が……」

 

 無数の光弾が迫る中、土蜘蛛は微塵の焦りも見せずに呟く。

 次の瞬間、呪力砲の前面に網状の蜘蛛の巣が瞬時に編み上がり、放たれた呪力を絡め取ると、そのまま反転――烏賊型呪霊へと撃ち返した。

 

 自らの呪力に貫かれ、烏賊型呪霊は霧のように掻き消えていく。

 

 牛鬼から生まれた眷属も、颯真の風刃によって次々と両断される。

 しかし、断たれた断面から蜘蛛糸が伸び、まるで意思を持つかのように絡み合い、瞬時に肉体を再構成していった。

 

「この領域内じゃ、眷属は不死。

 本体は鉄壁……」

 

 颯真は、感心したように小さく息を吐く。

 

「なかなかいい“領域”を持ってるな」

 

「……感心している場合ですか?」

 

 傑は困ったように笑いながら颯真に視線をやる。

 

「領域を使えない私では、正直少々厄介なんですが。

 あ、ただし――出来れば取り込みたいので、祓わずに“弱める”程度でお願いしますね」

 

 助けを求めながらも、遠慮のない注文を付ける傑に、颯真は露骨に面倒そうなため息をついた。

 

「……貸し一つだぞ」

 

 そう呟き、颯真は胸元で両手を合わせる。

 

 人差し指と中指を刃のように交差させ、薬指と小指を軽く握り込む。

 

――金剛界・風輪印。

 

「領域展開――『風王葬陣』」

 

 世界が、反転した。

 

 颯真の生得領域が顕現し、あらゆる音が、意味を失う。

 

 蒼白な虚無が、土蜘蛛の生得領域を軋む音を立てて削り取り、侵食していった。

 

 地と空の境界は溶解し、上下の感覚は失われる。

 そこに存在するのは、ただの空白。

 

 土蜘蛛の生得領域が完全に塗り潰された、その瞬間だった。

 

 清浄さを孕んだ一筋の風が、領域内を吹き抜ける。次の刹那、土蜘蛛の両腕と八本の脚が、音もなく宙を舞った。

 

 遅れて、どす黒い体液が噴き上がり、岩肌と地面を汚す。

 

「……ば、馬鹿な……」

 

 絶対の自信を託していたはずの領域を、あまりにも呆気なく破壊された現実。

 

 為す術もなく達磨と化した土蜘蛛は、驚愕と恐怖をない交ぜにした顔で、颯真を見上げていた。

 

「……流石だ」

 

 自身があれほど苦戦した生得領域を、いとも容易く打ち破った颯真に、傑は素直な敬意を込めた視線を向ける。

 

 称賛の言葉と共に、傑は土蜘蛛へと右手を差し出した。

 

 呪霊操術が発動し、土蜘蛛の存在は圧縮され、やがてどす黒い球体へと変貌する。

 

 醜悪な邪気を放つそれを、傑は一切の躊躇なく口に運んだ。

 

 吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みしたかのような不快感が口内に広がり、傑は思わず顔を顰める。

 

「……相変わらず、酷い味だ」

 

 一度弱音を吐いた相手だからこそか、傑は珍しく本音を漏らし、颯真を見て小さく微笑んだ。

 

 颯真もそれに応えるように、ほんの一瞬、笑みを浮かべる。

 

 だが、次の瞬間だった。

 

 颯真の表情が、普段からは想像もできないほど切迫したものへと変わり、傑の身体を力任せに突き飛ばした。

 

「――っ!?」

 

 予期せぬ衝撃に、傑は受け身すら取れず、洞窟の床を転がる。痛みに耐えながら顔を上げた、その視線の先――。

 

 颯真が、妙齢の女に袈裟斬りにされていた。

 

 いつも不遜な笑みを崩さない颯真の顔が、苦痛に歪む。大量の血液がダウンジャケットを朱に染め、滴り落ちる。

 

「……誰だ、てめぇ?」

 

 歯を食いしばり、颯真は斬りつけた女を睨み据えた。

 

 年の頃は三十から四十といったところか。肩口にかかる黒髪、整った顔立ち。その額には、横一文字に走る縫合痕が刻まれている。

 

 女は問いかけを無視し、興味深そうに首を傾げた。

 

「今ので、呪霊操術の少年を仕留めるつもりだったんだがね……」

 

 淡々とした声が洞窟に響く。

 

「術式は焼き切れているはずなのに。よく感知できたものだ」

 

 傑は即座に颯真を援護しようと、使役呪霊を呼び出そうとした――その瞬間。

 

 凄まじい圧力が、真上から叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

 身体が地面に押し伏せられ、そのまま地中へと沈み込んでいく。

 

(――重力、か!?)

 

「キミの相手は、後にしてあげ――」

 

 女の言葉が終わるより早く、颯真は呪力を纏った拳を叩きつけていた。

 

 女は間一髪で拳を流す。

 

 しかし、反転術式で治療に入ると思っていた颯真が、己の傷を一顧だにせず攻め続ける様に、わずかに虚を突かれる。

 

「治せよ!」

 

「うるせぇ、死ねッ!!」

 

 颯真は怒声と共に踏み込み、目にも止まらぬ連撃を叩き込み、女は悪態をつきながらも、それを必死に捌く。

 

 領域展開によって術式は焼き切れている。

 ――ここで主導権を握られた時点で、敗北は確定する。

 

 その確信が、颯真を限界を超えた猛攻へと駆り立てていた。




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寒さが厳しいですので、皆様とうかご自愛ください。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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