女に向け、颯真は目にも留まらぬ連撃を叩き込み続けていた。
しかし、あまりにも大量の血を失っていた身体は、もはや意志だけでは支えきれない。視界が歪み、足元が揺らぎ、ほんの一瞬――致命的な隙が生まれた。
その刹那を、女が見逃すはずもなかった。
「……現代の術師とは思えないほど、厄介な男だったよ」
淡々とした声と共に、女は体勢を崩した颯真の首筋へ、容赦なく刀を振り下ろす。
――死を覚悟した、その瞬間。
ガギンッ、と金属が弾かれる乾いた音が洞窟に響いた。
凶刃は、首筋の紙一重で止まっている。
刀の切っ先を阻んでいたのは、目を凝らしてようやく視認できるほど細い、一本の蜘蛛糸だった。
先刻、調伏したばかりの土蜘蛛が、強大な呪力を宿した糸を張り巡らせ、主を守る結界のように編み上げていたのだ。
「どうやら……お前の術式は、せいぜい六秒しか持続しないらしいな」
陥没した地面から這い出てきた傑が、肩についた土埃を払い落としながら告げる。
自身を押し潰していた重力波が、きっかり六秒で途切れたことを、彼は見逃していなかった。
鋭い視線で女を射抜きながら、傑は手負いの颯真の前に立つ。
「これで二対一だ……いや、千対一かな?
私と先輩を同時に相手取ろうなんて、随分と舐められたものだ」
不敵な笑みと共に、傑の周囲に複数の呪霊が姿を現す。
空気が歪み、洞窟内の気配が一気に濁った。
その隙に、颯真は全力で反転術式を巡らせる。袈裟斬りにされた傷口が塞がり、血の流れが止まる。
吸い込んだ血で重くなったダウンジャケットを脱ぎ捨て、彼は再び立ち上がった。
「……わりぃ、助かった」
珍しく素直な礼に、傑は小さく笑って応じる。
「いえ。貸しを返しただけです」
女は二人を見据え、わずかに息を吐いた。
「キミたちの実力を過小評価していたつもりはなかったのだけれどね……
この奇襲で、どちらも仕留めきれなかったのは少し予想外だった」
一拍、間を置いて。
「……保険は、かけておくものだ」
直後、轟音が洞窟を揺るがした。
壁が粉砕され、その瓦礫を引き裂くように、一人の少女が大剣を携えて飛び込んでくる。
勢いそのままに、少女は颯真へ斬りかかった。
颯真は即座に反応し、大剣の腹を呪力を纏わせた拳で殴りつける。軌道が逸れた一瞬を逃さず、体勢を崩した少女の腹部へ蹴りを叩き込んだ。
距離を取り、颯真は油断なく襲撃者を見据える。
戦場には不釣り合いなその姿。
漆黒のフリルとレースをふんだんに用いた、ゴシック・ロリータ調のワンピース。
艶やかな栗色の髪。顔は漆黒の仮面に覆われ、表情は窺えない。
そして、身の丈ほどもある大剣。
刀身は水晶で構成され、神秘的な輝きを放ちながらも、内側には禍々しい呪力が渦巻いている。
――だが。
その少女自身からは、呪力が一切感じ取れなかった。
「……あいつみたいな、天与呪縛のフィジカルギフテッドか?」
颯真と傑の脳裏に、かつての怪物――禪院甚爾の姿がよぎる。
だが、あれほどの異常がそう何人も存在するはずがない。疑念が、胸の奥で膨らんだ。
女は、その疑問を見透かしたかのように、柔らかな声で語りかける。
「この子はね。キミに恨みを持つ人物から、借り受けた切り札だよ」
「恨み、ねぇ……」
颯真は軽薄そうに笑う。
「心当たりが多すぎて、逆にわからねぇな」
だが、その瞳には、一片の油断も宿っていなかった、
「……神凪颯真。私個人として、貴方に恨みはありません。
ですが――マスターの命により、ここで討たせていただきます」
仮面の少女は大剣を地に突き立てると、両手でスカートの裾をつまみ上げ、颯真へと丁重に一礼した。
その所作には、戦場には不釣り合いなほどの気品があった。まるで貴族の令嬢が舞踏会で挨拶をするかのような、洗練された礼。
「やれるもんなら、やってみな」
少女の言葉を、颯真は鼻で笑い飛ばす。
禪院甚爾本人ならともかく、ただの紛い物に敗れるなど、欠片ほども想像していなかった。
だが、そんな颯真の態度を意にも介さず、仮面の少女は静かに顔を上げ、淡々と告げる。
「星と叡智の名の下に。
このラピス・ローデス、全身全霊をもって、我が主の仇敵――神凪颯真を討ち滅ぼさん」
「――――!!」
刹那、颯真の表情から、すべての感情が消え失せた。
仮面のような無表情が、仮面の少女、ラピスを正面から捉える。
――星と叡智の名の下に。
その言葉を耳にしたまま、颯真は一瞬だけ目を閉じる。
それは、彼にとっての“呪い”だった。
自身の術式と向き合い、弱さが時として罪となることを思い知らされた、忘れたくても忘れられない過去。
『あの男』は、颯真の目の前で悠然と宣誓したのだ。
――我はただ、真実のみを追い求めん。
護ろうとして、護れなかった幼馴染の心臓を、その手で掴みながら。
再び瞼を開いたとき、颯真の口元には、いつもの斜に構えた笑みが戻っていた。
だが――
隣に立つ傑は、その変化を敏感に察し、思わず息を呑む。
「あぁ……そういうことか……」
静かに。どこまでも静かに。
颯真は、嗤った。
「理解したぜ。
要するに――御主人サマの後を追いたいってわけだな?」
次の瞬間、颯真の呪力が爆発した。
「――!?」
「ほう……」
それは単なる増幅や膨張ではない。
衝撃波そのものと言っていい呪力の奔流が、空間を蹂躙する。
その奔流を浴び、傑と女は揃って目を見開いた。
これまで共に過ごしてきた中でも、一度として見たことのない――颯真の“本気”。
轟音を立て、颯真の周囲に風が渦巻く。
焼き切れたはずの術式を、反転術式で無理やり繋ぎ直し、彼は風を一点へと収束させた。
強引な脳への反転術式の反動か、右目から血涙が伝い落ちる。
だが、颯真はそれすら意に介さず、ラピスと女を睨み据えた。
「いいぜ。協力してやるよ!!
御主人サマと同じ地獄に行けるように――閻魔サマにでも祈っときな!」
解き放たれた超音速の風の刃が、一直線に二人を襲う。
必殺の一撃。
並の術師であれば、束になっても一瞬で輪切りにされるほどの威力。
だが――
ラピスは、容易く大剣を振るい、その風の刃を断ち切った。
切り裂かれた刃は、残滓すら残さず、虚空へと消え去る。
(――吸収、したのか!?)
一瞬でその絡繰を見抜いた颯真は、遠距離戦の無意味さを悟る。
次の瞬間には地を蹴り、一息で間合いを詰め、風を纏った拳を叩き込んだ。
ラピスは大剣の腹でそれを受け止める。
だが、颯真の凄まじい膂力を殺しきることはできない。
轟音とともに、ラピスの身体は弾き飛ばされ――
洞窟の岩盤へと、深々と突き刺さった。
とうとう、風の聖痕からの輸入キャラを呪術廻戦に導入しました。
賛否もありますでしょうが、御容赦頂けると助かります。
評価や感想頂いた方、ありがとうございます。
おかげでモチベが上がり、夜勤明けの眠い目をこすりながら連日投稿することが出来ました。
結構ブラックな職場環境で、投稿が遅めですが、今後とも頑張りますので、良ければお付き合いお願い致します
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない