夜蛾に"指導"という名の拳骨を食らった悟は、後頭部にできたたん瘤をさすりながら、不貞腐れた様子で頬杖をついていた。
「そもそもさぁ、"帳"ってそこまで必要? 別に
「駄目に決まってるだろ」
不満を隠そうともしない悟のぼやきに、傑は呆れを滲ませた声で即座に切り返す。
「呪霊の発生を抑制するのは、何より人々の心の平穏だ。そのためにも目に見えない脅威は極力秘匿しなければならない。それだけじゃない――」
「分かった、分かった」
模範解答のように整った正論を、もう聞き飽きたと言わんばかりに悟は遮った。
そんな二人のやり取りをよそに、硝子は悟のサングラスを勝手に掛けてみたり外してみたりと、我関せずとばかりに遊んでいる。
「弱い奴らに気を使うのは疲れるよ、ホント」
心底うんざりしたように吐き捨てる悟に、傑はなおも言葉を重ねた。一般家庭出身でありながら悟に比肩するほどの実力を持つ傑は、自身が思い描く理想の術師像を語り続ける。
「"弱者生存"、それがあるべき社会の姿さ。弱きを助け、強きを挫く。いいかい、悟。呪術は非術師を守るためにある」
そんなことは悟とて百も承知だ。呪術界の常識を、唯一無二の親友から、さも分かりきった顔で説かれる――それが、どうにも癪に障った。
「それ、正論? 俺、正論嫌いなんだよね」
幼稚とも言える反論に、傑の額にぴくりと青筋が浮かぶ。
二人の間に張り詰め始めた空気を察し、硝子は静かに立ち上がった。この場に残れば碌なことにならない――二人をよく知るがゆえの、的確な判断だった。
硝子が音もなく扉を閉めると同時に、悟は口を開く。
「呪術に理由とか責任を乗っけるのはさ、それこそ弱者がやることだろ。ポジショントークで気持ちよくなってんじゃねぇよ」
言い終えるや否や、悟は「オッエー」と声を上げ、ふざけて舌を突き出し、嘔吐する真似をしてみせた。
その瞬間、傑の堪忍袋の緒が切れた。
使役する呪霊を呼び出しながら、冷え切った視線を悟へと向ける。
「外で話そうか、悟」
「寂しんぼか? 一人でいけよ」
悟は不敵な笑みを浮かべ、六眼で一切の油断なく傑を捉える。
「……痴話喧嘩なら、他所でやれ」
気怠げな声が響いた直後――清涼な風が二人の間をすり抜けた。
声の主へ視線を向けようとした瞬間、今度は頭上から凄まじい突風が叩きつけられる。巨大な滝に全身を打たれているかのような圧力だった。
悟も傑も抗うことすら叶わず、揃って膝をつく。
「――パイセン!?」
「――神凪先輩!?」
互いの実力を誰よりも認め合っているからこそ、分かる。攻撃されるまで気配すら悟らせず、無下限術式を易々と突破する――そんな常識外れの存在が、この学校にはいる。
二人の額に、同時に冷たい汗が滲んだ。
「……ったく、仕事でもないのに手間かけさせんな」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめ、颯真は二人のすぐ傍の椅子へと腰を下ろした。同時に、押さえつけていた不可視の圧が、ふっと霧散する。
「……無下限を軽く突破しといて、手間で済ますのパイセンくらいっすよ」
「相変わらず、簡単そうに常識外れのことをしますね」
悟と傑はそれぞれ首や腰をさすりながら颯真を挟むように歩み寄り、軽口を叩いた。声音には冗談めかした調子が混じっているものの、どこか引っかかるものも残っている。
「……簡単にできるわけじゃねぇから、手間をかけんなって言ってるんだよ」
颯真は小さく息を吐き、疲れを滲ませた声でそう返した。
その言葉に一応の区切りをつけるように、二人はそれ以上の応酬を控えた。
だが、互いに完全に納得したわけではない。不満を胸の内に抱えたまま颯真を中心に左右へと腰を下ろし、わざと視線を合わせようとはしなかった。
微妙な空気の中、悟は気まずさを誤魔化すように口を開く。
「そういや、パイセンはなんでここに?」
颯真は気怠げな様子で上着のポケットから携帯を取り出すと、指先で摘まむようにひらひらと掲げた。
「正道に呼び出しくらった。お前らと俺に、何か依頼があるんだとよ。詳しくは揃ってから話すって言ってたから、もうすぐ来るんだろ」
そう言いながら、颯真は扉へと視線を向けた。
まるで合図を待っていたかのように、次の瞬間、扉が開き、夜蛾が室内へと足を踏み入れる。
「……硝子はどうした?」
「さぁ?」
「便所でしょ」
三人しかいないことに気づいた夜蛾は問い質したが、返ってきたのは揃いも揃って要領を得ない返答だった。
小さく息を吐いた夜蛾は、しかしすぐに気を取り直し、改めて三人へと向き直る。
「まぁいい。この任務はお前ら三人に行ってもらう」
その言葉が放たれた瞬間、悟と傑の表情が揃って露骨に歪んだ。
「なんだその顔は?」
「「いや、別に」」
まるで子どものような反応を示す二人に、颯真は呆れたように苦笑を浮かべる。夜蛾もまた、なんとなく事情を察した様子だったが、深くは踏み込まず、そのまま話を続けた。
「依頼は二つ。"星漿体"――天元様との適合者。その少女の護衛と……」
一拍の間。
「………抹消だ」
その言葉が落ちた瞬間、室内を底冷えするような沈黙が支配した。
夏油傑は救済されるべき
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このまま救済されるべき
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羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
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虎杖ママメロンパンが見たい!
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サマーオイル教師は見たくない