呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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夜勤の仮眠時間中に仮眠せずポチポチしてたので、なんとか更新出来ました(笑)




第34話

 

「―――!?」

 

 高専の敷地に、その男が立っている光景を前に、五条悟と夏油傑は言葉を失った。

 

 縫い目のある女呪詛師、そして外国人呪詛師ヴェルンハルト・ローデスを中心に再結集した呪詛師集団――魔術結社『アルマゲスト』。

 その脅威から夏油傑を守るため、そして抑止力となるために姿を消した男、颯真。

 

 電話などで断片的な連絡はあったものの、高専の地を踏むことは一度もなかったはずの彼が、今、何事もなかったかのようにそこにいる。

 

 時間が一瞬、止まったかのようだった。

 

「……あれが、特級被呪者の乙骨憂太ってガキか。

 確かに、相当ヤバいのを憑けてんなぁ」

 

 颯真は、まるで天気の話でもするような軽さで言った。

 高専関係者、それもごく一部しか知り得ない情報を、あまりにも自然に。

 

「パイセン……なんでそれ知ってんの?」

 

 悟が目を見開き、半ば呆然としたまま問いかける。

 

「空気のある場所じゃ、俺に隠し事はできねぇよ」

 

 そう言って、颯真は悪戯が成功した子どものように口元を歪めた。

 その笑顔に、悟と傑の胸に、学生時代の記憶が不意に蘇る。

 無鉄砲で、無敵で、まだ何も失っていなかった頃の時間。

 

「……ま、冗談はここまでだ」

 

 颯真は一転して声音を落とした。

 

「最近、ちょっときな臭くてな。情報共有しに来た」

 

 その一言で、場の空気が張り詰める。

 悟と傑の表情が、同時に引き締まった。

 

「何があったんですか?」

 傑が低く問い返す。

「……あの、縫い目のある女に、何か動きが?」

 

「いや……」

 

 颯真は小さく首を振った。

 

「あのメロンパン女は、まったく足取りが掴めねぇ。

 本当に底が知れねぇんだ。

 何者なんだ、アイツは……」

 

 索敵能力に絶対の自信を持つ颯真でさえ、姿を消してから今日に至るまで、捕捉どころか痕跡一つ掴めていない。

 実力も、正体も、目的すらも不明。

 その未知が、かえって不気味さを際立たせていた。

 

「動きがあったのは、『アルマゲスト』のほうだ」

 

 颯真は続ける。

 

「拠点を日本に移して、再結集してる。数も、そこそこ増えてるな。

 この間、隠れ家を一つ潰したんだが……」

 

 一瞬、視線が鋭くなる。

 

「そこにあったのは、お前らや灰原、在校生連中――高専関係者の資料だ」

 

 沈黙が落ちる。

 

「何を企んでるかまでは掴めねぇ。だがな……」

 

 颯真は、はっきりと言い切った。

 

「アイツらの狙いは――高専(おまえら)だ」

 

 悟と傑の瞳が、細く鋭くなる。

 

 現在の東京呪術高専は、歴代最強と称しても過言ではない戦力を有している。

 

 六眼と無下限術式を持つ最強の特級術師・五条悟。

 特級呪霊すら使役する呪霊操術の使い手・夏油傑。

 学生時代の任務の後遺症で第一線は退いたとはいえ、準一級相当の実力を持つ灰原雄。

 さらに、一級術師・夜蛾正道と、粒揃いの学生たち。

 

 その牙城に牙を剥こうとするなど――

 正気の沙汰とは、到底思えなかった。

 

「それにしてもさ。――お前らみたいな問題児が二人そろって、ちゃんと教師をやってるとはな」

 

 重苦しい空気を変えるように颯真はそう言って、ふと思い出したように肩を揺らして笑った。

 

「ガキどもを見守ってる背中が、案外板についてて驚いたぜ」

 

 悟と傑は、同時に微妙な居心地の悪さを覚えた。

 

 褒め言葉だと分かっていても、背中のあたりがむず痒くなる。

 

 昔を知る人間から向けられる評価というのは、どうにも照れくさい。

 

「神凪先輩は……相変わらずですね」

 

 十年近い時を経ても、言動の端々に変化のない颯真に、傑は懐かしさを滲ませた微笑を浮かべた。

 

 そんな二人を眺めていた悟が、不意に何かを思いついたらしい。

 悪戯を思いついた子供のように、口元を吊り上げる。

 

「ねえパイセン。ひとつお願いがあるんだけど?」

 

「断る」

 

 考える間もなく、颯真は即答した。悟の笑みが“ろくでもない”類のものであることは、一目で分かる。

 

 傑は悟の胸の内までは読み切れなかったが、面白そうだという直感に従い、あっさりと隣に並ぶ。

 

「神凪先輩。可愛い後輩の頼みですよ?」

 

 二人分の視線が向けられた瞬間、颯真は露骨に嫌そうな顔をした。

 

「……それに、先輩。言ってましたよね」

 

 傑は穏やかな声で、しかし逃げ道を塞ぐように言葉を重ねる。

 

「『困ったときは、格安で助けてやる』って」

 

「そうそう。俺ら、今まさに困ってるんですよー」

 

 悟の一人称は、いつの間にか“俺”に戻っていた。教師の仮面を脱ぎ捨てた、学生時代そのままの声音だ。

 傑の口元には、柔らかさを装った腹黒い笑みが浮かんでいる。

 

 颯真はその光景を前にして、かつてこの二人を相手にしていた夜蛾の心境を、なぜかありありと理解してしまった。

 

 逃げ場はない。

 

 観念したように、颯真は両手を肩の高さまで上げる。

 

「……分かった、分かったよ」

 

 深いため息のあと、諦めを滲ませて続けた。

 

「で? 何をさせたいんだ?」

 

 

ーーーー

 

 

「というわけでぇ――僕らの一つ上のパイセン、神凪颯真さんでーす!

 な、なんと! 僕のポケットマネーで特別に臨時講師をお願いしました!

 みんなー、パイセンに盛大な拍手を!!」

 

悟はそう言って、必要以上に大仰な身振りを交えながら、グラウンドに並ぶ四人――憂太、真希、棘、そしてパンダの前に颯真を引きずり出した。

だが、その熱量とは裏腹に、学生たちの空気は驚くほど冷め切っている。

 

颯真は、その温度差を肌で感じながら、すでにこの依頼を引き受けたことを後悔し始めていた。

 

「……バカ目隠しの先輩、っていきなり言われてもな」

 

真希が一歩前に出る。

値踏みするような視線が、颯真の全身をなぞった。

 

「誰? それで――強いのか?」

 

挑発を隠そうともしないその口調に、颯真は肩をすくめ、薄く笑う。

 

「誰って言われても困るんだが…… 

 神凪颯真。フリーの術師だ。

 ……で、強いかどうか、だっけ?」

 

一瞬だけ言葉を切り、煙草を取り出す仕草を見せてから続ける。

 

「強弱の基準が何かは知らねぇけど……ま、少なくとも。

 お前らよりは、強いよ」

 

その軽薄な笑みが、火種だった。

 

「――っ!」

 

真希の気配が弾ける。

次の瞬間、彼女は地を蹴り、大刀を振りかぶっていた。

一切の躊躇も、寸止めもない。純粋な殺意を帯びた一閃。

 

「――おい、真希!!」

「――おかかッ!!」

 

パンダと棘の制止の声が重なり、憂太は反射的に目を閉じた。

 

鋭い銀の軌跡が、颯真を両断する――はずだった。

 

しかし、刃は何も捉えず、虚空を切り裂いた。

 

「……?」

 

真希の視界に映るのは、空を裂いた自分の太刀のみ。

その背後で、カチリ、と小さな音が鳴った。

 

振り返ると、そこには――

 

無防備に立っていたはずの颯真が、いつの間にか真希の背後に回り込み、悠然と煙草に火をつけていた。

 

(――いつの間に……!?)

 

目を閉じていた憂太はもちろん、真希自身も、棘も、パンダも。

誰一人として、颯真がどう躱したのか、どうやって背後を取ったのかを知覚できていなかった。

 

颯真は、紫煙を細く吐きながら呟く。

 

「……気の早いヤツだな」

 

そして、学生たちを一瞥する。

 

「ま、今のでだいたい分かったわ。

 とりあえず、悟と傑からは“組手してやってくれ”って言われてる」

 

煙草を指で挟んだまま、不敵に笑った。

 

「手加減はしてやるからさ。四人全員で来い。

 ……いや、三人と一匹、か?」

 

その笑みは軽い。だが、底知れない。

 

悟や傑の“先輩”。

その言葉の意味を、四人はこの瞬間、骨の髄まで理解していた。

 

目の前の男は――

間違いなく、別格だった。




仮眠前にハーメルン見たら、感想頂いていたので嬉しくなり、仮眠そっちのけでポチポチ文章打ってました。

本当にモチベとなっています。
感想下さった方、閲覧して下さってる方、評価して下さってる方、いつもありがとうございます。

時間を見つけて、更新はしていこうと思ってますので、今後ともよろしくお願い致します。

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