呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

35 / 49
 珍しく夜勤明けにスムーズに帰れて、昼寝も出来たので、投稿出来ました(笑)

 乙骨憂太魔改造計画です。


第35話

 あれから、どれほどの時間が流れただろうか。

 

 模擬戦が始まって間もない。竹刀を振り上げ、颯真へ打ち込もうとしたその瞬間――弾かれ、吹き飛ばされ、戦力外を宣告された憂太は、すでに戦場の外に立っていた。

 遠巻きに、ただ眺めるしかない。

 

 真希の鋭利な一閃。

 パンダの質量を伴った掌撃。

 そして二人を支えるように立ち回る棘の的確な動き。

 

 どれも憂太の目から見れば、明らかに自分より遥か上――完成度の高い連携だった。

 それでも。

 

 それらすべてを、颯真は易々と受け止め、捌き、かわしていく。

 隙を見つければ、即座に打ち返し、しかも次の瞬間には、まるで誤りを正すかのように3人の動きを微調整する。

 

 その姿は、戦いというよりも――舞だった。

 流れるようで、淀みがなく、無駄がない。

 熟達した武芸者が、挑みかかる弟子の型を一つひとつ修正していく。そんな光景に、どこか似ている。

 

 挑む3人もまた、それを肌で感じていた。

 わずかな隙を見せれば、即座に返される反撃。

 だからこそ、反撃をもらわぬように動き、考え、研ぎ澄ましていく。

 自分の動きが、確実に精巧になっていく感覚。

 

 だが――その演舞のような修練は、長くは続かなかった。

 

 最初に限界を迎えたのは、棘だった。

 目まぐるしく展開する高速戦闘。体力の消耗は隠せず、動きがわずかに鈍った、その一瞬を――颯真が見逃すはずがない。

 

 鋭い踏み込み。

 腹部へ叩き込まれた強烈な蹴り。

 

 棘の身体は宙を舞い、地面を激しく転がった。

 

 3人で辛うじて保っていた均衡は、棘の脱落によって崩れ去る。

 

 次に狙われたのは、パンダだった。

 

「真希! 俺ごとやれ!」

 

 パンダは叫びながら、相打ち覚悟で颯真に掴みかかる。

 だが、颯真の身体は風のようにするりと逃れた。

 

 次の瞬間、目にも留まらぬ連撃。

 中国拳法を思わせる連続打撃が、巨体のパンダを浮かせる。

 

 そして――

 回し蹴りの要領で、その身体を真希の方へと蹴り飛ばした。

 

 パンダごと颯真を討ち取ろうと、大刀を振りかぶっていた真希は、避けることすらできない。

 衝突と共に、2人の身体は宙を舞い、地面へと叩きつけられた。

 

 辛うじて受け身を取り、起き上がろうとした真希は――

 そこで、気づく。

 

 眼前に突き出された、颯真の拳。

 寸で止められたそれは、あと一歩踏み込まれていれば、意識ごと刈り取られていたと雄弁に物語っていた。

 

 真希は唇を強く噛みしめる。

 悔しさと、圧倒的な差を、噛み潰すように。 

 

「――まあ、学生にしちゃ及第点だな。

……1人を除いては、だが」

 

 颯真は淡々とそう言い放った。

 

 告げられた3人は、全身を苛む痛みに顔を歪めながらも、どうにか身体を起こす。

 その視界に映るのは、息一つ乱さず立つ男――自分たちとは次元の異なる高みにいる、規格外の存在だった。

 

 言外に除外された憂太は、誰の視線も向いていないにもかかわらず、胸の奥を刺すような羞恥に耐えきれず、自然と身を縮める。

 

「お疲れサマンサー。三人とも、パイセン相手によく頑張ったね」

 

 場の空気を切り替えるように、悟が明るく声を張る。

 

「憂太はまだ高専に来たばっかりなんだからさ。気にしない、気にしない」

 

 一瞬の間を置き、悟は軽い調子のまま、しかし確かな重みを含んだ視線を憂太に向けた。

 

「……でも、最終的には3人を追い越せるくらい、頑張っていこう」

 

 生徒たちの心が折れぬように。

 その意図を隠すかのような軽薄さに、学生達が気づくことはなかった。

 だが、その裏を読み取った颯真と傑は、顔を見合わせ、小さく笑みを漏らした。

 

 その“生暖かい”笑いに悟が気づく。

 

 咳払いひとつで誤魔化し、何事もなかったかのように生徒たちへ向き直る。

 

「真希、パンダ、棘。三人は傑とパイセンとで、今の模擬戦の反省と今後の訓練方針を詰めよう。

 憂太は――僕についておいで」

 

 そう言うが早いか、悟は憂太の肩を促し、まるで逃げるようにその場を後にした。

 

「頑張れよー、悟先生」

 

 背中に向かって、颯真が愉快そうに声を投げる。

 去っていく悟の肩が、ほんのわずかに揺れたのを、誰が見ただろうか。

 

 

 

 憂太を伴った悟は、高専の奥にある武器庫へと足を運んだ。

 

 巨大な蔵のような武器庫の扉を押し開けると、内部には呪霊を祓うための武具や呪具が、壁という壁を埋め尽くすように並べられている。

 

 年代も用途も異なるそれらは、静かな圧を放ちながら、ひとつの空間に共存していた。

 

 本来ならば厳重な封印のもと管理されている場所だ。しかし悟は躊躇うことなく、憂太を連れて蔵の中へと足を踏み入れる。

 

 見たこともない武具や呪具の数々に、憂太は思わず目を奪われ、きょろきょろと落ち着きなく視線を巡らせた。

 

「──そのへんの物、うっかり触ったりしないでねー。

 下手すると、呪殺されちゃうからー」

 

 蔵に入ってから、しかも世間話の延長のような軽い調子で、悟はようやく忠告を口にする。

 

 憂太はびくりと肩を跳ねさせた。

 

(……先に言ってよ)

 

 短い付き合いの中で、既に何度も肝を冷やす経験をしてきたが、その原因の大半は目の前の男である。

 

 憂太のじっとりとした視線を意に介す様子もなく、悟は壁に掛けられていた一本の日本刀を手に取った。

 

「折本里香ほどの規模の呪いを祓うのは、正直ほぼ不可能だ。

 でもね、“解く”となれば話は別」

 

 悟は刀を弄びながら、淡々と続ける。

 

「何千、何万と絡み合った呪力の結び目を読み取って、一本ずつ解いていく。

 呪われている当人にしか出来ない方法さ」

 

 その説明はあまりにも壮大で、憂太の頭には具体的な像がまるで浮かばなかった。

 

「……具体的には、どうすれば……?」

 

 戸惑いながら尋ねると、悟は持っていた日本刀を軽く放り投げる。

 

「これを使うといい」

 

 反射的に受け止めた刀は、想像以上にずっしりとした重みを持っていた。

 

 打刀と呼ばれる類のそれを、憂太は少し持て余すように握りしめ、まじまじと見つめる。

 

 手のひらに収まる刀身は、光を拒むかのように黒く塗られた鞘に包まれている。

 華美な装飾はなく、ただ静かに、しかし確かな存在感をもってそこに在った。

 

「……刀……」

 

「呪いってのはね、物に憑いてる時が一番安定するんだ。

 キミはあの時、指輪を通して折本里香と繋がった。

 パイプは出来てるんだ」

 

 悟は続ける。

 

「里香の呪いを貰い受け、刀に込めて支配する。

 それを繰り返して量を増やし、最終的にすべてを手中に収める」

 

 一拍置いて、悟は軽く笑った。

 

「……そうすれば、晴れて自由の身さ」

 

 憂太は静かに鞘から刀を抜いた。

 現れた刃は、冷たく、鈍い光を湛えている。

 

「……刀に、呪いを込める……」

 

 その言葉とともに、憂太の脳裏には、呪いになる前の折本里香の優しい笑顔が浮かんだ。

 

「……考え方は悪くねぇけどよ。

 無理に解呪する必要、あんのか?」

 

 思案に沈む憂太と、それを見守る悟。その背後から、唐突に投げかけられた声。

 

 二人が振り返ると、そこには本来、真希たちの模擬戦の反省と検討に付き合っているはずの颯真の姿があった。

 

「――パイセン!? なんでここに!? いや、それもだけど、いつの間に!?」

 

 声を上げた瞬間、五条悟は自分でもはっきり分かるほど動揺していた。

 武器庫――危険な呪具が厳重に保管されているこの場所において、警戒を怠っていたはずがない。

 

 それにもかかわらず、背後を取られた。

 気配すら感じ取れなかった事実が、悟の神経を逆撫でした。

 

 曲がりなりにも“最強”を名乗る男にとって、それは小さくない衝撃だった。

 

「面倒くさかったからな。傑に任せてきた」

 

 背後に立つ男――颯真は、緊張感など欠片もない様子で、へらりと笑う。

 

「それに、俺が請け負ったのは模擬戦だけだしな」

 

 軽い口調とは裏腹に、その存在感は場を支配していた。

 颯真はふと視線をずらし、武器庫の隅に立つ少年へと目を向ける。

 

「……それよりオマエ。乙骨憂太、だったか?」

 

 名を呼ばれ、憂太の肩がわずかに跳ねる。

 

「オマエは、なんで里香の呪いを解きたいんだ?」

 

 一拍の沈黙。

 憂太は息を整え、真っ直ぐに颯真を見返した。

 

「……里香ちゃんを、解放してあげたいんです」

 

 迷いのない瞳だった。

 だが、その言葉を聞いた颯真は、試すように問いを重ねる。

 

「里香と共に生きる気はないのか? 一度は愛した女なんだろ」

 

 ――捨てるのか?

 そう言われたような気がして、憂太は言葉を失った。

 

「オマエが里香を疎んじて、どうしても祓いたいって言うなら……」

 

 颯真の声音が、わずかに低くなる。

 

「俺なら、祓えないこともない」

 

「……そうか。パイセンの『蒼風祓』なら」

 

 悟が静かに呟く。

 颯真の術式反転《蒼風祓》。負の呪力ではなく、正の力を宿した蒼い風――癒しの力、反転術式を内包した浄化の風は、呪霊にとってまさに特効だった。

 

「まあ、あれは滅茶苦茶疲れるからな。

 正直、やりたくはねぇ」

 

 肩をすくめながらも、颯真は続ける。

 

「だが、強制的に消したいって言うなら、そういう手段もあるが……

 ……姿を変えてまでオマエと一緒に居たいと願った女を、“解放”なんて言葉で切り捨てるのか?」

 

 その言葉は、刃のように鋭く、しかし静かに憂太の胸を抉った。

 彼は何も言い返せなかった。

 

「……なら、パイセンはどうするべきだと思ってんの?」

 

 悟の問いに、颯真は感情を挟まず、淡々と答える。

 

「御霊化だ」

 

 その一言が、武器庫に落ちる。

 

「古来より、怨霊を御霊へと昇華し、鎮護の神として祀る手法は存在する。

 里香の場合、通常の怨霊より遥かにハードルは低い。――元々の願いが、乙骨の身の安全だからな」

 

 颯真は悟へ視線を向ける。

 

「悟の言う方法で呪いを制御し、乙骨自身の呪力操作を鍛える。

 そして、里香と対話を重ね、御霊化を目指す」

 

「……成る程」

 

 悟は真剣な顔で頷いた。

 

「要するに、ナ◯トと九喇◯みたいな、人柱力を目指すってことだね」

 

 あまりにも少年漫画的な例えに、颯真は呆れたように眉をひそめる。

 

「……まあ、似たようなもんだ」

 

 そして、憂太へと向き直る。

 

「決めるのはオマエだ、乙骨。

 ただな……里香とちゃんと向き合って、本当は何を望んでいるのかを聞けるのは、オマエしかいないと思うがな」

 

 その言葉を受け、憂太は自分の頬を、ぱしりと叩いた。

 痛みが、迷いを断ち切る。

 

 顔を上げた彼の表情には、もはや躊躇はなかった。

 決意だけが、静かに、しかし確かに宿っていた。

 

「憂太は、これから忙しくなるよ」

 

 軽く告げてから、彼は一拍置いた。

 

「刀の扱いも覚えなきゃならないし――なにより」

 

 そこで憂太を見下ろす視線が、ほんのわずかに意地悪くなる。

 

「キミ、驚くほど貧弱だからさ。徹底的に、シゴいてあげる」

 

 その言葉に込められた覚悟を、真正面から受け止める前に。

 

 悟はまるで空気を読まないかのように、軽い調子で親指を立ててみせた。

 

 

ーーーー

 

 

 刀を用いた模擬戦――それが条件なら、これ以上ない相手がいる。

 禪院真希。

 実戦さながらの剣筋と、容赦のない間合いを持つ彼女は、憂太にとって最良であり、最悪の教師だった。

 

 悟と傑の視線が見守る中、模擬戦は幾度も繰り返される。

 

 木刀がぶつかる乾いた音、息の上がる憂太、倒れるたびに突きつけられる現実。

 

 逃げ場はない。

 

 剣の握り方も、立ち方も、心構えさえも――すべてを壊され、組み直される。

 

 そうして憂太は、痛みと汗にまみれながら、一から鍛えられるのだった。

 




 個人的に里香ちゃん好きなんですよねー
 やっぱCV:花澤香菜さんは凄いですね。エコーなしであの声出せるのは神(笑)
 という訳で、なんとか里香を成仏させずに、憂太的に呪いから解放するという着地点を探した結果……御霊化となりました。
 
 知らない方向けにざっくりと簡単に説明すると、本文でも書いたように、

 怨霊を崇めることで、人にとって有意義な守り神にしちゃおう

というようなものです。
 賛否ある設定だとは思いますが、本作では里香ちゃんは御霊化する予定です。

 いつも閲覧ありがとうございます。
 今後ともよろしくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。