呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第4話

少女(ガキんちょ)の護衛と抹消ォ??」

 

 思わず裏返った声で悟が問い返す。

 夜蛾が告げた任務内容は、あまりにも矛盾に満ちていた。

 

「そうだ」

 

 怪訝そうに眉をひそめる悟に対し、夜蛾は一切の逡巡もなく即答する。その表情には、冗談の色など微塵もない。

 

 その様子に、先程まで互いに睨み合っていた悟と傑は、反目していたことも忘れたように顔を見合わせた。

 

「ついにボケたか」

 

「春だしね。次期学長ってんで浮かれてるのさ」

 

 わざと夜蛾に聞こえる程度の声量で囁き合う二人。次の瞬間、夜蛾の額に青筋が浮かび上がった。

 

「冗談はさておき――」

 

「冗談で済ますかどうかは俺が決めるからな」

 

 空気を察して即座に本題へ戻そうとした傑だったが、夜蛾は容赦なく釘を刺す。

 

「――天元様の術式の初期化、ですか?」

 

「何それ?」

 

「なんじゃそりゃ?」

 

 呪術界に足を踏み入れてまだ日が浅い一般家庭出身の颯真が首を傾げるのは、無理もない。

 だが、それ以上に異様だったのは悟の反応だった。

 

 数ある呪術師の家系の中でも、とりわけ格式高い名門――"呪術界御三家"と称される三家の一角、"五条家"。その現当主である悟が、そんな言葉を口にした。

 

 夜蛾と傑は、揃って言葉を失う。

 

((お前は知っているはずだろ))

 

 そう無言で訴えかけるような、信じがたいものを見る視線が悟に向けられた。

 

「なんだよ」

 

 その視線に晒され、悟は不満を隠そうともせず、子どものように唇を尖らせるのだった。

 

「天元様は"不死"の術式を持っているが、"不老"ではない。老いる分には問題ないが、一定以上の老化を迎えると術式が肉体を創り変えようとする」

 

 夜蛾の低く落ち着いた声が、室内に静かに響く。

 

「ふむ?」

 

 悟は珍しく茶化す様子も見せず、真剣な眼差しで続きを促した。

 一方、颯真は相変わらず軽薄そうな笑みを浮かべているものの、その瞳の奥に一切の余裕はない。夜蛾の言葉を一つも逃すまいと、鋭く耳を傾けていた。

 

「――"進化"。人でなくなり、より高次の存在となる」

 

「じゃあいいじゃん。カッコいい〜」

 

 悟は軽く笑って受け流す。だが傑は小さく首を振り、そのまま言葉を引き継いだ。

 

「天元様曰く、その段階の存在には"意思"というものがないらしい。天元様が、天元様でなくなってしまう」

 

 傑の声は静かだが、その言葉の重さは室内の空気を確かに変えていた。

 

「高専各校、呪術界の拠点となる結界、多くの補助監督の結界術。それら全てが天元様によって強度を底上げされている。あの方の力添えがないと防護(セキュリティ)や任務の消化すらままならない。――最悪の場合、天元様が人類の敵となる可能性もある」

 

 誰も口を挟まなかった。

 

「だから五百年に一度。――"星漿体"。天元様と適合する人間と同化し、肉体の情報を書き換える。肉体が一新されれば術式効果もふり出しに戻り、"進化"は起こらない」

 

「成る程」

 

 悟は一度、天井を仰いだ。

 そして。

 

「メタルグレイモンになる分にはいいけど、スカルグレイモンになるのは困る。だから、コロモンからやり直すって訳ね」

 

 渾身の、丁寧極まりない説明は、まさかのデジタルモンスター育成ゲームの例えによって着地した。

 

 傑は一気に力が抜けたように肩を落とす。

 

「……まぁ、概ね合ってるよ」

 

 溜息混じりにそう認め、話を戻す。その流れを引き継ぐように、夜蛾は三人を見渡した。

 

「その星漿体の少女の所在が、漏れた。今、少女の命を狙っている勢力は大きく分けて二つだ」

 

 夜蛾の声に、わずかに緊張が滲む。

 

「天元様の暴走により現呪術界の転覆を目論む呪詛師集団――『Q』。そして天元様を信仰、崇拝する宗教団体、盤星教『時の器の会』。天元様との同化は二日後の満月。それまで少女を護衛し、天元様の下まで送り届けろ。失敗すれば、その影響は一般社会にまで及ぶ」

 

 言い終えた夜蛾は、三人の顔を順番に見据えた。

 

「心してかかれ」

 

「俺はパスだ」

 

 その空気を、颯真の気怠げな一言が断ち切った。

 

 予想外の即答に、夜蛾は一瞬言葉を失う。それでも説得しようと、口を開いた。

 

「これは、極めて重大な――」

 

「どんな高尚な理由を並べられたところで」

 

 颯真の声は、静かだった。怒鳴るでもなく、吐き捨てるでもなく――ただ、冷えていた。

 

「人間を生け贄に捧げるような奴に協力するのはゴメンだ」

 

 失望を隠そうともしない視線を夜蛾へと向け、颯真は言い放つ。

 夜蛾はなおも言葉を重ねようとした。

 

「――颯真!」

 

 しかし颯真は、一歩も退かない。

 

「……邪魔しないだけ有難いと思え。あんまりグダグダ抜かすなら、総監部の爺どもも天元とやらも全員ぶちのめして、俺が同化を阻止したっていいんだぜ」

 

 抑え込んでいた殺気が、一気に解き放たれた。

 

 直接向けられた夜蛾だけでなく、悟と傑の背筋にも冷たいものが走る。二人は気づけば息を詰めており、冷や汗が静かに滲んでいた。

 

 話は終わりだと言わんばかりに、颯真は踵を返す。

 引き留める言葉を、夜蛾はもう持ち合わせていなかった。

 

 颯真の足音が廊下に消えていく。

 残された三人は、しばらく誰も口を開かなかった。

 

 静かに、しかし決定的に――場は瓦解していた。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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