すみません。
「――星と叡智の名の下に、主の敵に鉄槌をッ!」
斬馬刀を携えたラピスは、叫ぶや否や標的を定め、弾丸のように飛び出した。
その一歩で床を抉り、砕けた破片が後方へ飛び散る。
「いっ……!? 僕を狙ってるのか!?」
前衛を無視した突撃に、灰原は一瞬、息を呑む。
だが迷いは刹那。両手に焔を纏わせ、腰を落とし、迎撃の構えを取った。
「――させません!!」
灰原を守るべく七海が追撃に転じた、その瞬間――
死角から、双剣のラピスが音もなく踏み込む。
刃が交差し、首を狩る軌道を描いた。
「お前の相手は――俺だよ」
乾いた声と同時に、白刃が閃く。
日下部が割って入り、居合の一閃で双剣を弾き返した。
金属同士が噛み合い、火花が散る。
(……重い)
一瞬の打ち合いで、力の桁違いさが伝わる。
技量ではない、純粋な“圧力”。
(双剣でこの圧……冗談じゃねぇぜ)
だが、日下部は微動だにせず、足を踏み締め、再び居合の構えを取る。
双剣のラピスは無言。
次の瞬間――嵐のような連撃が襲いかかる。
右、左、逆手――
間断なく繰り出される刃を、日下部は最小限の動きで受け流し、弾き、いなし続ける。
視界の端で、斬馬刀を構えた本体が前進するのが見えた。
(行かせるわけには……いかねぇが)
だがこの相手を放置するわけにもいかない。
双剣ラピスは、日下部の一瞬の意識の揺れを、正確に捉えた。
踏み込み――体重を乗せた横薙ぎ
――重い。
腕が痺れ、足が半歩滑る。
「ッ……!」
しかし、日下部は崩れない。
(……あっちは、七海と灰原に任せる!)
即断した日下部は、歯を食いしばりながら、双剣を弾き飛ばし、刹那に居合の初動へ戻った。
その頃灰原は、自身に迫るラピスを追って七海が救援に向かうのを視界の端で捉えたことから、その場で迎撃するのを止めて、一気に前へ出た。
七海は一瞬、目を見開き――すぐに小さく嘆息する。
だが当然のように、その動きに合わせた。
挟撃――
灰原の狙いに応えるように、七海の鉈が全呪力を込めて振り下ろされる。
ラピスは、瞬時に七海と灰原の狙いを悟った。
背後からの七海の一撃を斬馬刀で受け止め、絶対の自信を持つ自信の膂力で弾き返し、そして返す刀で灰原を斬り払おうとする。
――しかし、その狙いは七海に読まれていた。
七海の生得術式・十劃呪法。
対象を線分した際、七対三の比率に“強制的な弱点”を生み出す術式。
七海の狙いは、最初からラピス本人ではない。
――斬馬刀だった。
七海は斬馬刀の刀身を線分し、呪力で強化した鉈を、その“弱点”へと叩き込む。
脆弱点は、凶刃の重みに耐えきれない
鈍い音と共に、斬馬刀は砕け散った。
予想外の事態に、ラピスの瞳が揺れる――
一瞬、時間が止まったように見えた。
「――拡張術式・瓦落瓦落」
その隙を逃すことなく、七海は畳みかける。
砕けた刃一枚一枚に呪力を宿し、雨のように降らせる牽制。
ラピスの視界を一瞬にして奪った。
「――今ですッ!!」
「焔身・纏打ッ!」
呼応する灰原の拳が、背後からラピスを貫く。
衝突の瞬間――焔と呪力と拳が重なり、空間が歪み、黒い火花が散った。
「このまま畳みかけるよ!!」
灰原の言葉に呼応し、七海の拳が黒い閃光を放つ――
――黒閃。
ゾーンに入った二人は、言葉を交わさず動く。
黒い火花が連続して空を裂き、四度、四度――合計八度の攻撃が、ラピスを壁へと叩きつける。
ラピスは動かぬ骸となった。
ーーーー
双剣のラピスと対峙したまま、日下部は視界の端で七海と灰原が仕留めるのを捉えていた。
戦況は、決した――
だが、日下部の表情に油断はない。
一歩も退かず、静かに、しかし確かな警戒を込めて声をかける。
「……これで三対一だ。
退いてくれるなら、追わないぜ」
――頼む。このまま引いてくれ。
胸中の焦りを隠し、悠然と撤退を促す。
だがラピスは表情一つ変えず、その答えを刃で返した。
一閃――
双剣が風を裂き、日下部へ迫る。
「クソッ……それが答えかよ」
吐き捨てるように呟き、日下部は刀を鞘に収め、身を沈めた。
居合の構え――
――シン・陰流、居合『夕月』。
日下部が独自に構築した呪力プログラム。
簡易領域内に侵入した“物”を、思考を介さず全自動で迎撃する術式。
目にも留まらぬ速さで放たれた斬撃は、それをさらに上回る速度で弾かれる。
「――っ!?」
自身の速度に対する絶対の自信が裏切られた事実に、ラピスは息を呑んだ。
その一瞬の隙を、日下部は逃さない――
攻守が反転した。
簡易領域へ踏み込んだラピスに対し、日下部の斬撃が嵐のように襲いかかる。
脳で考えることない――
脊髄反射で放たれる超高速連続斬撃。
ラピスは双剣で捌くが、すべてを防ぎ切ることはできない。
刃がかすめるたび、全身に細かな裂傷が刻まれていく。
(――押し切られる……)
判断した瞬間、ラピスは地を蹴り、大きく後方へ跳んだ。
距離を取り、日下部の間合いから脱する。
日下部は追わず、居合の構えを保ったまま、静かに見据えていた。
その日下部の左右に七海と灰原が降り立った。
「……まだやるかい?」
そう問いかける日下部に、表情を変えることはなかったラピスだったが、不意に何かを察知したように、明後日の方向を向くと、仮面のような無表情から一転、焦ったような表情を浮かべながら、日下部ら3人に目も向けずに疾走した。
「ーー!?」
唐突な逃走に、日下部らの動きが一瞬止まる。
直ぐに立て直したのは、七海だった。
「ーー逃がしません!!」
「待て待て! どうせ追いつけねぇよ」
七海はラピスを追いかけようと走り出すも、直ぐに日下部に止められる。
天与呪縛のフィジカルギフテッドを擬似的に再現したラピスの本気の逃走には、ここにいる誰も追いつけないことは明らかだった。
「……しかし」
「敵は、アイツだけじゃなきでしょーが!!
まだまだこの周辺にも呪霊も、アイツらに造られた呪詛師擬きもは山程いる。
逃げた奴を追えるほどの余力があるなら、先ずは眼前の脅威を祓うべきでしょうが」
尤もらしい日下部の説得に、七海も灰原も押し黙る。
「分かったら、協力して辺りの奴らを祓うぞ」
(あんな危ないヤツを俺は絶対追いかけたくない!
このままダラダラと雑魚を祓って時間を潰したい……
……何故なら死にたくないから!!)
そんな情けない日下部の内心など知る由もない七海と灰原は、術師として一番経歴の長い日下部の指示に従い、周辺の祓除に向かうのだった。
ちょっと体調崩してしまって、あんまり更新しないのもエタったみたいだったので、無理くり投稿しました。
なので、ちょっと短めです。
そして、更新出来ていない間にも高評価くださったり、閲覧して下さった方、本当にありがとうございます。