呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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誤字あったらすみません。
それでは
「気張っていきましょう!!」


第46話

 

 新宿の夜は、まるで足元で脈打つ巨大な生き物のようだった。

 

 無数の光が血管のごとく走り、赤、白、青の明滅が絶え間なく都市を循環している。

 

 都庁ビルの屋上、その縁に立つヴェルンハルトは、闇よりなお深い漆黒のマントの裾を風に遊ばせながら、眼下に広がる光の海を見下ろしていた。

 

 信号とネオンが織りなす光の粒は、彼のために用意された盤上の駒のように整然と、そして無慈悲に配置されている。

 

 時折、彼自身が解き放った人工呪霊や即席(インスタント)呪詛師と、高専の術師たちとの戦闘の余波が、爆発音や破砕音となって夜気を震わせた。

 

 深く刻まれた皺の奥で、男の瞳は静かに笑っている。

 

 その口元に浮かぶのは、達観とも嘲笑ともつかぬ、曖昧な微笑だった。

 

「流石は呪術大国日本、というところか」

 

 誰に向けるでもない独白は、風に攫われ、虚空に溶けて消える。

 

 ヴェルンハルトは一歩も動かず、ただ街を見下ろし続けていた。

 

「下の者を戦わせて、自分は高みの見物とは……

 

 趣味が悪いね」

 

 その言葉と同時に、頭上の空気が裂けた。

 

 都庁のはるか上空から、高専側最強戦力の一角――特級術師・夏油傑が、ヴェルンハルトへと強襲する。

 

 巨大なペリカンのような姿をした呪霊の背から、躊躇なく跳躍した。

 

 落下と同時に放たれるのは、真紅の三節棍、特級呪具・游雲。

 

 特殊な術式効果を一切持たぬ、純粋な破壊の塊である。

 

 そこへ傑の莫大な呪力と、自由落下が生む運動エネルギーが重なり、必殺の一撃となって振り下ろされた。

 

 ――だが。

 

 游雲が、ヴェルンハルトの頭蓋を砕くことはなかった。

 

 漆黒のドレスを纏い、水晶の大剣を携えた戦乙女。

 

 原初のラピスが、微笑を浮かべたまま、盾となってその一撃を受け止めていた。

 

 澄んだ硬質音が夜気に弾ける。

 

 傑は即座に大きく後方へ跳び、距離を取って身構え直した。

 

「……キミが来たか」

 

 游雲を構え直す傑を見て、ヴェルンハルトはわずかに目を見開く。

 

 そこには、ほんの少しだけ予想外の色が混じっていた。

 

「私の予想では、神凪颯真が来ると踏んでいたのだがね……

 

 だが、歓迎しよう! 呪霊操術の使い手にして、呪術高専最強の一角、夏油傑」

 

 芝居がかった口調とは裏腹に、傑の視線は氷のように冷ややかだった。

 

「ずいぶん余裕そうじゃないか。

 

 ……自分の娘ほどの年齢の女の子に守られながら、余裕ぶれる面の皮の厚さは、ある意味で尊敬するよ」

 

 冷笑を含んだ挑発。

 

 だがヴェルンハルトは意にも介さず、むしろ楽しげに口角を上げる。

 

「フフ、言ってくれるな。

 

 だが、このラピスは、先日商店街でキミと戦った粗悪な模造品とは違う。私の姓を名乗ることを許した、傑作の一つだよ。

 

 ……精巧に造った玩具は、自慢したくなるものだろう?」

 

 そう言って、ヴェルンハルトはラピスの頭を慈しむように撫でた。

 

 ラピスは嬉しそうに目を細める。その仕草はあまりにも自然で、生き生きとしていた。

 

 先日対峙した〝ラピス〟と名乗る存在が見せていた、造り物めいた表情とは明らかに違う。

 

 眼前の戦乙女には、確かに〝生〟の気配が宿っていた。

 

 ヴェルンハルトは一歩前へ踏み出し、芝居がかった動作でマントを背後へ払う。

 

 右手を誘うように差し出し、掌を上に向けた。

 

「まぁいい、話を続けよう。

 

 先ほども言ったが、歓迎するよ夏油傑。万魔殿(パンデモニウム)へようこそ、選ばれし者よ。

 

 キミの力は、更なる進化を遂げるに相応しい階梯(レベル)にあると承認された。

 

 更なる進化を望むかね?」

 

「お断りだ!」

 

 間髪入れず、傑は吐き捨てる。

 

「……まぁ、キミならそう言うだろうな」

 

 ヴェルンハルトはつまらなそうに肩をすくめ、手を下ろした。

 

 その瞬間、彼の足元に隠されて展開されていた魔法陣が妖しく光り、パリンッ、という乾いた音とともに砕け散る。

 

 それを見て、傑は理解した。

 

「なるほど。

 

 ……これが、一般人に術式を目覚めさせ、即席の呪詛師に仕立て上げた絡繰りか」

 

 呟きを聞き、ヴェルンハルトは感心したように手を叩く。

 

「惜しいが、いい線をいっている。

 

 術式に目覚めさせたのではなく、彼らの魂と引き換えに、私の創り出した存在の力を貸し与えているのだよ。

 

 私の術式の名は、魂呪錬成(アニマ・ファブリケーション)。

 

 魂を素材とすることで、人工的に呪いを創り出すというものだ」

 

(――術式の開示か!? 本気だな)

 

 術式の名が告げられると同時に、ヴェルンハルトの周囲に漆黒の骸骨が次々と顕現していく。

 

 それらは地面から滲み出るように、あるいは空間を裂いて現れ、主の呪力に呼応して蠢いていた。

 

「私は荒事は苦手なのだが、呪霊を操る術式と、人工的に呪霊を創る術式、どちらが上かは興味があるのでね。

 

 戦闘用の従者も傍にいることだし、少し実験させてもらうとしよう……」

 

 禍々しい呪力が奔流となって溢れ出す。

 

 それに呼応するように、傑もまた静かに、しかし確実に呪力を練り上げた。

 

「養殖物より、天然物のほうが格が上なのは常識だよ?

 

 私は最強だからね……悟とは違う最強を、見せてあげるよ」

 

 傑は好戦的な笑みを浮かべ、そう告げるのだった。

 

    *

 

 その頃、京都の空では、ミハイルと冥冥が激しい死闘を繰り広げていた。

 

 冥冥の常軌を逸した膂力から繰り出された巨大な斧の一撃が、ヴリトラの翼を根元から断ち切る。

 

 肉を裂く感触とともに、翼は宙を舞い、しかし地に落ちる前に半透明のスライムへと姿を変えた。

 

 粘性を帯びたそれは地を這い、ヴリトラの脚に絡みつくと、そのまま体内へと吸い込まれていく。

 

 数秒の後、何事もなかったかのように、ヴリトラの背から新たな翼が展開された。

 

「……なるほどね。なかなか厄介だ」

 

 そう呟きながらも、冥冥の口元に浮かぶ笑みは崩れない。

 

「次は僕の番だね」

 

 ミハイルの宣言と同時に、ヴリトラは大きく息を吸い込んだ。

 

 本物の肺を備えているかのように、その胸部が不自然なほど膨れ上がる。

 

 水晶のように透き通った牙が噛み合わされ、口腔内で火花が散った。

 

 次の瞬間、蓄えられた空気が一気に吐き出される。

 

 ――竜の吐息(ドラゴンブレス)。

 

 漆黒の焔が一直線に伸び、直前まで冥冥がいた空間を穿った。

 

「竜の吐息(ドラゴンブレス)か。本当にドラゴンを再現しているとは、無駄に凝り性だよ」

 

 冥冥は小さく呟き、焔を紙一重でかわす。

 

 しかしヴリトラは首を捻り、逃れた標的を執拗に追尾した。

 

 漆黒の熱線が空気を灼き、冥冥へと迫る。

 

「……しつこい男は嫌われるよ」

 

 冥冥はそう言い放ち、斧を横薙ぎに振るった。

 

 剣圧ならぬ斧圧が生み出した烈風が、迫る熱線を真っ二つに引き裂く。

 

 切り裂かれた先――そこには、大きく口を開けた無防備なヴリトラの頭部があった。

 

 冥冥は勢いを殺さぬまま身を翻し、露わになった頭部めがけて、唐竹割りの如く斧を振り下ろす。

 

 ――グチャッ。

 

 何かが潰れる不快な音が響き渡った。

 

 ヴリトラの頭部は大きく裂け、肉片が四散する。

 

「この程度で勝てると思われていたのなら、私も甘く見られたものだ」

 

「まだこれからだよ!」

 

 叫びとともに、砕けたはずの頭部は瞬く間に再生された。

 

 続けざまに、前脚の一撃が冥冥へと振り下ろされる。

 

 五本の鉤爪は一本一本が日本刀のような鋭さと長さを誇り、巨躯から放たれるその一撃は、ただの力任せでは済まされない破壊力を孕んでいた。

 

 冥冥は冷静に見切り、紙一重で躱す。

 

 攻撃をかわされた反動で、ヴリトラの体勢がわずかに崩れた。

 

 冥冥は即座に追撃へ転じ、斧を振りかぶる。

 

「引っかかったね!」

 

 背を向けたヴリトラの内部から、ミハイルの勝ち誇った声が響いた。

 

 半回転する巨体の遠心力を乗せ、振り回された尻尾が凶悪な破壊力をもって冥冥に襲いかかる。

 

 冥冥は咄嗟に狙いを変え、斧で迎え撃った。

 

 刃は尻尾を半ばまで断ち切ったものの、その勢いを完全に殺すには至らない。

 

 冥冥の身体は弾き飛ばされ、家屋の壁を突き破って転がった。

 

「姉様ッ!!」

 

 憂憂の悲鳴じみた叫びが、戦場に響く。

 

 追撃するように、ヴリトラは漆黒の火球を放った。

 

 冥冥が吹き飛ばされた家屋ごと、黒い焔が飲み込み、巨大な火柱が天へと立ち昇る。

 

「一級術師などと言ってみても、所詮この程度か……」

 

 火柱を見上げ、ミハイルは嘲るように笑った。

 

 だが次の瞬間、巨大な火柱は真っ二つに斬り裂かれる。

 

「……幾年ぶりかな? 私が血を流すのは」

 

 焔の裂け目から現れたのは、額から流れる一筋の血を拭いながら、不敵に笑う冥冥の姿だった。




私は肺に持病がある為、風邪を引くと長引かせやすく、前話の更新が大変遅くなってしまってすみませんでした。

今後は、もう少し早く更新が出来るように頑張れたらいいなーと思っています。

明日、明後日と寒波が来るみたいですので、皆様も私のように体調を崩されないようにどうかご自愛ください。

それでは

「ありがとー!! また来て下さいねー!!」

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