呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第5話

――東京都内、夜の街

 

 夜蛾から任務を言い渡され、悟と傑は護衛対象である星漿体のもとへと向かっていた。

 人通りの少ない通り沿いに並ぶ自販機の前で足を止め、悟は買ったばかりの缶ジュースを開ける。プルタブの乾いた音が夜気に溶ける中、悟は何気なく隣を歩く傑へと視線を投げた。

 

「……パイセン、ブチ切れてたなぁ」

 

 缶に口をつけながらの言葉に、傑はわずかに肩をすくめる。

 

「神凪先輩の言い分も、分からなくはないしね。星漿体などと言い方は変えても、生け贄であることに変わりはない」

 

 そこで一瞬、言葉を切る。歩調がわずかに緩み、夜の静けさが二人の間に落ちた。

 

「……悟、もし」

 

 その続きを待つまでもなく、悟は視線を前に向けたまま答えた。

 

「……あぁ。星漿体が同化を拒んだなら、同化はなしだ」

 

 言わずとも通じ合う返答に、傑は思わず小さく息を漏らし、口元に笑みを浮かべた。

 

「クックック。いいのかい?」

 

「あぁ?」

 

「天元様と戦うことになるかもしれないよ?」

 

 その言葉を受けて、悟は一瞬だけ目を細め――それから不敵な笑みを浮かべた。

 

「何、ビビってんの? 大丈夫でしょ、俺達最強だから。それに……」

 

 珍しく言葉を選ぶように、悟はほんの少しだけ言い淀む。その様子を、傑は楽しげに待った。

 

「……パイセンもいる」

 

 その名を聞いて、傑は肩をすくめつつも軽口を返す。

 

「依頼料は高そうだよ?」

 

 颯真がいつも法外な報酬を請求してくることを思い出し、悟は子どもっぽい笑みを浮かべた。

 

「大丈夫大丈夫。俺、そこそこ金持ってるし、傑と折半だしね」

 

 悟が、己以外の誰かをそこまで信頼して、当然のように口にする。その無邪気さに、傑の胸の奥でほんのわずかな寂しさが芽生えた。

 

 だが、それも一瞬のことだ。

 

(……先輩相手なら、仕方ないか)

 

 そう自分に言い聞かせるように、傑は夜の闇に溶ける二人分の足音を、静かに刻み続けた。

 

 マンションへ向かって歩を進めながら、ふと思い出したように悟が傑へ視線を向ける。

 

「でもさー、呪詛師集団『Q』は分かるけど、盤星教の方はなんで少女(ガキんちょ)を殺したいわけ?」

 

「崇拝しているのは純粋な天元様だ。星漿体――つまり不純物が混ざるのが許せない。ただ」

 

 傑は一拍置いた。

 

「盤星教は非術師の集団だ。特段気にする必要はない。警戒すべきは、やはり『Q』だよ」

 

 忠告を含んだ言葉だったが、悟は特に気負う様子もなく、いつも通りの飄々とした空気をまとっていた。

 

「まぁ、大丈夫でしょ。俺達、最強だし。だから天元様も俺達に指名を――」

 

 言いかけて、悟は足を止めた。

 

「何?」

 

「悟、前から言おうと思っていたんだが」

 

 傑は歩調を崩さず、静かに続ける。

 

「一人称、『俺』はやめた方がいい。特に目上の方の前ではね。天元様に会うかもしれない以上、せめて『私』、最低でも『僕』にしな。年下にも怖がられにくくなる」

 

「はっ、嫌なこった!」

 

 即座に拒否され、傑は小さくため息をつくしかなかった。

 

 ――その瞬間。

 

 夜を切り裂くような爆音が轟いた。

 

「!」

 

「お?」

 

 二人が同時に視線を向けると、星漿体が滞在しているはずのマンションから、黒煙が立ち上っていた。

 

「これでガキんちょ死んでたら、俺らのせい?」

 

 軽口を叩きつつ、悟は爆発地点を観察する。一方、傑はすでに臨戦態勢に入り、使役する呪霊を即座に呼び出せるよう呪力を漲らせていた。

 

「あ」

 

 警戒する中、高層階の窓から一人の少女が落下してくるのが見えた。

 割れた窓枠には、軍服姿で顔の下半分をマスクで覆った男――『Q』戦闘員、コークンの姿があった。

 

 落下する少女を見下ろしながら、男は冷酷に言い放つ。

 

「悪く思うなよ。恨むなら天元を恨み――なっ!?」

 

 術師でもない星漿体に、落下死を防ぐ術などあるはずがない。

 そう高を括っていたコークンの視界に飛び込んできたのは、白銀に輝く鱗を持つ巨大な東洋龍だった。その背に跨る傑と、抱き抱えられるようにして助けられた少女の姿。

 

 地上から見上げていた悟は、口笛を吹くように息を吐いた。

 

「目立つのは勘弁してくれ。今朝怒られたばかりなんだ」

 

 軽口めいた傑の愚痴に、コークンは怒りに顔を歪める。

 

「その制服、高専の術師だな。ガキを渡せ、殺すぞ!」

 

「聞こえないな。もっと近くで喋ってくれ」

 

 挑発するように耳へ手を当てる傑。そのやり取りを、悟は地上から気楽に眺めていた。

 

「いやぁ、セーフセーフ」

 

 そう笑った直後、無数の短刀が悟へと飛来する。完璧な不意打ち。

 しかし刃は悟に届くことなく、不可視の壁に阻まれて空中で静止した。

 

 ――パチパチパチッ。

 

「素晴らしい」

 

 拍手をしながら近づいてきたのは、コークンと同じ軍服を着た長髪の男――『Q』戦闘員、バイエルだった。

 

「君、五条悟だろ。有名人だ。強いんだってね。噂が本当か、確かめさせてくれよ」

 

 悟は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 

「いいけど、ルールを決めよう」

 

「ルール?」

 

 唐突な提案に、バイエルは怪訝な表情を浮かべた。

 

「やり過ぎて怒られたくないからね。泣いて謝れば許してあげるよ。――これがルールね」

 

 年下の学生に嘲笑され、バイエルの表情が怒りに染まる。

 

「クソガキが」

 

 その言葉が合図になったかのように、夜の街に呪力がほとばしった。

 

---

 

## ――東京都内、某高層マンション

 

 二人の戦闘が始まったのと、ほぼ同じ頃。

 

 高層マンションの一室から、スーツ姿の男と、スウェット姿の男が、眼下の騒動を静かに見下ろしていた。

 

「始まったな」

 

 スーツ姿の男が、隣に立つ男へ声をかける。

 

「盤星教には呪術師と戦う力がない。だが金払いはいい、それは保証する。どうだ禪院、星漿体暗殺――一枚噛まないか?」

 

 禪院と呼ばれた男は、ゆっくりと口角を吊り上げた。

 気怠げなスウェット姿ながら、その身のこなしには一切の隙がなく、内包する強さを隠しもしない。

 

「もう禪院じゃねぇ。婿に入ったんでな」

 

 夜景を背に、男はニヤリと笑った。

 

「今は――伏黒だ」

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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