呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第7話

 校内の廊下を、悟、傑、黒井の三人が疾走する。

 

「天内は?」

 

 悟は足を緩めることなく、隣を走る黒井に問いかけた。

 

「この時間は音楽なので、音楽室か礼拝堂ですね」

 

「レーハイドゥ!?」

 

 通常の音楽の授業ではまず耳にしない単語に、悟は反射的に聞き返す。

 

「音楽教師の都合で変わるんです。あとここはミッションスクールです」

 

 黒井と悟のやり取りを耳に入れながら、傑は同時に状況を整理していた。

 

 校内の警戒に当たらせていた使役呪霊がすでに祓われているという事実。その重さを飲み込んだまま、迷いなく指示を下す。

 

「悟は礼拝堂、黒井さんは音楽室、私は正体不明(アンノウン)を」

 

「承知しました」

 

 無言で頷く悟と、即座に応じた黒井を一瞥し、傑は祓われた呪霊の痕跡がある方角へ進路を変えた。

 

「だから目の届くところで護衛させろっつったのに、あのガキ!」

 

 天内の所在も安否も確認できていない状況に、悟は苛立ちを隠そうともしない。

 

「申し訳ありません。移動の度にメールするよう言ったのですが……」

 

 黒井は走りながら、痛恨の思いを滲ませて頭を下げた。

 

 一方、単独で侵入者を追う傑は、索敵を続けながら相手の正体を推し量っていた。

 

正体不明(アンノウン)は『Q』の残党か? 盤星教の差し金なら、少し面倒になるな)

 

 廊下の角を曲がった、その瞬間。

 

 視界に、異質な存在が映り込んだ。

 

 学校という場にまるでそぐわない、作務衣姿の老人が、何事もない様子で廊下を歩いていた。

 

 老人は即座に傑の存在を察知し、自身の前後に式神を顕現させる。無駄のない初動。洗練された動き。

 

「……おぉ、その制服は」

 

 その一瞬で、傑は相手の力量を測り、警戒の段階を引き上げた。

 

(高専の制服を見て多対一を想定し、前後を式神で挟んだ。この爺さん――慣れてるな)

 

 傑もまた油断なく身構え、両脇に使役呪霊を呼び出す。

 

 その瞬間、老人の顔に明確な驚愕が走った。

 

(媒介なし……! 呪力も、術師のものとは異なる。まさか――)

 

「呪霊操術か!」

 

 術式を言い当てられてなお、傑は微塵も動揺しない。不敵な笑みを浮かべ、静かに返す。

 

「ご明答。流石、長生きしてるだけはあるね」

 

「いいや、長生きするもんじゃないぞ……」

 

 言葉を交わしながら、老人は内心で傑への対処法を素早く組み立てていた。

 

(術式の格はあちらが上。だが思考は、式神使いのそれだ。おまけにその若さ――考えていることは手に取るように分かるぞ)

 

「生きると、生きるだけ金がかかる」

 

 呟きながら、老人は傑の立ち回りを観察する。

 

 傑は召喚した呪霊を盾にするように、距離を保ちながら慎重に間合いを調整していた。

 

(やはりな。こういうタイプは前に出ることがまずない。近接戦闘が苦手。そして式神使いの儂が近づいてくることはまずないと踏んでおる――近接嫌いが、近接を警戒していない。

 やりやすいことこの上ない)

 

 しかし次の瞬間、その内心を見透かすかのように、傑は嘲るような笑みを浮かべた。

 

「なんか色々考えてるみたいだけど、意味ないよ」

 

 言い終わると同時に、傑は新たな呪霊を召喚する。

 

 廊下の縦幅、横幅を目一杯に塞ぐほどの巨体――巨大な芋虫のような呪霊が、逃げ場を断つ形で老人へと迫った。

 

「な!?」

 

(廊下の縦横を丸ごと塞ぐ攻撃……! 最初の二体は、これを悟らせないための布石か!)

 

 完全な包囲。

 もはや興味を失ったかのように、傑は踵を返す。

 

「さて、あと一人か」

 

 その呟きと同時だった。

 

 背後の窓ガラスが砕け散り、老人が傑へと飛び込んでくる。

 

(自ら死角を作ったのは、失敗だったな)

 

「殺った!」

 

 不意打ちは完璧。老人は勝利を疑わなかった。

 

 ――その視界に、あり得ない存在が映る。

 

 かつて飼っていた、愛犬。

 すでにこの世を去ったはずの存在が、そこにいた。

 

 呪力を持たない両親のもとで育った彼にとって、その犬は唯一の理解者だった。幻だと理解していながらも、懐かしさが胸に溢れ、足が止まる。

 

「久しぶりだなぁ……もう五十年以上経つのか。お前が死んで――そうか……」

 

(――走馬灯!?)

 

 気づいた時には、すでに遅かった。

 

 傑は老人の腕を取り、流れるような動作で体勢を崩す。掌底が後頭部を打ち抜き、脳震盪を引き起こした隙へ、顎への裏拳が叩き込まれた。

 

 後衛型の術式使いとは思えぬ、鮮烈な近接戦闘だった。

 

「……誘ったな」

 

「まぁね」

 

 動けず座り込む老人を見下ろしながら、傑は笑みを崩さない。

 

「アンタ、近づきたくてウズウズしてただろう? 勝ち筋が見えてる奴は、その筋を作ってやると簡単に乗ってくる」

 

 一拍。それから傑は表情を引き締め、老人の前に静かに腰を落とした。

 

 問うべきことは、一つだった。

 

「……それより、アンタ――『Q』? それとも盤星教?」

 

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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