呪術廻戦〜蒼風を纏う者   作:腹黒薩摩

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第8話

 礼拝堂の重厚な扉が、蹴破られんばかりの勢いで開け放たれた。

 

「――天内ッ!」

 

 駆け込んできた悟の視界に映ったのは、異変の気配など微塵もない光景だった。

 

 整然と並んだ女学院生たちが賛美歌を歌い、その前には妙齢の女性教師が穏やかに立っている。

 

 突如として乱入してきた悟に、礼拝堂中の視線が一斉に集まった。同級生たちの前で名を呼ばれた天内は、何が起きたのか理解するより早く、羞恥に頬を朱色に染める。

 

「なっ……なな……」

 

 言葉を失う天内をよそに、長身で整った体躯の悟を目にした女学院生たちがざわめき始めた。

 

「えぇーー!?」

 

「何、理子の彼氏?」

 

「ち、違っ……い、従兄弟、従兄弟だよぅ」

 

 咄嗟に思いついた嘘で誤魔化そうとする天内だったが、興奮の火は容易には収まらなかった。

 

「高校生? 背ぇ高!」

 

「おにーさん、グラサン取ってよ!」

 

 黄色い声に気を良くした悟は、求めに応じてサングラスを外し、甘く微笑みかける。

 

「イケメンじゃん!」

 

 さらにヒートアップする女学院生たちの姿に、天内の堪忍袋の緒が切れた。

 

「おい、調子のんなよ!」

 

 大切な授業に乱入された挙げ句、妙な誤解まで招かれた。怒気を孕んだツッコミが礼拝堂に響く。

 

 ――パンパンッ。

 

「コラ! 皆さん静粛に! はしたないですよ!」

 

 女性教師が大きく手を叩き、興奮する生徒たちを制止する。

 

「先生だって気になるくせに」

 

 楽しみを奪われた女学院生たちは不満を漏らしつつも、渋々静かになった。

 場が落ち着いたのを確認し、女性教師は悟へと向き直る。

 

「困りますよ、身内とはいえ勝手に入られては」

 

「あー、緊急だったもんで。スミマセンね」

 

 悟は後頭部をかきながら素直に頭を下げた。

 だが叱責は表向きだけだったらしく、女性教師は悟の手にそっとメモ用紙を握らせる。

 

「あとこれ、私のTEL番」

 

 耳打ちされた一言に、悟が反応するより早く、目敏い女学院生たちが騒ぎ立てた。

 

「おぉーい、条例違反!」

 

「るせー! 教職の出会いのなさをナメんじゃないわよ!」

 

「それは私達だって同じでしょ!? 教師が年下趣味とか見損ないわ!」

 

「はぁ、光源氏ディスってんの!?」

 

 騒然とする礼拝堂を背に、悟は笑いながら天内の手を取り、その場を後にした。

 

「賑やかな学校だな」

 

「馬鹿者! あれ程皆の前に顔を出すなと言ったでしょ!」

 

「呪詛師襲来。あとは察しろ」

 

 抱え上げられながら溜まっていた不満をぶつけていた天内だったが、その一言で口を閉じる。

 

「このまま高専へ行くぞ。友達が巻き込まれるのは嫌だろ」

 

 有無を言わせぬ声音だった。別れを告げる暇すらなかったことに胸を締め付けられながらも、天内は友人たちに危険が及ぶ可能性を思い、黙って頷いた。

 

 悟は天内を抱え、屋根から屋根へと跳躍する。最短距離で高専へ向かう、その途中――不可視の刃が閃いた。

 

(――風の刃!?)

 

 一瞬、最悪の想像が脳裏をよぎる。だが六眼は、その呪力が敬愛する先輩のものではないと即座に見抜いた。

 

 悟は内心でわずかに息をつく。

 

 視線の先には、頭頂部が禿げ上がった初老の男が、漆黒の風を纏いながら宙に浮いていた。

 

「その女子(おなご)を渡せ」

 

「あんたは? 『Q』か、盤星教か?」

 

 問いには答えず、男は漆黒の竜巻を生み出す。

 

 五本。

 一本一本が地形すら変えうる威力を秘めた竜巻を、槍のように構え、悟へと向ける。

 

 だが悟は、微塵の動揺も見せなかった。

 

「答えないならいいや。……まぁ、アンタじゃ役者不足だろうけど、仮想対パイセンとして遊んであげるよ」

 

「囀るなよ、小僧!」

 

 激昂した呪詛師が、五本の風槍を一斉に放つ。いずれも災害級の一撃。しかしそれらは、悟に触れることすらなく空中で静止した。

 

「……やっぱ、ただの呪詛師じゃこの程度か」

 

「――なんじゃ、コレは!?」

 

「無限……アキレスと亀だよ」

 

「何!?」

 

「……勉強は大事って話」

 

 言い放つと同時に、悟は術式を展開する。空間が収束し、呪詛師は周囲の空気ごと引きずり込まれた。

 

 必死に風を操り抵抗するが、その一瞬の隙を悟は逃さない。瞬時に間合いを詰め、拳を顔面へ叩き込む。

 

 意識が飛びかけながらも、呪詛師は執念で漆黒の刃を放ち、天内を狙った。

 

「――にょわわわ!」

 

 だが悟はすでに読んでいた。収束する術式で天内を引き寄せ、そのまま抱き止める。

 

「やっぱパイセンとはレベルがちげぇか……もういいよ、お疲れサマンサー」

 

 軽口と共に呪力を込めた蹴りを放ち、呪詛師を吹き飛ばした。

 

 戦闘の余韻が冷めやらぬ中、悟の携帯電話が震える。表示された名を見て、彼は片眉を上げた。

 

「あ? 天内の首に三千万円の賞金?」

 

『あぁ。呪詛師御用達の闇サイトで、期限付き――明後日の午前十一時までだそうだ』

 

「成る程ねぇ」

 

 軽く相槌を打ち、悟は通話を切った。

 

 視線を前へ向けると――いつの間に現れたのか、紙袋を頭から被った呪詛師が、行く手を塞ぐように立っていた。その全身から、じわりと呪力が滲み出している。

 

「ったく、呪術師は年中人手不足だってのに。転職なら歓迎するよ、オッサン」

 

 不敵な笑みを浮かべ、冗談めかして言い放つ悟。

 しかし呪詛師は答える代わりに呪力を膨張させ、己の身体をその場で五体へと分身させた。紙袋の奥で、口元が歪むのが分かった。

 

「いやぁ、職安も楽じゃねぇだろ。そのガキ譲ってくれれば、それでいい」

 

「どこがいいんだよ、こんなガキ」

 

 吐き捨てながら、悟は術式を発動させる。

 分身たちは見えない力に引き寄せられるように収束し――次の瞬間、圧縮された呪力の奔流がそれらを呑み込んだ。二体が音もなく消し飛ぶ。

 

 残された分身が空気の変化に気づいた時には、すでに遅かった。

 

 悟はすでに、その懐にいた。

夏油傑は救済されるべき

  • このまま救済されるべき
  • 羂索は夏油の頭でメロンパンしないと
  • 虎杖ママメロンパンが見たい!
  • サマーオイル教師は見たくない
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