薄暗い階段を抜け、やがて視界が開けた瞬間。目の前に広がったその光景に、ソラは思わず足を止め、大きく息を呑んだ。
「うわぁ……!」
そこは、これまでの岩肌が剥き出しになった無機質な迷宮とは全く異なる、水晶と豊かな自然に満ち溢れた幻想的なフロアだった。
視界を埋め尽くすほど巨大な木々が天に向かってそびえ立ち、その太い根や枝に複雑に絡みつくようにして、青く澄んだ巨大な水晶が至る所で神秘的な輝きを放っている。どこからか聞こえてくる清らかな水のせせらぎと、見渡す限りの鮮やかな緑が広がる、まさに地下に隠された美しい楽園だった。
過酷な中層を抜けた先にこのような美しい場所が存在するとは思いもよらず、目を輝かせて周囲を見渡すソラに向き直り、椿は自慢げに笑ってその場所を紹介した。
「ソラ、ここが18階層、『
椿の言葉に頷き、ソラは清浄な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。上層や中層に漂っていた血や泥、モンスターの体臭といった不快な匂いは一切なく、代わりに植物の青々とした香りと、澄み切った水気が頬を撫でる。
まさに冒険者たちにとってのオアシスとも呼べるこの美しい階層を、二人は警戒を解くことなく静かに歩み始めた。フェルズからの依頼である異常事態の調査、そして先行している協力者との合流を果たすためだ。
巨大な水晶の柱を迂回し、苔むした大樹の根を乗り越えて進んでいく。耳を澄ませば遠くで滝の落ちる音が聞こえ、淡く発光する植物が足元を優しく照らしていた。
そうして幻想的な景色の中をしばらく進んでいた、その時である。
前方の巨大な水晶の陰から、不意に一つの人影が姿を現した。
「ソラ、椿?」
透き通るような美しい金糸の髪を揺らし、黄金の瞳を瞬かせながら不思議そうに小首を傾げたその少女。それは、つい先日Lv.6への昇格を果たしたばかりのロキ・ファミリアの剣姫。アイズ・ヴァレンシュタインだった。
彼女はソラたちと同じように、何らかの目的を持ってこの24階層を訪れていたらしい。軽装の鎧に身を包み、腰には愛用の剣であるデスペレートを帯びている。
思いがけない知人の登場に、ソラはパッと顔を輝かせて大きく手を振った。
「よぉ、アイズ!」
「剣姫もか。……ふむ、なるほどな」
無邪気に駆け寄るソラとは対照的に、椿はアイズの姿を見た瞬間にすべてを察したように深く頷き、一人で勝手に納得した様子を見せた。
未知の脅威が潜む24階層の調査において、Lv.6の剣姫が味方として先行してくれていたという事実は、この上なく心強いものであった。
簡単な状況の擦り合わせを行った後、三人は一時的なパーティーを組むこととなった。
「えっと、渡された案内用紙には……」
ソラは懐から、フェルズから手渡されていた羊皮紙を取り出した。
そこに描かれていたのは、この
三人はフェルズから渡された案内用紙の地図に従い、美しい水晶の森を抜けて、フロアの端に位置する薄暗い岩壁の地帯へと足を踏み入れた。
地図が示す座標のどん詰まり。一見するとただの行き止まりの岩壁にしか見えないその場所に、不自然なほどぽっかりと口を開けた薄暗い洞窟の入り口が存在していた。
周囲の美しい自然環境とは完全に不釣り合いなその洞窟の入り口には、雨風を凌ぐための粗末な天幕が張られ、さらに横の岩壁には立て札のような看板が乱雑に打ち付けられていた。看板には文字らしきものは一切書かれておらず、ただ赤い染料で描かれた矢印が、洞窟の奥深く、斜め下の方向を露骨に示している。
「ここを降りていくみたいだな」
「……行こう」
椿が鋭い隻眼を細めて警戒を露わにする中、アイズは躊躇うことなく短い言葉を発し、洞窟の中へと設けられた粗末な木製の階段へと足を掛けた。
ギシッ、ギシッ……。
体重をかけるたびに、今にも崩れ落ちそうな古い木製の階段がひどく頼りない音を鳴らす。アイズを先頭に、三人は赤い矢印が示す地下深くへと慎重に下っていく。
階段を下るにつれて、ひんやりとした地下特有の湿気と共に、強烈な酒の匂いと、安物の煙草の煙、そしてむせ返るような男たちの体臭が下からモワッと立ち上ってきた。
ギシギシと音を鳴らしながら長い階段を下り切り、扉も仕切りもない開けた空洞へと足を踏み入れると、そこにはソラの予想を遥かに超える、同業者がたむろする酒場の光景が広がっていた。
「うわっ……すごい熱気」
ソラが思わず声を漏らす。周囲を見回すと、黒い岩が剥き出しになったままの酒場は、広さがほどほどといったところで、地下の空洞をそのまま利用したような荒々しい造りになっていた。無造作に複数の木製のテーブルと丸太のような椅子が配置されており、天井や壁には明かり取りのための魔石灯と、この階層で採掘されたであろう黄水晶が幾つも設置されている。
黄水晶の放つ鈍く黄色い光に照らされる中、卓の上では、傷だらけの防具を身につけたにやけた冒険者たちが、大声を上げながら熱狂的に賭博に興じていた。
サイコロの転がる音やカードを叩きつける音に混じって、彼らが賭け金として卓に積み上げているのは、硬貨ではなく大小の魔石だ。モンスターを倒して得た命の結晶をそのまま娯楽のチップとして消費する、迷宮の奥底ならではの狂気に満ちた光景である。
客の姿は存外に多く、無法者たちの熱気でむせ返るような空気が充満していた。五つ用意されているテーブル席は、すでに酒と博打に酔いしれる冒険者たちで完全に埋まっており、空きは見当たらない。
唯一空いているのは、酒場の最も奥の隅にひっそりと設けられたカウンター席だけだった。
「仕方あるまい。カウンターへ行くぞ」
椿の先導に従い、三人は賭博に熱狂する冒険者たちの間を縫うようにして、あまっているカウンター席へと向かった。
分厚い一枚板で作られた長台の内側には、怪しげな液体が並々と注がれた色とりどりのガラス瓶が所狭しと並べられた酒棚があり、その前では無愛想なドワーフの主人が、汚れた布でグラスを無言で磨き続けている。
そして、そのカウンター席には一つだけ、すでに先客によって埋まっている席があった。
薄汚れたトラベラーズマントを羽織り、頭からはピンと尖った犬の耳を覗かせた、獣人の少女が気怠げに腰かけていたのだ。彼女は手元の安酒が入った木杯を揺らしながら、足元の尻尾をパタパタと不規則に揺らしている。
「おや……?」
近づいてくる三人の足音に気づいたのか、獣人の少女は木杯から顔を上げ、振り返った。
そして、アイズの黄金の髪と、椿の異彩を放つ出で立ち、そしてソラの姿を順番に視界に収めると、犬の耳をピクッと反応させて少しだけ目を丸くした。
「剣姫に
オラリオの裏社会にも精通し、運び屋としても活動するヘルメス・ファミリアのルルネ・ルーイにとって、目の前に現れた三人は絶対に顔を間違えるはずのない、都市の超VIPたちだった。ロキ・ファミリアの最高戦力であり、世界中にその名が轟くLv.6のアイズ。ヘファイストス・ファミリアの団長であり、迷宮都市最高の鍛冶師であるLv.5の椿。そして、冒険者になってわずか一ヶ月弱のベル・クラネルと共に、都市中の話題を完全に掻っ攫っているソラ。
そんな雲の上の存在とも言える冒険者たちが、なぜこのような地下の酒場に、それも三人揃って現れたのか。ルルネは戸惑いと警戒を隠しきれない様子で、乾いた声で彼らの二つ名を口にした。
そんな彼女の顔を見て、アイズは微かに黄金の瞳を瞬かせた。
「ルルネ、さん?」
「
「俺は鍵剣士なんかじゃない!ソラだってばぁ!」
アイズが不思議そうにルルネの名前を呼ぶのと同時に、ソラは自分の大仰な噂の広まり方に不満を爆発させ、頬を膨らませて全力で抗議した。
噂の鍵剣士という、まるで吟遊詩人が適当につけたような恥ずかしい呼ばれ方に納得がいかなかったのだ。ソラの子供らしい無邪気な抗議に、張り詰めていた空気がふっと緩む。ルルネは毒気を抜かれたように苦笑いし、犬の耳をペタンと寝かせて肩をすくめた。
「ああ、こりゃ失礼。悪かったよ、お二人さん。……にしても、この店を知っているなんて、あんた達も通じゃないか」
こんな隠れ家的な場所を、トップクラスの冒険者である彼女たちが知っていることに感心したように、ルルネはニヤリと笑って手でカウンターを叩いた。
「お詫びついでになにか奢るよ」
ルルネの気前いい申し出に、それまで無言でグラスを磨いていた無愛想なドワーフの主人が、重い腰を上げて三人の前に立ち、低い濁声で注文を促した。
「……何にする」
ドワーフの主人の問いかけ。そして、ルルネの奢りという申し出。
本来であれば、エールや果実水など、適当な飲み物を注文する場面である。しかし、ソラ、アイズ、そして椿の三人は、顔を見合わせて深く頷き合うと、ルルネとドワーフの主人を真っ直ぐに見据えた。
フェルズから指定された、先行している協力者と合流し、身分を証明するための極秘の合言葉。
それは、周囲の荒々しい賭博の熱気や、地下酒場のむせ返るような空気とは決定的に不釣り合いな、あまりにも間の抜けた単語だった。
アイズは一切の感情を排した真剣極まりない表情で。
椿は豪快な笑みを微かに口元に浮かべたまま。
そしてソラは、どこか照れくさそうな、しかしはっきりとした明るい声で。
三人は寸分の狂いもない完璧なタイミングで、息を合わせてその言葉を口にした。
「「「ジャガ丸くん抹茶クリーム味」」」
ドガシャアァァァンッ!!
直後、カウンター席から凄まじい音が響き渡った。
合言葉を聞いた瞬間、獣人の少女ルルネは目を限界まで見開き、全身を硬直させたかと思うと、座っていた丸太の椅子ごと盛大に後ろへひっくり返ったのだ。尻餅をつき、足を宙に浮かせたまま、彼女は信じられないものを見るような目で三人を凝視している。
異常事態はそれだけでは終わらない。
ガタッ! ガタガタッ!!
ルルネがひっくり返った音に反応したわけではない。三人の口から発せられたジャガ丸くん抹茶クリーム味という言葉が酒場に響き渡った瞬間、それまで大声を上げて賭博に熱狂していた背後のテーブル席の冒険者たちが、まるで示し合わせたかのように一斉に立ち上がったのだ。
サイコロの音も、魔石のぶつかる音も、喧騒もすべてがピタリと止み、酒場は水を打ったような静寂に包まれた。
立ち上がった冒険者たちの視線は、すべてカウンターの前に立つ三人に注がれている。彼らの目には、先ほどの博打に狂うような濁った色はなく、確かな使命を帯びた鋭い光が宿っていた。
床にひっくり返ったままのルルネは、信じられないというように震える指でソラたちを指差し、尻尾の毛を完全に逆立てて叫んだ。
「……あ、あんた達が、援軍!?」
驚いて横を見れば、床に尻もちをついたルルネが信じられないといった顔で放心している。まさか、とソラたちが思っていると、周囲でも一斉に動きがあった。
酒を飲んでいたヒューマンが、賭博に興じていた獣人達が、全ての客が一斉にテーブルから立ち上がり、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。ただならぬ気配に、アイズだけでなくソラと椿も身構えるように距離を取った。
陽気に酒を飲んでいた姿勢を完全に消し去り、真剣な眼差しを向けてくる彼らの姿を見て、三人はようやく悟る。つまり、ルルネを含めたこの酒場にいる客全員が、あの黒衣の魔術師が手配したという協力者だったのだ。
「彼女たちで本当に間違いないんですか、ルルネ」
「ア、アスフィ……」
三人を囲むように立ち上がった者達の中から、一人の女性冒険者が静かに歩み出てくる。
水色の滑らかな髪には一房だけ白いものが混じっており、瞳は髪の色に近い理知的な碧眼だ。銀製の眼鏡をかけた相貌は整っており、純白のマントに、金の翼の装飾が巻き付いた靴を履いている。マントから一部覗く腰のベルトには、短剣の他にも複数の袋が吊るされていた。
彼女と視線を交わしながら、アイズと椿は眼前の美女が何者であるか瞬時に察した。ヘルメスファミリアの団長であり、オラリオに五人といない神秘の発展アビリティ保有者。万能者の二つ名を持つ、稀代の魔道具作製者、アスフィ・アル・アンドロメダだ。
「……貴方達も、依頼を受けたのですか?」
アスフィとルルネ、そして周囲の冒険者達を見回しながらアイズが尋ねる。彼ら一人一人の距離感、そして纏う空気からして同じ派閥内の団員なのだろう。アイズの質問に対し、アスフィは深い嘆息交じりに頷いた。
「ええ。この金に目がない駄犬のせいで、ファミリア全体が迷惑を被っています」
「ア、アスフィ~」
容赦のない言葉にルルネが情けない声を出す。アイズが目を向けると、彼女は決まりが悪そうな顔で事の顛末を語り始めた。
「剣姫も会ったと思うけど……何日か前にあの黒ローブのやつが現れてさ、協力してほしいって。最初はもうご免だって突っぱねたんだけど……」
例のごとく一人でいたところを狙われた彼女は、前回の危険な経験から当初は断固拒否していたらしい。しかし、歯切れが悪くなったルルネを押しのけるように、アスフィが冷たい声で言葉を継いだ。
「Lv.を偽っていることをギルドにバラす、と脅されたそうです。その挙句、私達に皺寄せまで……」
彼女達の状況を正しく理解したアイズと椿は、何とも言えない表情を浮かべる。事情を知らないソラだけが首を傾げていた。
ヘルメスファミリアは主神の命で多数の団員が本来のLv.を偽っている派閥だ。派閥の真の戦力が明るみに出れば等級も一気に上がり、管理機関に納める税も激増する。現状は間違いなく脱税であるため、ギルドに知れれば相当な罰金や罰則を頂戴するに違いない。
弱みを握られてしまったルルネはどうすることもできず、黒衣の人物の指示する通り派閥の者達も巻き込んで、今回の尻拭いをさせられる羽目になったのだ。
「この馬鹿っ、脅されようが最後まで白を切れば良かったのですっ、それでも盗賊ですかッ」
「うぅ~、許してくれよぉ~」
憤懣をぶつけるアスフィに、獣耳と尻尾をしおらせるルルネ。彼女の尻拭いのために集まった周りの同僚からも半眼を向けられる始末だ。
「ヘルメス様の我儘だけでも面倒は十分だと言うのに、こんな厄介事まで……!」
ぶつぶつと呟きながら怒る団長の顔には、神に振り回される者特有の深い疲れが滲み出ていた。
「あの……これからのこと、なんですけど」
「……すいません、見苦しいところをお見せしました」
見かねたアイズが控えめに声をかけると、アスフィは小さく深呼吸をして瞑目した後、眼鏡をかけ直す。表情を引き締め、彼女は目下当たることになる冒険者依頼に話を戻した。
「依頼内容の確認をしますが、目的地は24階層の
「うん。俺たちもそれを頼まれてるよ」
アイズの頷きに合わせ、ソラも元気よく答える。
「では、次にこちらの戦力を伝えておきます。私を合わせ総勢十五名、全てヘルメスファミリアの人間です。能力は大半がLv.3になります」
依頼内容の照らし合わせと戦力の確認を進めていくソラ達。武器や道具の手持品、前衛や後衛の役割分担など、迷宮を探索する上での最低限の情報も交換し合う。今回限りとは言え、ソラたちはアスフィ達に背中を預けることになるのだ。
男女交ざった冒険者達が気さくに挨拶してくる中、アイズやソラ、椿もそれに応える。
「こうなっては仕方ありません。各員、全力で依頼に当たりなさい。特にルルネ、貴方は死ぬほど働くんですよ」
「わかったよぉ……」
団長の厳しい呼びかけに周囲の者達は頷き、ルルネもすっかり消沈した声を返す。最後に、アスフィはアイズ、ソラ、椿の三人に向き直った。
「剣姫である貴方や、椿・コルブランド、そして噂のソラさんがいてくれるならこれ以上なく心強い。短いパーティになると思いますが、どうかよろしく」
「よろしく、お願いします」
「おう、任せておけ!」
「よろしくね、アスフィ!」
笑みを浮かべるアスフィに、アイズもほんの小さく笑い返し、椿とソラも力強く頷く。手を差し伸べられ、それぞれが握手を交わした。
同じ冒険者依頼を受託した者同士、他派閥による異例の共同戦線。三人はヘルメスファミリアのパーティに臨時加入することになった。
「ですが、くれぐれも私達のLv.偽装の件は口外しないように」
「あ、はい」
「わかっとる」
「うん、絶対に内緒にする!」
ファミリアの実態をバラすなと念入りに釘を刺されつつ、ソラ達はアスフィ達とともに薄暗い地下酒場を後にした。
街で最後の補給を済ませ、一団はいよいよ24階層の奥深くへと歩みを進めるのだった。
・
薄暗い地下酒場を後にした大所帯の臨時パーティは、
しかし、その幻想的な景色とは裏腹に、道中のモンスターの襲撃はかつてないほどの激しさを増していた。異常事態の影響なのか、無数のバグベアーやバトルボア、ソード・スタッグ、ダーク・ファンガス、そしてホブゴブリンといった凶悪なモンスターたちが、異常なまでの群れを成して襲い掛かってくるのだ。さらには、それに混じるようにして無数のハートレス達までが湧き出し、一行の行く手を完全に阻もうとしていた。
だが、この混成パーティにはオラリオ最強格の戦力が揃っている。
「ふっ……!」
先陣を切るアイズが、愛剣のデスペレートを一閃させる。ただの素振りにも等しい軽い一撃で、分厚い皮膚を持つバグベアーや突進してくるバトルボア、硬い角を持つソード・スタッグが次々と両断され、魔石を砕かれて灰へと変わっていく。群がるモンスターたちを、彼女は涼しい顔で容易く蹴散らしていった。
その隣、ソラが右手に握りしめていたのは、今後の戦いの役に立つかもしれないと、椿を通じてヘファイストス自らがソラのために作製したキーチェーンから生まれた、レムノス・アンヴィルだった。
炉から出たばかりのように白熱したオレンジと赤に輝く剣身には、渦巻く炎の中で金槌が金属を叩く様子が連続的に彫刻されており、先端の歯は完璧にカットされた宝石のように組み合わさった三つの炎が、ヘファイストスの聖火の形を成している。鍔は巨大な鍛冶用の金槌と金床が組み合わさった武骨な形状で、聖火と歯車のエンブレムが燦然と刻まれていた。熱を遮断する黒い鍛冶手袋のような柄を握り、鮮やかな赤い宝石の柄頭と、白熱した鎖の先で揺れる聖火のトークンが、持ち主の動きに合わせて眩い軌跡を描く。
ソラは無言のままレムノス・アンヴィルを構え、全身に光のオーラを纏って一直線に突進する。目にも止まらぬ超高速の連続突きが、密集していたダークファンガスや無数のハートレス達を次々と貫き、一掃していく。
「……マジかよ……あいつ、Lv.1のはずだよな……?」
「インファントドラゴンを瞬殺したって噂はどうやら本当らしいな。それにしても、なんだあの武器は……あんな変な形の剣、見たことねえぞ」
「なんだあの刃は、鍔が金床と金槌になってるじゃないか。だが、……ヘファイストスファミリアのサインがあるってことは、あそこの製作品なのか?」
「いったい誰があんなゲテモノを打ったんだよ……?」
後衛でその圧倒的な光景を見たルルネが呆然と呟き、他の団員たちも冷や汗を流しながら驚愕に目を見開く。Lv.1とは思えない規格外の戦闘力と、あまりにも奇抜で常識外れな形状をした未知のキーブレードの存在は、彼らの常識すらも完全に破壊していた。
前衛の二人が道を切り開く中、遊撃として立ち回る後衛の団員たちにもモンスターの残党が迫る。そこで動いたのは、オラリオ最高の鍛冶師である椿だった。
「ほれ、これを使え!」
椿が右手を突き出すと、何もない空間から眩い光が集束し、次々と高品質の長剣や槍が実体化してヘルメスファミリアの団員たちの足元へと落ちてきた。
「な、なんだ!? 何もないところから突然武器が出てきたぞ!?」
「魔法だ。気にするな、手前の試作品だから料金に関しては気にするな」
突如として無から武器が出現したことにおどろくヘルメスファミリアだったが、椿が豪快に笑って魔法だと言い切ると、第一級冒険者の魔法ならありえるのかと全員が妙に納得して武器を手に取った。
現在のこの激しい戦いにおいて、アイズとソラという二つの規格外の実力をもつ冒険者の力が群を抜いているのは間違いない。しかし、このパーティで一番の功労者はだれか聞けば、ヘルメスファミリアの全員が迷うことなく椿と答えるだろう。
何しろ、彼女の手に出現した武器が無数に貸し与えられ、刃こぼれすれば即座に新しいものが補充されるのだ。まさに歩く武器庫と呼ばれるような大活躍であり、団員たちの生存率と殲滅力は飛躍的に向上していた。
「……はぁっ!」
後方から迫ってきた、フレイムコアの群れに対し、アスフィはガンブレードを構える。それは椿がソラから聞いたレオン達の武器を再現すべく精魂込めて鍛え上げた逸品だった。引き金を引いて振動する鋭い刃ので、アスフィはフレイムコアを鮮やかに蹴散らしていく。
激戦の最中でありながらも、アスフィは自らの負担が劇的に減っていることを実感し、内心で深く安堵のため息を吐いていた。イレギュラーな事態に巻き込まれたとはいえ、この三人が援軍として駆けつけてくれたことは、ヘルメスファミリアにとってこれ以上ない幸運だったのだ。
・
目的の
足を止めた一行が前方を見据えると、思わず息を呑むような光景が広がっていた。目も当てられないほど広い通路内を、完全に埋め尽くしている大群がいたのだ。迷宮が産み落とした凶悪なモンスターたちに加え、重厚な鎧を着込んだ騎士のようなアーマーナイトや、不気味な機械の目を持つサーヴィランスといったハートレスが無数に蠢いている。
「うげぇ……なんだよあれ、気持ち悪っ……」
蠢く大群の強烈な光景を見て、ルルネが思わず顔を引きつらせて吐き捨てるように呟いた。
アスフィが状況を冷静に分析し、他の団員たちに陣形を組んでの戦闘準備を指示しようと口を開きかけた、まさにその瞬間だった。
「私が行きます」
「じゃ、俺も!」
アイズが短い一言を残し、一切の躊躇なく単騎で大群の真っ只中へと駆け抜けていったのだ。それに釣られるようにして、ソラもまた軽口を叩きながら、壁を蹴って眼下の敵陣へと勢いよく落ちていく。
アスフィ達が止める間もなく突出してしまった二つの規格外の背中を見送り、椿が豪快に笑いながら一歩前に出た。
「では手前は、といくか」
椿がそう宣言すると同時に、彼女の右手と左手に凄まじい光が集束し始めた。やがて光が実体化し、右手には白刃の剣が、左手には重厚な鞘が握られていた。
そして椿は、おもむろにその剣をカチャリと鞘に収めたのだ。
「なにをしているんだ?」
ルルネが困惑していると直後に驚くべき現象が起きた。
鞘に収められた剣と鞘の内部の機構が重々しく噛み合う甲高い金属音が響き渡ると、剣と鞘は完全に一体化を遂げ、長大な双胴の砲身へとその姿を劇的に変貌させていったのだ。
椿はそのまま大地に片膝を突き、深く腰を落として重心を安定させる。自身の体格をはるかに凌駕する重厚な得物を、肩と両腕でがっちりと固定し、不動の射撃姿勢をとった。平行に伸びた二本のレールの隙間では、高密度のエネルギーが目眩くように明滅し、バチバチと鋭い紫電を散らしている。
膨大な重量と引き換えに、標的を一点突破で穿つためだけに特化した、規格外の破壊力を予感させる威容がそこにあった。
「吹き飛べ!」
椿は密集するモンスターの大群の中心に狙いを定め、躊躇いなく発射した。
轟音と共に放たれた閃光が空間を切り裂き、大群のど真ん中に着弾する。被弾した箇所から凄まじい爆発が巻き起こり、周囲のモンスターやアーマーナイトたちが消し飛んでいく。
その規格外の破壊力と、変形機構を備えた未知の武器を目の当たりにし、魔道具作製者であるアスフィは銀縁眼鏡の奥で目を丸くした。自分が使用しているガンブレードの件もあり、一体どこからこのような常識外れな発想が湧き出てくるのかと、椿に対して強い興味と探求心を刺激されていた。
しかし、当の椿は一度発射しただけで、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「ふむ、やはりちまちまと狙い撃つのは手前の性に合わんな!」
そう言うと、椿は重厚な砲身のままの双胴の武器を、後衛にいるアスフィに向かって無造作に放り投げた。
「おっと……!」
「手前達が危険と判断したらそれを使え! 手前も前に出る!」
慌ててそれを受け止めたアスフィにそう言い残すと、椿は再び両手に光を集束させて今度は巨大な薙刀を顕現させ、アイズとソラを追うようにして凶悪な大群の中へと嬉々として駆け出していくのだった。
大群の真っ只中へと躍り出た椿は、先陣を切るアイズとソラの背中を追うようにして、迷宮の硬い石畳に重々しい着地音を響かせた。
土煙が舞う中、彼女は両手に顕現させた巨大な薙刀を頭上で鋭く回転させる。第一級冒険者たる凄まじい膂力と、絶妙な得物の捌き方が合わさったその一撃は、まさに暴風そのものだった。
「そらそらそらぁっ! 手前の道を塞ぐな!」
豪快な雄叫びと共に薙刀が横薙ぎに一閃されると、分厚い装甲を誇るアーマーナイトの群れが、まるで枯れ葉のようにまとめて吹き飛ばされていく。強固な鎧ごと胴体を両断され、黒い霧となって消滅していくハートレスたち。周囲のバグベアーやホブゴブリンといった凶悪なモンスターも、椿の長大なリーチと神速の斬撃の前には全く近づくことすらできない。
前方をアイズの風を纏った鋭い剣撃とソラの縦横無尽なキーブレードが理不尽なまでの速度で蹂躙し、その後方を椿が薙刀の暴風で徹底的に掃討していく。三人の規格外の暴力によって、目も当てられないほど通路を埋め尽くしていた大群は、瞬く間にその数を減らしていった。
だが、迷宮の奥底の異常事態はこれだけでは終わらない。
悲鳴と轟音が響き渡る戦場のさらに奥深く、薄暗い通路の先から、不気味な駆動音と規則的な機械音が響いてきた。
「……む?」
いち早くその異音に気づいた椿が薙刀の動きを止め、隻眼を細めて暗がりを睨みつける。
そこから現れたのは、重厚な黒鉄の鎧と機械の部品を繋ぎ合わせたような、奇妙で機械的な姿をしたハートレスの集団だった。顔にあたる兜からは角のように二本の排気管が伸びており、そこから蒸気のような黒い霧を噴き出している。丸みを帯びた肩や腕には巨大な六角ナットや歯車の装飾が施され、胸には赤く縁取られた茨の十字の紋章が刻まれている。ガシャガシャと耳障りな金属音を立てて突進してくる、機械と魔法が融合したかのような特異な個体、クロックワーブルの大群だ。
未知の機械型ハートレスの出現。普通の冒険者であれば、その得体の知れない姿や不規則な動きに警戒を強めるところだが、椿の反応は全く逆だった。
彼女の眼帯で覆われていないほうの隻眼が、限界までカッと見開かれる。
「おおおおっ! 来た来た来たぁっ! ついに現れおったな!」
先ほどまでの戦闘の興奮とは全く違う、職人としての底知れない欲望を剥き出しにした歓喜の叫びだった。
それもそのはずである。先日ソラからハートレスの知識を事細かに聞き出していた椿は、このクロックワーブルという種類のハートレスこそが、自分が喉から手が出るほど求めていた素材、うごめく結晶を高確率でドロップする個体であると知っていたからだ。
結晶を融かし、鍛え、まだ見ぬ至高の武具をこの手で打ち上げたい。その狂気的なまでの探求心が、椿の全身の血を沸騰させる。
「あのガラクタどもは手前が全部叩き割る! 誰にも渡さんぞ!」
凄まじい気迫を放ちながら、椿は手元にあった薙刀を惜しげもなく光の粒子へと還元し、一瞬にして武装の解除を行った。集団を相手にするならもっと誂え向き武器ではない。
すぐさま彼女は両手を前に突き出し、再び眩い光を掌に集束させる。
今度は長柄の武器ではない。光の中から顕現したのは、刀身そのものが青白い冷気を放ち、周囲の空気すらも凍りつかせるような極寒の魔力を秘めた一振りの魔剣だった。
「さあ、手前の至高のための礎となれぃ!」
突進してくるクロックワーブルの集団に向け、椿は冷気を立ち昇らせる魔剣を大きく上段に振りかぶった。
刀身に莫大な魔力が注ぎ込まれ、周囲の水分が急激に凍結してパキパキと甲高い音を立てる。そして、椿が裂帛の気合いと共に魔剣を力強く振り下ろした瞬間、刀身から絶大なる氷の奔流が解き放たれた。
それは単なる氷結魔法の域を遥かに超えていた。巨大な氷塊そのものが大砲のように射出され、周囲の気温を一気に絶対零度まで引き下げながら一直線にクロックワーブルの大群へと襲い掛かる。
機械仕掛けのハートレスたちは回避する間も与えられず、その凄まじい氷塊に正面から飲み込まれた。ガシャガシャと騒がしかった金属音や排気管からの蒸気は一瞬にして凍りつき、分厚い氷に閉ざされた巨大な氷の彫刻となって完全に動きを停止する。
直後、椿が追撃として魔剣の柄で氷の塊を強打すると、敵を閉じ込めた氷塊が内部から凄まじい音を立てて粉々に砕け散った。
完全に粉砕されたクロックワーブルたちは黒い霧となって霧散し、その跡には、椿が渇望していた結晶が、砕けた氷の破片に混じってキラキラと大量に降り注ぐのだった。
「ははははー! 大豊作っ!」
椿は戦場のど真ん中であるにも関わらず、まるで欲しかった玩具を買ってもらった子供のように目を輝かせ、地面に這いつくばってドロップアイテムの回収に走るのだった。
そのあまりにも欲望に忠実な凄まじい光景に、後衛で待機していたアスフィやルルネたちは、ただただ引きつった笑いを浮かべて無言で立ち尽くすしかなかった。
欲望のままにドロップアイテムをかき集める椿を後方に置き去りにし、最前線のさらに奥深くでは、なおも激しい戦闘が続いていた。いや、それは戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的な蹂躙劇だった。
大群の先頭に単騎で突っ込んだアイズは、黄金の瞳に一切の感情を交えることなく、冷徹に愛剣デスペレートを振るい続けていた。彼女は長年の迷宮探索で培われた卓越した剣技と、最高位のステータスから放たれる力任せの斬撃を絶妙に織り交ぜ、怒涛のように押し寄せる群れを正面から完全に圧倒していく。
鋭い踏み込みから放たれる神速の刺突がアーマーナイトの強固な装甲を紙のように貫き、それに続く横薙ぎの剛剣がバグベアーの巨体を容易く両断して吹き飛ばす。美しくも苛烈な銀の軌跡が前後左右に目まぐるしく閃き、アイズの周囲には文字通り死角というものが存在しなかった。
一切の侵入を許さず、刃の領域に踏み込んだ者すべてを例外なく斬り伏せるその様は、まさに剣の結界であった。
どれほどの数が押し寄せようとも、歩みを止めることのない剣姫の前では一切の無意味だった。アイズは結界に触れた端から、広い通路を埋め尽くしていた怪物を次々と塵へと変え、獲物を前にして猛り狂っていた猛々しい雄叫びを、瞬く間に絶望に満ちた断末魔の絶叫へと変えていった。
「アイズ……! よし、俺も負けてられないな!」
その完璧にして苛烈な剣の結界のすぐ隣で、ソラもまた常軌を逸した立ち回りで迷宮の怪物を圧倒していた。
群れの上空を浮遊し、不気味な機械の目で下方の獲物を狙い撃とうとしていたハートレス、サーヴィランス。ソラは迷宮の岩壁を蹴り上げて一気に跳躍すると、そのサーヴィランスの一体の頭上へと軽やかに飛び乗り、両足で機体をがっちりと押さえ込んだ。
「よっと!」
機体の上でソラがキーブレードを突き立て、その制御を強引に奪い取ると、サーヴィランスの機械の目が危険な赤色に明滅し始める。直後、ソラは機体に蓄積された高密度のエネルギーを利用し、周囲のモンスターに対してスパークレイと呼ばれる光の光線を放った。
サーヴィランスの機体を中心に、全方位へ向けて極太のレーザーが放射状に迸る。閃光の嵐が迷宮の通路を薙ぎ払い、バグベアーやソードスタッグ、さらには上空を漂っていた他のハートレスたちをも容赦なく貫き、灰と光の粒子に変えて一掃していく。
周囲の安全を確保したソラは、スパークレイを放ち終わって機能停止したサーヴィランスの機体をキーブレードで強打し、完全に破壊して打ち倒す。黒い霧となって消えゆく残骸を蹴り台にして、ソラはさらに天高く、跳躍する。
重力を無視したかのように宙にふわりと浮遊したソラは、眼下で未だに蠢く大群の残党を見据え、真っ直ぐに構えた鍵剣に莫大な力を込めた。空中に留まっていたソラの身体が、突如として眩い炎のようなオーラに包まれる。
次の瞬間、彼は隕石のごとき猛スピードで斜め下方へと突進を繰り出した。ライジングサンと呼ばれるその技は、空中で幾度も鋭く軌道を変えながら、ジグザグに、あるいは円を描くようにして超高速の突進突きを連続で叩き込んでいく大技だ。昇る太陽の如き熱と光を伴った連続攻撃が迷宮の硬い石畳を穿ち、密集していたアーマーナイトやダークファンガスの群れを次々と粉砕していく。
圧倒的な殲滅力を見せつけながら地面に降り立つと同時に、ソラは右手に握りしめていた神造の鍵剣、レムノス・アンヴィルを高く掲げた。
「まだまだいくよ!」
ソラの声に呼応するように、レムノス・アンヴィルが凄まじい熱量を帯びて白熱し、形を大きく歪ませ始めた。
光の奔流が収まると、ソラの手には柄の先に規格外の質量を持つ白熱した金床が備え付けられた、巨大なハンマー。フォージング・ハンマー。
ソラはその自重すらも無視するような凄まじい腕力で、巨大な白熱の金床を頭上で軽々と振り回す。迫り来るホブゴブリンの集団に向け、彼はその巨大な金床を容赦なく叩きつけた。
迷宮全体を揺るがすような重低音が響き渡る。白熱した金床が敵や地面に直撃した瞬間、そこに封じ込められていた炎が爆発的に解放され、凄まじい業火がドーム状に広がった。
アイズの美しくも苛烈な剣の結界、ソラの変幻自在な魔法と重爆撃、そして後方でドロップアイテムを乱獲しつつも的確に氷の砲撃を放つ椿。
たった三人が圧倒的な活躍を見せている内に、目も当てられないほど通路を埋め尽くしていたモンスターとハートレスの集団は、まるで幻であったかのように綺麗に消え去ってしまったのだった。
静寂が戻った迷宮の通路には、キラキラと輝く魔石やアイテムが静かに降り積もっている。大量発生していたモンスターとハートレスが完全に全滅するまで、時間にしておよそ数分の出来事であった。
「もう、あいつらだけで良くね……」
「…………」
「あたし、もう帰りたい」
「そういうわけにはいかないでしょう」
はるか後方でその神話のような蹂躙劇をただ見守ることしかできなかったルルネが、完全に心が折れたような虚ろな瞳でぽつりと呟いた。
彼女の言葉に、周囲で手持ち無沙汰に武器を構えていたヘルメスファミリアの団員たちも、誰一人として反論できずに重苦しい沈黙を落とす。戦意を喪失し、本気で踵を返して地上へ帰ろうとするルルネの背中を、アスフィがため息をつきながら引き止める。
アスフィ自身も、あの規格外の三人がいれば自分たちの存在意義などないのではないかと心の中で激しく同意しかけていた。だが、ファミリアの団長としての矜持が、なんとかその言葉を口に出すのを堪えさせていたのだ。
しかし、気を取り直してアイズたちに合流しようとアスフィが一歩を踏み出した、まさにその時だった。
突如として、周囲の空気が劇的に変わるのを全員が肌で感じ取った。
先ほどまでの戦闘の熱や、水晶の放つ清浄な空気が嘘のように掻き消え、代わりに粘りつくような冷気と、内臓を直接鷲掴みにされるような不快なプレッシャーが空間を支配する。
一体何が起きているのか。アスフィが前線の三人に問う間もなかった。
彼らの目の前、静まり返った通路のど真ん中の地面がドロドロと黒く変色し始め、瞬く間に光を一切反射しない、巨大な闇の淀みが形成され始めたのである。
「嫌な予感がします……」
アスフィが手元のガンブレードを構え直し、最大級の警戒を露わにしていると、底なしの闇の奥底から異音が響き始めた。
空気をビリビリと震わせるような重々しい回転音と、迷宮には本来存在し得ない、何かの巨大なエンジン音が徐々に近づいてくる。ズズズンッ、と迷宮全体を揺らすほどの地響きと共に音はさらに大きくなり、ついに粘りつくような闇の中から一つの巨大な姿がゆっくりとせり上がってきた。
その常軌を逸した異様な姿を見て、冷静沈着なアスフィでさえも信じられないといった様子で口を半開きにして絶句した。
・轟雷機剣・雷電丸
グミシップのスペシャルウェポンのエレクトロショットを参考に椿、ヘファイストスの共同制作で誕生。剣を鞘に収めることで内部機構が噛み合い、長大な双胴の砲身へと劇的に変形します。膨大な重量と引き換えに、二本のレールの隙間から紫電を散らす高密度のエネルギーを放ち、大群の中心を爆砕する規格外の破壊力を持っている、素材としてグミブロックが使用されているため本来なら笑顔で射出できるのだが。素材の関係でソラの提供したオリハルや各種結晶や魔石、ドロップアイテムが使用され、弾丸として魔剣を使用。氷の魔剣を使えば氷の光線が炎の魔剣を使えば炎の光線を放つ。さらに奥の手として一本の魔剣をまるまる消費することで超高威力の光線が出るぞ。なおグミブロックを使用しているので見た目はおもちゃの鞘に見えなくはない。ついでにその製作をヴェルフも多少は手伝いました。
椿を出して理由はヘファイストスモチーフのキーブレードを出したかったのがあります