豊饒の女主人に到着したベル達は店をまじまじと見る。豊饒の女主人は石造りで、2階建てだった。しかし、内部はかなり奥行きがあるように見えた。その地域で最大の酒場のようだった。
建物の中を覗くと、カウンターの後ろにはずんぐりとしたドワーフの女性がいて、エプロンを着た若い
店の中から、見慣れた人物がベル達の元へと歩む。
「ベルさんっ、ソラさんっ、来てくれたんですね!」
「は、はい、やってきました」
「来たぞ、シル!」
楽しそうに挨拶するシルにベルは緊張しながら挨拶しその反面ソラは友人に会うかのように気さくな挨拶を返す。そんな二人の背中に一つの視線が刺す。
「この子は誰だい…?」
ヘスティアはシルをじっと見ながらソラに静かに尋ねる。
「彼女はシル。今朝ベルに朝食を分けてくれたんだ。今日来たのは彼女にお礼を兼ねてなんだ…」
ソラは酒場の中を見回し、景色や様々な料理を眺めながら答える。
ヘスティアはソラの言葉を聞いて内心で怒り狂っているがソラ達が知る由はないものだった。
「お客様3名様はいりまーす!」
シルはカウンターの後ろにいるドワーフの女性に呼びかけた後にソラ達を長いL字型のカウンターに案内する。
端の小さな角に案内されたソラ達は一番近い壁際にベルが座り、ベルの隣にヘスティアが座り、一番外側にソラが座るのだった。
「アンタ等がシルの客人かい? ハハ、2人とも冒険者にしては魅力的な顔をしているね!」
ドワーフの女性は笑い、ベルは内心でほっとけと思い。ソラは照れくさそうに笑いながら頬を掻く。
そうして、3人は料理を注文しようとするとベルとヘスティアは値段に驚愕する。
幸いなことにソラの協力もあってかヴァリスに余裕があったヘスティアたちはメニューを改めて見ていると女将ことミアがベル達に「酒は?」と尋ねられヘスティアとベルは頼もうとするが隣で「酒?」という言葉を聞いてソラははジュースを頼むがミアはその言葉を無視し3つの
ソラは初めての酒に目を細めアルコールの匂いにさらに目を細めるが出してくれたものだからとソラは慎重に慎重に口に運ぶ。琥珀色の液体が舌の上で広がる瞬間、予想外の熱さと苦みがソラの喉に直撃した。
「っ……!」
思わず息が漏れ、口の中の酒が勢いよくカウンターに噴き出してしまう。細かな飛沫が散り、カウンターに小さな染みができる。
「あ、ご、ごめん……!」
慌てて
シルが慌てて「ソラさん!?」とタオルでカウンターを拭く。その優しい声がソラの耳に届く頃には、すでに頭の芯がふわっと軽くなっていた。
「……なんか、変」
小声で呟くと、視界の端が少し揺れるような気がした。頬が火照り、心臓の鼓動が耳元で響く。体が椅子に沈み込むように重くなり、同時に浮遊感が混じる。
「ソラ君、まさかもう……」
「ソラ…?」
ベルとヘスティアの心配そうな声は届かず、ソラは初めて、自分の体が自分だけのものではなくなったような、不思議な感覚に包まれる。
世界が少し柔らかくなり、笑いが自然と漏れる。初めての酒は、ソラの内側に小さな火を灯した。恥ずかしさと一緒に、温かく甘い酔いがゆっくりと広がっていった。
しかし次第に頭がズキズキしてきてこれはいけないと判断したソラは懐からオールキュアを取り出し酔いを醒ます。
そのままソラはオールキュアの効果が出ている内に
突然のソラの行動にベル、ヘスティア、シルは唖然とする。
「ごめんこれ、もう無理…水かジュースを頼む!」
「わ、わかりました!」
ソラの言葉に即座にシルは反応しソラに水を出す。
「ソラ君、大丈夫かい?」
「なにが?」
「いや、君、さっきまですごい酔ってたじゃないか。なのに突然一気に飲んじゃって…」
「ああ、そのことか、最初は気分はほんわかしたけど頭が痛くなったからすぐにオールキュアを使ったから大丈夫だ」
「オールキュア?」
ソラから出てきた新しい単語にベルの頭上に疑問符が思い浮かぶ。
「これは使うと状態異常を直してさらには一定時間状態異常を無効化してくれるんだ」
「はっ?」
ソラの言葉にヘスティアは喉が詰まる。
スキルのこともあり頭がいっぱいいっぱいだったヘスティアに追加された情報でまだ
「その
「えっ?」
ヘスティアの言葉に疑問が浮かぶソラだったがそうこうしているうちにミアが「注文は?」聞いて来たのでベルはパスタ、ヘスティアは肉の串焼き、ソラは魚のフライを注文する。
「う、うまい!」
ソラは魚のフライを頬張りながら歓声を上げた。
「にゃあぁ!ご予約のロキ・ファミリア一行のご来店ですニャぁ!!」
そうしてソラ達が料理を堪能していると入口近くにウェイトレスが叫びだす。
すると騒がしかった酒場が静まり返る。
その直後に一団がウェイトレスに案内され、酒場内に入ってくる。
(え、アイズさん?)
最後尾に現れた金髪の少女が現れた瞬間にベルの目が見開かれ硬直する。
「ベルさーん」
そんなベルの光景にシルが心配そうに声を掛けるがベルはそれどころではないのかその言葉に反応できない
ベルはお礼を言うべく立ち上がろうとするが中々上手く勇気が出せない。
「ダンジョン遠征ごくろうさんやでみんな!!今日はじゃんじゃん飲んで、じゃんじゃん喰いや!!乾杯!!」
「「「「「「「「乾杯!!!!!!!!」」」」」」」」
主神であるロキが乾杯の音頭を取るとそれにつられて他の団員も乾杯の音頭を上げジョッキを掲げ騒ぎ出す。
そんな光景を見てベルは水を差すのは良くないと思いつつもどうしても目が離せないでいると…
「そうだ、アイズ!お前あの話を聞かせてやれよ!!」
「あの話……?」
「あれだよ!帰る途中で何匹か逃したミノタウロスの最期の1匹、お前が5階層で見つけて殺したやつ!そんでそん時に居たあのトマト野郎!」
その言葉を聞いたベルが硬直する。
突然のベルの行動にソラが「ベル?」と呼びかけるがベルにはその声が聞こえていないのか無反応だ。
「ミノタウロスって、17階層で私たちに返り討ちにあって逃げ出した?」
「そうそう!んで俺らが疲れてるってのに必死で見つけ出して殺したんだけど5階層まで奇跡的に登っちまったやつがいてよ!それでいたんだよ、如何にも駆け出しですって感じのひょろくっせえガキが!そいつ兎見てぇに震えて逃げてよ!プルプルよ壁際に追い詰められて震えてやがんの!」
青年の言葉にベルがズボンをぎゅっと握りしめる。
一方のソラはミノタウロスという単語を聞いて最初は頭に疑問符が思い浮かんでいたがヘスティアファミリアの
「そんで、その冒険者、助けられたん?ベートが笑い話にしとるっちゅうことは結果はわかんけど」
「アイズが正に間一髪ってところで細切れにしてやったんだよ。なっ?」
「……」
青年の言葉にアイズはあまり快く思っていないようで眉をひそめて答えない。
「んで!こっからなんだけどよ、そいつあの牛のくっせえ血浴びてトマトみたいになっちまったんだよ!しかも、あのトマト野郎助けてもらった礼も言わずに叫んでどっか行っちまって!ぷっくく……アイズは、助けた相手に叫びながら逃げられてやがんだぜ!久々だぜ!あんな情けねぇやつ…」
青年の言葉に周囲で飲んでいた
しかしその一方でアイズ、金髪の少年、長耳で緑髪の女性は笑っておらず、緑髪の女性が青年を咎める。
「その口を閉じろベート、元はと言えばミノタウロスを逃がした我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪はすれど貶し、酒の肴にするなど恥を知れ」
「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。だがよぁ、ゴミをゴミと言って何が悪い」
「やめんか二人とも。これ以上の口論は、酒が不味くなるわ」
「そうよ、それにベートだって6階層で現れた新種のモンスターに苦戦したって聞いてるわよ」
「うるせぇ!あれは地中に潜ったりとめんどうだっただけだ!!」
二人の口論を離れた席で赤髪糸目の女性と飲んでいた背の低い男性が仲裁し、横から褐色の女性もベートを嗜めるがベートはそんなことはどうでもいいとばかりにに舌を捲し立てる。
「雑魚はアイズ・ヴァレンシュタインと釣り合わねえ」
軽口を叩きアイズへセクハラ発言をしている中、ベートの発した最後の一言を聞いた瞬間ベルは走り出し店を出た。
「ベルさん!?」
「ベル!?」
そのベルを追うようにアイズは店外に出るが既に少年はいなかった。追おうと思えばアイズとベルのレベル差を考えればできたがアイズにはできなかった。追ったところで何を言えばいいか、どうしたいのかをアイズ自身が判然としないのだ。
「なんや。ミア母ちゃんのいるとこで食い逃げなんてなんて怖いもん知らず……ん?アイズたん…」
そうしてロキがアイズの方に目を回していると彼女の瞳にヘスティアが映る。
「ん?どチビ、なしてここに…ほぎゃあぁ!?」
「ろ〜〜〜〜きぃ〜〜!!!」
「ヘスティア!?」
ヘスティアがロキの腹にドロップキックをお見舞いしていた。
ロキはそのまま倒れヘスティアに馬乗りで殴られようとした瞬間、ソラに止められる。
「なんや!?どチビ!!抗争か
「ヘスティア、ダメだって!?」
「とめないでくれよぉ、ソラくん! きみぃたちぃがバカにしたぼうけんしゃぁは、ボクの
ヘスティアの言葉にソラは全てを察する。それと同時にベルがどこに行ったのか思い浮かぶ。
きっとベルは
短い付き合いだがソラはベルのことを純粋で真っ直ぐな子だと見ている。
ハートレスに怯えることはあったけど逃げずに真っ直ぐ戦った少年が果たして他の冒険者に雑魚と言われたぐらいで折れるだろうか?いや、そんなことはありえない。
ソラはすぐにベルの元へと駆け付けたかったが今のヘスティアに放っておくことはできない。
ヘスティアの言葉を聞いてロキを始めとしたロキファミリアの
「なぁっ、それは…」
ロキは何か言い返そうとするが10:0でロキ側が何を言ったところでどうにもならないだろう。
「したへぇ…し、死んでたかもぉしんねぇんだぞぉ~! それぇをぉ!! きみぃはぁ…どんなぁきょいくぅしてんだよぉ~ロキぃぃ!!!」
「う、なんも言い返せんへん」
ヘスティアの言葉に気圧されたロキとヘスティアを抑えるソラに戻ったら主神が他派閥の神と喧嘩していてどうすればいいのかわからずオロオロしているアイズたちに金髪の少年が近づく。
「神ヘスティア、あなたの言うことは最もです。ベートたちのことはロキだけではなく僕の責任でもあります」
「きみはぁ…?」
「ロキ・ファミリア団長。フィン・ディムナです」
そう言ってフィンはソラ達の前で深々と謝罪する。
「うー。あぁあ〜」
しかし酔いが回って視界がおぼつかないヘスティアはフィンを上手く認識できない。
「えっと、ごめんけどヘスティアがこの調子だから謝罪についてはまた今度にしてくれない」
「ふむ、そのようだね」
ヘスティアの様子を見たフィンはソラの意見に同意し後日謝罪のためにロキファミリアの
「だいじょうぶか?ヘスティア」
「ソラ君の
「わかった。行ってくる!!」
ヘスティアの願いに頷いたソラはダンジョンの方向へと走っていくのだった。
ソラが見えなくなるまで見送ったヘスティアは
・
ダンジョンに続く螺旋階段をソラは駆ける。道中でハートレスやモンスターがソラの行く末を邪魔するがソラはナノギアをナノアームズに変形し対峙する。
クローきりもみ突進で突き進みながらダンジョンを進んでいく。
そうして進んでいると少年の雄叫びが、ソラの耳に届く。声が聞こえる方向へと足を進めると、ちょうどベルがモンスターを倒した瞬間であった。
モンスターを倒して一息ついたベルの後ろにギガシャドウが出現する。
ベルは影の動きから瞬時に構えギガシャドウと対峙するがギガシャドウはソラのロケットフィストによって消滅する。
突然ギガシャドウが消滅したことに驚くベルだったがソラの姿を確認するとその顔に安堵の表情に変化する。
「あ、ソラ…」
「大丈夫かベル?」
心配そうにベルに近づいたソラはヘスティアがロキファミリアに抗議したこと、【ロキファミリア】の団長のフィン・ディムナが謝罪のお詫びをしたいということを伝える。
「そう、ごめん、ソラ。もし【ロキ・ファミリア】の
「え、なんで?」
「僕はあの人の隣に立てるようになりたいんだ。あの場所で笑われて、侮蔑されて、挙句に庇われて……僕は何もしていないのにいつかはあの人と何か起こることを期待していたんだ。確かに、あの時悔しくて苦しい思いはしたんだ。僕を笑った人たちの言葉を肯定しちゃったんだ。
彼女にとって路傍の石に過ぎない滑稽な自分が悔しい。隣に立つ資格を欠けらも所持していない僕が許せないんだ!だからまだ行かない。もっと強くなるんだ!もっと強くなってあの人の隣に立つんだっ!」
ベルの心が命じたことをソラは止められない。
かつてのソラもそうであるようにベルも真っ先に進んでいくだろう。
そんなベルにソラは何ができるかを考え、オリンポスコロシアムでフィルがヘラクレスに
「癒しよ」
ソラがケアルを唱えるとベルの傷が見る見るうちに体から消えていく。
「わぁ、回復魔法…ありがとうソラっ!…ハートレス!?」
ベルはソラにお礼を言うべくソラの対面に立つがソラの後ろで闇が形成されハートレスが出現しベルはナイフを構える。
さっきまでベルが対峙していたギガシャドウ、ソルジャー、グミコプターがそれぞれ複数、そしてそれを指揮するかのようにディフェンダーが中央で鎮座している。
「炎よ!!」
ソラは自身を囲むグミコプターを一掃すべくキーブレードを自身の周りに浮かせるとソラを囲うように炎の柱が三本出現する。
ソラはそのまま3本の炎柱ことレイジングストームでハートレス達を一掃するのだった。
一方でソルジャー達と対峙するベルはソルジャーの攻撃を避けながらナイフをぶつける。しかしそんなベルなど知らぬとばかりに遠方で構えていたディフェンダーの盾から火炎玉が放出される。
「うわぁっ!?」
ベルは叫びながらも大きく下がることでディフェンダーの火炎弾を避ける。
「てやぁあ!!」
ディフェンダーの攻撃を避けながらソルジャーを倒していくベルはディフェンダーへと急接近する。
ディフェンダーに急接近したベルは鎧が覆われていない左腕の一部をナイフを突き刺す。
「つっ!?」
しかしディフェンダーは硬くベルのナイフを一切受け付けない。
接近してきたベルに向かってディフェンダーが大きな右腕を振るう。
「守りよ!!」
このまま振るわれればベルは吹き飛ばされるところだったがソラがリフレガを放ちベルの周りに魔法のバリアが展開される。
攻撃をしたディフェンダーはバリアに弾かれベルは後ろに後退する。
「どうすれば‥」
自身の攻撃が効かないことにどうすればとベルは悩む。
そう悩んでいても敵は待ってくれずギガシャドウがベルに襲いかかる。
「ベル!乗り込め!!」
ギガシャドウの攻撃を回避しているとソラがベルに声を掛ける。
「えぇえっ!?」
すると突然、大きな回転するカップが出現しベルは驚愕の声を上げるがソラの指示に従いギガシャドウの攻撃を回避すると同時にカップに乗り込む。
「ソラ…?これはどうすれば…」
「手元にある円盤を回すんだベル!」
ソラにそう言われ試しにとベルは手元の円盤を回すとそれと同時に乗っているカップが回転する。
回転したカップはギガシャドウへと向かっていく。ギガシャドウが攻撃を喰らわせようとするがそれよりも早くカップの衝突し早くカップにぶつかったギガシャドウはそのまま消滅するのだった。
「すごい…これなら…」
カップの強さに驚愕すると同時にこれならと確信したベルはさらに回転させて他のハートレスにぶつける。
次第にカップの動きを理解したベルはソルジャーの攻撃を回避しながら後ろからぶつける。
そうしてソラとベルがカップでハートレスを一掃しているとついにはディフェンダー一体だけになる。
「いくぞ!ベル!!」
「えっ?なに!?」
ソラはベルに声を掛けディフェンダーの前方にぶつける。
ソラの意図を察してベルはカップを回してディフェンダーの後ろに衝突する。
前方と後方両方を挟まれる形で回転するカップで攻撃されたディフェンダーはなすすべなく消滅するのだった。
それと同時にカップは役目を終えたとばかりに消える。
「やったな!ベル!!」
「うぅ、目がぁ…」
ソラは何事もなく立っている一方でベルは初めての経験だったか少し目が回ったようで足元がふらついている。
「ん?あれは?」
そうしてベルの視界が落ち着くとソラ達はハートレスのドロップアイテムを拾う。
ハートレスから出てくる魔石はダンジョンのそれとは違い換金できない。
拾ってる最中にベルはハートレスからドロップした魔石に類似したものについて聞くと武器やエリクサーの素材になるとのことだ。
そうして拾っているとグミコプターが一掃された辺りを見ているとベルは奇妙な塊を拾う。
「なに?これ…?」
ベルは恐る恐る指を這わせると、それは予想に反してひんやりと冷たかった。
硝子のような硬質さを想像していた指先は、抵抗なくその表面へと沈み込んでいく。まるで、水をそのまま形に留めたかのような不思議な感触。
力を込めるとグニリと歪み、指を離せば何事もなかったかのように元の正方形へと戻る。その愛らしい弾力は、無機物というよりは、何か小さな生き物に触れているかのようだった。
「どうしたんだ、ベル…グミブロックだ!」
ベルの様子がおかしいと感じたソラはベルの元に近づきベルの手の上にグミブロックがあるのを見て喜ぶ。
「グミ…ブロック?」
聞き慣れない単語に、ベルは首を傾げながら手の中の不思議な物体を見つめる。
「ああ! 前に話したグミシップの材料なんだ。複雑な道具がなくても簡単に組み立てられるし、星の大海を渡り歩けるんだ!」
「これがグミシップに……!」
ソラの明るい声に、ベルの表情がぱぁっと輝く。
この世界に迷い込んでしまったソラが、元の世界に帰るための希望。それがこの小さな塊なのだと理解したからだ。
「よかった……! 本当によかったね、ソラ!」
「へへっ、ありがとなベル。お前が運んでくれたおかげかもな」
ソラはニカっと笑うと、ベルの手からグミブロックを受け取り、大切そうに懐へと仕舞い込んだ。
最大の懸念事項であった帰還手段の手がかりが見つかったことで、二人の間に漂っていた緊張感がふわりと解ける。
「っと、そうだ。他のやつらが落としたものも確認しないと」
「あ、うん!」
ベルが周囲を見渡すと、ハートレスたちが消滅した場所には、いつもの魔石ではなく、色鮮やかな光の球やボトル、そして武具が転がっていた。
ベルは足元に落ちていた緑色の美しい瓶を拾い上げる。
それは例えるなら小さな太陽であろうか。 丸みを帯びたガラスの小瓶は、目が眩むような
栓の部分は王冠か、あるいは開花を待つ
「なに、これ?……」
「あ、それ? エリクサー」
「ええぇっ!? こ、これ
ソラの言葉に、ベルは素っ頓狂な声を上げてまじまじと瓶を見つめ直す。
ハートレスがダンジョンのモンスターのように素材や武器が出るのは理解できても、エリクサーまで落ちるとは思えなかったのだ。
ベルの目が驚愕で見開かれる。
「こ、こんな貴重なものがドロップするなんて……!」
「ん? 貴重は貴重だけど、使わなきゃ意味ないしな。ほらベル、これお前にやるよ」
「へっ!?い、いいの!?こんな高価なもの!」
「エリクサーはそれなりに持ってるし今後のことを考えたら、ベルが持ってた方が安心だろ?」
あっけらかんと言うソラに、ベルは恐縮しきりで瓶を受け取る。その手は微かに震えていた。
「あ!ソラ、あそこ!さっきの大きいのがいた場所に何か……」
ベルが指差した先には、先ほど苦戦させられた巨大な盾持ちのハートレス、ディフェンダーが消えた場所。そこには、禍々しくも威厳のある巨大な盾が鎮座していた。
鋼鉄で作られた犬の顔のような意匠が施され、冷たい金属光沢を放つ紫と、縁を彩る黄金のラインで構成されている。星の頂点には、銀色のスパイクが攻撃的に突き出していた。
しかし、最も目を引くのはその中心部だ。封じ込められるようにして、深い紫紺色の獣の顔が浮かび上がっている。暗い地色の中から、
「これもドロップアイテム……?」
ベルはおずおずと、自分の背丈の半分以上はありそうなその盾に触れる。
ずっしりとした重量感。鋼鉄の冷たさとは裏腹に、犬の意匠の鼻先からは、さっきまで火炎弾を吐き出していた名残のような熱気が伝わってきて、ベルは興奮気味に盾を撫で回した。
武器として使うにはベルのスタイルには合わないが、 まるで生物の体の一部をそのまま切り取ってきたかのような、英雄譚でも聞いたことも見たこともない造形に、ベルはただただ圧倒される。
「グミブロックも見つかったし、アイテムもたくさん手に入ったし……今回は大豊作だな!」
「うん! こんなにすごい成果が出るなんて夢みたいだよ!」
帰る手段が見つかった安堵と、冒険者としての予期せぬ戦果。
ベルは満面の笑みを浮かべ、ソラと顔を見合わせてハイタッチを交わし、ヘスティアが待つ