キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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第4話 ベルの新しい武器

 深夜の廃教会の地下でソラとヘスティアが見つめ合う。

 互いに無言が数秒続いたかと思えばその無言をソラが断つ。

 

「ベルはあの人に並び立てるぐらい強くなりたいって言ってたけどあの人って誰かヘスティア知らない?」

「知るわけないだろ!そんなこと!!」

「ちょ、声が大きいってヘスティアっ、ベルが起きちゃうって」

「ご、ごめん。ソラ君」

 

 ソラの言葉に思わず咄嗟に叫ぶヘスティアだったがソラからベルのことで注意され謝罪する。

 実際のところヘスティアはベルが言ったあの人が誰か心当たりはある。

 ベルの持つスキル【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】 は効果は早熟するというレアスキルだ。しかも懸想が続く限り効果は持続し懸想の丈によってその効果が向上するというとんでもないスキルだ。

 ヘスティアは最初ベルがソラと出会ったことでこのスキルが生まれたのだと思っていた。外の世界から来たソラの英雄譚は凄まじいの一言で済むものではない。

 そんな彼の影響なのだとヘスティアは当初、考えていた。

 しかしそれは違った。きっかけはベルとソラに誘われて豊穣の女主人に食事をしに行った時だ。来た当初は愛する眷属(ベル)に色目を使うウェイターがいたり、初めて酒を飲んで酔っ払ったソラが外の世界から持ってきたアイテムを使用したりとしょっぱらから凄まじいできことが起こったが問題が起きたのはこの後だ。

 ロキファミリアが酒場に入ってきた時にベルの目が急変したのだ。

 当時のヘスティアは料理の美味しさに舌鼓を打っておりお酒を飲んでいたためにベルがアイズを見ていたのは他の冒険者同様に彼女の美貌に目を奪われたからだと思ってたしかしソラの言葉を聞いてベルが追いつきたい人物がアイズであるとヘスティアは確信したのである。

 ヘスティアの乙女心から思わず叫んでしまったがそれは致し方ない部分もある。短い付き合いではあるがヘスティアがソラは純真で優しい子だと理解できる。

 もし彼がベルが思っている相手を知れば応援するだろう全力で手伝ってくれるだろう。そしてそのままかつて彼がカイリという少女とパオプの実みたいなことをヘスティアが見ようものならヘスティアの脳は破壊し尽くされるだろう。

 そんな理由もありヘスティアとしてはスキルのことも含めてソラには話さないことにしている。

 

「ともかく、ベル君が追いつきたい人が誰なのかわからないけどきっとすごい人なんだよ。ボク達はそんなベル君を助けるためにこうやってベル君が寝静まった時間に君を呼んだんだ」

「それで、ヘスティア、俺はベルのために何をすればいいんだ?なんでも言ってくれ」

 そう言ってソラは自身の胸をドンと叩き、快活な笑みを浮かべる。

 

「いや、そこまで大それたことじゃないんだ。……いや、ある意味ボクにとっては一世一代の大勝負なんだけどね」

 

  ヘスティアは一度言葉を切り、真剣な眼差しでソラを見据える。

 

「単刀直入に言うよ。ボクはベル君に『武器』を渡したいんだ。彼だけの、特別な武器を」 

「俺のキーブレードみたいな?」

 「……まあ、君のキーブレードほど規格外なものじゃないけどね。さっきベル君にも言ったけど、今のベル君は理由ははっきりしないけど成長速度が恐ろしく早いんだ。ボク個神の見解だとベル君に才能があるからだと思ってる。だけど市販の武器じゃ今のベル君についていけない。すぐにガタが来る。だから、ボクの友神に頼んで打ってもらおうと思ってるんだ」

 

 ヘスティアの脳裏に浮かぶのは、偏屈だが腕は確かな鍛冶の女神、ヘファイストスの顔だ。 

 彼女に頼めば、ベルのための至高の一振りが手に入るだろう。だが、それには相応の代償が必要になる。

 

「へえ、すごいじゃん! ベル、絶対喜ぶよ!」

「だろ!? ……で、だ。ソラ君にお願いしたいのは二つ」

 ヘスティアは人差し指と中指を立てる。

「一つは、このことをベル君には内緒にしておいてほしい。サプライズにしたいし、何より……ボクがどれだけ苦労して手に入れたか知ったら、あの子の性格上、重荷に感じちゃうかもしれないからね」

「わかった。その時が来るまで黙っておくよ」

 

 ヘスティアの言葉にソラは人差し指で黙っておくというジェスチャーを了承する。

 

「そしてもう一つ。ボクがその準備で走り回ってる間……ベル君を鍛えて欲しいんだ。ソラ君が今まで培ってきた技や駆け引きをベル君に教えてくれないかい?」

「わかった。俺、あんまり人に教えたことがないから難しいかもしれないけどできるかぎり頑張ってみるよ。あ、それとベルの武器を作るならこれ、使えるんじゃないか?」

 

 そう言ってソラはポケットのなから袋を出す。袋は大きく明らかにソラのポケットに収まるようなものではなかったがヘスティアはソラの一挙一動に驚いていたら身が持たないと考えあえてツッコまないことにした。

 ソラが取り出したそれは、夜の闇を凝縮したような紫紺の宝石だった。精緻にカットされた多面体の表面は、光を吸い込むような重厚な輝きを放っている。しかし、ただ暗いだけではない。その核心部分、紫色の奥底には、六片の花、あるいは星のような白い輝きが静かに脈打っていた。

 ヘスティアのその美しさに魅入られながらごくりと喉を鳴らす。

 

「ソラ君…これは一体?」

「これはアダマントという素材なんだ」

「アダマント、ボク達の世界にもアダマンタイトという名前が似ている素材があるけど、これは…」

「アダマントがヘスティアの言うアダマンタイトと同じかわからない。だけど俺はこれでキーブレードを強化したり、グーフィーの武器を作ったりしたんだ。これ以外にも素材はあるから、ベルの武器を作るために使ってくれ」

 

 そう言ってソラは袋をひっくり返し、中に入っている素材をすべてヘスティアに見せる。

 ヘスティアは目の前の光景に頭が痛くなる思いだったが思いとどまりソラに話す。

 

「ちょ、ちょっと待ってソラ君! これ、全部!?」

 

 ヘスティアは悲鳴に近い声を上げた。 

 袋から転がり出たのは、先ほど見せられたアダマントだけではない。凍てつくような白銀の星型結晶や、太陽のように輝く黄金の物体など、どれもこれもが宝石としてみれば高値がつきそうな、神々しいエネルギーを放つ未知の素材ばかりだったからだ。 それらが無造作に、廃教会の埃っぽい机に山積みになっている。

 

「うん、オレが持ってても宝の持ち腐れだし。ベルが強くなるために役立つなら、そのほうがいいだろ?」

「そ、それはそうかもしれないけど、限度ってものが……!」

 

 ソラは屈託のない笑顔で事もなげに言うが、ヘスティアは眩暈を覚えた。

 異世界から来たこの少年は、あまりにも規格外すぎる。存在や持っている力も、そしてその善意も。

 

 ヘスティアは膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 

「……はぁ。キミは、どうしてそこまでしてくれるんだい?」

「え?」

「ベル君を助けてくれて、さらにこんな素材までポンと出して……。ボクは、自分が情けなくなってくるよ」

 

 ヘスティアは膝を抱え、小さく溜息をついた。

 彼女はベルの主神だ。本来なら、ベルを導き、必要なものを与えるのは彼女の役割はずだ。

 それなのに、ソラが現れてからというもの、彼に助けられてばかりいる。ベルの成長も、精神的な支えも、そして今回のような物質的な支援までも。

 

「ボクはベル君や君の主神なのに、何一つまともにできてない。いつもソラ君におんぶにだっこで……主神としての面目がないよ」

「ヘスティア……」

 

 弱音を吐く女神の姿に、ソラは少し驚いたような顔をした後、そっと彼女の隣にしゃがみ込んだ。

 そして、いつものようにニッと笑う。

 

「何言ってんだよ。俺達、友達だろ?」

「……友達?」

「そう! 友達が困ってたら助ける。当たり前のことじゃん。それに、オレだってこの世界に来て何もわからなかった時、ヘスティアとベルに助けてもらったんだ。おあいこだろ?」

 

 ソラの言葉には、何の裏表も、計算もない。ただ純粋な親愛の情だけがあった。  その眩しすぎるほどの真っ直ぐさに、ヘスティアは胸がいっぱいになる。本当に、この少年には敵わない。

 

「……っ、そうだね。キミはそういう子だったね」

 

 ヘスティアは涙を拭うようにゴシゴシと目元をこすると、パンと両頬を叩いて気合を入れ直し、立ち上がった。  そして、真剣な眼差しでソラを見下ろす。

 

「でも! それじゃあボクの気が済まないんだよ! 友達だからこそ、一方的に施されるばかりじゃいられない!」

「ええー、そんなの気にしなくていいのに」

「ダメ!それにボクは君の主神でもあるんだ。ベル君だけにあげて君になにもしないわけにはいかないんだ!ねえソラ君、なにか欲しいものはないかい? ボクにできることなら、なんだって叶えてあげるよ!」

 

 ヘスティアは食い下がる。今できる精一杯の神威(デナム)を放ちながら、ソラに迫った。  その熱意に押されたのか、ソラは「うーん」と腕を組んで考え込み、やがてポンと手を打った。

 

「あ、そうだ。じゃあ――」

「なんだい!? 言ってみたまえ! 武器かい? それとも、とびっきりのご馳走?」

「――アクセサリー、とかかな」

「……はい?」

 

 予想外の答えに、ヘスティアは拍子抜けした声を上げた。

 

「アクセサリーって……指輪とか、首飾りとかの?」

「いや。どっちかというとキーブレードに付けるキーチェーンかな」

 

 ソラはそう言ってキーブレードを目の前に出現させる。しかしそれはヘスティアは最初にみた鍵のような形ではなかった、握り手となる柄の周囲は、天に浮かぶ雲をそのまま固めたような、丸みを帯びた白と薄紫の装飾で守られている。しかし、そこから伸びる刀身は打って変わって攻撃的だ。ジグザグに迸る黄金の稲妻そのものが剣身を形成していた。

 そして何よりヘスティアの目を引いたのは、その剣先――鍵の『歯』にあたる部分のデザインだった。 稲妻の終端に、漆黒のシルエットが浮かび上がっている。それは、両腕の力こぶを誇示するようにポーズを取る、筋骨隆々とした男の姿だった。

 

「その剣先のシルエット……。前にソラ君が見せてくれた、別の世界の『ゼウス』にそっくりだね」

 

 ヘスティアは呆れたような、それでいてどこか懐かしさを感じるような目でその影を見つめた。 かつてソラが語った異界の英雄譚。その中に登場した、雲の上に住む雷神ゼウスの力の象徴が、このキーブレードには宿っているように感じ取れた。

 

「ヘスティアは俺のスキルに記されているから分かるはずだけど俺のキーブレードは持ち手にあるキーチェーンを変えることで姿を変えるんだ」

 

「キーチェーン……?」

 

 ヘスティアが視線を柄の末端に向けると、そこには銀色の鎖と、その先に揺れる雷の形をした飾りがぶら下がっていた。

 ソラがキーブレードを軽く振ると、チャリ、と涼やかな金属音が鳴る。

 

「そう。このキーチェーンを変えることで、キーブレードは全く別の形と能力に変化するんだ。俺が今持ってるのは、別の世界で手に入れたものなんだけど……」

 ソラはそこで言葉を切り、少し照れくさそうに頬を掻いた。

「せっかくヘスティア達の一員になったんだからさ。俺、ヘスティア達との『繋がり』を感じられるものが欲しいんだ。それがあれば、俺はこの世界でもっと強くなれる気がする」

 

「ソラ君……」

 

 ヘスティアは大きく目を見開いた。

 彼が求めたのは、強力な武器でも、便利な道具でもない。ただ、自分たちとの「繋がり」を示す証だった。

 それは、ヘスティアにとって、何よりも嬉しく、そして誇らしい申し出だった。

 

(……ああ、本当にこの子は)

 

 どこまでボクを驚かせれば気が済むんだい、とヘスティアは目頭が熱くなるのを感じた。

 規格外の力を持っていても、彼の根底にあるのはいつだって「心」だ。友を想い、絆を力に変える。それがソラという少年なのだ。

 

「……わかった。任せておきたまえソラ君!」

 

 ヘスティアは胸を張り、力強く請け負った。先程までの情けない顔はもうない。今は、眷属の願いを叶えようとする主神の顔だ。

 

「ソラ君のキーブレードに見合う、最高のキーチェーンを用意してあげるよ! ボク達のファミリアの証となるような、とびっきりのやつをね!」

「本当!? やった! ありがとう、ヘスティア!」

「礼を言うのはまだ早いよ。……ベル君の武器と一緒に、ソラ君の分もヘファイストスに頼んでくるよ」

 

 ヘスティアは机の上に積まれた、ソラが出した素材の山を見る。

 これだけの未知の素材があれば、へファイトスも目の色を変えて飛びつくだろう。ベルのナイフの代金交渉になるだけでなく、ソラのキーチェーンを作るための材料としても申し分ないはずだ。

 

「……あ、そういえばヘスティア」

 

 ソラはふと思い出したように、再びキーブレードの剣先――雷神のシルエットに視線を落とした。

 

 

「ヘスティアの世界の『ゼウス』ってどんな神様だったの?やっぱり強くてすごい神様なのか?」

 

 その問いに、ヘスティアはげんなりとした表情で、かつての天界での記憶を呼び起こす。

 豪快で、英雄好きで、そして無類の女好きだったスケベ爺。

 

「……まあ、強かったのは間違いないけどね。性格は……うん、ノーコメントにしておこうか」

 

「え、なんで?」

「……色々あるんだよ、色々ね。とにかく!明日のためにもう寝よう!」

 

 ヘスティアは言い訳がましく呟くと、ボロいソファへとへたり込んだ。張り詰めていた糸が切れたように、瞼が重くなる。

 

「そっか。まあ、俺もちょっと眠いかも」

 

「だろ? 明日は酒場に謝罪に行くんだろう。営業中に行くのは迷惑になるから朝早くに行かないとね」

 

 ソラも苦笑しながらキーブレードを消し、近くの椅子に腰掛けた。

 静かになった廃教会に、二人の穏やかな寝息だけが響くようになるまで、そう時間はかからなかった。

 大切な眷属(かぞく)であるベルのための刃と、あるソラのための証。

 二つの素敵な贈り物の夢を見ながら、女神と少年は眠りにつくのだった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

 時刻は太陽が昇った正午前頃、ベルとソラは昨夜のことでシルに謝罪するために『豊饒の女主人』へと訪れていた。

 昨夜のこともあり気まずい表情をするベルだったがそんなベルの心境など知る由もないソラは『CLOSED』と札がかかっている扉を開けベルと一緒に『豊饒の女主人』へと足を運ぶ。

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中です。時間を改めてお越しになって頂けないでしょうか?」

「まだミャー達のお店はやってニャいのニャ!」

 

 テーブルにクロスにかけていたエルフの少女とキャットピープルの少女がソラ達にすぐに気づき対応する。

 

「あ、いや、俺たちは客じゃないんだ」

「あの、すみません、シル、シル・フローヴァさんはいらっしゃらないでしょうか。あと女将さんも」

 

 ベルの言葉に目を丸くした二人は、何かに気づいたようにこちらを見る目線を改めた。

 

「ああ!あん時のでてったやつにゃ!シルに貢ぐだけ貢がせといて隣のツンツン頭に支払い任せてバックれた!白髪野郎にゃ!!」

「うぐっ!?」

 

 猫人(キャットピープル)の言葉がベルの胸に突き刺さる。

 

「貴方は黙っててください」

「ぶにゃっ!?」

「失礼しました。今シルとミア母さんを連れてきます」

「は、はい!」

 

 エルフの少女はそう言うとキャットピープルの襟を掴みずるずると引きずっていくのだった。

 手持ち無沙汰になったソラとベルが店内を見渡していると奥から大きな声が届く。

 

「ベルさん!?」

 

 店の奥からシルが現れる。ベルは腹に力を込めて彼女に歩み寄って腰を90度曲げる。

 

「一昨日は!すみませんでした!!」

「……ふふっいえ、大丈夫ですよ。こうして戻ってきて貰えただけでも私は嬉しいです」

 

 事情を尋ねようとしない姿勢にベルは涙が溢れそうだったさも目にゴミが入ったように目元を指で擦って顔を上げる。

 

「そう言えば、お料理どうでしたか?私ベルさんから美味しかったか聞いてません」

「とっても美味しかったです!」

「ふふっ良かったミア母さんの料理は最高でしょう?」

 

 それから少し話すと彼女は何かに気がついたように、ぱんっと手を打って鳴らしたシルはキッチンの方へ消える。

 戻ってきたシルは大きめなバスケットを抱えていた。

 

「ダンジョンに行かれるんですよね?でしたら貰っていただけませんか?」

「えっでも……」

「今日は私たちの料理人(シェフ)が作ったものでして、味は折り紙付きです。その、私が手をつけたものもあるんですが……できたらこれはベルさんに…」

「すみません。じゃあいただきます」

 

 照れくさそうに渡すシルの気持ちに気づいたベルは快くバスケットを受け取る。

 

「はい、ありがとうございます。……シルさん」

「いってらっしゃい、ベルさん。気をつけて」

 

 頬を赤らめてバスケットを受け取るベルと、それを見守る聖母のようなシル。二人の間には、誰も割って入れないような甘酸っぱい空気が流れている。

 そんな二人を微笑ましく見守っていたソラだったが、突如として背後から巨大な影が差したことで視界が暗転した。

 

「おい」

「うおっ!?」

 

 ソラが驚いて振り返ると、そこには岩山のような巨体が聳え立っていた。『豊饒の女主人』の女将、ミア・グランドだ。腕を組み、見下ろすその姿は威圧感の塊である。

 

「アンタの連れは、ウチの娘といい雰囲気になってるみたいだが……アンタはどうなんだい? 突っ立ってるだけで何か言わないのかい」

「あ、いや、ごめん! 昨日は騒がせちゃって。支払いはしたけど、迷惑かけたと思ってさ」

 

 ソラが素直に頭を下げると、ミアはふん、と鼻を鳴らした。だが、その瞳に険しい色はなく、むしろ興味深そうな色が宿っている。

 

「殊勝な心がけだね。まあ、昨日の今日で顔を出せる度胸は買ってやるよ。……それにしても坊主、さっきから鼻をひくつかせてるが、腹でも減ってんのかい?」

「あ、バレた? いや、すっげーいい匂いがするなと思ってさ。スープの匂いと……あと、スパイスと肉が焼ける匂い?」

 

 ソラの言葉に、ミアの片眉がピクリと跳ねた。

 

「ほう? ただの腹ペコ小僧かと思ったが、鼻は利くようだね。今、厨房じゃ仕込みで肉を焼いてるところさ」

「やっぱり! いいなあ、この匂い。厨房の活気がある感じ、なんか懐かしいや」

「懐かしい? アンタみたいな冒険者が、厨房に縁があるようには見えないがね」

 

 ミアが疑わしげな視線を向けると、ソラは胸を張った。

 

「俺、トワイライトタウンっていう街で、レストランの手伝いをしてたことがあるんだ」

「へえ、給仕かい?」

「ううん、料理の方。食材集めから、下ごしらえ、盛り付けまで一通りやったんだ!」

 

 ソラは以前訪れた世界での経験を思い出しながら楽しそうに語る。

 頭の中に浮かぶのは、自分の髪の毛の中に隠れて指示を出してくれた『リトルシェフ』の姿だ。まさかネズミに料理を教わったとは口が裂けても言えないが、その指導は厳しくも的確で、ソラの料理の腕はプロ顔負けになっていた。

 

「ほう……」

 

 ミアは改めてソラの手元を見た。剣ダコはあるが、指先の使い方は器用そうだとミアは感じる。

 

「ウチは冒険者の腹を満たすための豪快な料理がメインだ。繊細な飾り付けよりも、ボリュームとスタミナ、そして酒に合う濃い味が求められる」

「うん、この店の雰囲気にはそれが一番だと思う!俺がいた店はコース料理がメインでさ。前菜のラタトゥイユとか、デザートのムースとか、見た目も楽しませる料理が多かったかな」

「ラタトゥイユ?なんだいそれは?」

 

 ミアは口元に不敵な笑みを浮かべた。それは料理人として、未知の文化への関心を示しているようだった。

 

「今度、時間が空いたら厨房に入ってみるかい? アンタの腕がここ(オラリオ)で通用するか試させてやってもいいよ」

「えっ、本当!? やってみたい! 俺の料理、結構いけるって評判なんだ!」

「威勢だけは一人前だね。ま、口だけじゃないことを期待しとくよ」

 

 バン、とミアがソラの背中を叩く。その衝撃にソラは前のめりになったが、それがミアなりの親愛の情であることを感じ取り、ニシシと笑い返した。

 

「ソラ、何の話してたの?」

 

 シルとの会話を終えたベルが、バスケットを大事そうに抱えて戻ってくる。

 ソラはミアに向かって軽く手を振りながら、ベルの方へ向き直った。

 

「ん? ちょっと料理の約束をな」

「えっ? 料理? ソラ、料理人になるの?」

 

 ソラの突然の言葉にベルはただ唖然とするしかないのだった。

 

「ふぅ、坊主…」

 

 するとソラとの会話が終わったミアがベルの話しかける。

 

「は、はい」

「冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初のうちは生きる事だけに必死になれば良い。背伸びしたってろくなことにならないからね」

 

 ミアの言葉にベルは目を見開いたくとミアはニッと笑みを浮かべる。

 

「最後まで二本の足で立ってた奴が一番なのさ。惨めだろうがなんだろうがね。そうすりゃあ帰ってきたソイツにアタシが酒を振る舞ってやる!そら、勝ち組だろう?」

 

 ミアの言葉にベルの口が上がる。

 

「坊主、アタシにここまで言わせたんだ。くたばったらただじゃあおかないよ」

「はい!ありがとうございます!いってきます!」

 

 ミアの言葉にベルはそう返すと走っていくのだった。

 

「あ、待ってよベル!」

 

 その背をソラは追うのだった。

 

 

・・・・・・

 

 

 ダンジョン6階層でソラ達はウォーシャドウと対峙していたソラはベルに戦い方を教えるべくソラに後ろに控えさせてウォーシャドウと相対する。

 ネオシャドウに類似した姿をしたモンスター。ウォーシャドウの鉤爪がソラを襲う。しかしウォーシャドウの一撃は、キーブレードによってガードされる。

 

「それ…」

 

 ウォーシャドウの一撃を防いだ。ソラはすぐさまリベンジカウンターでウォーシャドウを切り上げる。

 切り上げられ宙に浮いたウォーシャドウを回転切り下ろし攻撃を喰らわせる。

 黒い胸部を真一文字に引き裂かれたウォーシャドウはそのまま魔石を斬り、体を液状に崩れさせ、灰となる。

 

「次、いくよ」

 

 その言葉を皮切りに接近するもう一体のウォーシャドウにソラはスライドダッシュで突き刺す。

 突き刺されたウォーシャドウは肉体を貫通され、体が液状に崩れる。

 そうして2体のウォーシャドウが倒されたことでベルの所に行こうとしていたソラだったが遠方にウォーシャドウの群れが見えたことでキーブレードを構える。

 2体目のウォーシャドウを倒した際にダンジョンの壁付近にいることに気づいたソラは壁を使いウォールキックを行いスーパースライドでウォーシャドウの群れへと接近しフリーフローアタックで吹き飛ばす。

 吹き飛ばされたウォーシャドウ達にソラはキーブレードを振るい、殲滅していく。

 時にはベルの参考になればとキーブレードを逆手に持ち替えて攻撃をしていく。

 そうして 壁から現れた数十体のウォーシャドウを、難なく屠っていく。

 

「おぁー」

 

 ベルはそんな光景を生み出したソラに感嘆の声を上げる。

 魔法に頼らない、純粋な身体能力と、壁や地形を瞬時に判断して利用する発想力。

 あの目まぐるしい動きは――僕の敏捷性があれば、不可能じゃないはずだ。

 

「よし……僕も!」

 

 ベルはナイフを逆手に握り直すと、新たに湧き出したウォーシャドウの群れへと疾走した。

 普段なら正面から切り結ぶ場面。だが、ベルは迷わずダンジョンの壁へと向かって跳躍する。

 

「そりゃあっ!」

 

 垂直な壁を二歩、三歩と駆け上がる。

 重力を無視するような浮遊感と共に視界が一気に高くなる。

 地上で爪を振り回すウォーシャドウたちが、ベルを見失って動きを止めたのが見えた。

 

(いけ!)

 

 ベルは壁を強く蹴りつけ、弾丸のように斜め下へと滑空する。

 ソラが見せた『スライドダッシュ』のイメージを、自らの斬撃へと変換する。

 落下の勢いと加速を乗せたヘスティア・ナイフの一閃が、ウォーシャドウの影の身体を深々と切り裂いた。

 魔石ごと両断し、着地するベル。だが、敵は一体ではない。

 着地の硬直を狙って背後から迫る別の個体の気配。

 ベルは着地の衝撃を殺さず、そのまま前転して敵の股下をくぐり抜けると、起き上がりざまに低い姿勢からナイフを真上に斬り上げた。

 鮮やかな連撃。立体的な機動だけで敵を翻弄し、葬り去ることに成功する。

 

「いいじゃんベル! 今の壁キックからの回転、バッチリだったよ!」

「うん。僕も上手くいってよかったよ」

 

 ソラの賞賛に、ベルは息を弾ませながら笑顔で応える。

 手応えはあった。壁を使った三次元的な動きは、ベルの戦闘(バトルスタイル)と相性がいい。

 ただ、ナイフ一本では、ソラのキーブレードのように敵をまとめて吹き飛ばすような攻撃が出せないことにも気づき始めていた。

 

「よし、ベル。次はこれを使ってみよう」

 

 何かを思いついたソラは、手元に光を収束させ、一つの装備を具現化させてベルへと放った。

 

「うわっと!」

 

 慌てて受け止めたベルの手が、ずしりとした重みに沈む。

 

「た、盾……?」

 

 ベルは困惑の表情を浮かべる。ベルの戦闘(バトル)スタイルを考えるに『軽装』と『速度』が最重要だ。これほど重厚な盾を持つ姿は想像できない。

 

「ねぇ、ソラ。これ凄く良い物だとは思うんだけど……僕の戦闘(バトル)スタイルとは合わないんじゃないか?」

 

 ベルは申し訳無さそうに盾を見下ろした。

 

「これを持ってナイフを振るっても、動きが鈍くなるだけで――」

「あ、いや、違う違う!」

 

 ソラはベルの言葉を笑い飛ばすと、ひょい、とベルの手からディフェンダーを受け取った。

 

「盾とナイフで戦うんじゃないんだ。盾で戦うんだよ」

「えっ? 盾で……?」

「見てて!」

 

 ソラはニカっと笑うと、コボルト、ゴブリン、フロッグ・シューターへと向き直る。

 次の瞬間、ベルは我が目を疑った。

 ソラはディフェンダーを構えるのではなく、地面に放り投げ――その上に飛び乗ったのだ。

 

「いくよーっ!」

 

 ダンジョンの硬い床と盾が擦れ合い、激しい火花が散る。

 ソラは盾に乗ったまま滑走し、信じられない速度でモンスターの懐へと突っ込んだ。

 

「とおっ!」

 

 衝突の瞬間、盾を蹴り上げながら回転。遠心力を乗せた盾の縁が、ウォーシャドウの胴体を鋭利な刃物のように叩き斬る。

 さらにソラは空中に弾かれた盾をキャッチすると、そのまま裏拳を放つように盾の表面で別の個体を殴り飛ばした。

 鈍い音と共に、モンスターが壁のシミへと変わる。

 

「守るだけが盾じゃない! 乗って滑れば移動手段になるし、重さを利用すればハンマーにもなる!」

 言いながらソラは再び盾に飛び乗り、今度は壁面をスケートのように滑走しながら、すれ違いざまに敵を次々と弾き飛ばしていく。

 それは防御などという概念を遥かに超えた、自由すぎる『暴力』だった。

 

「盾で……滑る……!?」

 

 ベルの常識が、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 だが、その瞳には新たな可能性への興奮が宿り始めていた。

 

「やってみるよ、ソラ」

 

 ベルはおっかなびっくり、足元に転がしたディフェンダーの上に片足を乗せた。

 重い金属が石床を擦る感触。

 普通ならバランスを崩して転倒するところだが、ベルの持ち前のバランス感覚がそれを許容する。

 

「おっ、いい感じ! コツは重心を低くして、腰で操作する感じかな」

「腰で……こう?!」

 

 瞬間、まるで氷の上を滑るように視界が流れる。

 

「うわわっ!? これ、思ったより速い!?」

「そのまま突っ走って、勢いを殺さずに次の階層まで行っちゃおうぜ!」

「無茶言うなぁ……でも、面白そうだ!」

 

 ベルの口元に好戦的な笑みが浮かぶ。 二人はそのまま、第六階層の通路を滑走し始めた。

 けたたましい金属音と火花を撒き散らしながら、ベルは風になる。

 最初はよろめいていたが、コツを掴むのは早かった。

 コーナーに差し掛かると、ソラの真似をして盾の縁を床に食い込ませ、強引に曲がる。遠心力が全身にかかる快感。

 

「前方、キラーアントの群れ!」

「止まるなベル! そのまま轢き逃げだ!」

「ひ、轢き逃げって……!」

 

 通路の奥から現れたのは、キラーアントたちだ。

 普段のベルなら足を止め、ナイフで関節の隙間を狙う相手だが、今のベルは止まらない。いや、止まれない。

 

「いっけぇぇぇぇッ!」

 

 ベルは加速のついた盾の前方を、体重移動でクイっと持ち上げた。

 ディフェンダーが、正面のキラーアントの顎の下へ潜り込む。

 盾の重量とベルの速度が乗った一撃は、キラーアントの硬い甲殻ごと中身を粉砕し、ボウリングのピンのように彼方へと吹き飛ばした。

 

「すごい……!」

「ナイスストライク! でもまだ終わりじゃないぞ、右!」

 

 ソラの指示に反応し、ベルは反射的に盾から飛び降りる。

 盾は滑走の勢いを残したまま直進し、右から迫っていた別の蟻の足を薙ぎ払って転倒させた。

 ベルはその隙を見逃さず、空中で盾をキャッチすると、着地の勢いを利用して盾を大上段から叩きつける。

 もはや斬撃ですらない。純粋な質量による圧殺だが、その威力はナイフでの精密な攻撃とはまるで違う、豪快な爽快感があった。

 

「ははっ、なにこれ! めちゃくちゃ!」

「だろ? 剣や魔法だけが武器じゃない。そこにある重さも勢いも、全部武器になるんだ!」

「うん、これなら……もっと行ける!」

「よし、俺も!」

 

 ベルは再び盾を放り投げ、飛び乗る。

 そこにソラも乗り二人は第七階層へと続く階段へ降りていき、ジェットコースターのようにダンジョンの深淵へと加速していった。

 守るための盾で攻め、滑る。

 常識外れの戦闘(バトル)スタイルは、ベルの中に眠っていた未知へのワクワクを目覚めさせていた。




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