キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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第45話 蘇りし亡霊

 薄暗いダンジョンの通路を、アイズとティオナは9階層へ向かって全速力で駆け抜けていた。

 その最中、突如としてダンジョン全体を根底から揺るがすような激しい震動が足元から突き上げてきた。地鳴りのような重低音が腹の底を震わせ、通路の天井からは無数の土塊や鋭い石の礫が驟雨のように降り注ぐ。まるで遥か上層で規格外の怪物同士が命を削り合って激突し、強固な迷宮の岩盤そのものが悲鳴を上げているかのような異常な揺れだ。

 大切な友達であるソラとベルの安否を確かめるため、二人は焦燥を胸に足をさらに速める。その道中、前方から紫電を纏った獣、エレキユニコーンが猛スピードで走ってくるのを発見した。その背には、痛々しい傷を負い、意識を朦朧とさせている小人族(パルゥム)の少女、リリルカ・アーデが乗せられていた。付き添うように乗っているミミがエリクサーを使用したようだが、あのミノタウロスの変異種から受けたダメージが大きすぎるのか、その傷は完全には癒えきっていない。

 

「……ベル様を……ソラ様を……」

「ここで待ってて。すぐにリヴェリアたちが来るから」

 

 すれ違いざまに掠れた枯れ声で懇願するリリルカに対し、アイズは足を止めることなく短く告げた。その言葉の真意を汲み取ったエレキユニコーンは、力強く首を縦に振って頷き、再び地上へと向けて駆け出していく。

 アイズたちがさらに9階層へと急ぐと、先ほどまでの喧騒が嘘のように通路からは人影が消え失せていた。下の階層から絶え間なく伝わってくる異常な揺れと、変異種のミノタウロスが出現したという未曾有の事態により、他の冒険者たちはすでに逃げ去った後なのだろう。

 だが、その不気味なほど静まり返った通路の真ん中に、ただ一人、悠然とした足取りでこちらへと歩を進めてくる者がいた。

 全身を分厚い黒コートで覆い隠した、得体の知れない人物である。

 その人物の右手には、赤黒い炎が纏わりつく、恐らくは大剣であろう代物が握られていた。

 アイズたちの姿を視界に捉えたのか、黒コートは唐突に歩みを止めた。炎を纏った大剣を肩の位置まで水平に構え、大気が熱で歪むほどの莫大な魔力を刀身に圧縮させる。そして、そのまま無造作に、しかし圧倒的な膂力を乗せて横薙ぎに大きく振りかざした。

 放たれた巨大な紅蓮の斬撃が、ダンジョンの硬い壁面を飴細工のようにドロドロに溶かし、岩盤を抉り飛ばしながら、アイズとティオナへと真っ直ぐに襲い掛かった。圧倒的な熱量と破壊の奔流に対し、アイズとティオナは瞬時に自らの得物を抜き放つ。

 

「エアリアル」

 

 アイズは短く詠唱を紡ぎ、愛剣であるデスペレートに超高密度の風の鎧を纏わせる。そして、必殺の突進技であるリル・ラファーガを以て、迫り来る巨大な炎の斬撃を正面から相殺し、打ち砕こうと踏み込んだ。

 だがその瞬間、アイズと同調していたナルバードが唐突に背中の光翼を大きく広げ、強烈な羽ばたきと共にアイズの身体を強引に上空へと引っ張り上げたのだ。

 

「えっ……!?」

 

 ナルバードの予期せぬ行動にアイズが驚きの声を漏らした直後、眼下で信じがたい光景が繰り広げられた。

 アイズの代わりに斬撃を真っ向から受け止め、相殺しようと、ティオナがウルガを渾身の力で振り抜いた。炎刃は、ウルガの分厚い刃と激突することはなく、まるで幻影のようにすり抜けたのだ。

 

「えっ!?なん………!?」

 

 驚愕に目を見開くティオナの肉体を、紅蓮の刃が完全に透過し、そのまま彼方へと駆け抜けていった。

 

「がぁあ……っ!」

 

 ティオナに外傷はない。だが、内部の臓腑と魂そのものを直接灼き斬られるような未知の激痛に、ティオナが苦悶の声を漏らして膝をつく。

 物理的な防御を完全に無視する、次元の違う攻撃。苦しむ仲間の姿に驚愕と戦慄を覚える間もなく、上空へ逃れたアイズを追撃すべく、黒コートがダンジョンの石畳を粉砕して猛烈な速度で跳躍してきた。

 空気を切り裂くような轟音と共に、大質量を伴った炎の大剣がアイズの脳天へと振り下ろされる。

 

「リル・ラファーガ……ッ!」

 

 アイズは空中でデスペレートを構え、圧縮した風の装甲でその一撃を斜めに受け流そうと試みた。だが、剣が交錯した瞬間、アイズの華奢な両腕に規格外の反動が襲い掛かる。

 重い。ただの力任せではない、洗練された極限の武技から放たれる圧倒的な一撃。風の防壁ごと叩き潰そうとする猛烈な熱量と膂力に、アイズは空中で大きく体勢を崩されそうになる。

 黒コートの男は空中にありながらも一切の自由を失わず、流れるような動作で次々と凶刃を繰り出してきた。炎を纏った大剣が、暴風のような連撃となってアイズに襲い掛かる。

 アイズは風の魔力で空を蹴り、変幻自在の軌道を描きながら必死にデスペレートを振るう。火花と熱風が空中で何度も弾け飛び、剣戟の甲高い金属音が通路に鳴り響いた。

 なんとか直撃を避けながら死角へと回り込み、アイズは渾身の力で鋭い刺突を放つ。だが、黒コートの男はまるで背中に目があるかのように大剣の腹でそれを弾き返し、そのまま遠心力を利用した強烈な回し蹴りをアイズの腹部へと見舞おうとした。

 間一髪で風の障壁を展開して直撃を防ぐも、凄まじい衝撃にアイズの身体が宙で大きく吹き飛ばされる。追撃の体勢に入る黒コートの男。その圧倒的な圧力に、アイズはオッタルの姿を重ね合わせずにはいられなかった。

 男が大剣を高く振りかざし、無防備なアイズへ決定的な一撃を放とうとしたまさにその時。

 

「あああああぁぁぁッ!!」

 

 灼かれるような激痛を強靭な精神力でねじ伏せ、ティオナが怒りの咆哮と共に跳躍してきた。

 ティオナはウルガを大上段に構え、アイズへ振り下ろされようとしていた炎の剣めがけて、自身の全質量を乗せた渾身の重撃を叩き込む。

 

「邪魔しないでよ!私たちはベルを!!」

 

 アイズとティオナの二人がかりによる猛攻。デスペレートの超高速の刺突と、ウルガの暴風のような重撃が交互に黒コートを襲う。にもかかわらず、黒コートは圧倒的な実力で二人の連撃をいとも容易くあしらい、逆に防御の上からでも腕の骨を軋ませるほどの重い一撃を打ち返して、アイズたちを徐々に死地へと追い詰めていく。

 

「邪魔だァッ!」

 

 剣戟の火花が散る三つ巴の激戦の中、裂帛の気合と共に横合いから飛び込んできたのはベートである。彼はフロスヴィルトで、黒コートの側頭部めがけて強烈な回し蹴りを見舞う。

 その打撃の瞬間、フロスヴィルトの特性が発動し、黒コートの剣が放つ赤黒い炎を瞬時に吸収。炎の火力をそのまま自身の攻撃力へと上乗せし、極大の爆発を伴う重撃を叩き込んだかに見えた。

 しかし、黒コートはベートの必殺の蹴りを、片腕だけで微動だにせず受け止める。

 

(こいつ、俺の蹴りを、片腕で防ぎやがっただと!?)

 

 戦慄を覚えたベートの思考を置き去りにし、黒コートは空いた左手の拳を、まるで大砲のような速度でベートの腹部へ正確にめり込ませたのだ。

 内臓を完全に破裂させられるような凄まじい衝撃と絶望的な重みが全身を貫き、ベートの身体がくの字に折れ曲がり、音を置き去りにして後方へと大きく吹き飛ばされる。

 ダンジョンの床を激しく滑り、壁に激突しながらも、強靭な体幹で強引に体勢を立て直したベートは自身の頭上に怒りの視線を向けた。

 

「ウサギッ!!」

 

 ベートの叫びに応え、マジックラビットが勢いよく飛び出す。

 

「氷ッ!」

 

 ベートが短い命令を怒鳴ると、マジックラビットは耳を振るい、ベートの足元へ向けてブリザガを至近距離から放った。

 極寒の冷気と鋭い氷柱が弾け飛ぶが、それをフロスヴィルトが残さず吸収し、ベートの両足に強烈な氷の属性が付与される。冷気が白く渦巻く中、マジックラビットはさらにスピリットロアを発動し、ベートの攻撃力と氷の威力を爆発的に増加させる。

 能力を極限まで底上げしたベートが、弾丸のように飛び出し再び黒コートと激しい近接戦闘を繰り広げる。氷を纏った超高速の蹴りの連打が炎の剣と交錯し、熱と冷気がぶつかり合う激しい水蒸気爆発が通路に吹き荒れた。

 その一瞬の隙を突き、アイズとティオナは9階層へと急ごうと駆け出した。

 だが、その僅かな動きすらも黒コートは見逃さなかった。ベートの猛攻を片手で捌きながら、空いた手をアイズたちの進行方向へ翳す。直後、二人の行く手を完全に遮るように、巨大な炎の壁がダンジョンの通路を完全に塞ぐように出現したのだ。

 

「よそ見してるんじゃねぇッ!」

 

 標的を逃がすまいとする敵の圧倒的な余裕に、ベートが激昂し、氷の蹴りの速度をさらに一段階引き上げて猛攻を仕掛ける。

 その直後、激戦の死角から白銀の光が音もなく飛来した。フィンの放った長槍の投擲である。

 黒コートが炎の剣でその一撃を難なく弾き落とした瞬間、後方から声が響き渡る。

 

「三人とも、飛べ!!」

 

 声の主であるフィンの指示に従い、アイズ、ティオナ、ベートの三人は迷うことなく地面を強く蹴り、戦闘の射線から大きく離脱した。

 三人が退いた直後、ダンジョンの大気が凍てつくような圧倒的な魔力の胎動と共に、リヴェリアの詠唱が空間を支配した。

 

「……我が名はアールヴ…ウィン・フィンブルヴェトル」

 

 リヴェリアの放つ氷雪魔法。それに加え、彼女の傍らで陣取るカエル王子(クラリフロス)のスピリットロアによって威力が増幅された絶対零度の吹雪が、逃げ場のない白い猛威となって黒コートへと殺到した。

 ダンジョンを白銀に染め上げるリヴェリアの吹雪は、黒コートを完全な氷の棺へと閉じ込めるだけでなく、アイズたちの行く手を阻んでいた巨大な炎の壁をも瞬時に凍結させ、完全に相殺してかき消した。

 氷の砕ける音と共に道が開けた一瞬の隙を狙い、アイズとティオナが再び駆け出す。

 

「……!!」

 

 しかし、絶対零度の拘束すらも黒コートを止めるには至らない。氷の棺を内側から力任せに粉砕して脱出した黒コートが、大剣の先端から二本の漆黒の鎖を蛇のように射出した。空間を縫うように這い寄る鎖が、逃げる二人を背後から捕縛しようと牙を剥く。

 アイズの背中へと迫る鎖は、横合いから放たれた鋭い鞭の軌跡によって激しく弾き飛ばされた。ティオナへと向かったもう一本の鎖も、後方から強烈な勢いで投擲された巨大な大剣が衝突したことで、その軌道を大きく逸らされた。

 さらに、ベートの頭上にいるマジックラビットが機転を利かせ、援護射撃のストップガンを放つ。時計の針を止める特殊な光弾が直撃し、黒コートの動きがほんの一瞬だけ完全に停止した。その僅かな猶予のおかげで、アイズとティオナは完全に敵の間合いから脱出することに成功する。

 

「貴様、何者だ」

「連絡が来たから来てみれば。なんじゃこやつは?」

 

 アイズの窮地を救う鞭を振るったのはシャクティであり、ティオナを助ける大剣を投擲したのは、加勢に駆けつけた椿であった。

 

「はぁああ!!」

「死にやがれぇえ!!」

 

 二人の強力な援護を受け、ティオネとベートが左右から同時に黒コートへと襲い掛かる。

 

「ぶっ潰れなさい!」

 

 ティオネの怒号と共に怒濤の挟撃が決まるかと思われた瞬間。黒コートの周囲に突如として八本の光の剣が円を描くように展開された。

 自動迎撃システムのように襲い来る光の刃が、攻め込んだティオネとベートを容赦なく切り刻み、激しい衝撃と共に二人を後方へと大きく吹き飛ばした。

 

(なんなのよこれ!?)

 

 地面に叩きつけられたティオネが、理解の及ばない高度な防衛に驚愕と憎悪の視線を向ける。

 戦線を立て直すべく、フィンの隣にシャクティが並び立つ。彼女は油断なく鞭を構えながら、フィンへと鋭い視線を向けた。

 

勇者(ブレイバー)、やつは何者だ?」

「おそらくだが、あの格好はXIII機関だ」

 

 シャクティの問いに答えたのは、フィンではなくリヴェリアだった。

 

「あれがXIII機関……」

 

 キーブレードを構えながらシャクティが警戒を込めて呟く。

 ロキ・ファミリアの最高戦力と、オラリオの強者たちがずらりと立ち並ぶ緊迫した対峙の中、これまで沈黙を保っていた黒コートから、低くくぐもった声が紡がれた。

 

「……聞いてたよりは強いようだな…」

 

 余裕と好戦的な色が入り交じった、相手を値踏みするような男の呟き。

 直後、黒コートがゆっくりと手を伸ばし、深く被っていたフードを背後へと払い除けた。

 露になったその顔を目にした瞬間、フィンをはじめとするロキ・ファミリアの首脳陣は、揃って雷に打たれたように完全に硬直した。

 頭脳明晰な指揮官であるフィンは、動揺のあまり自身の親指を噛む癖すら忘れ、その蒼い瞳を極限まで見開いて絶句している。傍らに立つリヴェリアもまた、手にした魔杖を震わせ、信じられないものを見るような目で男の顔を凝視していた。

 

「あり得ない……」

「馬鹿な……死んだはずじゃろ……!?」

 

 リヴェリアの震える声に、ガレスが呻くように呟く。

 彼らが、まるで幽鬼でも見たかのように驚愕に表情を歪めたのも無理はない。黒コートを纏っていた人物の正体は、かつての暗黒期において、オッタルによって確実に討ち取られ、死んだはずの暴食のザルドその人であったからだ。

 だが、フィンたちの驚きとは全く別の理由で、シャクティもまた驚愕に目を見開いていた。

 彼女の視線は、死から蘇ったザルドの顔ではなく、彼の手にある武器へと向けられていた。リヴェリアの放った絶対零度の氷雪魔法によって、大剣に纏いついていた炎の付与魔法が完全に掻き消え、その刀身がハッキリと露わになっていたのだ。

 

「何故?貴様がキーブレードを…?」

 

 張り詰めた空気を切り裂くようなシャクティの問いに対し、ザルドと同じ顔を持つ男は微かに口角を上げた。

 

「いや、これは正確に言えばキーブレードじゃない。こいつの技や魔法を使えたりできるが……キーブレード本来の力である『鍵の開け閉め』や、心への干渉はできない。……今は、な」

「今は、って……まるでいつかは使えるようになるみたいな言い方じゃない」

 

 ティオネが眉をひそめ、言葉尻を捕らえて横から鋭く突っ込みを入れる。

 黒コートの男は肩を竦め、持っていたキーブレード――『レプリカ・マスターキーパー』を軽く肩で叩いた。

 

「キーブレードを扱うのは、扱い手の『心』だ。例え使い手が世界を救う勇者だろうと、世界を脅かす絶対悪だろうと、その心が強いならキーブレードを扱う資格はある。もっとも、まだ心がない俺には大分先の話だがな……」

 

 自嘲気味に呟かれた『心がない』という不気味な言葉に、フィンは険しい表情で俯き、思案を巡らせる。

 だが、椿は、男の持つ未知の業物に興味津々で目を輝かせていた。

 

「では、お主からそれを奪い取れば、手前も使えるようになるのか?」

「いや、俺が手に入れたのはそういうんじゃ……」

 

 面倒そうに返答しようとした男の言葉を遮るように、後方から一斉に怒号と問いが飛んだ。

 

「あのミノタウロスはお前が原因か、ザルド!!」

 

 親指の痙攣を背後に隠しながら、フィンが強い語気で問いただす。

 

「貴様は本当に、あのザルドなのか!」

 

 リヴェリアが魔杖を構えたまま鋭く追及する。

 

「そこをどけ、ザルド!私はソラを……!」

 

 シャクティが焦燥を露わにして鞭から槍に変化させ握り直す。

 

「よし、それを頂くぞ!」

「落ち着かんか椿!!」

 

 大剣を構えて飛び出そうとした椿の首根っこを、ガレスが慌てて掴んで窘めた。

 矢継ぎ早に浴びせられた怒涛の問いかけと騒ぎに対し、男は心底呆れたような溜息を吐き出した。

 

「一気に言うな」

 

 男は億劫そうに頭を掻くと、顔を上げて視線を彷徨わせる。

 

「えっと……お前はフィンだったか?」

 

 そう言って男が指を差したのは、緑色の髪を束ねたハイエルフ――リヴェリアであった。

 

「ふざけているのかザルドッ」

 

 リヴェリアが冷酷な怒気を放ち、杖の切っ先を突きつける。

 

「えっ、じゃあお前か?」

 

 次に男が指を差したのは、屈強なドワーフであるガレスだった。

 

「いや、こっちじゃ」

 

 ガレスが呆れ顔で、自身の足元に立つ小人族の指揮官を親指で指し示す。

 

「ふむ、お前か」

 

 納得したように頷く男。そのあまりにも間の抜けたやり取りに、フィンたちは毒気を抜かれると同時に、眼前で飄々としている男が本当にあのザルドなのかと、疑念を深めざるを得なかった。

 

「……確か、記憶がないのだったか?」

 

 リヴェリアが、以前ルクソードから聞いていた話を思い出しながら確認するように問う。

 

「ないっていうか、そもそも本来の肉体とは違うっていうか……この辺は複雑だから一先ず置いとこう。まず、あのミノタウロスだが、俺たちは関与していない。あれは闇がダンジョンに干渉した末に生まれた、ハートレスとモンスターのハイブリッドのようなものだ」

 

(ハイブリッド……?)

 

 聞き慣れない言葉に、フィンたちは内心で疑問符を浮かべる。

 

「あと、それと……今の俺はザルドじゃなくて『ダルザクス』だ」

 

 男は自らの存在を定義するように、ゆっくりと新しい名前を告げた。

 

「ではダルザクス。君は何者だ」

 

 フィンが指揮官としての冷徹さを取り戻し、真っ直ぐに男の目を射抜く。

 

「俺はノーバディだ。かつてザルドであった俺の魂が闇に飲まれ、俺の心はハートレスに、俺の魂はノーバディとなった」

 

「魂だと?では、その肉体はどうした」

 

 死体からではなく新たに肉体を形成されたことに、ガレスが鋭く問う。

 

「『世界』が用意した」

 

((世界……?))

 

 ベートとティオネが全く意味が分からないというように顔をしかめる。ダルザクスは構わず淡々と語り続けた。

 

「元々この世界には、おとぎ話と呼ばれた時代から闇が潜んでいた。だが、そいつらがハートレスを生み出したり、直接干渉してくることはなかったんだ。……大体、七年ほど前まではな。その頃を境に、闇がこの世界で本格的に動き出した。ダンジョンの最奥を扉として多くのハートレスが侵入し、今日に至るまで、ダンジョンで命を落とした冒険者の魂は闇に飲まれ、ハートレスへと成り果ててきた。世界が闇に飲まれることを良しとしない『世界』の意思によって、俺たちは最盛期の肉体を与えられ、このダンジョンに生み出されたというわけだ」

「ダンジョンで、生まれた……!?」

 

 シャクティが戦慄と共に呟く。ダンジョンがモンスターではなく、かつての英傑の肉体を再構築して生み出したというのか。

 

「生まれたのはいいが、記憶はない俺たちはダンジョンの深層を彷徨いモンスターやハートレスと戦っている時に、ベルセクスやゼムナスに保護されて今に至る」

「……ならば、君たちの目的は何だ。なぜ僕たちの邪魔をする」

 

 フィンが槍の穂先を向けながら、核心を突く。

 ダルザクスは視線を下層へと向け、事も無げに答えた。

 

「ベルが、己の闇を喰らい乗り越えようとしている。それに、ダンジョンで獲物を横取りするのはルール違反だっただろ、冒険者(お前たち)の常識だと…」

「君は、ベル・クラネルとどういう……」

 

 フィンがさらに問い詰めようとしたその時だった。

 空間が歪み、銀色の甲冑を纏ったノーバディの一種、ダスクが這い出るようにして姿を現し、ダルザクスの耳元で何かを囁いた。

 

「……あまり稼げなかったようだな」

 

 ダルザクスは小さく舌打ちをすると、構えていたマスターキーパーの先端から、太く赤黒いの鎖を複数射出させた。蛇のようにうねる鎖は、男の足元にあるダンジョンの石畳へと深々と突き刺さる。

 何らかの魔法を発動させようとしていることを察知し、フィンたちが即座に攻撃へと移ろうと踏み込んだ。

 しかし、彼らの前に突如としてバーサーカーと胴体が凶悪な顎を持つデバウアーたちが壁となって立ちはだかる。

 

「ふんッ!!」

 

 ダルザクスの短い気合と共に、突き立てられた鎖が強引に引き剥がされる。

 次の瞬間、大規模な崩落音が響き渡り、フィンたちが立っていた広大な足場の岩盤が根こそぎ崩れ落ちたのだ。

 

「なっ……!?」

「くそッ!!」

 

 足場を失ったフィン達は、為す術もなく崩れ落ちる瓦礫と共に、真下にある九階層へと叩き落とされていった。

 もうもうと土煙が舞う中、空中で強引に姿勢を制御して着地をキメた彼らが顔を上げると、そこにはアイズとティオナが立ち尽くしていた。




ミミバニーのエリクサーはフリックラッシュだと全体に10%、自身に20%回復します
ザルド(Zald)→ダルザクス(Dalzx)となります。他にもザリファ(Xalifa)、ベルセクス(Berusex)、ディラクス(Dirax)となっています。全員ダンまち基アストレア・レコード関連のキャラです
なぜダルザクスがマスターキーパーを持っているのかは大体4~6話後ぐらい公開します。ヒントはキングダムハーツ2FM要素です
・オリジナルノーバディ紹介
デバウアー:ダルザクスの配下ノーバディ。耐久力が高く、腹の口で噛みついたり吸い込み攻撃をしてきます。
次回の更新は5月30日を予定しています。次回で第3巻分のは終わり、第3巻と外伝5巻の間に2~3話ほどの話を投稿する予定です。
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