キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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ヴィヤーサ・コンパイラって大きさは4M(メダル)ぐらいでなんですよ。なので前回のシャクティ達の目には虚ろな表情を浮かべた4M(メダル)のアーディが見えていたと考えるとギャグに見えるな。
最初はFateの魔神柱の表面みたいに感じで複数のアーディが集合して蠢いてる感じにしたんですけど、大分おぞましいし今後の大型ハートレスのこと考えたら発狂しかねないビジュアルなのでやめました。


第49話 闇を穿つ双像

 一方、ベルが屋敷へと飛び込み、シャクティとソラがヴィヤーサ・コンパイラと対峙していた頃。

 フィンは、彼らから少し離れた前庭の端で、三体の厄介なハートレスと相対していた。

 

 その三体は、ヴィヤーサ・コンパイラほどの規格外の巨体ではない。大きさはおよそ二(メドル)程度と、冒険者が普段ダンジョンで遭遇する大型モンスターと大差ないサイズだ。

 だが、フィンの目には、その三体の姿が単なるハートレスには見えていなかった。

 漆黒のローブを被り、両腕を鋭い暗器に変異させた細身のハートレス。分厚い岩の鎧を纏い、両腕が巨大な戦槌と化した重装甲のハートレス。そして、血の色をした薔薇と茨のドレスを纏い、宙を浮遊する妖艶なハートレス。

 それらの姿が、かつて暗黒期で散っていった者たち――ノアール、ダイン、バーラという三人の冒険者の面影と不気味に重なって見えていたのだ。

 

(これも闇の策略か。死者の心を弄び、相対する者の精神を揺さぶる……。ダルザクスが警告していた『心に澱みを植え付ける』という性質は、これのことか)

 

 フィンは油断なく槍を構えながら、内心で激しく毒づいた。

 だが、頭で理解していても、身体は正直だった。彼らとの戦闘が激化するにつれ、無意識のうちに心が激しく蝕まれていく。かつて共に戦い、あるいは鎬を削った仲間や知人の姿が脳裏にチラつき、槍を突き出す瞬間にどうしてもわずかな躊躇が生じてしまうのだ。

 

「ぐっ……!」

 

 その一瞬の迷いを、三体のハートレスは決して見逃さなかった。

 フィンの背後の影から、シャドウ・ストーカーが音もなく飛び出す。鋭い刃がフィンの頬を掠め、視界を一瞬だけ黒く塗りつぶす。

 後退した先では、宙に浮遊するクリムゾン・ソーンが放った無数の茨が、フィンの足首に絡みついて動きを封じようとする。

 そして正面からは、岩の装甲を纏ったグランド・スマッシャーが、巨大な戦槌と化した両腕を高く振り上げ、怒り狂ったように大地へと叩きつけた。

 

「しまっ……!」

 

 大地の激震による強烈な衝撃波をまともに受け、フィンは吹き飛ばされて石畳の上を激しく転がった。小人族のしなやかな身のこなしで即座に体勢を立て直したものの、その息は荒い。

 

(連携の練度が高い……それに、どうしても攻撃の瞬間に手が鈍る。……このままでは、下手したらやられかねない)

 

 歴戦の勇者であるフィンでさえも、この不快で絡みつくような精神干渉と、死者たちの洗練された連携戦術の前には苦戦を強いられていた。

 彼は荒い息を吐きながら、素早く周囲の戦況を俯瞰する。

 中庭では、イルタをはじめとするガネーシャ・ファミリアの精鋭たちが、すでに市民の避難誘導と都市への事態周知へと動いている。

 

(今、この場に僕の指揮は不要。……この場に要るのは、ただ暴れるだけ…)

 

 フィンは覚悟を決め、己の理性と知性を一時的に投げ捨てる決断を下した。

 彼は迫り来るシャドウ・ストーカーの刃を槍の柄で弾き返し、左の親指に自身の額をピタリと当てた。

 

「ゼログラビデ!」

 

 魔法を詠唱し、足元に迫っていたクリムゾン・ソーンの茨を無重力空間に閉じ込めて強引に浮かせながら詠唱を紡ぐ。

 

「魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て」

 

 グランド・スマッシャーの戦槌が振り下ろされる寸前、フィンは瞳に強烈な赤い光を宿し、絶唱を響かせた。

 

「ヘル・フィネガス!」

 

 その瞬間、フィンの身体から爆発的な力が噴き上がり、さらにはオバケゴーストとのリンクスタイルによって膨れ上がった黒いオーラが彼の全身を包み込む。

 さらに、魔法の発動と同時にオバケゴーストの能力『チビ霊派遣』が発動した。

 ボフンッ、という煙と共に、フィンの足元に身長わずか五十(セルチ)ほどの、小さなフィンの分身たちが五人も出現したのだ。

 

「キィィィッ!」

 

 チビフィンたちは甲高い叫び声を上げると、統制の取れた動きで一斉に散開し、町へ解き放たれた他のハートレスの元へと猛スピードで走り出していった。

 それに気づいたクリムゾン・ソーンとシャドウ・ストーカーが、チビフィンたちを追撃しようと浮上し、あるいは影へと潜ろうとする。

 

「逃がすかァッ!」

 

 だが、理性を捨て狂戦士と化したフィンがそれを許さなかった。

 彼はオバケゴーストの能力である『吸い込み』を全開にして発動させる。フィンの口元から発生した規格外の吸引力が竜巻を生み出し、逃げようとした三体のハートレスの巨体を強引に一つの場所へと引きずり戻した。

 

「ガ、アァァッ!?」

 

 態勢を崩し、一箇所にまとめられた三体のハートレス。

 その中心へと、黒いオーラを纏ったフィンが獣のような咆哮を上げて飛び込んだ。

 

「オオオォォォォッ!」

 

 最早そこに、相手の幻影に惑わされる理知的な勇者の姿はなかった。

 荒れ狂う暴風のように槍を突き出し、石突きで叩き割り、さらには黒いオーラで形成された鋭い爪による斬撃を、本能の赴くままに叩き込んでいく。

 グランド・スマッシャーの装甲を爪で力任せに引き裂き、シャドウ・ストーカーの刃を噛み砕くような勢いの槍でへし折り、クリムゾン・ソーンの茨をオーラの蹴りで粉砕する。

 連携の隙など一切与えない、ただひたすらに暴虐なまでの物理的破壊。三体の強力なハートレスを相手に、狂乱の勇者と化したフィンは獣の如き激戦を繰り広げていくのだった。

 

 

「……外が騒がしいな……」

 

 屋敷の奥深く。地下の薄暗い酒造室において、ソーマは周囲の喧騒など一切意に介することなく、ただひたすらに神酒(ソーマ)の精製作業へと没頭していた。

 だが、度重なる激しい地響きと、空気を震わせる爆発音が幾度となく彼の集中を乱してくる。軋む天井からは、パラパラと無機質な土埃が絶え間なく落ちてきていた。

 一体何事かと、彼が様子を見るために外へと歩み寄ろうとしたその瞬間だった。

 ガシャンッ!という派手な破砕音と共に、窓ガラスを豪快に突き破って二人の小さな影が室内に飛び込んでくる。砕け散ったガラスの破片が、月明かりを反射してキラキラと星屑のように舞い散った。

 

「誰だ……?」

 

 突如として現れた侵入者に対し、ソーマが怪訝な声を上げるより早く、見覚えのある小人族の少女――リリが一歩前へと進み出た。

 

「ソーマ様、すぐに逃げてください!外でモンスターが屋敷を襲っています!」

「モンスター……?」

 

 ソーマがその言葉の意味を理解するよりも早く、足元の床板がまるで内側から爆発したかのように激しく突き破られた。

 木端微塵に吹き飛んだ床の大穴から這い上がってきたのは、クリーパープラントであった。出現と同時、クリーパープラントは部屋にいるソーマへと明確な殺意を定め、先端の鋭い根を凶悪な鞭のように力任せに振り下ろす。

 

「……!」

 

 間一髪のタイミングで、リリが体を張ってソーマを突き飛ばす。

 直前まで神が立っていた場所が粉砕され、砕けた床材の破片が激しく宙を舞う。

 

「お前は……」

 

 床に倒れ込んだソーマが、かつての自派閥のサポーターの姿を認めて目を見開く。

 その直後、標的を逃したハートレスが追撃のために再び太い根を鎌首のように持ち上げた。だが、その悍ましい一撃が振り下ろされることはなかった。

 シュガァッ!と、鋭い風切り音が室内を切り裂く。

 ベルの振るう『ヘスティア・ナイフ』が描いた白と紫黒の残像によって、巨大な根は一切の抵抗を許されず無慈悲に一刀両断されていた。

 

「説明は後です!逃げますよ!」

 

 巨大な根を一刀両断したベルの横で、リリが緊迫した声を上げる。彼女はそのまま自身の胸に両手を当て、強く念じるように叫んだ。

 

「力を貸してください!」

 

 瞬間、リリの胸元から眩い光が溢れ出し、室内を温かく照らし出す。光が弾けた直後、そこにはエレキユニコーンが顕現していた。

 

「な、なんだこれは……?」

 

 突如として現れた未知の生物に、事態の急変を全く飲み込めないソーマが目を丸くして驚愕する。だが、リリはその反応を他所に、強引に主神の腕を引っ張った。

 

「ソーマ様、早く乗ってください!」

 

 リリはソーマをエレキユニコーンの背へと押し上げるようにして乗せると、ベルに向かって力強く頷く。

 

「ベル様、リリは一旦ソーマ様を安全な場所に連れて行きます!」

「お願い、リリ!」

 

 ベルの頼もしい声に背中を押され、リリとソーマを乗せたエレキユニコーンは、疾風となって砕けた窓から戦場の外へと駆け去っていった。

 主神と仲間の無事な離脱を見届けたベルは、ゆっくりと振り返り、眼前に迫る巨大な絶望を鋭く睨みつける。

 地下から屋敷の床を次々と粉砕し、自分たちを執拗に追ってきたザニスの巨大ハートレス――アムリタ・エクリプスが、そこに立ち塞がっていた。

 

「力を貸して、ミミ(ミミバニー)

 

 ベルは己の胸に手を当て、相棒の名を強く呼ぶ。

 眩い光と共に呼び出されたミミ(ミミバニー)とベルはその力を自身と同調させ『リンクスタイル』を発動。

 直後、ベルの頭部にミミ(ミミバニー)と同じウサギの耳が魔法の光によって具現化し、その全身に激しい雷光が奔る。

 『サンダーストーム』へと変化を遂げたベルは、バチバチと火花を散らすヘスティアナイフを構え、咆哮を上げるアムリタ・エクリプスと正面から対峙するのだった。

 

 

 

 

 ソーマ・ファミリアの広大な前庭は、今や現世に現出した地獄そのものであった。

 濛々と立ち込める土煙と、肌を刺すような濃密な闇のオーラの中央。そこに鎮座するのは、ガネーシャ・ファミリアの象徴たる『象』の意匠を身に纏う重装甲の巨大ハートレス――ヴィヤーサ・コンパイラ。

 象の仮面を模した兜の奥で、悲痛な黄色い光を宿す瞳がソラとシャクティを見下ろしている。その規格外の威圧感に対し、二人は一歩も退くことなく武器を構えた。

 

「行くぞ、シャクティ!」

「ああ、私たちの手であの子を……忌まわしい闇から解放する!」

 

 ソラの掛け声と共に、二人は同時に地を蹴った。

 先陣を切ったのはシャクティだ。彼女は手にあるキーブレード『アイボリー・オーダー』をサプレッション・スピアへと変形させ、本来の得意武器である長槍を携えて神速の踏み込みから洗練された連続突きを放った。運動エネルギーを一点に集中させる理にかなった刺突群が、ヴィヤーサ・コンパイラの分厚い影の装甲へ正確に突き刺さる。

 しかし、幾重にも圧縮された影の装甲は、刺突の威力を波紋のように分散させ、決定打を許さない。ヴィヤーサ・コンパイラは鬱陶しそうに巨大な大盾を振り回し、質量差による暴力的な薙ぎ払いでシャクティを粉砕しようと迫る。

 

「させない!」

 

 そこへ、ソラがキーブレード『マッシブ・フェスティバル』を構えて死角から飛び込んだ。

 光の刃が大盾の側面に激突し、甲高い金属音と衝撃波が周囲にまき散らされる。純粋な腕力では規格外の怪物には及ばない。だが、ソラは武器の接触角をずらし、相手の振るう力を利用して大盾の軌道を強引に上方へと逸らしてみせた。

 攻撃を阻まれたヴィヤーサ・コンパイラは、もう片方の手に握る巨大な剣を大きく振りかぶる。

 次の瞬間、その刀身にドロドロとしたおぞましい紫黒の闇のオーラが尋常ではない密度で纏い付いた。延長線上にまで闇が刃を形成し、ただでさえ巨大な剣が、さらなる斬撃性能と致死的なリーチを獲得する。

 

「危ない、退いて!」

 

 ソラの警告と同時、闇のオーラを纏った巨大剣が横薙ぎに一閃された。

 凄まじい暴風が巻き起こり、空間そのものを断ち割るかのような凶悪な斬撃波が前庭の石畳を紙切れのように抉り飛ばす。ソラとシャクティは滞空姿勢から紙一重で後方へと跳躍し、その必殺の刃を間一髪で回避した。

 

「なんて重い一撃だ……だが、近づけなければ倒せない!」

 

 シャクティが着地の衝撃を逃がし、再び突撃の機を窺おうとしたその時だった。

 ヴィヤーサ・コンパイラが大きく胸を反らせ、兜の奥から空間を揺るがすほどの悲痛で不快な咆哮を轟かせた。

 

「ガアアァァァァァァァァッ!!」

「なっ……身体が!?」

「くっ……この魔法は……!」

 

 大気を震わせるその咆哮を浴びた瞬間、ソラとシャクティの身体が不可視の泥に沈んだかのように硬直した。ヴィヤーサ・コンパイラの咆哮は単なる威嚇の音波ではなく、対象の神経系に直接干渉して動きを強制的に停止させ、さらにステイタスを大幅に低下させる凶悪な呪詛であった。

 動きを封じられた二人へと向け、ヴィヤーサ・コンパイラが無慈悲に大剣を振り下ろす。

 

「やらせるかッ!」

 

 ソラは強靭な精神力で呪縛を一時的に打ち破り、マッシブ・フェスティバルを三(メドル)に達する巨大な石柱へと変形させた。自身の身体の何倍もあるその超質量を遠心力に乗せて軽々と振り回し、迫り来る闇の大剣へと真正面から叩きつける。

 

 ――ガガァァァァァァンッ!!

 

 規格外の質量と質量が激突し、爆発的な衝撃波がソーマ・ファミリアの屋敷の壁を粉々に吹き飛ばす。

 物理的な重さと運動量において極大化された石柱は、ヴィヤーサ・コンパイラの大剣の威力を完全に相殺し、その巨体を後方へと仰け反らせた。

 

「今だ、シャクティ!」

「応!」

 

 ステイタス低下の呪縛から解放されたシャクティが、敵の体勢が崩れたこの好機を逃さず、アイボリー・オーダーをパニッシュ・ウィップへと変形させる。直線的な刺突から一転、彼女は光の鎖で繋がれた長い鞭を蛇のようにうねらせ、予測不能な軌道でヴィヤーサ・コンパイラの巨大な剣を持つ腕に関節ごと幾重にも巻き付けた。

 

「捕らえたぞ!」

 

 シャクティが力強く鞭を引き絞り、テコの原理を利用して巨体の動きを強固に封じ込める。

 しかし、ヴィヤーサ・コンパイラもただ拘束されるだけの存在ではない。その胸のハートレスマークから不気味な黒い霧が噴出すると、周囲の地面の影から次々と奇妙な小型ハートレス――ヴィヤーサヘッドが生み出されていく。

 象の頭部だけが宙を浮遊する不気味な配下たちが、主の危機を察知し、拘束を解かんと一斉にソラとシャクティへ向かって突進してきた。

 

「邪魔だッ!」

 

 ソラが巨大な石柱を広範囲に薙ぎ払い、群がる配下のヴィヤーサヘッドを容赦なく粉砕していく。だが、石柱の重撃で数体を消滅させても、本体の影から次々と新たな配下が湧き出し、物量によるジリ貧の状況へと追い込まれつつあった。

 

「数が多い……このままでは押し切られる!」

 

 シャクティが焦燥の声を上げたその時。

 上空の暗闇を切り裂くように、翡翠色の美しい光跡を描く無数の魔法弾が降り注いだ。

 

「星図よ、光の星雨よ。汝の瞬きを以て、我が敵を打ち滅ぼせ――ルミノス・ウィンド!」

 

 凛とした詠唱と共に炸裂した光の星雨が、群がっていたヴィヤーサヘッドたちを的確に穿ち、次々と光の粒子へと還元していく。

 土煙を裂いて颯爽と前庭に降り立ったのは、疾風の如き身のこなしを持つエルフの少女――リュー・リオンであった。

 

「リュー!」

「街の騒ぎを聞きつけ、駆けつけました。クラネルさんは中ですか?」

「ああ、ソーマを助けに行ってる!俺たちはこの大きいのを!」

「承知しました。加勢します!」

 

 頼もしい助っ人の乱入に、ソラとシャクティの表情に反撃の光が差す。

 木刀を構えたリューが、目にも留まらぬ絶え間ない連撃でヴィヤーサ・コンパイラの死角へと回り込み、分厚い装甲の関節部など脆い隙間を的確に斬り裂いていく。

 

「……ならば私も!」

 

 味方の手数が増えたことで拘束の必要がなくなったと判断したシャクティは、鞭を解き、デモリッション・ガントレットに変形。超近接戦に特化した重厚な黒鉄の巨大ガントレットで、シャクティはリューの攻撃に気を取られているヴィヤーサ・コンパイラの懐へと深く潜り込んだ。

 相手が咄嗟に大盾を構えて防御の姿勢をとるが、シャクティの狙いはまさにその『防御の上から叩き潰す』ことだった。

 

「砕け散れッ!」

 

 岩をも粉砕する必殺の重打撃が、大盾の表面に叩き込まれる。

 ガントレットの内部で極限まで圧縮された光の魔力が打撃と共に爆発的に解放され、ヴィヤーサ・コンパイラの強固な防御陣を力技で打ち崩し、そのまま巨体の重心を大きく後退させた。

 

「ソラ!」

「任せて!」

 

 完全に体勢を崩したヴィヤーサ・コンパイラへ向け、ソラが巨大な石柱を脳天から振り下ろす。規格外の質量による痛撃が兜を直撃して亀裂を走らせ、さらにリューのルミノス・ウィンドが追い打ちとなって砕けた装甲を容赦なく抉り取っていく。

 三人の息の合った猛攻の前に、絶対的な力を持つはずの巨大ハートレスが徐々に、しかし確実に追い詰められていった。

 

「これで……決める!」

 

 シャクティが空高く跳躍し、アイボリー・オーダーをヴィマーナに変形させる。

 宙に浮く神々しい黄金の飛行玉座に乗り込み、空中制圧形態へと移行したシャクティは、無数の光の魔法掃射を天からの雨霰と化して降り注がせた。

 

「ガァアアアァァァァァァッ!!」

 

 全方位からの逃げ場のない光の爆撃を全身に浴び、ヴィヤーサ・コンパイラが苦痛の絶叫を上げる。

 影の装甲は完全に砕け散り、大盾は原形を留めぬほどにひび割れ、大剣に纏われていた闇のオーラも霧散していく。誰の目にも、勝負は完全に決したかに見えた。

 

 だが。

 体力が尽きる寸前まで追い詰められたヴィヤーサ・コンパイラは、崩れ落ちる直前で突如としてその動きを不自然に停止させた。

 直後、その胸にある『赤黒く燃える亀裂』が、悍ましい心臓の鼓動のような不吉な脈動と共に、異常なまでの眩い光を放ち始めたのだ。

 

「なっ……なんだ、あの光は!」

「まずい!二人とも離れろ!」

 

 相手が自身の命と引き換えに自暴自棄の破壊行動――自爆へと出たことを直感したソラが、血相を変えて叫ぶ。

 限界まで圧縮された闇の魔力が臨界点を超え、ヴィヤーサ・コンパイラの巨体が内側から不気味に膨張し、周囲の空間そのものが高熱の蜃気楼のようにグニャリと歪んだ。

 

「自爆する気かッ!?」

「くっ……守りよ!」

 

 ソラが咄嗟に防御魔法を展開し、後方へと全力で退避しようとしたその瞬間。

 ――ヴィヤーサ・コンパイラの巨体が、世界を反転させるような大音響と共に大爆発を起こした。

 

 極彩色の閃光が視界を白く塗りつぶし、ソーマ・ファミリアの屋敷そのものを土台から吹き飛ばすほどの規格外の衝撃波が荒れ狂う。

 展開していた強固な魔法の盾ごと、ソラ、シャクティ、リューの三人は暴風に巻き込まれた木の葉のように、為す術もなく空の彼方へと吹き飛ばされた。

 

「うわあああぁぁぁッ!」

「くはッ……!」

「きゃあッ……!」

 

 空中で激しい錐揉み状態に陥る三人。だが、歴戦の彼らは死の淵にあっても己の制御を失っていなかった。ソラとシャクティはエアリカバリーで相殺することで、強引に空中で体勢を立て直して地面へと滑り込む。

 吹き飛ばされたリューもまた空中の瓦礫や木の枝を連続で蹴り渡ることで衝撃を殺し、無事に地面へと降り立った。

 

「はぁ、はぁ……二人とも、無事か!?」

「ええ、なんとか……。ですが、屋敷が……」

「アイツは……倒せたのか……?」

 

 もうもうと立ち込める高熱の爆炎と土煙の奥へ、三人は鋭い視線を向ける。

 だが、彼らの目に映ったのは、死闘の終わりを告げる勝利の余韻などではない。真なる絶望の始まりであった。

 爆発の中心点。そこに生じた巨大な闇の渦が、まるで極小のブラックホールのように周囲のあらゆる物質と魔力を吸い込み始めていたのだ。

 崩壊した屋敷の瓦礫、砕け散った石畳、さらに爆発に巻き込まれて消滅しかけていた他のハートレスや、無数に生み出されていた配下のヴィヤーサヘッドたち。それら全てが、渦の中心にある『何か』へと物凄い勢いで吸収され、圧縮されていく。

 

「吸収している……!?自爆は終わりじゃなかったのか!」

 

 シャクティが愕然と目を見開く。

 やがて異常な引力を持つ闇の渦が収束し、土煙が晴れた後。

 そこには、先ほどまでのヴィヤーサ・コンパイラとは比較にならないほど禍々しく、さらに強大に膨れ上がった異形の存在が鎮座していた。

 瓦礫や周囲のモンスターを喰らい尽くし、極限まで己の存在を再構築したヴィヤーサ・コンパイラ。その巨体から放たれる圧倒的な絶望のオーラは、大気を震わせるほどに重く、先ほどまでの比ではない。

 さらに、その周囲には、主の力に呼応するように数を増し、一回りも二回りも凶悪に変異した配下の小型ハートレス――ヴィヤーサヘッドの群れが、不気味に無数に飛び交っていた。

 

「どこまで……どこまであの子をコケにすれば気が済むんだッ!」

 

 妹の尊厳を徹底的に踏みにじり、死してなお冒涜し続ける闇の所業。シャクティの胸の奥で、かつてないほどの激しい怒りが業火となって爆発する。

 ギリッと歯を食いしばり、彼女は怒気と共にアイボリー・オーダーを力強く構え直した。

 

「相手がどれほど強大になろうと、退く理由にはなりません。」

「ああ!絶対にアイツを倒すぞ!」

 

 リューが凛とした声で闘志を燃やし、ソラも決して怯むことなくマッシブ・フェスティバルを構え直す。

 だが、周囲のあらゆる物質を吸収して究極の巨体を獲得したヴィヤーサ・コンパイラの規格外の威圧感は、純粋なステイタスや戦技だけでは到底覆せない領域へと達していた。

 通常の物理攻撃も、生半可な魔法も、もはやあの分厚い絶望の装甲には通用しないだろう。

 

「力には力、質量には質量……!」

 

 ソラは鋭い呼気と共に、巨大な石柱へと変形しているマッシブ・フェスティバルを力強く地面へと突き刺した。

 ズドォォォンッ!という重い地鳴りが響き渡る。

 直後、キーブレードを起点として、世界を真っ白に染め上げるほどの眩い光がソラを包み込んだ。

 光の粒子が凝縮し、膨張し、一つの巨大な質量へと形を成していく。

 眩い光の中から姿を現したのは、屋敷の残骸すらも見下ろすほどの威容を誇る、巨大なガネーシャ神の石像であった。光を帯びた神々しきその巨躯は、ヴィヤーサ・コンパイラにも引けを取らない圧倒的な存在感を放っている。

 

「ならばッ!」

 

 シャクティもまた、アイボリー・オーダーを力強く地面へと突き刺した。

 ガガァァァァンッ!と、大地が再び激しく揺れる。

 ソラと同様、神々しい光の柱がシャクティの全身を包み込んだかと思うと、その光の中からもう一体の巨像が大地を割って現出した。

 それは、ガネーシャ・ファミリアの団長であるシャクティ自身を模した、巨大かつ凛々しい女戦士の石像であった。

 

「なっ……なんなのですか、これは……!?」

 

 突如として戦場に現れた二体の超巨大な石像。

 あまりにも規格外で、ともすれば滑稽ですらあるその奇想天外な光景に、リューは目を丸くして呆然と立ち尽くしてしまう。

 その一瞬の隙を、ヴィヤーサヘッドの群れが見逃すはずもなかった。

 不快な鳴き声と共に、ヴィヤーサヘッドが死角からリューへと殺到する。

 

「っ……!」

 

 だが、リューは背後から迫る奇襲を紙一重の身のこなしで鋭く回避する。そのまま流れるような動作で木刀を構え直し、襲い掛かってくるヴィヤーサヘッドたちを疾風の如き連撃で次々と斬り伏せていった。

 

 一方、二体の巨像の上に立つソラとシャクティは、眼前のヴィヤーサ・コンパイラを真っ直ぐに見据えていた。

 ガネーシャ像と、シャクティ像。

 二体の光を帯びた巨像が、漆黒の絶望を纏うヴィヤーサ・コンパイラと正面から激突する。

 超巨大な質量が激突する神話の戦場へと、前庭は完全に変貌を遂げた。

 

「いくぞ!」

 

 ソラの気合と共に、ガネーシャ像がその規格外の巨体を躍動させた。純粋な質量と腕力による徒手空拳。大地を深く抉りながら踏み込み、重量と運動エネルギーを完全に乗せた強烈な飛び蹴りがヴィヤーサ・コンパイラへと放たれる。

 対するヴィヤーサ・コンパイラは、即座に巨大な大盾を構えて強固な防御姿勢をとった。

 衝突の瞬間、空気が極限まで圧縮され、遅れて弾け飛んだ強烈な衝撃波が前庭の地表を丸ごと捲り上げる。大盾に無数の亀裂が走り、極限まで圧縮された闇の装甲がガネーシャ像の渾身の重撃を受け止めきれずにひしゃげていった。

 だが、防御の反動を巧みに利用し、ヴィヤーサ・コンパイラはもう片方の手に握る大剣に濃密な闇のオーラを纏わせ、体勢の崩れたガネーシャ像を両断すべく大上段から振り下ろそうとする。

 

「させるかッ!」

 

 その凶刃が致死の軌道を描くより早く、シャクティはリンクスタイル『ライトハンマー』を発動させる。

 シャクティ像の全身が神々しい眩い光に包まれ、その両腕に圧倒的な光の魔力が超高密度に収束していく。武器を持たない徒手空拳の構えをとったシャクティ像は、大剣を振りかぶったヴィヤーサ・コンパイラの腕を強引に掴み取った。

 

「ハァァァァッ!」

 

 光の魔力を極限まで圧縮した巨大な拳が、ヴィヤーサ・コンパイラの顔面や胴体へと流星群の如く連続して叩き込まれる。闇を浄化する圧倒的な熱量と打撃力に装甲が次々と蒸発し、無敵を誇った巨体が防御の姿勢すら維持できずに大きく体勢を崩した。

 

「今だ、ソラ!」

「わかった!そぉれ!」

 

 シャクティの呼びかけに応じ、ソラはガネーシャ像の太い両腕でヴィヤーサ・コンパイラの巨体をガッチリと掴み上げた。巨大な石像を構成する魔力が限界の軋みを上げるほどの圧倒的な膂力。ガネーシャ像は大地を踏み砕きながら腰の捻りを加え、ヴィヤーサ・コンパイラを夜空の彼方へと力任せに放り投げた。

 大気を引き裂く猛烈な風圧を残し、ヴィヤーサ・コンパイラが無防備な姿で上空へと打ち上げられる。

 

「来い!ゾウエレファント!」

 

 シャクティはさらに自身のドリームイーター『ゾウエレファント』の力を上乗せし、二つの力を掛け合わせたデュアルスタイル『ライジングウイング』を発動させる。

 シャクティ像の背中に展開された巨大な光の翼が力強く羽ばたき、莫大な推進力となって巨体を重力の楔から解き放ち、上空へと飛翔を開始した。

 

「行くよ!」

 

 その瞬間、ソラは自ら操っていたガネーシャ像を一度解除し、光の粒子となって飛び上がると、猛スピードで飛翔するシャクティ像の頭頂部へと見事に着地した。

 光の翼で空を舞うシャクティ像と、その頭上に立つソラ。彼らは、放り投げられて空中で制御を失ったヴィヤーサ・コンパイラよりもさらに高く、遙か上空へと到達する。

 

「いくよ、シャクティ!」

「ああ、これで終わらせる!」

 

 ソラは空中で再びマッシブ・フェスティバルを掲げ、眼下にガネーシャ像を再構築して顕現させる。

 夜空に並び立つ、ガネーシャ像とシャクティ像。

 二体の巨像は急降下し、空中に浮かぶヴィヤーサ・コンパイラへと同時に必殺の空中蹴りを叩き込んだ。

 二つの規格外の質量と、闇を打ち払う極大の光。それらが完全に一点へと集中した瞬間、上空に人工の太陽が生まれたかのような強烈な閃光が王都の夜空を白夜のように照らし出した。

 ヴィヤーサ・コンパイラの分厚い絶望の装甲は激突のエネルギーに耐えきれずに容易く砕け散り、胸の亀裂を激しく発光させて自爆による道連れを狙おうとしていた目論見すらも、その発動より遥かに早く完全に粉砕される。

 

「ガ、アァァァァ……ッ」

 

 断末魔の絶叫を残し、巨大な闇の怪物は空中で光の粒子となって霧散していく。

 そして、その浄化された光の渦の中から、ひとつの美しいピンク色の結晶がふわりと浮かび上がった。

 闇からついに解放された、アーディ・ヴァルマの心であった。




〇ハートレス解説
・シャドウ・ストーカー
ノアールのハートレスで地面の影と完全に同化して高速移動し、対象の死角から音もなく飛び出して奇襲をかけるだけでなく、濃密な闇の魔力を纏わせた刃による連続攻撃を叩き込み、その攻撃を受けた相手の視界を一時的に完全に奪って暗闇状態に陥らせるという厄介な能力を持つ。

・グランド・スマッシャー
ダインのハートレスで巨大な戦槌と化した両腕で大地を全力で叩き割り、広範囲に地割れと強烈な衝撃波を発生させて相手を吹き飛ばすだけでなく、両腕をクロスさせて強固な防御姿勢をとることで物理攻撃を完全に弾き返し、魔法で崩さなければダメージが通らないという厄介な能力を持つ。

・クリムゾン・ソーン
バーラのハートレスで狙った相手の足元からおぞましい棘を持つ無数の茨を急成長させ、全身をがんじがらめに拘束して身動きを完全に封じるだけでなく、拘束した相手から体力と精神力をじわじわと吸い上げ、自身や周囲の味方のダメージを無限に回復させ続けるという厄介な能力を持つ。

・ヴィヤーサ・コンパイラ
 アーディのハートレスで、ガネーシャ・ファミリアを象徴する象の仮面と青と白の重装甲に身を包み、剣の闇のオーラを纏わせることで斬撃性能があがり、咆哮すると対象を停止させステータスをさげる効果を持つ。ヴィヤーサヘッドと呼ばれる小型の分身を生み出すことができる。なおヴィヤーサヘッドの姿は血縁のシャクティや同派閥であるガネーシャファミリアの団員にはアーディに見える。仮にシャクティがキーブレードでハートレスにされた心を開放できることを知らなければ妹をこの手で何度も殺めるという地獄を経験しその内心を奪われていた。
 さらには体力が尽きる寸前に胸にある赤黒く燃える亀裂を激しく発光させて周囲の空間ごと巻き込む大爆発を引き起こし、その際に崩壊した建物やヴィヤーサヘッドにハートレスすらも吸収して回復し、自身を強化する。強化が重なればヴィヤーサヘッドの強さは増し、数は増え、残光が放てるようになる。

〇巨大シャクティ像
ガネーシャがシャクティにお願いし、さらには団員から巨大像の有用性の説得により生まれた形態。

次回はベルやイルタ達とその他の話をするので後2話か3話で遠征に入ります。
リューを出したのは次回か次々回でとある人物と合わせるためです
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