キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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あの後電話したエイナにはフィンが対応しました。その後メールで深層のモンスター関連のことをFAX経由でたくさん送りました


外伝5巻
第54話 遠征開始と不穏な陰


 空がようやく白み始めた頃、ヘスティア・ファミリアの拠点である廃協会に、出発の準備を整えたソラの姿があった。

 これから彼は、オラリオ最大派閥であるロキ・ファミリアの深層遠征に同行することになる。目的はダンジョン内に湧き出るハートレスの討伐と、ダンジョン内にある『鍵穴』を調査するための、極めて重要な任務だ。

 見送りのためにヘスティア、ベル、リリの三人は、それぞれの思いを胸にソラへと向き直った。

 

「ソラ君、本当に気をつけるんだよ! ロキのところの連中と一緒だとは言え、ダンジョンの下層は何が起こるか分からないんだから。危なくなったら、すぐに逃げるんだぞ!」

「ヘスティア様の言う通りですよ、ソラ様。ロキ・ファミリアは大規模な部隊で動きますが、自分の身を第一に考えてくださいね」

「うん、分かってる。二人とも心配してくれてありがとう。絶対、無事に帰ってくるからさ」

 

 ヘスティアの小言と、リリの忠告を受け、ソラは二人を安心させるように屈託のない笑みを浮かべた。

 最後に、一歩前に出たベルが、真剣な眼差しでソラを見つめる。

 

「ソラ、遠征気をつけてね。……僕も、早くソラやアイズさんたちと一緒に戦えるように、もっともっと強くなるから。だから、無事に帰ってきてね!」

 

 その真っ直ぐな紅眼には、ソラへの強い信頼と、冒険者としての純粋な憧れが宿っていた。

 

「ああ、約束だベル。帰ってきたら、また一緒に特訓しような!」

 

 ソラはベルと力強く拳を突き合わせると、三人に向けて大きく手を振り、集合場所である中央広場へと歩みを進めた。

 

 ・

 

 朝靄に包まれたオラリオの中央広場には、すでにロキ・ファミリアの遠征部隊が集結し、物資の確認や陣形の最終調整を行っていた。

 集合時間よりも早めの到着だったが、部隊の先頭にはすでに指揮官である小人族(パルゥム)の勇者の姿があった。

 

「やあソラ。待っていたよ」

「よっ、フィン」

 

 穏やかな微笑みを向けてくるフィンに対し、ソラも片手を上げて気さくに挨拶を返す。

 大派閥の団長相手にも全く物怖じしないソラの態度に、フィンは苦笑しながらもどこか心地よさそうに目を細めた。

 そこへ、重厚な足音と共にドワーフの重戦士と、エルフの王族が近づいてくる。

 

「おう、ソラ。今日からよろしく頼むぞ」

「よろしく頼むぞ、ソラ」

 

 ガレスの豪快な声に続き、リヴェリアが厳格な声色でソラに声をかけた。

 ソラが元気よく頷こうとした、まさにその時である。

 ポンッ、という気の抜けた音と共に、リヴェリアの頭上に『カエル王子(クラリフロス)』が突如として出現したのだ。

 カエル王子(クラリフロス)はリヴェリアの翡翠色の髪に器用に捕まりながら、「よぉっ」とばかりに短い前足を上げてソラに向けて挨拶をした。

 

「……またお前か。なぜいつも私の頭なのだ」

 

 リヴェリアは深々とため息をつきながら、頭上のカエル王子(クラリフロス)を忌々しそうに見上げる。

 彼女の威厳ある姿と、頭に乗ったマスコットのようなドリームイーターの絶妙なアンバランスさに、ソラは思わず吹き出しそうになるのを必死に堪えた。どうやらこのカエル王子(クラリフロス)は、リヴェリアの頭の上がすっかりお気に入りになってしまったらしい。

 

「あははっ、見た感じだとすごく仲良しになったんだな!」

「からかうな。……まあ、害はないから放っておくが」

 

 ソラが笑いを堪えきれずに言うと、リヴェリアは軽く睨みを効かせた。

 そんな和やかな空気が流れる中、一人の女性が豪快に笑いながらソラに近づいてきた。

 紅の髪と右目の眼帯が特徴的な、ヘファイストス・ファミリアの団長である椿だ。彼女もまた、専属の鍛冶師として今回の遠征に同行している。

 

「手前からもよろしく頼むぞ、ソラ!」

「うん、よろしくな椿!」

 

 椿が気さくに話しかけ、ソラが笑顔で応じていると、背後からあからさまに不機嫌な気配が近づいてきた。

 

「おい、ソラ」

 

 ドスの効いた低い声。振り向くと、そこには眉間に深いシワを寄せた狼人(ウェアウルフ)、ベート・ローガが立っていた。

 しかし、その顔を見た瞬間、ソラと椿は言葉を失い、完全に絶句してしまった。

 ベートの銀色の髪の上から、なんとピンと伸びた長くて白い『ウサギの耳』が生えていたのである。

 凶悪な人相の狼人(ウェアウルフ)に生えた可愛らしいウサギの耳。あまりにもカオスすぎる視覚情報に、ソラは絶句フリーズする。

 だが、よくよく見てみれば、ベート自身にウサギの耳が生えているわけではなかった。どうやら『マジックラビット』が、先ほどのカエル王子(クラリフロス)のようにベートの頭にガッチリとしがみつき、その耳を立てていたのだ。

 そのため、正面から見るとベートにウサギの耳が生えているように錯覚してしまったらしい。

 

「だめじゃない、ウサギちゃん。ベートさんの頭で遊んじゃ」

 

 困り果てたような声と共に、治療師であるリーネが小走りで駆け寄ってくる。

 彼女は、ベートの頭にしがみついているマジックラビットを両手でひっぺがし、自分の胸に抱き抱えた。

 マジックラビットを剥がされ、ソラと椿の視線の意味をようやく理解したのか、ベートの顔が羞恥と怒りで爆発しそうに赤く染まる。

 

「てめぇら……何見てやがる!!」

「い、いや! 似合ってた、よ?」

「ぶっ……あはははははっ! どうやらドリームイーターのおかげで凶狼(ヴァナルガンド)に笑いの才があるようだぞ、ボウクンレックス(ボウ吉)!」

 

 ソラが慌ててフォローを入れるが、椿は腹を抱えて盛大に爆笑し、自身のドリームイーターの名を呼ぶ。するとボウクンレックス(ボウ吉)が出現し、椿と同じように愉快そうに笑い出した。

 ベートはギリッと牙を剥き出しにし、苛立ちを誤魔化すようにソラへと凄んだ。

 

「チッ……! おいお前ら、足手纏いになったら承知しねぇからな!」

「任せろ!」

「安心せい。逆に凶狼(ヴァナルガンド)の活躍を奪うくらい、手前たち動いてみせよう」

 

 ベートの不器用な忠告に対し、ソラは自信に満ちた笑みを浮かべて親指を立て、椿は笑いながらもベートを挑発するように言葉を返す。

 二人の反応を見たベートは、「ふん」と鼻を鳴らし、そのまま踵を返して持ち場へと戻っていった。

 

「よろしくお願いしますね、ソラさん。……あっ、待ってくださいベートさん!」

 

 リーネがマジックラビットを抱えたままソラにぺこりと丁寧な挨拶をし、足早に遠ざかっていくベートの後を小走りで追いかけていくのだった。

 そうしてベートが去った後、今度は賑やかな声と共に、アマゾネスの双子姉妹がソラの元へと駆け寄ってきた。

 

「ソラー! おはよう!」

「おはよう、ソラ。準備は万端みたいね」

「おはよう、ティオナ、ティオネ!」

 

 底抜けに明るいティオナと、落ち着いた笑みを浮かべるティオネ。二人の挨拶に、ソラも元気よく応える。

 

「ねえねえソラ! 遠征中、時間があったら外の世界のこと、私にもいっぱい教えてね!」

 

 ティオナが目をキラキラと輝かせながら、異世界への興味を隠そうともせずに身を乗り出してきた。

 

「あぁ、分かった。どんなのが良い?」

「うーん……そうだなあ。ソラの世界に、アルゴノゥトみたいなのってある?」

 

 ティオナの口から出たその名前に、ソラは首を傾げた。

 

「アルゴノゥト?」

 

 ソラの記憶が正しければ、それはベルのステイタスに刻まれていたスキルの名前だったはずだ。なぜティオナがベルのスキル名を口にするのかと、ソラは疑問符を浮かべる。

 そんなソラの内心などつゆ知らず、ティオナは無邪気に笑った。

 

「あれ、知らない? なら、後でいーっぱい教えてあげるね! 私が一番大好きな英雄譚なんだ!」

「ティオナ、あまりソラを困らせるんじゃないわよ」

 

 ティオネが呆れたように妹をたしなめていると、そこへアイズとレフィーヤが連れ立って歩いてきた。

 アイズ・ヴァレンシュタインと、レフィーヤ・ウィリディスである。

 

「ソラ、おはよう。今日はよろしくね」

「よろしくお願いします、ソラさん」

「よろしくな、二人とも」

 

 アイズの静かだが力強い言葉と、レフィーヤの少し緊張したような挨拶に、ソラは頷いて笑い返す。

 その時、ソラはふとあることを思い出した。

 

「あっそうだ。ベルから、アイズたちにこれを渡すように頼まれてたんだ」

 

 ソラは言いながら、自身のポケットをごそごそと探り、幾つかの小さな包みを取り出した。

 丁寧に編み込まれた赤い紐の先には、白くて丸いウサギを模した小さな木彫りの飾りがついており、そのウサギがヘスティア・ファミリアの象徴である小さな鐘を抱き抱えているという、可愛らしいデザインのお守りであった。

 

「これは……?」

「ベルが、みんなにって。遠征の無事を祈って、手作りしたお守りなんだってさ」

 

 レフィーヤが不思議そうにお守りを見つめる中、ソラはそれをアイズ、レフィーヤ、そしてティオナの三人へとそれぞれ手渡した。

 アイズは手のひらに乗せられた小さな白いウサギのお守りを、まるで壊れ物を扱うようにそっと両手で包み込んだ。彼女はまじまじとそのデザインを見つめると、ふっと柔らかな笑みをこぼす。

 

「なんだか、ベルにそっくり……可愛い」

 

 アイズが嬉しそうに漏らしたその感想に、レフィーヤもクスリと笑みをこぼし、大切そうにローブのポケットへと仕舞い込む。

 

「わぁ!アルゴノゥト君のお守り!」

 

 ティオナもまた、嬉しそうにはしゃぎながらお守りを身につける。その言葉に、ソラはふと首を傾げた。

 

「アルゴノゥト?アルゴノゥトって、ティオナが大好きな英雄の名前じゃなかったっけ?なんでベルのことを……」

 

 疑問を口にするソラに対し、ティオナは満面の笑みで大きく頷いた。

 

「うん、そうだよ!でもね、前にベル君がミノタウロスと戦ってる姿を見たんだけど、それがもう、私の大好きなアルゴノゥトにそっくりだったの!だからベルはアルゴノゥト君なの!」

「なるほど、そういうことか」

 

 ティオナの弾けるような笑顔に、ソラも納得したように笑い返す。

 

「そっか…それじゃあ俺、ラウルにも渡してくるよ!」

 

 三人がお守りを見て喜んでいるのを見届け、ソラは満面の笑みでそう告げると、まだお守りを渡していないベルの友の姿を探して、足早にその場を離れていくのだった。

 

 

 

 

 第44階層にて、ロキ・ファミリアは、かつてのダンジョン探索のとも全く異なる特異な様相を呈していた。

 最大の理由は、ソラとレフィーヤの二人がその手に握る――キーブレードの存在である。

 もしも一度でも陣形を崩されれば、殺到する無数の影に冒険者たちの『心』が奪われ、彼ら自身が新たなハートレスとして生み出されてしまう。その最悪の感染連鎖を知る団長のフィンや、副団長のリヴェリア、重鎮のガレスといった首脳陣たちは、常に薄氷を踏むような極限の緊張感の中で部隊の指揮を執っていた。

 

「うおおおおっ!見ろよこの結晶!」

「こっちの結晶も良いぞ!武器の素材にしたら一体どんな反応を示すか……くぅーっ、鍛冶師として腕が鳴るねぇ!」

 

 だが、そんな張り詰めた死線の空気とは裏腹に、全く別のベクトルで異常なほどの熱を上げている者たちも存在した。

 遠征に同行している高級鍛冶師の椿をはじめとした、ヘファイストス・ファミリアの一部団員たちである。彼女たちは、ハートレスが消滅した後に残すかけらや魔石や結晶に、外の世界から吸い込まれた奇妙なドロップにすっかり熱中し、戦闘の合間を縫っては目をキラキラと輝かせて素材回収に奔走していた。

 一見すれば場違いで滑稽な光景だが、彼女たちがここまで無防備に欲望を露わにできるのには明確な理由があった。それは、自身の護衛を担う第一級冒険者たちの圧倒的な武力に対する、絶対的な信頼である。事実、前衛で暴れ回る者たちは、押し寄せる異常な数のモンスターを前にしても、その進行速度を微塵も落としていなかった。

 

「あはははははっ!よーし行っくよぉっ!」

「ちょっとティオナ!あんたが大振りするせいで、こっちに溶岩の破片が飛んでくるじゃない!少しは周りを気にしなさいよ!」

「うるせえぞバカゾネスども!俺の獲物を横取りしてんじゃねえぞ、ぶっ殺すぞ!」

 

 沸き立つ溶岩の岩肌を、三つの影が疾風のごとく駆け抜けていく。

 ティオナ、ティオネ、そしてベートである。彼らが相対しているのは、フレイムロックの大群だった。自身の体を燃え盛る巨大な爆弾のように扱い、強烈な突進や自爆を仕掛けてくる極めて厄介な性質を持つ敵だが、彼らにその常識は通用しない。

 ティオナは自身の身長ほどもある大剣型のダブルブレード、大双刃(ウルガ)を豪快に振り回す。彼女はただ力任せに武器を振るっているわけではない。自身の体幹を軸とし、巨大な双刃の重量と遠心力を完璧にコントロールすることで、自らを破壊の独楽へと変え、迫り来るフレイムロックを次々とカッ飛ばしていく。

 その隣では、姉のティオネが怒りの形相で二種類の刃を精密かつ凶暴に操っていた。

 

「ったく、もぉ!」

 

 ティオネは遠距離からの牽制として、投げナイフのフィルカを連続投擲し、魔石を的確に破壊する。距離が詰まると同時に、両手に握ったククリナイフのゾルアスを猛然と振るった。二刀の刃が関節部分の隙間を穿ちモンスターの巨体を打ち砕く。

 そして、その双子のさらに前方を、銀色の閃光が荒れ狂う嵐のように駆け抜ける。

 

「オラァッ!もたもたしてっと、全部俺が片付けちまうぞバカゾネスどもが!」

 

 ベートの容赦のない蹴撃である。彼の両足に装備されたメタルブーツ――フロスヴィルトが、炎という概念そのものを喰らい尽くす。

 フレイムロックが口から吐き出す灼熱の火炎放射を、ベートは速度を緩めることなく真正面から突っ切る。魔力を吸収する特質を持つそのブーツは、マジックラビットの魔法を吸収し圧倒的な破壊力へと即座に変換・増幅させていた。炎ごとモンスターの顔面を力任せに蹴り砕くたび、重厚な金属音がダンジョンに響き渡る。圧倒的なスピードと質量が合わさった一撃は、分厚い岩の装甲をまるでガラス細工のように容易く粉砕していった。

 

 第一級冒険者たちが暴力の嵐となって前線を押し上げる一方で、後方を死守する通常の団員たちもまた、彼らなりの高度な戦術で戦線を完璧に維持していた。

 

「アキ、背後に回り込んでも無駄っす!あいつら、死角からの攻撃を理不尽な力で反射的に弾きやがるっす!」

「くっ……物理も魔法も弾かれる!?なんて面倒な性質なの!」

 

 ラウル・ノールドは、普段の気弱な顔を完全に引き締め、最後尾の団員たちへ向けて必死の号令と情報伝達を飛ばしていた。

 彼ら第二軍のメンバーが対峙しているのは、顔だけの岩の塊のような異形のハートレス『アースコア』の群れである。奴らは突如として地中へと潜り込む『砂もぐり』から、鋭く回転しながら飛びかかってくる『ドリルアタック』を仕掛けてくる。潜行中や突進中の彼らには一切の刃が通らない。さらには、背後からの攻撃を不可視の防壁で反射的に弾き返すという極めて厄介な防御の性質を備えており、通常の遊撃戦術が全く通用しないのだ。

 さらに事態は悪化する。数体のアースコアが地面に潜り込むとそこから『アースコアタワー』へと姿を変えたのだ。

 

「変化したっす!岩の雨が来るっすよ」

「前衛、盾の角度を上方に修正して!あの形態は真上から放物線を描いて岩を同時に降らせてくるわよ!」

 

 ラウルの号令に被せるように、部隊の只中からアナキティが鋭く的確な指示を飛ばした。

 彼女は今回の遠征の最中、ギルドから発行された『ハートレスに関する情報集』を、誰よりも熱心に読み耽っていたのだ。その事前知識の蓄積が、未知の敵の変異を前にしても、即座に次の挙動を先読みする戦術眼を生み出していた。

 アナキティの指示通り、アースコアタワーの頂部から、放物線を描いて巨大な岩が五つ同時に吐き出される『岩吐き出し』の面制圧が始まった。

 戦場に響くラウルの声に迷いはない。彼の身体の動きには一切のブレがなかった。両足は大地に深く根を下ろしたように微動だにせず、アキの指示に従い上方に構え直した大盾は、岩の散弾に対して絶妙な傾斜を保っている。正面から衝撃を受け止めるのではなく、斜めの角度で威力を地面へと受け流し、自身の骨格への負担を最小限に抑えるという、熟練の防御技術の結晶であった。

 だが、ただ防いでいるだけではジリ貧だ。ラウルは覚悟を決め、腰に提げていた『柄』だけの無骨な金属円筒を引き抜いた。

 それは、同行している椿がグミシップの設計データを独自の解釈で解析し、組み上げたの武装『レーザーブレード』であった。

 

「はぁあああ!」

 

 ラウルが起動スイッチを押し込んだ瞬間、ブゥゥゥンッ!という空気を震わせる特有の起動音と共に、蒼白い極光の刃が空間を焼き切りながら顕現した。

 大盾を背負い直したラウルが、鋭い呼気と共に、レーザーブレードを真横へと大上段から薙ぎ払う。

 刃が放つ強烈な光の軌跡が、広範囲の斬撃波となってアースコアタワーへと直撃した。不可視の防壁による反射すら間に合わない超高熱の光刃が、砂岩の塔を豆腐のように滑らかに両断し、周囲の空間ごと塵へと変えていく。ラウルの見せたロマン溢れる大火力の蹂躙劇に、アキは思わず頼もしい溜息を吐いた。

 ラウルが完璧な盾となって敵の注意を一点に集めている隙を突き、アナキティ・オータム率いる遊撃部隊がアースコアの死角へと回り込む。岩を吐き出した直後の息継ぎの隙を見逃さず、素早い剣撃で岩の核を正確に穿ち、次々と厄介な砲台を沈黙させていった。

 そして、その後方で全体の戦況を俯瞰し、的確な魔法支援を行っているのがレフィーヤであった。

 

「させませんっ!」

 

 レフィーヤの周囲に展開された無数の氷のビットが、凍てつく冷気を纏いながら空を切り裂く。

 狙う先は、炎を纏って宙を舞うバーミリオンサンバ。彼らが上空からラウルの部隊の頭上へ向けて強力なファイアストライクを放とうとした瞬間、氷のビットが先制してその炎の弾を撃ち落とす。

 徹底された制圧戦。だが、その激しい乱戦の最中、迷宮の奥底から不気味な地響きと共に二体のメタリックトロールが姿を現した。

 出現と同時、一体のメタリックトロールが、レフィーヤを明確な排除対象として定めると斧の軌道が空気を裂き、凄絶な轟音を生み出しながら全力で振り下ろしてくる。

 だが、その暴力を前にしても、レフィーヤの瞳に揺らぎは一切なかった。

 

ガンミフクロウ(ルクス)!」

 

 レフィーヤが自身のドリームイーターの名を高らかに呼ぶ。

 即座に上空から飛来したガンミフクロウ(ルクス)が、鋭い爪でレフィーヤの両肩を力強く掴んだ。梟の力強い羽ばたきが局所的な上昇気流を生み出し、迫り来る巨大な斧の死の領域から逃れるように、彼女の身体を一瞬にして上空へと引き上げる。

 直後、メタリックトロールの斧が空を切り、レフィーヤが先ほどまで立っていた地面の岩盤を粉砕した。マグマの飛沫と岩の破片が散弾のように撒き散らされたが、遥か上空に逃れた彼女の肌を掠めることすらない。

 熱風に乗って宙に舞い上がったレフィーヤは、手にしたキーブレード――『フェアリー・エピタフ』を真っ直ぐに眼下のメタリックトロールへと向けると、魔法のショットを牽制の弾幕として絶え間なく連射し、メタリックトロールの足止めを図りながら、凛とした声で反撃の詠唱を紡ぎ始める。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

 周囲の空気を震わせるほどの莫大な魔力が鍵剣の先端へと極限まで圧縮され、研ぎ澄まされていく。次の瞬間、『アルクス・レイ』の極光が放たれた。

 極大の光の矢はメタリックトロールの分厚い金属の胸板へと直撃し、視界を真っ白に染め上げるほどの凄まじい爆発と衝撃波を撒き散らした。さしもの巨体もその威力には抗えず、大きく宙へ吹き飛ばされ、溶岩の流れる地面へと激しく転がった。

 勝負は決したかに思われた。しかし、メタリックトロールは倒れることなく、金属の軋む不気味な音を立てながら即座に身を起こしたのだ。

 そして、あろうことか手に持っていた巨大な斧の刃の部分を、自らの顔面へと強く押し当てた。

 ガシャァンッ!という耳障りな金属音が響き渡り、巨大な斧がメタリックトロールの顔面と同化して、禍々しい意匠の『仮面』として装着される。

 これこそが、メタリックトロールの真の脅威である強固な鎧の形態への移行だ。顔面という最大の弱点を極厚の金属で覆い隠すことで、自身の防御力を飛躍的に向上させると同時に、全体重を前方へと極端に乗せたのだ。さらにもう一体のメタリックトロールも同様に斧の仮面を被り、自身の巨体を巨大な兵器へと変化させる。

 仮面を被った二体のメタリックトロールは、大地を踏みしめて跳躍し、仮面の口に当たる部分から次々と巨大な岩石を連続で吐き出す『正面ロックショット』を放った。全体重を乗せた圧倒的な突進力と、巨大な岩の散弾。前衛の強固な壁すら容易く粉砕するであろう、怒涛の飽和攻撃が迫る。

 だが、その死の行軍がレフィーヤたちを蹂躙するよりも早く、一筋の黄金の閃光が戦場を駆け抜けた。

 

「ふっ!」

 

 アイズの神速の一閃である。

 金色の瞳に静かな闘志を宿した彼女は、エアリエルによって翠緑の風をその身と剣に纏っていた。風の加護を利用して一切の抵抗を削ぎ落とした彼女の踏み込みは、疾風そのものだった。

 突進してきた一体のメタリックトロールの懐へと瞬時に滑り込むと、愛剣であるデスペレートの白刃が閃いた。極限まで圧縮された風の刃は、強固に硬化していたはずのメタリックトロールの金属仮面を、まるで濡れた紙を裂くがごとく一刀の元に両断したのだ。

 仮面の鎧ごと本体を斬り捨てる完璧なる剣技。メタリックトロールの巨体が左右に分かたれ、光の粒子となって霧散していく。アイズは剣を振り抜きながら、背後のレフィーヤに向けて短く「大丈夫?」と視線で問いかけ、レフィーヤもまた力強く頷き返した。

 

 残るもう一体の暴走を完全に食い止めるべく、ソラが前線へと躍り出ると体が眩い光を放ち、その姿を『リミットフォーム』へと変化させる。

 光が収まると共に現れたのは、かつて彼が幼い頃に身を包んでいた、赤と黒を基調としたクラシカルな装い。リミットフォームへと姿を変えた瞬間、ソラの内に宿る繋がりと心の共鳴が、ベルの持つスキル――英雄願望(アルゴノォト)を疑似的に発現させた。

 絶大な限界突破の力を引き出すための『英雄』のイメージ。ソラの脳裏には、かつてオリンポスで共に汗を流し、誰よりも眩しい笑顔を浮かべていた英雄(ヒーロー)、ヘラクレスの背中がはっきりと浮かび上がっていた。

 ソラの左腕に、堅牢な装甲を持つカウンターシールドが顕現する。その盾の表面に、真っ白な光の粒子が急速に収束していく。

 

 リンリン、リンリン、リンリンッ!

 

 チャージ音が、まるで神聖でどこか場違いなほどに軽快な、小刻みな鐘の音となって灼熱の戦場に鳴り響く。

 メタリックトロールが至近距離から吐き出した巨大な岩石の散弾を、ソラは盾を構え、重心を低く落としたチャージガードの姿勢で真正面から受け止めた。

 ガガンッ、ガガガガンッ!という激しい衝撃音が連鎖し、ソラの足元の岩盤が砕け散る。しかし彼は一歩も引かない。岩石の持つ重く破壊的な衝撃は、盾に衝突した瞬間に拡散することなく、すべてソラの内部へと吸収され、反撃のための莫大な力へと変換されていく。

 そして、盾から鳴り響く「リンリン」という軽快なチャージ音は、破壊の暴力にしか存在意義を見出せないメタリックトロールにとって、自らの絶対的な重量攻撃を嘲笑われているかのような、本能的な苛立ちと屈辱感を与えていた。メタリックトロールの動きに、ほんのわずかな躊躇と隙が生まれる。

 その決定的な瞬間を、ソラは見逃さなかった。

 

「いっけえええええっ!」

 

 大気を震わせる咆哮と共に、盾を弾き飛ばして迫り来るメタリックトロールの懐へと踏み込み、ソラは限界まで溜め込んだ力を一気に解放して渾身のカウンターラッシュを放った。

 目にも留まらぬ光の連打が叩き込まれるたび、メタリックトロールの仮面にピキリ、ピキリと亀裂が走り、少しずつ剥がれ落ちていく。

 そして、最後の一撃が直撃した瞬間。

 パキィィィンッ!という澄んだ音と共に、メタリックトロールの顔面を覆っていた仮面が完全に粉砕された。最大の防御機構を失い、無防備な顔面を晒したメタリックトロールの内部へと、雷撃が容赦なく弾け飛ぶ。

 ドゴォォォォンッ!!

 圧倒的な手数と、装甲を破壊する的確な連撃の前に、さしものメタリックトロールも完全に沈黙した。巨体は宙に浮き上がり、最後の巨大な雷撃と共に激しく吹き飛びながら、光の粒子となってダンジョンの虚空へと跡形もなく消え去っていくのだった。

 

 

 

 

 激戦の熱狂が、ゆっくりと終わりを告げる。

 戦場を埋め尽くしていたハートレスとフレイムロックは、アイズたちとソラによる蹂躙を受け、完全に一掃されていた。

 モンスターが消滅する際に放つ純白の光の粒子と、火山弾が砕けた鈍色の灰が混ざり合い、幻想的な吹雪のように舞い散っている。アイズたちは大きく息を吐き出して極度の緊張を解き、武器の血振るいをして次なる階層への道を目指して再び歩き出した。

 しかし、その足取りは数分と持たなかった。少し進んだ先で、最前線を歩いていたフィンがピタリと足を止め、鋭い警戒の視線を前方へと向けたのだ。

 

「……なんだ、これは?」

 

 彼らが感じたのは強い違和感であった。

 現在地である第44階層は火山地帯であるはずだ。それにもかかわらず、前方の一角だけが、周囲の熱気を完全に殺し尽くすような、場所にそぐわない異常な冷気に包み込まれていたのである。

 境界線を引いたかのように、赤黒い岩肌はそこから先だけ真っ白な霜に覆われ、吐く息が急激に白く染まる。肌を刺す不気味な寒気の中心へと慎重に近づいたソラたちの目に、宙に浮かぶ奇妙なオブジェクトが飛び込んできた。

 それは、紫黒の禍々しいオーラを纏い、周囲に雪の結晶を散らせながら静かに明滅する、鋭角的な盾のような形状をした氷の紋章だった。それはどこか人工的で強い存在感を放っている。

 

「異常なほどの冷気を放っているな。ソラ、お前にはこれに見覚えがあるか?」

「えっと……どこかで見たような……」

 

 リヴェリアですら理解の及ばない現象を前に、ソラは腕を組んで記憶の糸を必死に手繰り寄せる。

 その直後にジャランッ、と。静寂の空間に、ひどく場違いで軽薄な音が響き渡った。

 

「おいおい、前に教えただろ?そいつはオリンポス・ストーンよりもずっと面白いオモチャだって」

「――ッ!?誰だ!」

 

 弾かれたように振り返るソラたちの視線の先。と暗闇の奥からゆらりと姿を現したのは、XIII機関の『デミックス』であった。

 

「あの服……XIII機関か!」

 

 ロキ・ファミリアの面々が一斉に武器を構え、場に再び極限の緊張が走る。歴戦の冒険者たちが放つ殺気をデミックスはどこ吹く風といった様子で「おっかないねぇ」と肩をすくめ、宙に浮かぶ氷の紋章を指差した。

 

「それは遺されし不在の影絵。アブセントシルエット。消滅した過去の機関の武器や、キーブレード使いの鎧に焼き付いた、存在の影でそこにあるのは……『ヴィクセンの影』なんだ」

「ヴィクセンって、確か前に言ってた……。そうだ、アブセントシルエット!なんか、戦ったら目を覚ますとか……」

「正解!でも、今回はただの影法師じゃない。戦って勝利すると、武器とか能力が手に入るらしくてな。ザリファとダルザクスはゼアノートの鎧や親友の鎧と戦って、キーブレードを手に入れたんだって」

「…………キーブレードが…力が、手に入る」

 

 デミックスの軽薄な解説の最後に放たれた言葉。それに誰よりも早く、アイズが深刻な反応を示す。

 彼女の根底に横たわるのは、何よりも強く純粋な『力』への渇望。強くなるためならば、それが得体の知れない外の世界の遺物であろうとも躊躇などしない。

 金色の瞳に危うい光を宿した彼女は、ふらふらと引き寄せられるように、アブセントシルエットへと近づいていく。

 そして、何かに取り憑かれたかのように、迷うことなくその氷の紋章へと手を伸ばした。

 

「待てっ、アイズ!」

 

 その異様な様子にいち早く気づいたリヴェリアが、血相を変えて叫び、彼女を止めようと手を伸ばす。

 だが、遅かった。

 アイズの指先が氷の紋章に触れるか触れないかというその瞬間、アブセントシルエットが鼓動するように大きく脈打ち、強烈な閃光を放ち始めたのだった。




リミットフォームはリミット技として技としての対象のスキルの発動条件とか色々わかります。後、ちなみのこの時憧憬一途(リアリス・フレーゼ)も一時的に出ています。
後、ディメンションリンク時でも同じ効果がでます。
◯武装紹介
・レーザーブレード
扱い方としてライトセイバーに近く。殺傷力は高いが刀身が軽く扱いづらいため特訓が必要。今のところは接近し押し当てて起動してモンスターやハートレスを倒すみたいな使い方しかされていない
  1. 目次
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