どんなワールドに行くのかゲームシステムはどうなるかとか欲を言えば発売日とか
もっと欲を言えば発売日は2028年の1月までに出てほしいです
野営地の一角にてドリームイーターのパートナー選びを終えたはずのラウルたちの様子を見に来たソラは、ラウルたちが割り当てられている天幕へと軽い足取りで足を運んだ。
「ラウル、ナルヴィ、アリシア、クルス……みんな、調子はどう……って、ええっ!?」
天幕の中に入ったソラは、そこにあるはずのない信じられない光景に目を真ん丸に見開いた。
寝床や武具の手入れ道具が散乱しているはずの天幕の中央には、いつの間にかどこから持ち込んだのか、立派な木製の机と椅子が整然と並べられていた。そして、その教壇に立つかのように偉そうに腕を組んでいるのは、黒いコートを纏った男――機関のヴィクセンであった。
「……と、先ほども言った通り、空中に浮くことによる最大の利点としては、一歩目の蹴り出しで瞬時に最大速度を出せることにある。では、これは何故かね、ラウル?」
まるで学校の授業のような、異様でシュールな空間。唐突に指名されたラウルは、モンスターを前にした時よりも大量の冷や汗を滝のように流しながら、震える声で答えた。
「よ、予備動作がないっすから……?」
「では何故、予備動作がない?」
「ええと……走るというのは……その……」
ラウルは完全に口ごもってしまった。言いたいことは何となく頭の中にあるのだ。しかし、彼はそれを理路整然と上手く言葉にして表現することができないのか、ラウルがうんうん唸って知恵熱を出しそうになっていると、横から凛とした、氷のように透き通る声が響いた。
「走るというのは、地面を蹴り続けて推進力を得ることだ。最初の一歩だけならば誰でもあれと同じで、一歩目から徐々に速度が変わっていく。しかし、浮くことで一歩目で全力の速度が出せ、さらにはそれにより、方向転換の時ですら速度は変わらない。そういうことだな?」
「ふむ、そうだ。その通りだよ」
まるで用意されていた模範解答を読み上げるかのような、完璧すぎる回答を提示したリヴェリアに対し、ヴィクセンは深く、そしてひどく満足げに頷いた。
「流石です、リヴェリア様!」
アリシアが尊敬の眼差しでエルフの王族を褒め称え、ラウルは助かったとばかりに安堵の息を吐く。
「しっかりと構造を理解し、頭に叩き込みたまえ。感覚だけで戦う者は、いずれ限界を迎えるぞ」
ヴィクセンのねちっこく厳しい言葉に、ラウルは「はいっす!」と弾かれたように姿勢を正し、彼から渡されたプリントのような紙に必死の形相でペンを走らせ始めた。その横では、彼が選んだドリームイーターであるタツホースが、主の焦りなど全く気にする様子もなく、退屈そうにプカプカとシャボン玉を吹かせて空中に浮いている。
「いったい、何してるんだ……?」
ダンジョンの深淵で繰り広げられる奇妙な授業風景に、ソラが呆然と呟く。すると、「あ、ソラさん」と、相棒のハサミクワガタを優しく撫でていたクルスが気がついて小走りで近づいてきた。
「よっ、クルス。それで、これはなにが起きてるんだ?」
ソラの問いに、クルスは周囲を気にしながら、小声でこれまでの経緯を語り始めた。
「実は……ソラさんが来る少し前に、リヴェリア様の杖がラウルさんの頭に振り下ろされて、『すいませんっ!?』ってラウルさんが情けない悲鳴を上げて、みんなで笑ってたんです。そしたら……」
クルスの脳裏に、先ほどの光景が鮮明に蘇る。
笑い声が響き渡る和やかな天幕の中。突如として、ズゥンッ……と空間が不自然に歪み、禍々しい漆黒の闇の回廊が音もなく開いたのだ。
『申し訳ないが、お楽しみはまた別の機会にしてくれたまえ』
闇の中から悠然と現れたのは、冷酷な笑みを浮かべた黒いコートの男――ヴィクセンだった。
『なんのようよ』
突然の正体不明の侵入者に、猫人のアキが即座に武器を構え、第一級冒険者としての鋭い殺気を放って警戒態勢を取る。しかしヴィクセンは、彼女の放つ威圧感をそよ風のように意に介さず、涼しい顔で告げた。
『先ほど言った、力の使い方を教えに来ただけだ』
『……お前は何番だ?』
リヴェリアが静かに、しかし威厳を持って問うと、ヴィクセンはパキッと乾いた音を立てて自身の金髪のカツラを取り外した。精巧な変装の下から現れたのは、つるりとしたスキンヘッド。そして、額に刻まれた『21』という数字を堂々と見せつける。
『私はヴィクレプリカ21』
『力の指南はありがたいが、すまないが別の日にしてくれないか。下手な付け焼刃では、逆に実戦で致命的な支障が出かねない』
リヴェリアは極めて冷静な判断を下し、そう言ってきっぱりと断ろうとした。だが、ヴィクレプリカ21は不敵な笑みを崩さない。
『それは分かっているとも。しかし、盾を媒介に使う力は、魔法と言うより魔剣の使いかたに近い』
『ほう……』
魔剣の使い道に近い。その知的好奇心をくすぐる言葉に、リヴェリアは興味を示したように翡翠の瞳を細めた。少しの逡巡の後、彼女はゆっくりと頷く。
『ふむ、では頼むぞ』
リヴェリアの許可が出た直後だった。ヴィクレプリカ21の背後にダスクが出現するとダスクたちは驚くほど素早く、かつ滑らかな動きで天幕の中に次々と机と椅子を運び込み、あっという間に即席の教室を作り上げてしまったのである。
『では、座り給え。僭越ながら、君たちにご教授をさせてもらおう』
「……それで、授業が始まったってわけです」
クルスの丁寧な説明を聞き終え、ソラは納得したように「なるほどね」と深く頷いた。どうやら授業の最中、リヴェリアがヴィクセンのアブセントシルエットと戦った時に出現した『クローン』を出現させる方法を興味津々で質問したらしいが、ヴィクセンは『知識が少ない君には難しい』と、暗に『君の知能では難しい』という意味を込めた嫌味な返しをしたらしい。二人の間にはバチバチと見えない火花が散っていたが、現在は『浮くこと』についての授業に落ち着いているようだ。
ソラは改めて、ラウルたちを含めた周りを見渡した。アリシアの横にはヤギサイバーが大人しく寄り添い、クルスの近くにはタイホウカブトが控えている。ラウルたちも、無事に各々のドリームイーターとの親交を深められているようだ。
「みんな、ちゃんと準備できてるみたいで大丈夫そうだな」
ソラは安心して柔らかく微笑むと、「じゃあ、俺ティオナとティオネのところに行ってくる!」と軽く手を振り、熱心な知の講義が続く天幕から足音を忍ばせてそっと去るのだった。
・
ラウル達の野営地を離れティオナとティオネを探すべく歩いていたソラは、数多の天幕が立ち並ぶ通路の先で、見知ったアマゾネスの姿を見つけて小走りで駆け寄った。
「おーい、ティオネ!」
「あら、ソラじゃない」
「ドリームイーターのパートナーは、もう決まったのか?」
「ええ、もちろんよ」
ティオネが自信に満ちた不敵な笑みを浮かべて力強く頷いたのと同時。彼女の足元の空間から、ポンッと弾けるようなポップな音と共に、色鮮やかな光の粒子が舞い散った。
光の中から現れたのは、真っ白な布を被ったような愛らしいオバケの姿をしたドリームイーター――オバケゴーストであった。フワフワと宙に浮くその姿に、ソラは不思議そうに首を傾げる。
「へえ!ティオネは、その子にしたんだね。でも、ティオネの戦い方なら、もっと攻撃的なドリームイーターを選ぶと思ってたけど」
「ああ、これ?団長がこの子を選んでいたから、私もお揃いにしたの。それだけよ」
フィンとお揃いであるという事実だけで十分だとばかりに、ティオネは乙女のように頬を染めてフフッと笑う。
「そっか!ティオナは?」
「あの子なら、体の熱が治まんないからって、向こうでずっと武器を振ってるわよ」
「そっか、じゃあ俺、ティオナのところに行ってくるよ」
「ちょっと待ちなさい、ソラ」
元気いっぱいにティオナの元へ向かおうと踵を返したソラを、ティオネが少し真剣な声色で呼び止める。
「なんだ、ティオネ?」
「私、団長に頼まれて、これからレフィーヤの様子を見に行くところなの。あんた、一応レフィーヤのキーブレードの師匠でしょ?極度に緊張しているあの子の心をほぐすのを、少し手伝ってくれないかしら」
「分かった」
ソラはティオネの頼みに快く頷き、二人並んでレフィーヤが割り当てられている天幕へと向かった。
静かに天幕の入り口の布を少しだけ捲り、中を覗き込む。そこには、薄暗い空間の中心で悲痛な表情を浮かべながら正座をし、ぶつぶつと呪文のように独り言を繰り返すエルフの少女の姿があった。
「……失敗できない……明日は、絶対に失敗できない……っ」
まるで自分自身の首を真綿で絞めつけるような、強迫観念に囚われた痛々しい響き。
深層という未曾有のプレッシャー。歴戦の第一級冒険者たちに囲まれ、その足を引っ張ってはならないという重圧。そして何より、同じ年齢であるはずの少年が、自分には到底追いつけないような異様な速度で英雄への階段を駆け上がっていくことへの強烈な焦り。
己の力量不足を誰よりも痛感している彼女の精神は、限界ギリギリのところまで追い詰められているのは明白だった。
その今にも壊れてしまいそうな様子を心配そうに見つめていたソラは、ふと何か良い考えを閃いたように顔を上げ、隣に立つティオネの耳元へと顔を寄せた。
「ティオネ、俺にいい考えがある」
「……それで、上手くいくのかしら?」
「やってみないとわからないよ」
「分かったわ。あんたに乗るわ」
ティオネは小さく息を吐くと、第一級冒険者としての卓越した技術で足音を完全に殺し、レフィーヤの背後へと静かに忍び寄った。そして、強張っている彼女の華奢な両肩を、背後からグイッと力強く掴み取った。
「肩の力、入りすぎよ?」
「ひゃあっ!?」
極限まで張り詰めていた静寂を突如として破られたレフィーヤは、ウサギのように飛び上がるほど仰天して甲高い悲鳴を上げた。激しく波打つ心臓を胸元で抑えながら、涙目で慌てて後ろを振り返る。
だが、そこで彼女の視界に飛び込んできたのは、予想だにしない、あまりにも突拍子もない光景だった。
「べーっ」
ソラがレフィーヤの顔のすぐ近くまで顔を寄せ、青い瞳を極端な寄り目にし、だらしなく舌を大きく突き出した、渾身の『変顔』を披露していたのだ。
ソラのそのあまりにもふざけた、しかしどこか無邪気で愛らしい表情を見て、レフィーヤの優秀なエルフの頭脳は一時的に完全にショートし、思考が真っ白になった。
深層への極限の緊張感、仲間に対する劣等感、明日への底知れぬ恐怖。様々な黒い感情が渦巻いていたはずの彼女の心に、真っ先に浮かんだ直感的な感想は、ただ純粋に『かわいい』というたった四文字だった。
レフィーヤは、ソラが見せている間の抜けた、しかし妙に愛らしいその表情にすっかり見入ってしまった。先ほどまで彼女の心を重く苦しめ、冷たい鎖のように雁字搦めにしていたネガティブな感情の澱が、魔法のようにゆっくりと溶けて消えていく。
そして、張り詰めていた感情の糸が、プツンと完全に切れた瞬間。
「ぷっ……!な、何ですかその顔……!?」
レフィーヤは到底我慢などできず、両手で口元を覆いながらも、震える唇からクスクスという笑い声を吹き出させてしまった。隣でその様子を見ていたティオネも、ソラのあまりの落差と破壊力に肩を震わせ、必死に笑いを堪えようとしている。
「ほら、うまくいった!オレが見たかったのはそういう顔だよ!」
レフィーヤが自分の変顔を見て声を出して笑っているのを確認し、ソラは満面の笑みを浮かべてティオネに向かって明るくピースサインを送った。
「ま、まあ……あんな顔されたら、笑わない方が無理ね」
ティオネは小さく咳払いをして、なんとか第一級冒険者としての威厳を取り戻そうとするが、その口元はだらしなく緩みっぱなしだった。
「ど、どうして二人はここにいるんですか?」
「団長に頼まれてね。あんたが一人で思い詰めてるんじゃないかって」
「俺は、ティオネに同行する形で来たんだ」
「で、何やってたのよ?あんな暗いオーラを出して」
「あ、その……明日は絶対に失敗しないようにって、精神統一の瞑想を……」
ティオネのストレートな問いに対し、レフィーヤは言葉を濁しながら深くうつむいた。己の力量が、この過酷な深層域に伴っていないことを痛いほど自覚している彼女の声は、強大な第一級冒険者を前に自然と尻すぼみとなっていった。
気負いすぎている後輩の痛々しい姿に、ティオネは優しく小さく嘆息する。そして一歩近寄ると、レフィーヤの両の頰を大きな手でむにっと包み込むように挟み込んだ。
「えっ?」
「レフィーヤ。前に51階層で、アイズが言ったでしょ?『レフィーヤは私達が守る』って」
頰から直接伝わってくる、ティオネの手の力強さと確かな温もりを感じながら、レフィーヤはハッと瞠目した。姉のように優しく諭すティオネは、至近距離で囁くように言葉を続ける。
「それで、そんな私達を最終的に助けるのが……」
「……私の、『魔法』」
レフィーヤの口から自然とこぼれ落ちたその答えに、ティオネはひときわ優しい、満足げな微笑みを浮かべた。
「そうだよ、レフィーヤ。それに、さっきみたいな暗い顔をしてちゃダメ。明日は、笑顔で行くべきだよ」
「ソラの言う通りね。ほら、もっと笑いなさい」
「ふぇっ!?」
ティオネはソラの言葉に深く同意し、挟み込んだレフィーヤの頬をうりうりと揉みくちゃにしながら、無理やり笑顔の形に引き伸ばそうとしてくる。手荒だが愛情に満ち溢れたそのスキンシップに、レフィーヤの肩から完全に余計な力が抜けていくのがわかった。
「あはは、く、くすぐったいですっ」
照れ恥じながらも、レフィーヤはまるで仲のいい姉妹のようにティオネの腕の中でじゃれつく。身をよじって明るい笑い声を上げる彼女たちの姿を、ソラは温かい微笑みを浮かべて見守っていた。
その時、抵抗しようとしたレフィーヤが体勢を大きく崩した。
「きゃあ!」
短い悲鳴と共に、二人はじゃれ合うように絡み合いながら、天幕の布の床へと倒れ込んだ。
ドサッというくぐもった音。床の布の上に、レフィーヤの鮮やかな山吹色の髪と、ティオネの艶やかな黒髪が、まるで大輪の花が咲いたように美しく広がる。仰向けの体勢で寝転んだ二人は、すぐ近くにある互いの瞳を見つめ合い、その可笑しさに耐えきれず再びクスクスと笑い合った。
「なんだか、すっかり疲れが抜けちゃいました」
「そう。心細いなら、今日は一緒に寝てあげるわよ?」
「そ、それは……えっと、いいんですか?」
レフィーヤが頬をほんのりと朱に染めて、遠慮がちに尋ねた、その時だった。
ふわりと、温かい光の粒子と共に
「ほら、あんたもこっちに来なさい」
ティオネが手招きすると、オバケゴーストは嬉しそうにフワリと宙を舞い、彼女たちの元へとすり寄ってきた。ドリームイーターたちも交えた、温かく平和な時間が天幕の中をたっぷりと満たしていく。
その心温まる光景を最後まで見届けていたソラは、安心したように小さく頷いた。
彼女の心から、もう重い鎖は完全に外れた。それを確信したソラは、二人の邪魔をしないようにそっと足音を殺し、静かに天幕から立ち去るのだった。
・
野営地の中でも東端。ダンジョンの大樹林を眼下に眺望できる一枚岩の端っこで、ソラとティオナは互いに距離を取って静かに見つめ合っていた。その真剣な光景を、彼女のパートナーであるオーラライオンが少し離れた場所からじっと見守っている。
ティオナが構えるのは、
本来の柄の先に据え付けられたその物質は、小さな立方体を幾つも組み合わせたような剣であった。光沢のないくすんだ緑色をした刀身は先端に向かって尖り、刃の輪郭は細かな段差の連続で構成されている。大剣の洗練された造形とは対照的に、全体的にゴツゴツとした角ばった形状だ。
大剣の柄と強引に繋げられている鍔と短い柄の部分は、深い紫色で統一されていた。鍔は単純な十字型をしており、滑らかな曲線は一切存在しない。複数の四角いブロックが強固に結合しただけの、装飾性を削ぎ落とした無機質で直線的な造形だが、その無骨な刃が逆側に備わったことで、武器全体が異様な威圧感を放っていた。
それの名は『エクスカリバーグミ』。元々ティオナが自身の
対するソラは、50
武器を構える両者のうち、先に動いたのはティオナだった。
「いくよっ!」
ティオナはエクスカリバ・ローランをブンッ、ブンッ、という激しい音とともに、空気を抉り取るように振るってソラに迫る。ソラはそれをダブルレーザーブレードで的確に対処しながらも、ティオナの隙を突いて大きく飛翔。そして、空を舞いながらダブルレーザーブレードによる光波をティオナに向けて放った。
「負けないよっ!」
ティオナは負けじと、エクスカリバーグミによる衝撃波を放つ。光波と衝撃波が激しくぶつかり、大きな爆音が鳴り響いた。その反動を利用して地面に着地したソラが、一気にティオナへと接近する。
そのまま二人は激しい剣舞を舞い、残像を刻むほどの高速度で互いの力量と武器の性能を試すための、一通りの攻撃の型を繰り出していく。
やがて、ティオナの右手がエクスカリバ・ローランから離れ、「待った」のジェスチャーをソラに向けると、ソラはピタリと動きを停止させた。
二人の体からは熱い呼気と肢体が上気し、肌がほんのりと赤くなっている。ソラの顔や、ティオナのくびれた腰や臍に汗が伝っていく中、二人はようやく「ふー」と顔を腕で拭った。
「しっかり休めと言ったじゃろうが」
そこへ、頭にドリームイーターであるイイフラワーを乗せたガレスが現れた。
「「ガレス!」」
二人が名前を呼ぶと、ガレスは呆れたように返事をした。イイフラワーも同調するように花弁を揺らす。
「でも、ほら!武器の試し斬りもしなきゃいけないし、それに……アルゴノゥト君のあんな姿を見たら、体が昂っちゃってさ!」
元気に言い訳をするティオナに対し、ガレスは溜め息をつく。
「それで、武器の調子はどうだ?」
「うーん、
ティオナが武器の不満を述べると、ガレスは苦笑する。
「お前のは突貫で作り上げた代物じゃからな。……すまないなソラ、ティオナの我儘に付き合わせてしまって」
「いや、ずっと戦ってたわけじゃないし、大丈夫だよ!」
ソラは爽やかに笑って首を横に振った。そして、ガレスの頭に乗っているイイフラワーを見て、少し意外そうな声を上げる。
「ガレスは、その子にしたんだね」
「うむ。傷を喰らってもすぐに回復できるこ奴がいれば、ラウルたちの回復の手をアイズやティオナたちに向けられるからな」
「そういう選び方もあるんだね」
ソラは感心しながら、寄ってきたオーラライオンの鬣を優しく撫でた。
「戦い以外に、何をしていたんじゃ?」
「ソラに、外の世界のことを教えて貰ってたんだ!」
「ほぉ、外の世界か……」
ティオナの言葉に、ガレスは興味津々な様子を見せる。
「すまぬがソラ、儂にもその外の世界について教えてくれないか?」
「いいよ!」
『俺はおもちゃさ。それがどうした?』
暗闇が渦巻く異質な空間の中。底知れぬ闇の力を誇示し、心をさげすむ黒コートの男――若きゼアノートに対し、ウッディは一歩も退くことなく堂々と胸を張った。自身の存在をちっぽけな無機物だと嘲笑われようと、彼の意志が揺らぐことはない。
『心のことは、おまえよりわかってる』
保安官のバッジを輝かせ、ウッディは毅然とした態度で真っ直ぐに言葉を放つ。そこには、複雑な理屈をこねくり回す敵の詭弁を真っ向から両断する、揺るぎない説得力が宿っていた。
『アンディが俺たちを心から愛してくれたからな』
その声には、持ち主である少年から注がれた愛情への絶対的な信頼と、誇りが満ち溢れていた。愛されることで芽生えた確かな『心』の証明に、背後で見つめていたソラもまた、力強く前へと歩み出る。
『ウッディたちは仲間と引き離されても、思い合う気持ちはより強くなっていた』
ソラは若きゼアノートを真っ直ぐに見据え、おもちゃたちの絆を代弁するように言い放つ。離れ離れになっても決して消えることのない強い想いを間近で見てきたからこそ、ソラの言葉には確かな熱がこもっていた。
『何にでも心は宿り、繋がることで強くなる』
自身の胸にそっと手を当て、ソラはこれまでの旅で得た真実を突きつける。心を持たない空っぽの器など存在しない。誰かを想う繋がりこそが、どんな脅威をも打ち払う最大の力となるのだと。
『今もそうだ。きっとアンディたちもみんなを待ってる』
ソラの瞳に、一切の迷いはなかった。彼の確信に満ちた叫びと共鳴するように、繋がりを信じる心から目映い光が溢れ出す。その強烈な光の奔流は、空間を覆い尽くしていた禍々しい闇を完全に吹き飛ばしていくのだった。
ソラの言葉に、ウッディは深く頷いた。
『あぁ。俺たちはアンディの部屋に帰る』
『愛するみんながいる場所に帰るんだ』
二人の揺るぎない決意が、周囲に蔓延る闇を押し返していく。ソラは宙に浮かぶ巨大なロボットの足元で意識を失っているバズを見据え、さらに声を張り上げた。
『相棒もいっしょにな』
『ゼアノート!おまえたちがその心を否定するなら、やっぱりそこには光があるんだ』
ソラの叫びと共に、目映い光が空間を切り裂いた。繋がりを信じる心から溢れ出した強烈な光の奔流は、ゼアノートを弾き飛ばし、周囲を覆っていた禍々しい闇を完全に吹き飛ばす。闇の呪縛から解放されたバズが、空中に開いた亀裂へと落下していく。
『ウッディ、今だ!』
ソラの合図を受け、ウッディは迷わず駆け出した。自身の背中についているリングを引き延ばし、投げ縄のように勢いよく振りかぶる。
『ハッハー!待たせたな、カウボーイの登場だ!』
内蔵された音声が陽気に響き渡る中、放たれたリングは正確にバズの足首を捉えた。ウッディは全体重をかけて紐を引き寄せ、間一髪のところでバズを闇の底から救い出す。無事に床に引き上げられたバズを抱き留め、ウッディは安堵の息を吐いた。
『ウッディ……私はどうしてたんだ?』
目を覚ましたバズが、戸惑いながら身を起こす。ウッディはいつもの調子でおどけてみせた。
『何のことだ?おかしなモードのスイッチでも入ってたんじゃないのか?』
『そんなはずは……』
『ありがとう、ウッディ』
自身の身に起きた異常を察しつつも、バズは真摯に感謝の言葉を口にする。ウッディは優しく微笑み返した。
『おかえり、バズ』
痛烈で秀逸な啖呵から始まる見事な救出劇。その熱い逆転の物語を聞いたティオナは飛び上がって大喜びした。
「ウッディって凄くかっこいいね!難しい理屈なんて関係なしに、友達のために怒る姿はまるで英雄みたい!」
ガレスもまた、人間から注がれた愛によって無機物が確かな心と強さを得るという絆に深く感銘を受けた。
「これほど見事な心の在り方はあるまい」
感嘆の声を漏らすガレス。そしてソラたちは、彼らの想いを背負って出現したハートレスであるキングオブトイズとの激闘を制したのだった。
この一連の壮大な冒険譚を改めて聞き終えたガレスは、ふと自嘲気味に呟いた。
「しかし、ものに心が宿る世界があるとは…もし儂がその世界に行ったら、一体どんなおもちゃになるんじゃろうな?」
そう思いを馳せると同時に、人間が作った玩具が心を持つという外の世界の法則に改めて驚きを隠せずにいた。
「どんなものにだって、心は宿るんだよガレス」
そこへソラが、少しも揺らぐことのない真っ直ぐな瞳で語りかけた。
その言葉は、隣で聞いていたティオナの胸に強く突き刺さる。彼女はハッとした様子で、自身の右手へと意識を集中させた。すると、眩い光の粒子が手元へと急速に集束し、重々しい金属音を響かせながら、
(どんなものにだって心が宿るのなら、私の
ティオナは愛着のある巨大な双刃を両手でそっと見つめながら、これから出会うかもしれない奇跡に胸をワクワクさせて声を弾ませる。
「私のも、いつか心を持つのかな!」
「お前の場合、日頃の荒っぽい使い方から『もっと丁寧に使え!』と真っ先に文句を言われそうじゃな」
「ええーっ!最初に怒られるのは嫌だよ!」
唇を尖らせるティオナに対し、ガレスはまるで歳の離れた保護者のように優しく諭す。
「じゃったら、もっと丁寧に使ってやれ」
その言葉を受けて、ティオナは小さく唸りながらこれまでの自身の戦い方を真剣に振り返り始めた。
「うーん、私も技とか覚えた方がいいのかなぁ。ねぇソラ!リヴェリアが使ってた『ザンテツケン』、私にも教えてくれない!?」
あからさまに目を輝かせて無茶な要求をしてくるティオナに対し、ソラは困ったように頬を掻きながら苦笑交じりに首を横に振った。
「リヴェリアが使ったものと俺のザンテツケンは、色々違うから……」
そんな二人を見て、ガレスは静かに告げた。
「ティオナ、お前はそのままで良いと思うぞ。それにリヴェリア曰くドリームイーターから覚えた技は無理やり体を動かすからか使った直後に体が硬直するからか必殺として以外にはあまり使えんようだぞ」
ドリームイーターの恩恵による得た技による強制的な挙動は、使用者の肉体に隙をもたらす。絶え間ない連撃と持ち前の俊敏さで戦場を縦横無尽に駆け回るティオナには発動直後に体が硬直してしまうのは極めて相性が悪く、致命的な弱点になりかねないと考えたガレスは歴戦の戦士としての的確な分析から、リスクを負って他人の技を齧るよりは自身の強みを極限まで生かした方がよほど戦果に繋がると、ティオナの単純さは何物にも代えがたい立派な長所なのだと肯定したのだ。
しかし同時に、歴戦の猛者としての冷静な視線も忘れてはいなかった。
「じゃが、技巧派の強敵と対峙した際の戦闘経験を積むという意味では、ソラからの指導を受けることには大いに賛成じゃ。ソラ、もしそんな機会があれば頼む。しっかりとした報酬は支払おう」
頭を下げるガレス。だがソラは、一切の躊躇もなく人懐っこい笑顔を浮かべてその申し出を快く断った。
「そんなものはいらないよ!友達を助けるためなら、対価なんて必要ないよ」
彼の純粋な善意に触れ、ティオナは手にした
「明日、何があっても、どんな敵が出ても!私はアルゴノゥト君みたいに戦って、アイズもレフィーヤたちも、絶対に守り抜いてみせる!」
力強い宣言。その瞳には微塵の迷いも恐怖もなく、ただ仲間を想う真っ直ぐで力強い決意だけが満ち満ちていた。かつてのようにただ戦うだけの刃ではなく、守るべきもののために振るわれる強固な意志。その頼もしい少女の成長を目の当たりにし、ガレスは心配するだけ取り越し苦労だったかと深い安堵を滲ませて苦笑する。
「おう、一緒に頑張ろうな!」
頼もしい仲間に、ソラも心からのエールを送る。
天幕の中に温かい空気が流れる中、ソラは周囲の様子を見回した。
「みんなのドリームイーターが決まったのも見届けたし、俺はこれからフィンのところへ向かいたいんだけど、居場所わかる?」
「恐らくは、西端の切り立った崖にいるベートの元じゃろう」
ガレスから適確な居場所を教えられたソラは、元気よく感謝を告げて手を振ると、指揮官の待つ場所へと迷いなく走っていった。
次第に小さくなっていくソラの背中を静かに見送った後、ガレスは大きく息を吐き、自身の大きな手のひらへと意識を向けた。刹那、彼の手に眩い光が集中し、ティオナの持つ得物と同じ
「ガレス?」
突然の武器の召喚に不思議そうな顔をして見つめるティオナに対し、ガレスは不敵に軽く一笑してみせた。
「少し付き合ってやるから来い。それで体を冷やして、すぐ寝ろ」
明日の決戦を前にして昂ぶる少女の心を察した、彼なりの温かい誘いだった。
「うんっ!」
ティオナは弾んだ声で満面の笑みを返す。大剣を激しく振り鳴らし、二人は瞬く間に得物を交え始めた。
夜の静まり返った野営地に響き渡る、激しい金属のぶつかり合う調べ。それは、明日の死地へと赴く少女の心を優しく包み込む、心地よい子守唄代わりにその耳を震わせていった。
最近ふと思ったんですけどヘディンとゼアノートって年代が一緒なんだなと思いました。
次回から59階層への
ベートの箇所は省略しました。ごめんねベートさん