キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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第58話 深淵に蠢く影、深層を駆ける烈風

 ダンジョンのどことも知れない、完全に閉ざされた広間。出入り口はただ一つしか存在せず、壁に宿るべき燐光は極端に乏しい。その空間は、茫漠たる黒々とした『闇』に支配されていた。

 暗闇の中で異彩を放つのは、足元を埋め尽くすようにうずたかく積まれたハートレスの残骸と、天井で蠢く無数の触手である。それは迷い込んだモンスターを捕食し続ける巨大な『食人花』であり、その顎から赤黒い紅血が絶え間なく滴り落ち、冷たい石床を叩く生々しい水音を空間に響かせている。

 その血生臭い広間の中央で、血のような赤髪と冷徹な緑色の瞳を持つ女――レヴィスが食事を行っていた。

 耳をつんざくような、巨大な竜の断末魔の絶叫が広間に木霊する。

 レヴィスは冒険者から剥ぎ取ったような傷んだ戦闘衣に包まれた、豊満かつしなやかな肢体を躍動させ、自身の背丈ほどもある大剣で巨大な竜を地面深くへと縫い付けていた。まるで虫の標本のように大地へ固定され、脱獄を許されない哀れな獲物。

 

「……燃費が悪いな、この肉体(からだ)は」

 

 気怠げな息を吐きながら呟くレヴィス。24階層の戦いで『アリア』――アイズから受けた傷は彼女の奥深くまで達しており、その肉体の活力を著しく消耗させていた。人と怪物の異種混成であり、魔石を喰らうことで能力を底上げする『強化種』である彼女にとって、その傷を癒し自己を強化するためには、純度の高い魔力が必要不可欠だった。

 肉を裂き、強引に骨を砕き割る生々しい響き。レヴィスは生きたままの竜の胸ぐらを素手で引き裂き、中から脈打つ巨大な『魔石』を無造作に引きずり出した。深い闇の中で、魔石が放つ紫紺の輝きと、彼女の鮮烈な赤髪、そして氷のように冷たい緑眼が、極めて不気味で美しい色彩の対比を描き出す。

 紫紺の石を躊躇なく口に放り込み、無機質で不快な破砕音を響かせて噛み砕き、強引に飲み込む。魔力という極上の餌を胃の腑に収めた自己強化の快感に、彼女が長く息を吐いた直後だった。動力源を失い、本来ならば即座に灰となって消滅するはずの竜の亡骸に、影から無数の小さなハートレスが群がり、残された『心』を容赦なく奪い去った。

 心を簒奪された竜は、不気味に骨格を軋ませながら立ち上がり、ハートレス――『リビングボーン』へとその姿を変貌させる。

 

「……」

 

 そんな光景を、広間の入り口からレヴィスを紫紺の重厚な外套を深く被り、顔には不気味な紋様が刻まれた仮面をつけた人物が静かに見下ろしている者がいた。

 仮面の人物は、無言で一冊の本を放り投げ、レヴィスの足元へと滑らせた。

 

「これを読め」

 

 男のようであり女のようでもある、複数の肉声が不気味に折り重なった、背筋に悪寒を走らせる声音。

 

「……なんだ、これは」

 

 血まみれの口元を手の甲で拭いながら、レヴィスは足元の書物を冷たく一瞥する。

 

「連中が59階層へ行き、あれを倒しそうになれば……お前はこの本に記された通りに動け」

「私に指図をする気か?そんなことは、お前が――」

 

 格下の命令に対する忌々しさを露わに言い返そうとしたレヴィスは、ふと冷ややかな緑眼を細め、そこに酷薄な笑みを浮かべた。

 

「――そう言えば、お前は手痛い失敗をしたのだったな」

 

 その言葉が引き金となり、仮面の人物の肩が微かに震え、明確な動揺が走る。

 レヴィスに己の最大の失態を真正面から突かれたことに対し、仮面の奥から苛立たしい舌打ちの音が漏れた。

 

「光を捕らえることに失敗し、さらには私のハートレスを無意味に消滅させただけの無能。お前の神は、もはやお前などに任せず、私に押し付けたのだな」

「勝手な憶測で、神の意思を測るな。不敬な女め」

 

 苦言をこぼす仮面の人物。だが、相手の尊厳など歯牙にもかけないレヴィスは、冷酷なロジックでさらに心理的な追い打ちをかける。

 

「そんな調子では、エニュオの癇癪が収まったところで、お前のところにエニュオは戻ってこないだろうな。お前はただ――」

「黙れッ!!」

 

 確信を突かれたことで逆上した仮面の人物が、金切り声を上げて叫んだ。その手から、極度に圧縮されたシャドウの弾丸が放たれる。

 回避困難な速度で迫る闇の弾撃だったが、強化を終えたばかりのレヴィスは視線を向けることすらせず、首をわずかに傾けるだけの最小限の動作でそれを容易く躱してみせた。

 

「闇の深淵に堕ちろ、レヴィス!!」

 

 激昂と屈辱に染まった仮面の人物が叫ぶと、広間の闇が大きく渦を巻き、空間そのものを割り裂くようにして2体のハートレスが出現した。

 1体は、純白のドレスを着た美しくも不気味な女性の姿。顔は仮面で覆われ、口元は完全に縫い合わされている。背中には、一切の風切り音を立てずに羽ばたく巨大な白い翼を備えていた。

 もう1体は、巨大で不格好な獣の姿。全身が無数の『口』で覆われており、常に何かを咀嚼し続けている。その体は、これまでに食べられたおぞましい肉塊や無機物の破片がデタラメに結合した、暴食の権化とも言える質量体であった。

 レヴィスは不快げに顔を歪めると、自身の背後の影から先ほど生み出した巨大な竜を含むリビングボーンの集団と、自身に付き従うハートレスを同時展開し、出現した2体へと迎撃に向かわせた。

 広間の中で、怪物の群れ同士による凄惨な殺し合いが始まる。だが、その結果は戦闘というよりも、あまりにも一方的で残酷な蹂躙劇であった。

 巨大な獣の姿をしたハートレスは、回避や防御という戦術概念すら持ち合わせていなかった。圧倒的な質量と体積を誇るその巨体は、群がってくるリビングボーンの鋭い斬撃やハートレスの打撃を意に介さず、正面から受け止める。いや、受け止めるのと同時に、全身に無数に開いた顎でハートレスの四肢を捕らえ、武器や骨の破片ごと強引に自らの肉体へと取り込んでいくのだ。攻撃すればするほど喰われ、敵の質量を増大させてしまうという、絶対的な防御と捕食のメカニズムがそこにはあった。

 対照的に、純白のドレスを纏った有翼のハートレスは、極限まで洗練された静謐の中にあった。縫い合わされた口元からは一切の咆哮を発さず、巨大な翼が空気を叩く音すら皆無。音響という戦闘における重要な索敵情報を完全に遮断された状態から放たれる目に見えない風の刃が、空間そのものを無音で切断し、レヴィスのハートレスを細切れの肉片に変えていく。

 圧倒的な質量による捕食と、不可視の神速による斬撃。性質の全く異なる二つの理不尽な力の前に、レヴィスが展開した百近いハートレスの群れは文字通り一方的な蹂躙を受け、瞬く間にその数を減らしていく。

 己の召喚した魔獣たちが圧倒的な力で敵を粉砕していく様を見て、仮面の人物は溜飲を下げるように小さく鼻で笑った。

 だが、その圧倒的な劣勢を前にしても、レヴィスは冷徹な緑色の瞳に焦りの色を微塵も浮かべてはいない。彼女は最初から、急造の数合わせの駒たちがこの強力な二体に勝てるとは思っていなかった。自軍が惨たらしくすり潰されるまでのこの十数秒間は、敵の戦力と挙動の法則を解析し、かつ仮面の人物の視界を物理的に塞ぐための『目隠し』に過ぎなかったのである。

 そして、肉塊の獣が巨大な顎を振りかぶり、自軍の死骸ごと空間を喰らい尽くそうと大きく前傾姿勢を取った瞬間。その規格外の巨体が、仮面の人物とレヴィスを結ぶ射線を完全に遮断する、完璧な死角を作り出した。

 

「そこ」

 

 声を発するよりも速く、レヴィスは踏み込んだ。

 冷たい石床が爆砕するほどの驚異的な脚力による蹴り出し。彼女は己の配下たちがすり潰される殺し合いの喧騒を置き去りにして、一瞬にして神速の領域へと到達する。

 獣の巨体の影から突如として現れたレヴィスの姿に、仮面の人物が気づいた時にはすべてが終わっていた。

 瞬きする間も与えない神速の一閃。仮面の人物に魔法による反撃や防御陣を展開する隙など一切許さず、大剣の無骨な刃が旋風のように振るわれ、男の両腕と両足を容赦なく空間ごと切断した。

 

「ガァアアアアッ!?」

 

 四肢を同時に失い、激痛のあまり声にならない絶叫を上げながら、無様に地面へと転がる仮面の人物。

 その直後、リビングボーンの集団とレヴィスのハートレスを惨殺し終えた2体のハートレスが、主を守るべく凶器を翻してレヴィスへと背後から襲い掛かってきた。

 だが――。

 

「止まれ」

 

 レヴィスの冷たく威圧的な絶対的な一声。その直後、襲い掛かろうとしていた2体のハートレスは、目に見えない巨大な鎖に縛られたかのように空中で完全に停止した。

 どんなに強大な力を持つハートレスとはいえ、彼らは所詮ハートレスに過ぎない。より純度の高い闇を宿す上位の存在であるレヴィスの前では、その使役権を上書きし、絶対的な支配下に置くことなど容易いことだった。

 

「……お前に、ゼウスとヘラのところのハートレスはもったいない。私が有効に使ってやろう」

 

 四肢をもがれ、自身の流した血の海に沈む仮面の人物を冷酷に見下ろし、レヴィスは傲慢に言い放つ。

 

「安心しろ。言われた通り、ちゃんと『アリア』は連れてきてやる」

 

 絶対的な実力差と、己の切り札すらも奪われた屈辱。その決定的な敗北の言葉を聞いた仮面の人物は、もはや言い返す気力すら失ったのか、ただ無言のまま、凄惨な血の跡を床に残しながら闇の奥底へと這いずるように姿を消していった。

 

「……愛、か。いや、ただの依存か。あれ(エニュオ)などさっさと捨てれば、少しは幸せになれただろうに」

 

 闇の中に消えた惨めな背中を見届けたレヴィスは、誰に聞かせるでもなくそう皮肉めいた言葉を呟き、足元に落ちていた古びた本を拾い上げた。

 そして、完全にレヴィスに従属した2体のハートレスへと視線を向ける。

 

「お前たちはモンスターの魔石を抜き、灰になる前にハートレスにしろ。……引きずり出した魔石は、すべて私に持って来い」

 

 絶対者の命令を受諾した2体のハートレスは、音を立てることなく闇の中へと溶け込んでいくと、再び静寂を取り戻した天井から滴り落ちる紅血の響きだけが木霊するその空間で、レヴィスは岩肌に乱暴に腰を下ろし、周囲に散らばる紫紺の魔石の輝きを頼りに、エニュオから渡されたその本を一人静かに読み込み始めるのだった。

 

 

 

 

 日は昇らず、暮れもしないダンジョンの奥深く。永遠の黄昏が支配するその空間で、正確な時計だけが明朝の到来を告げた。

 それと同時に、剣が、杖が、大双刃(ウルガ)が、湾刀が、フロスヴィルトが、長杖が、大戦斧が、槍が。そして鍵の輝きに多くの冒険者の視線が集まる中、派閥の総指揮官であるフィンが口を開いた。

 

「――出発する」

 

 フィンの静かな、しかし届くような透き通った号令とともに、精鋭パーティは安全な野営地を発つ。

 根拠地に残る団員達や、武具のメンテナンスを担う上級鍛冶師(ハイスミス)達の熱のこもった叫び声に送り出されながら、彼等は一枚岩を下り、薄暗い灰の大樹林へと足を踏み入れた。

 前衛にはティオナとベート。中衛にはアイズとティオネ、そして団長のフィン。後衛にはリヴェリアとガレス。

 各配置に道具や予備兵装を所持するサポーターが二名ずつ加わったものが、今回の深層進攻における基本隊列となる。

 客人かつ整備職扱いの椿の位置は団長がいる中衛で、外部の協力者であるソラは遊撃も兼ねた前衛へと配置されていた。

 

「もう、何でベートと前衛なのー」

 

 前衛を歩くティオナが『エクスカリバー・ローラン』を肩に担ぎながら不満げにぶーたれる。

 彼女の不満の矛先であるベートは、足にフロスヴィルト、腰には不壊属性(デュランダル)の双剣を帯び、さらにナイフ型の『魔剣』を十振り以上装塡したレッグホルスターを両脚に装着。極めつけに、背中には『マジックラビット』を担ぐという、まさに今のベートが考える限りの完全武装であった。

 

「るせぇ、馬鹿アマゾネス!」

 

 ベートは視線も合わせずに口元をひん曲げ、鋭い犬歯を見せつけて毒づいた。

 

「まあまあ、喧嘩はやめなって」

 

 隣を歩くソラが、ティオナのようにキーブレードを肩に担ぎながら苦笑いで仲裁に入る。

 その光景を見ていた椿は、腰の太刀を携えながら豪快に笑い声を上げた。

 

「ははっ、いつだって賑やかなことだなぁ、ロキ・ファミリアは!退屈する暇もないわ」

「恥ずかしいところを見せるよ、ソラ。でも、君がいてくれると、前衛の突破力がさらに跳ね上がるのは確かだから、大いに期待しているよ」

 

 側にいるフィンが苦笑いを浮かべながら言うと、ソラは元気に頷いた。

 

「任せてよ、フィン!どんなハートレスや強いモンスターが出てきても、俺が先頭でやっつけてやるから!」

「調子にのんじゃねぇぞソラ!」

 

 親指を立てて自信満々に笑うソラに対し、すかさずベートから野次が飛ぶ。

 そんな前衛の和やかなやり取りとは対照的に、隊列の後方では、これから始まる過酷な死闘を前にサポーターたちが極度に緊張し、無言になりがちになっていた。

 

「レフィーヤ、呼吸が浅い。体から力を抜け」

 

 隣を歩くレフィーヤの異変に気づいたリヴェリアが、静かに声をかける。

 

「は、はいっ!」

 

 強張った声で返事をするレフィーヤに、殿を務める重戦士ガレスが朗らかに声をかけた。

 

「ティオナやソラのように完全に気負うなとは言わんが……まぁ、どっしり構えておれ。魔導士に必要なのは、いざという時の肝っ玉じゃ。ほれ、ラウル、お前もじゃ!」

「は、はいっす!?」

 

 中衛位置で縮こまっていたラウルの背中を、ガレスが「がはは!」と大声と共に豪快に叩き、物理的に気合を入れ直す。

 レフィーヤは、前方を歩くソラのツンツンとした特徴的な髪型を見つめながら、昨夜天幕の中で彼が見せてくれた、あの寄り目で舌を突き出した間の抜けた変顔を思い出していた。

 あの時、ティオネと一緒に我慢できずに吹き出してしまったおかげで、ベルの驚異的な成長に対する根深い危機感や劣等感が、ほんの少しだけ軽くなっているのを感じていた。

 すると、視線に気づいたソラがひょっこりと振り返る。

 

「大丈夫か、レフィーヤ?しかめっ面はなしだぞ。特訓の成果、俺に見せてくれよな!」

 

 ソラは満面の笑みで小さくガッツポーズを作って見せた。さらに隣のティオネが優しく目配せを送り、前方を歩くアイズも静かに振り返って微笑みかけてくれる。

 

「はい!……絶対に、足を引っ張ったりしませんから!」

 

 レフィーヤは自然と笑みを浮かべて力強く頷き、バックパックを担ぎ直して前進に身を委ねた。彼女が両手で握りしめる杖の先端からは、仲間やソラとの絆に呼応するかのように、うっすらと青白い温かな光が放たれ始めていた。

 やがて、灰の大樹林を抜けた一行の前に、巨大な空間が現れた。

 

「ここからだ」

 

 フィンが鋭く声を張る。そこは階層西端の壁面に空いた大穴──50階層と51階層を繫ぐ連絡路であった。

 フィンが「さて、行くとしようか」と呟いたのと同時、ロキ・ファミリアの一同が一斉に静かに武器を構える。

 

「――行け。ベート、ティオナ、ソラ」

 

 指揮官の冷徹な号令が引き金となり、三人の前衛は疾風となって急斜面を駆け下りた。

 真っ先に動いたティオナは光を纏う『ライトハンマー』へと形態変化させ、眼前に湧き出た硬質な外殻を持つ深層モンスター群の中央へと躍り出る。巨大な質量による一切の容赦のない叩きつけが、敵の防御機構ごと頭蓋を陥没させ、ダンジョンの床に巨大なクレーターを穿った。

 一方のベートは、雷を纏う『サンダーストーム』へと姿を変え、紫電の軌跡を描きながら敵陣を切り裂く。凄まじい雷速で放たれる蹴撃は、着弾と同時に敵の肉体の内部組織を電流で焼き焦がし、一切の反撃を許さずに黒焦げの肉塊へと変えていく。

 ソラも後れを取ることはない。『ファイガ』や『サンダガ』といった魔法が、正確無比な軌道を描いて空中を飛び交うハートレスたちを撃ち抜き、色鮮やかな爆発を深層の闇に咲かせた。

 

「予定通り正規ルートを進む!新種の接近には警戒しろ!」

 

 フィンの指示が響く。ここ51階層から57階層までは、平面の天井と壁面を描き、錯綜し合う画一的な通路が広間と広間の間を蜘蛛の巣のように繫いでいる構造となっていた。

 それは『上層』と同じ単純な構造だが、規模と広さ、そして空間を満たす死の気配の濃度は桁違いである。

 走行の勢いを一切緩めないフィンたちは、未到達領域である59階層を目指し、高速でダンジョンを駆け抜けていく。

 ふと、先頭を走るアイズが微かな空気の揺らぎを感じ取った。

 

「何か、来る」

 

 先の十字路から、『何か』が産まれようとしているという彼女の直観。その感覚を絶対的に信頼しているフィンは、即座に陣形の変更を命じる。

 

「前衛は構うな!ソラ、椿、狙い打て!」

「分かった!」

「任せろ!」

 

 フィンの意図を即座に理解したソラは、走りながら手にしていたキーブレード『レムノス・アンヴィル』を大筒のような『ヴォルカニク・キャノン』へと瞬時に変形させる。膨大な力を銃口に収束させ、チャージショットによる巨大な溶岩の弾丸を暗闇の奥へと放ち抜いた。

 それに合わせて中衛の椿も躍り出る。彼女が抜いたのは、以前24階層で使用した『轟雷機鞘・雷電丸』。雷の魔剣を鞘に収めることで内部機構が噛み合い、長大な双胴の砲身へと変形し、二本のレールの隙間から紫電を散らす高密度のエネルギーが、鼓膜を破るような轟音と共に一直線に解き放たれる。

 先の通路からまさにスポーンしたばかりの、ブラックライノスと、それに群がるハートレスの集団。だが、それらが威嚇の咆哮を上げるよりも早く、灼熱の溶岩弾と紫電の雷撃が直撃した。熱と雷の複合爆発が閉鎖空間の中で逃げ場を失って暴れ狂い、深層のモンスターやハートレスたちを悲鳴を上げる間もなく一瞬にして消し炭へと変えていく。

 

「集団から振り落とされるでないぞ、お主等!」

 

 背後から追い縋る残存モンスターを、巨大な斧の一振りで粉砕しながら、ガレスの野太い大声がパーティ最後尾より投じられ、後衛陣の気を引き締める。

 ダンジョンは、明確な殺意と意志を持って咆哮を上げていた。

 深淵の領域へと侵入する冒険者達を排除すべく、階層中のモンスターがその行く手を阻もうと方々から津波のように押し寄せてくる。

 横道から。十字路の先から。頭上の天井から。左右の壁面から。

 息をつく暇もない連続の遭遇戦。これが『深層』の真の脅威。既階層とは全く比べものにならないほどの異常な頻度で、強靭な黒犀や巨大蜘蛛、さらにそこにハートレス・ディフェンダーが四方八方より来襲する。

 しかし、途切れることのないモンスターとの交戦の連続に、ロキ・ファミリアのパーティは足並みを乱すことすらなく蹂躙を続けていく。

 

「がるぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 立ちはだかるモンスターやハートレスの分厚い壁を正面に、牙を剝いたベートが吼える。

 フロスヴィルトが空気を裂く鋭い音と共に放たれた回し蹴りが、根こそぎ敵の上半身を粉砕し、鮮血の雨を降らせる。崩れ落ちる死骸に目もくれず、ベートは更なる敵の喉首を求めて最前線を喰い荒らした。

 本来遊撃を務めるその圧倒的な足の速さを存分に発揮し、一撃離脱、本隊から先行する形で一撃につき一匹のモンスターを確実に撃砕してのける。視認不可能な高速移動と蹴りの乱舞が、パーティの進むべき血の道を切り開いていた。

 

「ベ、ベートさん、いつもよりやばいっす……」

 

 血生臭い暴虐の光景に、ラウルがおののくように呟く。

 

「もう、ベートのくせに!」

 

 ティオナはそんなベートの凄まじい活躍に対し、負けじと強烈な対抗意識を燃やしていた。

 

「うむ、聞きしに勝る暴れっぷりだな。――お、なんだ、エリクサーか……」

 

 襲い掛かるディフェンダーを硬い盾ごと太刀で叩き割った椿は、ドロップアイテムの中に貴重なエリクサーであるが目的のものではなかったのか少しがっくりとし、それでもとても有用な代物のため懐へとしまい込む。

 その最前線では、ティオナが「いっっくよおおおぉ――――ッ!!」と、腹の底から響くような雄叫びを上げていた。

 右手に大双刃(ウルガ)、左手にエクスカリバー・ローラン。質量の異なる二つの巨大な得物を持ったティオナが全身のバネを用い、文字通り渾身の回転切りを放つ。

 巨大な四つの刃から独楽のごとく放たれた大斬撃は、すさまじい遠心力を伴った真空の嵐を生み出した。進路上に立ちはだかっていたモンスターやハートレス達は、防御の構えをとる暇すら与えられず、その圧倒的な刃の嵐に巻き込まれて纏めて両断される。

 さらには、ティオナが力強く着地した地点に、爆発的な衝撃波と天を衝く光の柱――『ホーリー』が炸裂した。モンスターの断末魔を道連れにして鮮血の渦を巻き起こし、周囲一帯の闇を強烈な光で浄化し尽くす。

 圧倒的な暴威が吹き荒れた直後、ティオナは開けた道の奥からけたたましく響く、無数の足音とは異なる奇妙な粘着質の進撃音を察知した。

 

「――来た、新種!」

 

 ティオナの鋭い視線の先。幅広の通路の暗がりを完全に埋めつくすように蠢く、悍ましい黄緑色の肉塊の群れ――芋虫型の新種モンスターが姿を現した。

 

「隊列変更!!ティオナ、下がって3人の援護!」

 

 即時かつ即行の完璧な指示が、フィンの口から放たれる。

 言うか早いか、アイズは後退するティオナと阿吽の呼吸で入れ替わるように、中衛位置から風を纏って最前線へと飛び出した。

 

「――【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 アイズが自身の魔法を発動させると同時、ソラとベートも彼女と肩を並べて突撃する。

 ソラは走りながらキーブレードを『ウェスタベル』へと切り替え、流麗な動作で長杖へと変形させると、それをすぐさまダンジョンの床に深く突き刺した。

 

「光よ!!」

 

 ソラが長杖ベルウェスタを地面に突き立てることによってセイクレッド・ハースが発動した瞬間、薄暗い通路に白亜の『神殿』の荘厳な幻影が浮かび上がる。前方に群がっていた新種のモンスターの一部が、その神聖な光に焼かれて灰へと変わる。

 それと同時に、白亜の光はパーティメンバー全員を包み込み、蓄積した疲労や傷を瞬時に癒やしていく。さらには、温かなオレンジの『炎』が全員の身体に付与(エンチャント)され、火力を底上げした。

 付与(エンチャント)にどこか安らぎを覚えるベートであったが、歴戦の冒険者である彼は即座に闘争本能を再点火する。

 

「アイズ、ウサギ!寄越せ!」

 

 ベートの怒声に応じ、アイズは「風よ」と短く発して自身の纏う翠の風を分け与えた。ベートのフロスヴィルトに風の力が宿ることで、荒れ狂う暴風の気流が足元を包み込む。

 さらに、背中のマジックラビットがすかさずベートに『ヘイスト』を放つ。ベートの敏捷性が上昇し、彼は腰から不壊属性(デュランダル)の双剣を引き抜いた。

 ソラの付与したオレンジの炎、アイズの翠の風の恩恵。二つの極端な属性を強引に調和させた複合装甲を纏い、決して壊れぬ武器を携えたベート、アイズ、そしてソラの三人は、悍ましい黄緑色の芋虫型の大群へと真っ向から躍りかかった。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

 敵陣から、破鐘のような不快な絶叫が轟き渡る。

 無数の敵の口腔から、冒険者の武具や肉体を容易く溶かす凶悪な腐食液が一斉に放出された。だが、三人を包む炎と風の複合鎧が、接触した瞬間に腐食液を蒸発させ、気流の壁でまとめて弾き返す。

 絶対的な液体の防御を無力化した直後、アイズのデスペレートによる閃光のような神速の斬撃が、巨大なモンスターの肉体を容易く八つ裂きにしていく。

 ソラは長杖を豪快に振り回し、オレンジ色の光の翼が生えたような巨大な衝撃波を前方に放つ。迫り来る芋虫型やハートレスの群れは、その不可視の圧力に耐えきれず、次々と空高く打ち上げられて体勢を崩した。

 暴れ回るアイズ、ベート、ソラの三人は、強固な防波堤となって激しく躍動し、背後の仲間たちには一滴の腐食液すら通さない。液体の一斉射撃が繰り出されようが、敵が自ら破裂して酸の体液を撒き散らそうが、三位一体の絶対的な防御陣の前では結果は全て同じだった。

 ソラが放つ魔法『ゴールドレイ』による黄金色の光の柱が、間欠泉のように地面から幾重にも噴き上がって敵の巨軀を無慈悲に串刺しにする。

 ベートの炎と風を極限まで圧縮して纏った破壊的な回し蹴りが、複数の敵の装甲を容易く打ち抜き、内側から爆発させる。

 アイズの目にも留まらぬ風を纏った神速の斬撃が、悍ましい肉の壁を文字通りまとめて断絶し、ダンジョンを血で染め上げる。

 芋虫型のモンスターにとって相性最悪である『炎風鎧』をもって圧倒的な蹂躙を働き、三人は怒涛のごとく群れを鏖殺していった。

 

「――【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬――我が名はアールヴ】!!」

 

 アイズ達の獅子奮迅の奮闘の陰で、静かに、しかし確実に織り上げられていたリヴェリアの『並行詠唱』が、瞬く間に終了の時を迎える。

 

「総員、退避!」

 

 フィンの鋭い号令とともに、前衛と中衛がばっと左右に割れ、道を開けた。

 まるで要塞の巨大な砲口が開くかのように、部隊が展開する。

 そして、その砲身の中央――翡翠色の巨大な魔法円を描きながら展開されたリヴェリアの杖『マグナ・アルヴス』の先端から、絶対零度の氷雪の閃光が迸った。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 王族の力強い声と共に、三条の猛烈な吹雪が地鳴りのような轟音を伴って通路中を突き進んだ。

 蒼と白の圧倒的な魔力砲撃が、空間の温度を一瞬にして奪い去り、ダンジョンの分厚い壁面ごと前方のモンスター群を完全に凍結させる。

 アイズとベートが横道に避難する中、一直線に伸びる広大な通路は、最奥の突き当たりまで見渡す限りの蒼氷の世界と化した。先ほどまで猛威を振るっていた無数の芋虫型、果ては巻き添えを食らった他のモンスターやハートレスたちが、美しくも恐ろしい無数の氷像となって乱立する。

 

「すっごい……」

 

 深層のモンスターやハートレスを文字通り一掃する王族の極大魔法に、ソラが純粋な感嘆の声を上げる。

 

「これが『魔剣』で繰り出せるようになれればなー」

 

 鍛冶師としての探究心を燃やす椿の言葉に、リヴェリアは「そんなことになれば、魔導士の立つ瀬がないな」と苦笑した。

 

「進むぞ!」

 

 フィンの号令に従い、合流したソラ達は、通路を塞ぐモンスターやハートレス達の氷像を武器で容赦なく破砕しながら先へと急いだ。

 幸いなことに、極寒の氷と霜に完全に覆われた壁面からは、さしもの深層出身のモンスターも産まれることができなかった。

 だが、彼らの進撃を阻む脅威が過ぎ去ったわけではない。ダンジョンの法則に縛られないハートレスは、冷気を帯びた暗い影の中から無数に湧き出してきたのである。

 灰色の通路を満たすように出現したのは、巨大な獣の骨格を呪いで繋ぎ合わせたような異形の姿を持つ『リビングボーン』と、その背に騎乗して不気味な仮面で顔を覆い隠した『シャーマン』の軍勢であった。乾いた骨と骨が擦れ合う不快な音が、薄暗い地下空間に幾重にも木霊する。

 リビングボーンたちは激しく骨格を軋ませながら縦横無尽に跳ね回り、強靭な顎で獲物を砕こうとする『かみつき』の波状攻撃を仕掛けてくる。その死を恐れぬ獣の猛攻に対し、最後尾を守るサポーター陣が確かな成長の証を見せつける。

 

「くらえっす!」

 

 鋭い踏み込みと共に前に出たラウルが、姿勢を低くして自身のシールドを強固に構える。突進してくるリビングボーンの凶悪な質量と突進力を、確かな技術で見事に受け流す。腕の骨が軋むほどの衝撃に耐え、リビングボーンの牙が盾の表面を滑るように逸れたその瞬間、盾に仕込んだ極寒の魔力を至近距離から解放した。猛烈な冷気が敵の巨大な骨格を覆い尽くし、一瞬にして分厚い氷に閉じ込めてその動きを封殺する。

 ラウルが身を挺して作った決定的な隙を見逃さず、ラウルの背後からタツホースが軽やかに浮上する。空中に陣取ったタツホースは、シャボン散弾を展開した。虹色に輝く泡が凍りついた骨の関節に着弾して次々と破裂し、さらにシャボン爆発を間髪入れずに叩き込む。鼓膜を揺らす爆音と共に、凍りついて脆くなっていたリビングボーンは木端微塵に粉砕された。

 その局地戦の頭上では、敵の背に騎乗したシャーマンが『呪い火』を放とうと、両手を高く掲げて不気味な詠唱を始めていた。しかし、その厄介な遠距離攻撃が形を成すよりも早く、ナルヴィのタイホウカブトとクルスのハサミクワガタが息を合わせて躍動する。二体のドリームイーターは狙い澄ました軌道で『トラップショット』を同時展開した。放たれた光の弾丸が宙を駆け抜け、シャーマンの仮面を的確に撃ち抜く。

 頼もしい仲間たちが身体を張って維持する防衛陣形の中央で、アリシアが澄み切った声で詠唱を紡いでいく。

 

「――【凍る空、天上の蒼雨(あめ)。森を彩る白氷(はくひょう)よ】」

 

 無防備となる彼女の周囲には、主の詠唱を何があっても妨害させまいと、ヤギサイバーが四本の脚を踏ん張って頼もしく付き従っていた。アリシアの隙を突いて奇襲をかけようとするリビングボーンの群れに対し、ヤギサイバーはヤギレーザーで直線状の敵を貫き、『ヤギゲイザー』が広範囲に光の網を展開し、そして極太の高出力熱線『ヤギビーム』が迫り来る巨体を次々と薙ぎ払う。空間を鮮やかに彩る眩い光の雨が、骨の獣の残骸を的確に撃ち払い、アリシアが詠唱に専念するための絶対の安全圏を構築していく。

 仲間の手厚い護衛によって集中を極限まで高めたアリシアの魔力が、ついに臨界点に達し、そこにヤギサイバーのスピリットロアによって威力が上昇する。

 

「【浅ましき蛮族を撃ち払え。凍てつけ、冬の縛鎖】――ヘイル・ダスト!」

 

 詠唱の完了と共に杖の先から解き放たれたのは、絶対零度の冷気を宿した無数の巨大な雹弾である。全方位に向けて凄まじい勢いで放たれた白銀の散弾は、通路を埋め尽くそうとしていたハートレスの後続部隊の装甲を無慈悲に穿つ。着弾した傍から対象の熱を奪い去り、その悉くを身動き一つとれない氷の彫像へと変えて内部から激しく粉砕した。

 そのすぐ側では、レフィーヤもまた迫りくる別の脅威と対峙していた。宙を舞うボクサーのようなハートレス『エアリアルノッカー』が、両腕を振り回して『5連フック』の猛攻を仕掛けてくる。彼女は後退することなく、展開した『アカシックレコード+』でその重い連撃を正面から受け止め打撃の衝撃に耐え凌ぎ、敵が大きく腕を引いて放ってきた渾身の『チャージブロー』に対し、彼女は即座に『ラビットブロー』で反撃に転じ、流れるように縦に回転しながら叩き込んでエリアルノッカーを空中で粉砕してみせた。

 後方を固めるサポーター陣の目覚ましい連携と確かな活躍。各々が己の役割を理解し、ドリームイーターとの連携が戦線を支えている。

 視界を埋め尽くす無数のレビングボーンの群れに対し、ソラは恐れることなく単騎で真っ向から飛び込んだ。彼はキーブレードを振るうのではなく、持ち前の俊敏な身のこなしで宙を舞い、襲い来るリビングボーンの骨格そのものを踏み台にして、一気に敵の背中へと跳躍する。

 リビングボーンの背に跨がったソラは、強引にその手綱の代わりとなる骨の突起を握り締め、ロデオのようにリビングボーンを操作する。背に乗ったソラを振り落とそうと激しく身悶えするリビングボーンが、ダンジョンの通路を猛進し、行く手を阻む仲間のハートレスたちを次々と薙ぎ倒していく。ハートレスの群れの中央で繰り広げられる、痛快な蹂躙劇。そして、周囲の敵を十分に巻き込んで一掃した直後、ソラは騎乗した敵の頭部をダンジョンの硬い石床へと激しく叩きつける『グランドクロス』を放った。凄まじい衝撃音がダンジョンを揺らし、乗騎ごと周囲の骨の群れが木端微塵に粉砕されて灰へと変わる。

 さらに、後方のから別のシャーマンが放ってきた六つの人魂が、ソラの周囲を取り囲むように急接近してきた。『呪い火』による奇襲。だが、ソラは全く慌てることなく、全身に眩い光を纏って姿勢を低くした。次の瞬間、光の突進『デスペル』が発動する。ソラの身体が地を蹴り、絡みつこうとする呪いの炎を光の軌跡で容易く弾き飛ばす。そのままの勢いで宙を駆け抜け、絶句して詠唱を止めたシャーマンの胴体を仮面ごと力強く吹き飛ばした。

 ソラが縦横無尽に敵陣をかき乱して陣形を崩す一方で、ロキ・ファミリアの主力陣も容赦のない猛威を振るう。

 アイズの神速の風刃が、敵の分厚い骨格の隙間を音もなく切断していく。彼女が通り抜けた後には、バラバラに崩れ落ちる骨の残骸しか残らない。

 ティオナは大双刃(ウルガ)による力強い質量破壊で、通路そのものを削り取るかのような豪快な両断を放ち、強引に前へと進む道を切り開く。

 その隣では、双子の姉であるティオネが同じくゾルアスを荒れ狂う旋風のように振り回していた。怒気を含んだ野性的な踏み込みから放たれる連撃は、群がってくる骨の獣たちに反撃の隙を一切与えず、その装甲を次々と微塵切りにしていく。妹の力強い一撃と姉の荒々しくも手数の多い斬撃が絶妙な連携を描き、前衛の戦線を押し上げていった。

 ベートの雷脚は、分厚い骨の装甲ごと敵の内部組織を焼き焦がし、獣の咆哮に似た気合と共に群れを力任せに蹴散らしていく。

 フィンの槍撃は、戦場全体を俯瞰する視点から放たれ、敵の急所である核を確実に、そして一切の無駄なく貫いていく。

 さらにアーマーナイトやサーヴィランスの波が押し寄せてきた瞬間、ガレスが雄叫びと共に前へと躍り出た。ガレスの尋常ではない腕力から放たれる一撃は、重戦車が激突したかのような威力を誇る。彼が手にした大戦斧が力任せに大きく薙ぎ払われると、横道から奇襲を仕掛けようとしていた敵の集団が、ダンジョンの壁面ごとまとめて粉砕される。地鳴りを起こすほどの豪快な薙ぎ払いは、迫り込んできたリビングボーンの硬い骨格を容易く粉々の塵に変えてみせた。

 その最後尾からは、リヴェリアが戦況を静かに見極め、前衛の死角を補うように氷や光の魔法弾を的確に撃ち放っていた。詠唱を必要としない短い魔法であっても、エルフの王族が振るう膨大な魔力が込められた一撃は敵の骨を確実に撃ち抜いていく。取りこぼされた敵を一つ一つ丁寧に仕留めていく彼女の冷静な援護が、前線の攻勢をより一層盤石なものにしていた。

 加えて中衛から放たれる椿の魔剣の轟雷が、通路に密集した敵の集団を幾度も一網打尽にし、雷鳴の轟音でダンジョンの奥底を揺るがせ、階層の広大な通路を埋め尽くしていたはずのハートレスの軍勢は、意味のある抵抗すらできぬまま次々と黒い空間に散っていく。

 深層の絶望的な波状攻撃を、研鑽された力と技の連撃で真っ向からねじ伏せ、一行は血と氷にまみれた通路を確かな足取りで進み続ける。時には激しい死闘を繰り広げ、時には敵の巨躯すらも己の戦術に組み込んで道を切り開きながら、時にはエーテル系で精神力(マインド)を回復しながらも彼らは休むことなく歩を進める。その眼差しは誰一人として曇ることなく、52階層に続く階段へと辿り着くのであった




以前、轟雷機剣・雷電丸と名前を付けましたが普通に考えれば鞘がメインだから正確に言えば轟雷機鞘・雷電丸でしたので訂正します。
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