キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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ハートレス紹介
・ウェポンマスター
ユニオンクロスに出てきた「FINAL FANTASY Record Keeper」とのコラボイベントで登場したハートレス
顔の部分はハートレスのものになっている以外、見た目は「FINAL FANTASY V」に登場する「ギルガメッシュ」ほぼそのまま
つまりガレスたちはFFのギルガメッシュと戦っている感じです
ギルガメッシュや今話に登場するハートレスたちの描写を考えるために動画と資料を探してたら遅くなりました。おそらく次回も遅くなると思います


第60話 狂気の道化師

 ダンジョン第53階層。レフィーヤ救出のためにガレス達が縦穴へと落下し、部隊が強引に分断された直後。残された【ロキ・ファミリア】本隊は、58階層での合流を目指して深層の強行突破を開始した。

 縦穴の崩落と下層からの砲撃が織りなす激しい交戦の中で、指揮官たるフィンは極限状況にあっても一切の動揺を見せず、素早く統率力を発揮する。

 

「アイズ、ソラと一緒に前衛に上がれ!」

 

 フィンの鋭い命令が飛ぶ。彼自身もまた、長槍『スピア・ローラン』を鮮やかに振るい、迫り来るモンスターの群れと交戦しながら52階層から53階層へと続く複雑な通路を高速で移動していく。

 

「ラウル達は中衛に固まってアイズとソラを後方から支援!リヴェリアは殿を頼む!」

「はいっす!?」

「わかった」

 

 突然の陣形変更にラウルが上ずった声を上げ、リヴェリアが冷静に頷いた。疾走を続けながら、フィンは先頭を切り裂くアイズとソラを槍術で的確に援護し、横道から湧くモンスターやハートレスを容赦なく撃退していく。

 

「ラウル。お前のシールドを貸してくれ」

「わかったっす」

 

 疾走する隊列の最後尾で、リヴェリアが短く要求する。ラウルからシールドの所有権と操作権を受け取ると、リヴェリアは、部隊の後ろに顔を向けたまま、シールド群をまるで自らの手足のように器用に空中に浮かせ、操作する。アイスビットを制御した経験が活きているのか、彼女自身の視線が向いていない死角へもシールドが飛んでいき、奇襲を仕掛けるハートレスやモンスターの牙を防ぐ。さらには防ぐだけでなく、強力な冷気のカウンターで触れた敵を一瞬にして凍らせて粉砕していった。

 一方、前衛を支えるフィンは、隣を走る椿に声をかけた。

 

「すまない椿。君の力を貸してくれ」

「おう、任せよ!」

 

 豪快な返事と共に、椿は背中の大太刀から手元の武器へと素早く持ち替える。流麗な抜刀術の斬撃が、立ち塞がる硬質なモンスターやハートレスを鎧ごと両断した。さらに彼女の隣で走るドリームイーター、ボウクンレックスこと『ボウ吉』が咆哮を上げ、口から強力な爆発球を乱れ打って敵の陣形を崩していく。

 最前衛に絶対的な矛であるアイズとソラ、その真後ろの中衛にラウル達サポーター四名、彼等を守るように左右の遊撃にはフィンと椿、そして最後尾には鉄壁の盾にして砲台たるリヴェリア。支援役を安全な中心に据えつつ、全方位の隙を完全に潰したこの隊列は、これまで以上の凄まじい速度で53階層の入り組んだ通路を駆け抜けていく。

 依然として下方からの砲竜による極太の砲撃が床を突き破ってくるが、それらを神がかった直感で躱しながら、立ちはだかる最低限のモンスターやハートレスだけを蹴散らし、足を止めることなく前進する。

 

『階層無視』という攻撃の前に、予断は一切許されない。逆に言えば、進む道さえ切り開いてしまえば、背後に討ち漏らしたモンスターやハートレスは、下から突き上げる砲竜の大火球によって勝手に巻き込まれ、掃滅させられていく。ゆえにアイズ達前衛の行動は「敵の殲滅」ではなく「進撃」のみに絞られ、58階層への到達を最優先として突き進んだ。

 都市面積を超えるほど広大な深層の複雑な地図を、頭に完全把握しているフィンが、先頭のアイズ達へ逐一的確なルート指示を飛ばす。絶え間ない竜の砲撃群に晒される極限状態の中で、地形の崩落すらも計算に入れ、次階層への最短にして最適な経路を絶え間なく提示し続けた。

 中衛では、クルスとナディアの背中にまたがったドリームイーター、ハサミクワガタやタイホウカブトが、魔法ショットを放ち、側面から迫る敵を牽制する。パーティ一同を淡く包み込むリヴェリアの全体防護魔法と、ドリームイーター達の手厚いサポートにより、アイズ達前衛は背後からの危うい攻撃から幾度となく身を守られ、前方の突破にのみ全神経を集中させていた。

 だが、そんな彼女達の行く手を容赦なく遮るように、凶悪なモンスターが次々と立ち塞がる。ヴェノムスコーピオン、サンダースネイク、シルバーワームといった、これまでの階層のモンスターとは一線を画する異常な戦闘能力を持つ深層の怪物達。

 さらに最悪なことに、部隊の後方からとてつもない地鳴りが響き始めた。

 現れたのは、巨大な蟹の甲殻の上に、堅牢な城塞そのものが合体したような規格外の巨躯を持つハートレス――『フォートレスクラブ』であった。

 城壁に備えられた砲門から、雨霰のように小型ミサイルが撃ち放たれる。だが、それを最後尾のリヴェリアが操作する2枚のシールドが展開して完璧に防ぎ止め、同時に接触したミサイルを冷気のカウンターで凍結させ、無力化する。

 前方では、深層モンスターの群れに対し、アイズが魔法を発動させていた。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 翠の暴風が彼女の美しい金糸を揺らす。それと呼応するように、ソラが光と共に『ダブルフォーム』へと姿を変えた。

 通路前方より群れを成して迫りくる、巨大な毒針や荒れ狂う雷撃。それらを全て神速の身のこなしで回避したアイズの『デスペレート』と、ソラの約束のお守りと過ぎ去りし思い出の二振りのキーブレードが、瞬く間に敵の群れを蹂躙していく。二人の放つ一閃の斬撃と光の軌跡がうねりとなって重なり合い、複数の深層モンスターやハートレスをまとめて爆散させた。

 一方、後方で猛威を振るうフォートレスクラブは、標的を前衛のアイズやソラに変更し、ロックオンした小型ミサイルの群れを放つ。だが、リヴェリアが鋭い視線と共にシールドを弾丸のように飛ばし、空中でミサイルに衝突させて次々と凍らせる。防御網をすり抜けてアイズとソラに向かった数発のミサイルも、二人が振り向きざまの斬撃で容易く切り裂き、爆発を未然に防いだ。

 

「ラウル、メガエーテルを」

 

 疾走しながら、フィンが後方のサポーターへ鋭く命じる。

 

「は、はいっす!?」

 

 極限の疲労と緊張に喘いでいたラウルが、慌てて背中の巨大なバックパックから指定された道具を漁る。

 

「ナルヴィ、アリシア、クルス。『魔剣』を放て」

 

 さらにフィンは、残るサポーター達へ明確な攻撃指示を下した。

 

「はい!」

 

 サポーター達が力強く応じ、万が一の切り札として帯剣していた強力な『魔剣』を即座に装備する。長槍で迫るモンスターを屠りながら、フィンの言い付け通りにメガエーテルを取り出したラウルが、それを頭上へと高く放り投げた。

 パリンッ!という甲高い音と共にメガエーテルが空中で弾け、眩い緑の魔力の光がパーティ全員に降り注ぐ。枯渇しかけていた全員の精神力(マインド)が一瞬にして全快した。

 魔力と気力を取り戻したサポーターのクルス達が、背後から迫るフォートレスクラブに向けて、構えた『魔剣』を一斉に振り下ろす。

 無詠唱による即席の魔法射撃が、フォートレスクラブの堅牢な城塞部分に次々と被弾し、激しい爆炎を上げる。

 

「──【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 さらにその爆炎に続くように、殿のリヴェリアが極大魔法の呪文を完成させた。三条の猛烈な吹雪が吹き荒れ、巨大なフォートレスクラブの全身を瞬く間に分厚い氷の彫像へと変える。

 しかし、ガキィィィンッ!という耳障りな金属音と共に、内部からの凄まじい力によって巨大な氷が容易く砕け散った。規格外の耐久力を持つハートレスは、なおも無傷で追いすがってくる。

 フィンたちは前方のモンスターやハートレスの壁を物理的に蹴散らしながら、迷宮の複雑な構造を右へと急カーブして曲がる。だがフォートレスクラブは、迷宮の頑強な壁面や柱を巨大な鋏で強引に破壊し、直線的な最短距離でフィン達をどこまでも執拗に追いかけてきた。

 その時、突如としてフィンのパートナードリームイーターである『オバケゴースト』が、空中にふわりと姿を現した。

 

「君の出番は――」

 

 フィンが指示を出そうと言いかけたところで、オバケゴーストはいつの間にか手の中に持っていたモバイルポータルをフィンへと差し出した。そこに表示されたテキストメッセージを見たフィンは、驚きに目を見開く。

 

「よくやった、ガレス、ベート!」

 

 突然、虚空に向かって歓喜の声を上げたフィンに対し、隣を走る椿が不思議そうに尋ねる。

 

「どうした、フィン?」

「ガレスたちが、下層の砲撃を完全に食い止めてくれたらしい!」

「ということは……!」

 

 フィンの言葉の意味を瞬時に理解したソラとアイズの顔が明るくなる。

 

「総員、停止。反転しろ」

 

 フィンは部隊の足を止めさせ、不敵な笑みを浮かべて背後を振り返った。

 

「そうだな、『フォートレスクラブ』とでも名付けようか。皆、フォートレスクラブをここで確実に倒すぞ!」

 

 フィンの力強い発言と同時に、パーティ一同意図を理解し、一斉に迫り来るフォートレスクラブへと殺意の矛先を向けて躍りかかった。

 迎撃に転じたソラ達に向けて、フォートレスクラブが城塞の砲門から小型ミサイルを数十発、さらに甲殻のてっぺんにそびえる主砲から極大の大型ミサイルを放つ。

 雨のように降り注ぐ小型ミサイルに対し、タツホースが展開した無数のシャボン爆弾と、リヴェリアが放つ無数の氷の刃が空中で激突し、次々と相殺して爆煙の花を咲かせる。

 そして、全てを吹き飛ばすかのように迫る大型ミサイルには、フィンが渾身の力で投擲した『スピア・ローラン』が大型ミサイルに直撃し、空中で大爆発を起こして相殺する。

 

「行くぞ、ボウ吉!」

 

 爆風を切り裂きながら、椿が雄叫びを上げる。彼女はボウクンレックスとのリンクスタイルを発動させた。椿の引き締まった体全体に、燃え盛る炎のような赤いオーラが纏い付く。彼女の口元の歯が野性的なギザ歯へと変わり、腰からは強靭な爬虫類の尻尾が生え、両脚は太く逞しいボウクンレックスの二本指の脚へと劇的な変化を遂げる。身長も二M(メトル)を超えるほどに巨大化した。

 極限まで強化された逞しい両脚で跳躍した椿は、フォートレスクラブの城塞に陣取って銃撃を放ってくる『ガンナーハートレス』の弾幕を、強靭な尻尾で鞭のように弾いて防ぐ。そのままウォールキックの要領で、巨大な蟹のゴツゴツとした貝殻や城壁を飛び石のように駆け上がり、ガンナーハートレスの眼の前にまで肉薄した。

 

「これでも喰らえ!!」

 

 椿は至近距離から、『メガフレア』を遠慮なくブチ放つと凄まじい爆発が至近距離で発生し、フォートレスクラブの堅牢な貝殻に巨大なヒビが入る。メガフレアの圧倒的な推進力と衝撃により、巨大な蟹の巨体がバランスを崩し、大きく後ろへと倒れこんだ。

 その決定的な隙を、最強の剣士たちが見逃すはずがなかった。

 

「アイズ!」

「……行くよ、ソラ!」

 

 ソラとアイズの声が重なる。二人が手にしたキーブレードとデスペレートを高く天へ掲げると、二人の呼吸、魔力、そして意志が完全に一つへと重なり合い、最強の連携技――『エアリアル・ブレイド』が始動した。

 アイズがデスペレートを力強く振り上げると、『エアロガン』が発生し、巨大な竜巻となってフォートレスクラブの巨体を一気に上空へと巻き上げた。

 ソラはその暴風の渦中へと軽やかに飛び乗る。滑空しながら、空中で完全に無防備となって浮遊するフォートレスクラブに対し、光の速さの突進技『ソニックレイヴ』を放つ。目にも留まらぬ速さの連続攻撃で、蟹の分厚い甲殻を次々と斬り抜けていく。

 間髪入れずに、ソラが自身の魔力で『エアロガン』をさらに解き放ち、アイズを包む『エアリエル』の加速力を限界突破させた。

 二人の姿は、翠の風を纏った光の線と、白銀に輝く一条の光の線へと変わった。空中に浮かぶフォートレスクラブに対し、縦横無尽に飛び回る神速の交差斬りが幾重にも空間に描かれ、あらゆる角度から絶え間なく甲殻を微塵に刻んでいく。

 そして、連携の勢いが最高潮に達したその時。

 

「アイズ!」

「決めるよ、ソラ!」

 

 空中で二人の叫びが交差する。アイズが極限まで練り上げた風の魔力を、デスペレートの白銀の刃へと一点に凝縮させ、全てを穿つ強烈な突進斬りを放つ。

 同時にソラも、キーブレードに溢れんばかりの光を込め、アイズの描く直線軌道と寸分違わず重なるように、死角から全力で飛び込んだ。

 

「リル・ラファーガ!!」

「止めだ!!」

 

 光と風の暴風が完全融合した、極大の貫通波動が一直線に解き放たれる。その一撃は巨大なフォートレスクラブの城塞ごと中心核を完全に貫き、断末魔を上げる間も与えず、跡形もなく消し飛ばしていった。

 フォートレスクラブを完全に打倒し、着地した一同が安堵の息を漏らす。

 だが、安息の時間は長くは続かない。すぐさま頭上の縦穴から、飛竜の群れによる急降下攻撃が迫り来る。

 それを分身である『ちびフィン』と、椿の強力な咆哮による衝撃波で迎撃しながら、フィンが鋭く声を張った。

 

「下からの砲撃が完全に止んだ。今の内に急ごう!」

 

 指揮官の言葉に急かされ、一同は再び疾走を開始する。時折現れる深層の強力なモンスターとの苦戦を強いられながらも、サポーターを含めたみんなの完璧な連携と、フィンの頭脳による的確な指示の元で、広大な地下迷宮を一直線に駆け抜けていく。

 しばらく走ったところで、息を整えた椿が閃いたように口を開いた。

 

「なぁ、ソラよ。地下からの砲撃が止んでいる今なら、あの時の乗ったアレが使えるんじゃないか?」

 

 その言葉の意味を理解したソラは、パッと顔を輝かせた。

 

「よーし、みんな乗り込め!」

 

 ソラの言葉と同時に、光の粒子が凝束し、『マウンテンコースター』が迷宮の通路にデカデカと出現した。

 

「な、なんだこれは……」

 

 ダンジョンには似つかわしくない乗り物の登場に、フィン達が呆気に取られて立ち尽くす。

 その横から、アイズが真顔のまま進言した。

 

「フィン。これ…下手に走るよりは、ずっと速い」

「……ならば、いくとしよう」

 

 アイズの真剣な言葉に、フィンは少しだけ頭を抱えた後、合理性を優先して納得し、全員に搭乗を指示した。

 こうしてロキ・ファミリアの精鋭とサポーターたちは、マウンテンコースターに全員で乗り込むという、深層にあるまじきシュールな光景を展開する。

 ソラが先頭で巧みにコースターを操縦し、フィンが隣で脳内の地図を元に道先をナビゲートする。轟音を立てて猛スピードで爆走するコースターの車上から、迫りくるモンスターやハートレスを魔法と武器で次々と迎撃しながら、彼らはついに53階層へと続く下部への大階段を発見した。

 

「53階層……!」

 

 暗黒に沈む迷宮の深淵を切り裂くように爆走する、光り輝くマウンテンコースター。

 その凄まじい進行速度と容赦のない横揺れに必死に耐えながら、中衛に陣取るラウルが安堵と極度の緊張が入り混じった息を深く吐き出す。

 

「この先を右に頼むソラ…」

 

 先頭でコースターの操縦桿を握るソラへ向けて、的確なルート指示を飛ばしながら、フィンは周囲の暗がりを油断なく見回していた。彼の研ぎ澄まされた碧眼は、迷宮内に漂う僅かな空気の揺らぎすらも決して見逃さない。

 

「新種のモンスターが出てこない……か」

 

 本来の深層であれば、アイズやリヴェリアが放つ魔力に引き付けられ、無数の芋虫型のモンスターが群がってくるはずであった。しかし、現在の彼らが進む迷路には不気味なほどの静寂が横たわっている。モンスターの気配が完全に途絶え、まるで階層そのものが息を潜めているかのようだった。フィンは自身の親指を舐め、風の僅かな流れとモンスターを探る。

 

「さて、何が来るかな?」

 

 異常事態の明確な前兆。それが「より強大な捕食者」あるいは「致命的な罠」の存在を示唆していることを完全に理解しながらも、フィンは余裕を一切崩さず、静かに笑みを浮かべた。その微笑みは、これから訪れるであろう恐怖を味方の士気でねじ伏せるための、彼なりの重要な儀式でもあった。

 間もなく、彼の卓越した予測が的中したかのように、進路上の壁面が突如として崩壊し、大量の芋虫型のモンスターの群れが一斉に姿を現した。

 

「し、新種っす!?」

 

 ラウルが悲鳴のような声を上げ、コースターの縁から身を乗り出して首を前に出す。

 

「全員、頭を下げろ!!」

 

 進路上にある右の曲がり通路の奥から、異常なまでに膨れ上がった不穏な魔力の胎動を感じ取ったリヴェリアが鋭く叫ぶ。直後、周囲の空気を焦がす特有の瘴気と共に、致死量の破壊力を秘めた強烈な雷が、身を乗り出していたラウルの顔面へ向けて一直線に迫る。

 

「なっ!?」

 

 極大の雷光が網膜を焼く寸前、誰よりも早く咄嗟に動いたのは椿だった。

 腕を伸ばし、ラウルの胸ぐらを力強く掴むと、その体を強引にマウンテンコースターの硬い床へと押し付けて抑え込んだ。直後、ラウルの頭上があった空間を、雷撃が凄まじい熱線を伴って通過していく。背後の迷宮の壁に直撃した雷は、硬質な岩盤を容易く溶解させ、ドロドロのマグマへと変えていた。

 

「な、なんすかこれ?」

 

 突如現れた致死の雷撃に、ラウルが恐怖で声を震わせる。だが、彼が床から顔を上げて向けた視線の先――コースターが差し掛かった幅広の通路には、そこを完全に埋めつくすほどの芋虫型の大型モンスター、巨蟲(ヴィルガ)の大群が現れていた。

 

「そうきたか」

 

 フィンが状況を即座に分析し、冷静な声で零す。今度は、通り過ぎた右の曲がり通路の奥から、突如として迷宮の薄暗い空間に鼓膜を激しく掻き毟るような、狂気に満ちた甲高い笑い声が響き渡った。さらに、硬い石畳を荒々しく砕く重厚な鉄の車輪が、激しく回転して摩擦を生む暴力的な駆動音が前触れもなく周囲の空間へ響く。

 

「何……これ?」

「また、来るのか……」

 

 クルスとナルヴィの声が重なり、その顔に深い絶望の色が帯びる。

 次の瞬間、迷宮の分厚い黒鉛色の壁と曲がり角を木端微塵に破壊し、猛烈な土煙を巻き上げて巨大な影が躍り出た。

 そこには、前方に群がる巨蟲(ヴィルガ)よりも格段に巨大で、ひどく異質なモンスターの姿があった。膨れ上がった柔らかそうな緑の表皮ではなく、その装甲は鋼鉄のように黒光りして極めて硬質。そして何より冒険者たちの理解を根底から拒んだのは、無数に生えた短い多脚の先に、それぞれ独立して高速駆動する無機質な車輪が付いているという事実であった。

 有機物の肉体と無機物の機械が融合した、その混合種(ハイブリット)の名は、極蟲(グラン・ヴィルガ)

 さらには、その極蟲(グラン・ヴィルガ)の頭上に、毒々しい紫と赤の極彩色の衣装を纏った、まるで道化師のようなハートレス――ピエロ・スターが乗っていた。道化師は自身の首を骨が折れているかのような不自然な角度に大きく曲げ、狂気に満ちた笑い声を上げながら、不気味に黄色く光る瞳をソラたちへと向ける。

 

「あれは、人か?」

 

 人型に近いその姿と振る舞いに椿が疑問符を上げるが、リヴェリアが即座に否定する。

 

「いや、あの胸のマークを見るに……あれはハートレスだな」

 

 深層の厳粛で濃密な死の匂いが漂う空間において、原色の派手な衣装を纏うピエロの姿はあまりにも場違いであり、だからこそ周囲の景色から浮き上がり、底知れぬ狂気と不気味さを放っていた。

 

「なんすか、あれ……」

「不気味ね」

 

 ラウルとアリシアが恐怖と嫌悪の入り混じった感想を零す中、先頭で操縦桿を握るソラが即座に行動を起こした。コースターのノーズを強引に引き上げ、進行の軌道を上空へと高く上昇させる。直下から放たれた巨蟲(ヴィルガ)群れの腐食液の一斉射撃が、猛烈な勢いで足元を通過していく。ソラはコースターを限界まで引き出し、見事な三次元機動で液体の弾幕を完全に回避し切った。

 

「いいぞ、ソラ。ここから真っ直ぐ向かえば54階層に続く階段が見つかる」

 

 フィンは眼下の巨蟲(ヴィルガ)、背後から迫る極蟲(グラン・ヴィルガ)、そして謎に包まれたピエロ・スターの存在をあえて完全に無視した指示を下す。部隊の現在の目的はあくまで最深部への強行突破とガレス達との合流であり、未知の能力を持つ強敵との不要な戦闘は避ける。

 それがフィンの戦術だった。

 そのまま暗黒の空間を宙に浮くように飛び進み、ついには54階層への下り階段を見つけ、コースターごと一気に突入する。

 だが、後ろから迷宮の壁をへし折るような巨大な破砕音が木魂した。

 振り返ると、そこには先ほど撒いたはずの極蟲(グラン・ヴィルガ)が、狭い階段通路の壁を複数の車輪と強靭な顎で強引に削り、粉砕しながら異常なスピードで追従していた。その頭上では、ピエロ・スターが腹を抱えて狂ったように笑い転げている。

 ピエロ・スターは不意に笑いを止めると、両手のひらに黄金色に輝く極大の魔力を集束させた。踊るような軽快でコミカルな動作とは裏腹に、一気にその両腕を前方へと突き出す。

 放たれたのは、先ほどラウルを襲ったものよりも遥かに高密度で強大な極大の雷撃であった。まばゆい閃光を放つ雷の弾幕は、狭い階段通路を完全に埋め尽くし、広範囲を薙ぎ払うように扇状に展開。空間の空気を焼き焦がしながら、逃げ場のない標的へと殺到する。

 

「っ!?」

 

 最後尾のリヴェリアが瞬時に状況を演算し、氷のシールドを展開しようとするが、雷の速度が彼女の魔法展開を僅かに上回った。

 落雷の直撃により、マウンテンコースターの後方に凄まじい光の奔流が巻き起こり、リヴェリア、クルス、ナルヴィ、アリシア、ラウルが極大の爆発の渦に呑み込まれる。

 それは、第二級冒険者が生身で受けようものなら、一撃で黒焦げの肉塊と化すほどの絶対的な破壊威力を秘めた雷の直撃であった。だが、猛烈な爆風が晴れた後、彼らは煤まみれになりながらも確かに生存していた。ソラから事前に渡されていたアクセサリーの効果であるラストリーヴのおかげでかろうじて致命傷を免れ耐え抜いていた。

 

「リヴェリア、クルス、ナルヴィ、アリシア、ラウル!!」

 

 ソラが悲痛な声を上げて叫ぶ。だが、彼らが安堵する暇すらダンジョンは与えなかった。コースターが駆け下りる階段通路の壁面が不自然に隆起して膨れ上がり、周囲の岩盤に擬態していた無数のモンスターが一斉に奇襲を仕掛けてきたのだ。ソラはフィンと共に素早く武器を振るい、防衛網を構築。コースター上から身を乗り出し、群がる敵の急所を精密な一刀で次々と切り捨てていく。

 追撃の手を緩めないピエロ・スターが、今度は不気味に首を傾げながらリヴェリア達に向けて細い指を突き刺す。すると、足元の極蟲(グラン・ヴィルガ)の巨大な口腔が開き、凶悪な腐食液が大波のように吐き出され、コースターごと飲み込もうと襲い掛かった。

 

「させるかぁ!!」

 

 だが、体勢を立て直したリヴェリアの対応は完璧だった。彼女はすぐさま残存するシールドを空中に配置し、それを魔力の媒介として巨大な氷のドームを形成、コースターの後方を完全に覆い尽くす。腐食液の大波は氷のドームに激突し、致命的な毒の飛沫を一切通さず、完全に防ぎきった。

 氷のドームが役割を終えて霧散すると、すぐさまフィンの疾呼が響く。

 

「──盾三枚、並べろ!!」

 

 ナルヴィを始めとしたサポーター三名が即座に意図を理解して従う。彼らは自身の身長ほどもある大盾を三枚、コースターの最後尾に隙間なく並べ、強固な防壁にして迎撃のための強靭な踏み台を構築した。

 

「アイズ!!」

 

 フィンの声に応え、アイズがコースター上で跳躍し、美しい後方宙返りを見せる。サポーター達が並べた大盾の壁を両足で力強く踏み締め、デスペレートを真っ直ぐに構えた。

 さらに彼女は、ナルバードとのリンクスタイルで彼女の背に白銀の翼が顕現した。コースターの進行速度による後方への慣性、盾を蹴り出す強靭な脚力、風の魔法による爆発的な加速、そしてリンクスタイルの翼がもたらす圧倒的な推進力。全ての力が一点に集約され、アイズは弾丸となってピエロ・スターへと突撃した。

 対するピエロ・スターもまた、アイズに対抗するかのように自身の背に毒々しい極彩色の翼を生やし、ロケットのように飛び出した。空中できりもみ回転キックを繰り出し、アイズの剣閃と真っ向から衝突する。

 激しい火花が散り、衝突の余波が階段通路の壁を抉り取る。威力は拮抗したかに思えたが、極限まで練り上げられたアイズに威力が打ち勝ちピエロ・スターを弾き飛ばすと、すぐさまアイズはナルバードのアビリティリンクによって会得した技『スティープクライム』を発動。空中で前進しながら、遠心力を乗せた鋭い三連横回転斬りを繰り出す。

 アイズの神速の連続攻撃を全弾食らったピエロ・スターは、うつ伏せの状態で真下を走る極蟲(グラン・ヴィルガ)の固い鋼鉄の装甲へと激しく叩きつけられた。

 

「リル・ラファーガ……!」

 

 アイズが必殺技を口ずさみ、完全な止めを放とうとする。だが、それよりも早く、叩きつけられたピエロ・スターの尻が不自然に爆発した。

 場違いでコミカルな、まるで玩具の風船が割れたかのような間の抜けた破裂音が起きる。だが、それに伴って発生した爆発の威力は衝撃波となり、アイズとピエロ・スターの両者は空中で大きく吹き飛ばされる。

 死闘の最中におけるこの極端なギャップ。圧倒的な暴力の中に突如として混じる道化の振る舞いは、対峙するアイズ達に強烈な苛立たせた。

 大きく後方へ宙返りしたピエロ・スターは、空中で逆さまの姿勢のまま、右足を大きく振りかぶった。彼の足元の虚空を起点に、巨大で鋭利な氷の柱が凄まじい勢いで突き出す。青く透き通った冷酷な氷の刃は、空中のアイズを串刺しにすべく一直線に牙を剥いて伸びていく。

 だが、アイズは背中の白銀の翼を巧みにはためかせ、氷の刃の軌道を紙一重で完全に見切って回避。そのまま高く飛翔し、ピエロ・スターの真上から垂直ダイブでデスペレートを突き刺そうと落下する。

 ピエロ・スターは軟体動物のように身を捩ってそれを回避し、自身の翼を展開してアイズへと攻撃を仕掛ける。空中での激しい剣戟と翼の交錯。一瞬の隙も許されない高速機動戦の最中、ピエロ・スターが唐突に巨大な火球を繰り出した。

 アイズは難なくそれを回避するが、その火球の挙動は異常だった。背後の迷宮の壁に衝突しても炸裂して消滅することはなく、まるでゴム鞠のように不自然に跳ね返り、直進するはずの軌道を無視してコースター上のリヴェリア達へと殺到したのだ。

 

「させないっす!」

 

 中衛のラウルがシールドを強固に構えて防御する。ただ受けるだけではない。盾の表面に展開された冷気カウンターの術式が作動し、火球に込められた炎の魔力を根こそぎ奪い去り、飛来する勢いを一瞬にして完全に殺し切る。猛威を振るっていた灼熱の火球は、瞬時に極寒の巨大な氷塊へと変貌する。

 

「そらよっ!!」

 

 その氷塊を、椿が大太刀の腹で大きく振りかぶり、ピエロ・スターに向けて豪快に打ち返す。

 ピエロ・スターは宙返りをして、嘲笑うように寸前のところで氷塊を回避しようとした。だが、彼らが狙っていたのは「回避されること」そのものだった。

 その一瞬の隙を突いて、ソラが動く。

 ソラはアスレチックフローを発動し、空中の氷塊の座標へ急接近。キーブレードをフルスイングし、氷塊を強烈なスマッシュのごとく弾き飛ばす。飛来する勢いを強引に逆転させられた氷塊は、回避行動を取って体勢の崩れていたピエロ・スターの無防備な背中へと見事に激突した。

 

「ッ!?」

 

 重厚な氷塊をモロに当てられたピエロ・スターは、腰を仰向けにくの字に曲げて悶絶する。さらに、その氷塊には椿が密かにタイムボムの魔法を仕掛けていた。

 仕掛けられた時間差の爆発が巨大な火柱を上げ、その破壊力によりピエロ・スターは再び極蟲(グラン・ヴィルガ)の硬い装甲へと無様に叩きつけられる。

 

「──【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

 その決定的な隙に、後方で魔力を極限まで高めていたリヴェリアが呪文を完成させた。三条の猛烈な吹雪が吹き荒れ、極蟲(グラン・ヴィルガ)と、その上でダウンしているピエロ・スターを丸ごと包み込む。

 極蟲(グラン・ヴィルガ)が完全に凍結したことで車輪の駆動が停止し、急ブレーキのかかった巨体が階段通路に激しい振動を走らせる。だが、既に空を飛んでいるアイズや、コースターから跳躍して空中にいるソラには何の意味もない遅延行為だった。

 駆け付けた椿が、揺れる氷漬けの極蟲(グラン・ヴィルガ)の背へと着地する。

 

「……むっ?」

 

 椿が不審に目を見張った。空から駆け寄ったアイズとソラも、氷漬けにされた敵の様子を見て驚愕する。

 

「いない……?」

「もしかして、逃げたのか?」

 

 分厚い氷の中に閉じ込められていたのは、ピエロ・スターが着ていた毒々しい原色の衣装だけだった。本体はいつの間にか脱出しており、もぬけの殻である。

 

「どうしよう椿、アイズ……!」

「今はこいつを破壊するとしよう。見ろ、凍らされたというのに眼が動いておる。こいつを倒すだけでも、あのふざけたハートレスは追ってこれまい」

 

 厄介な強敵を取り逃がしたことに慌てるソラに対し、椿は大太刀を構え直して意見を提示した。 

 椿の言う通り、氷漬けの極蟲(グラン・ヴィルガ)の眼球が、執拗に彼らを睨みつけていた。完全に粉砕してしまえば、追従能力は完全に断たれる。

 

「わかった!」

 

 納得したソラは、椿とアイズと共にキーブレードを構える。三人の力を合わせた連携技トリニティリミットの極大の光が放たれ、巨大な氷像となった極蟲(グラン・ヴィルガ)を跡形もなく粉砕した。

 直後、アイズは椿を抱え、ソラと共にはテレポを展開し、三人まとめて眼下を走り続けるマウンテンコースターへと帰還する。

 部隊は追手を断ち切ったまま54階層の空間へと飛び出し、コースターの高度を上げる。先ほどと同じく、フィンの完璧な空間把握能力の案内の下で、ガレスたちの元へと最短ルートを進んでいく。

 だが、突如として。

 

「まさか、奴がこれを……!?」

 

 ソラ達の遥か上空で、不穏な気配と桁外れの強い魔力を感じ取ったリヴェリアが、驚愕に声を上げた。逃げたピエロ・スターが身を隠し、遥か上空から密かに繰り出した魔法である。

 ソラ達の頭上の空間が、不吉な赤黒い光に染め上げられた。

 見上げれば、そこには超特大の隕石の群れが、燃え盛る尾を引いて次々と落下してくる黙示録のような光景があった。ダンジョンの分厚い天井を突き破り、階層そのものを崩壊させるほどの絶望的な破壊兵器。

 

「全員、飛べ!!!」

 

 フィンの裂帛の叫びと同時に、全員がマウンテンコースターから一斉に虚空へと飛び出す。地上に留まれば、階層ごとすり潰されるのは明白だった。

 アイズがアリシア、クルス、ナルヴィの三人のサポーターを強引に抱え、白銀の翼を限界まではためかせて飛翔する。

 ソラはキーブレードを掲げ、フォームチェンジであるヒーローズオリジンを瞬時に発動。光のペガサスが引く荘厳な馬車へと姿を変え、重量級の椿とラウルを乗せて空を駆ける。

 さらにソラが懐の絆のお守りを強く握りしめると、ドリームイーターのハンサムペガサスが光と共に実体化して出現した。フィンが素早く乗馬し、後ろにリヴェリアを乗せて手綱を強く握る。

 空を駆ける三つの影が、降り注ぐ隕石の雨の隙間を縫うように必死に逃げる。

 なんとか隕石の直撃から逃げ切った直後、落下した隕石群は絶え間ない地響きと天地を裏返すほどの衝撃を伴って大地を完全に粉砕した。強烈な爆風と灼熱の閃光、そして大地を抉る破壊の波が、周囲の迷宮構造を無慈悲に吹き飛ばしていく。

 翼とペガサスの機動力を最大限に利用し、誰一人欠けることなく生還を果たした一行。

 だが、彼らが振り返った先には、54階層の床が完全に消滅し、二階層下の56階層までが見通せるほどの、途方もない巨大な大穴がポッカリと空いていた。

 

「どうする、フィン」

 

 リヴェリアの問いに対し、フィンは未だ仕留めきれていないピエロ・スターの底知れぬ異常性に苦虫を潰したような顔になりながらも、決して感情に流されることなく冷静な判断を下す。

 

「今はガレスたちとの合流を優先する!」

 

 未知の敵の追撃よりも、分散した戦力の統合が先決。フィンの論理的な決定に従い、一同は翼とペガサスをはためかせ、そのまま開いた大穴を通って56階層へと向かって降下していくのだった。

 一方、その絶望的な破壊の光景を、遥か遠くからピエロ・スターが眺めていた。

 手を望遠鏡の形にしてソラ達の逃走を見送ると、大穴へと入り込んだのを確認して、面白そうに両手を激しく打ち鳴らす。

 すると、彼の足元の虚空から、巨蟲(ヴィルガ)と同じサイズの極蟲(グラン・ヴィルガ)が一切の前触れもなく唐突に出現した。

 ピエロ・スターはそのまま乗ることはなく、出現した硬質な装甲を椅子代わりにどっかりと座り込む。そしてどこから取り出したのか魔石を、下品に噛み砕き、スナック菓子のように貪り食うのだった。




ピエロスターは魔法への耐性がものすごく高く魔法も強いですがその反面、近接と物理には弱いです。なのであの時アイズ一人が突貫するのではなく椿とソラの三人で攻めれば倒せたかもしれません。
ちなみにピエロスターはユニオンクロスに出てきたとあるハートレスの形態前みたいな感じで考えました。
混合種(ハイブリット)紹介
極蟲(グラン・ヴィルガ)
巨蟲(ヴィルガ)を倍、大きくして足に車輪がついたモンスター。基本的にピエロスターからの指示がない場合は対象を追いかけるだけしかできない

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