キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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キングダムハーツⅣの発売日にリメンバー・ミーのワールドにアニメ化と嬉しい情報がいっぱいです。


第61話 58階層の死闘!

 死地と化した58階層で、重厚な鉄と闇が織りなす激闘の火蓋が、ついに切って落とされた。

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

 先陣を切ったガレスの腹の底から絞り出された雄叫びが、広大なダンジョンの空間を激しく震わせる。ガレスの強烈な踏み込みにより、黒鉛の床がクレーターのように爆砕し、彼が手にするグランドアックスが、下段から跳ね上げるような凶悪な軌道で大気を叩き割る。

 対するウェポンマスターもまた、背中に背負った無数の武具の中から長大な薙刀を引き抜き、迫り来るガレスのグランドアックスへと真っ向から振り下ろしガレスのグランドアックスとウェポンマスターの薙刀が正面から激突する。

 

「喰らいやがれ!!!!」

 

 その拮抗状態に対しベートはガレスの背中を飛び箱のように踏み台にして、上空へと鋭く跳躍する。

 フロスヴィルトに意識を集中させ、極限まで練り上げた脚力を以て、上段からウェポンマスターの脳天を砕かんと、鋭利な刃のごとき飛び踵落としを繰り出した。

 だが、ウェポンマスターは、空いているもう片方の剛腕を瞬時に真上へと掲げ、ベートの踵落としをウェポンマスターは腕一本で完全に受け止めてみせたのだ。

 

「ちぃっ!?」

 

 奇襲が失敗したことに舌打ちしたベートに対してウェポンマスターは、空中に滞空しているベートの足を万力のような握力で強引に鷲掴みにした。

 空中で完全に拘束され、致命的な危機に陥るベート。だが、ベートの背中にしがみついていたマジックラビットが、長い耳から素早くブリザガを放つ。

 氷の塊が、至近距離からウェポンマスターの顔面へと直撃し炸裂するとウェポンマスターの不気味に光る黄色の双眸を含む顔の右半分を、分厚い氷の層で完全に凍結させた。

 視界を半分奪われ、強烈な冷気に動きを一瞬阻害されたウェポンマスターは顔面を凍らせた小賢しい兎と狼に対する苛立ちを込めるかのように、掴んでいたベートの足を力任せに振り回し、ダンジョンの黒鉛色の壁面へと向けて豪快に投げ飛ばしたのだ。

 凄まじい遠心力によって放り出され、空中の弾丸と化したベートにさらに運の悪いことに、ベートが叩きつけられる寸前の壁面が不気味に隆起し、そこから幾匹ものモンスターが新たに産み落とされた。生まれたばかりの獰猛なモンスターたちは、飛来してくる獲物へ向けて一斉に鋭い牙と爪を剥き出しにして襲い掛かる。

 

「舐めるなァ!!」

 

 絶体絶命の危機。だが、ベートは投げ飛ばされた勢いを殺すのではなく、自ら身体を捻って回転を加えることで、体制を立て直し迫る壁とモンスターの群れを前に、腰のホルスターからデュアル・ローランを瞬時に引き抜く。

 壁に激突する直前、双剣から放たれた斬撃が、空中で襲い掛かってきたモンスターをサイコロステーキのように細切れにしていく。切り裂かれた肉塊の隙間を縫うように壁面へと着地すると、強靭な脚力で壁を蹴り飛ばし、無傷のまま華麗に体勢を立て直してみせた。

 

 

 ガレスの巨躯が、巨大な光の翼が空中で力強くはためき、ガレスからは到底信じられないほどの軽快さで空中を支配していた。

 

「吹き飛べぇ!!」

 

 上空から獲物に狙いを定めた猛禽のごとく、ガレスがウェポンマスターへ向けて急降下する。ガレスの怪力が乗ったグランドアックスの一撃が、容赦なくウェポンマスターの頭上へと振り下ろされた。

 対するウェポンマスターは、背中の長大な薙刀を瞬時に引き抜く。振り上げられた薙刀の柄でガレスの斬撃を真っ向から受け止め、両者の極大の力が再び空中で激突した。

 空気を圧迫するほどの衝撃波が放たれる中、ウェポンマスターはただ防御に徹することはしない。薙刀を振るう動作と完全に同時に、その巨体に魔力を集中させ、エアロガを展開した。

 複数の竜巻が生まれ、空中のガレスを完全に包囲するように襲い掛かる。さらに地上では、鉄の軍勢たるギガースたちが一斉に砲身を上空へと向けた。

 赤や紫の装甲を持つギガースたちから、無数のショットが雨のように撃ち放たれる。竜巻の牢獄と、下からの無慈悲な弾幕。完全に逃げ場を失ったかに見えたガレスだったが、ガレスの顔に焦りはない。

 

「小賢しいわ!!」

 

 ガレスは背中の光の翼を巧みに操り、竜巻の狭間を縫うようにアクロバティックに飛翔する。下から殺到するギガースのショットに対しては、自身の巨体を盾にするのではなく、手にしたグランドアックスを旋風のように振り回して全て空中で叩き落とした。飛来するショットが次々と両断され、空中で無害な光の粒子となって霧散していく。

 ガレスが完璧な迎撃を見せたその直後、ウェポンマスターが動いた。手にした薙刀を背中へと戻すや否や、ウェポンマスターが腕を大きく振りかぶり、空中を舞うガレスへ向けてモーニングスターを力任せに投擲した。鋼の鎖が無限に伸びるかのように空間を走り、巨大なメイスヘッドがガレスの胴体を砕かんと猛烈な速度で迫る。

 ガレスは直撃の寸前で身体を捻り、紙一重でメイスヘッドの軌道を回避。空を切った鉄球がそのまま後方の壁へと激突するかに見えた瞬間、ウェポンマスターが手首を強く捻ると伸びきっていたはずの鋼の鎖が、まるで意思を持った大蛇のように空中で鋭角に軌道を変え、ガレスの背中を追尾するように襲い掛かる。

 さらに先ほど放たれた複数のエアロガが、逃げ道を塞ぐように再びガレスの周囲へと迫る。

 

「行くぞ!お前たちっ!!」

 

 回避不可能の挟み撃ちに対し、ガレスはイイフラワーとカエルソルジャーに呼びかけドリームイーターの力を極限まで解放した。発動したのはデュアルリンクアタック『カオススネーク』。ガレスが手にするグランドアックスの先端から、眩い純白の光と漆黒の闇が入り交じる、極彩色の混沌としたエネルギーが爆発的に放出された。

 ガレスはそのエネルギーの奔流を、巨大な鞭のように大きくうねらせる。光と闇の鞭が、背後から迫っていたメイスヘッドを力任せに弾き飛ばし、周囲を囲んでいたエアロガの竜巻を根こそぎ切り裂いて消滅させた。

 そのままの勢いで、ガレスは巨大なエネルギーの鞭を眼下のウェポンマスターへと振り下ろした。

 極彩色の混沌の鞭が、ウェポンマスターに連続で突き刺さる。一撃一撃が地盤を揺るがすほどの破壊力を持ち、打撃の嵐がウェポンマスターの巨体を容赦なく打ち据えた。

 ウェポンマスターが、カオススネークの連続打撃を前にして、ついにその足を後方へと後退させる。防御を完全に崩され、装甲が軋みを上げる中、ガレスの放ったエネルギーが限界まで圧縮され、ついに大爆発を起こした。

 極彩色のエネルギーが弾け、無数の光の矢となって放射状に降り注ぐ。圧倒的な破壊の光がウェポンマスターを包み込み、周囲で砲撃を続けていたギガースの軍勢ごと、まとめてダンジョンの奥深くへと吹き飛ばした。

 爆風が収まり、周囲のモンスターが完全に沈黙する。ガレスは光の翼を畳み、ダンジョンの床へと静かに着地した。息を整える間もなく、ガレスは自身の周囲を見回す。

 

「レフィーヤ!!」

 

 ウェポンマスターの心を開放すべくガレスはレフィーヤの名を叫び、広大な空間を探す。やがて、遠く離れた場所でレフィーヤ、ティオナ、ティオネの三人の周囲をギガースの群れに完全に包囲され、さらには芋虫型のモンスターたちが溶解液を放出している光景がガレスの視界に飛び込んできた。

 

「待っておれ!!」

 

 ガレスはグランドアックスからアックス・ローランに持ち替え、レフィーヤ達を助けに行こうと両膝を深く曲げ、跳躍の姿勢を取る。

 その瞬間であった。ガレスに予想外な不意打ちの斬撃が襲い掛かった。

 高出力のレーザーのように一直線に伸びる、黒光の鋭利な斬撃。それはガレスの死角から前触れもなく飛来し、ガレスの無防備な背中へと直撃した。

 だが、その斬撃は肉体を深く真っ二つに切り裂くような性質のものではなかった。直撃した瞬間、無数の針で全身の皮膚を浅く連続で刺し貫かれるような、極めて奇妙で悍ましい感覚がガレスを襲う。

 一本のレーザーのような一閃がガレスを貫通した瞬間、数千回もの刺突となって連続で肉体に食い込み始めたのだ。

 一つ一つの傷は薄皮を突き刺す程度の浅いものでしかない。だが、数千回という異常な回数で執拗に同じ箇所を抉られ、全身の神経を無数の棘で直接掻き回されるような激痛は、ガレスの屈強な精神力をもってしても耐えきれるものではなかった。

 

「ぐあぁあああああああっ!?」

 

 ガレスは強靭な肉体を痙攣させ、アックス・ローランを杖代わりにしてかろうじて地に膝をつく。だが、神経を直接焼かれるような激痛に耐えきれず、ついに地べたに這いつくばり、身を悶えさせながら悶絶した。

 

「なんじゃあッ!!」

 

 ガレスは苦悶のうめき声を漏らしながら、理不尽極まりない技を放った下手人へと怨嗟の叫びを上げる。痛みに滲む視線を後方へと向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 先ほどカオススネークの爆発によって彼方に吹き飛ばしたはずのウェポンマスターが静かに立っていたのだ。そして何より異様なのは、その姿が先ほどのものから劇的に変化していることだった。

 ウェポンマスターの身体から、六本の新たな腕が不気味に生え揃い、合計八本もの腕へと変貌を遂げていた。

 新たに生えた右の中段にある二本の腕は、鋭利な刀を握り締めている。右の上段の腕は、先ほどモーニングスターを垂らしている。

 左腕の上段には無骨で重厚な斧を、中段には鋭い穂先を持つ長槍を、そして下段の腕には先ほどまで振り回していた薙刀がしっかりと握られていた。

 そして、本来のウェポンマスターの両腕には、ロングソードが真っ直ぐに構えられている。刀身から微かに立ち上る黒光の残滓。おそらく、先ほどガレスを悶絶させた未知の連続刺突は、あのロングソードから放たれた剣技によるものだと容易に予想がつく。

 八本の腕に六種類の武器を同時に構えるウェポンマスター。その姿はまるで、舞台の上で歌舞伎役者が芝居がかった見得を切っているかのような、異様で不気味な構えで黄金色に光る眼光が地に伏せるガレスを冷酷に見下ろしていた。

 

 

 芋虫型モンスターが襲いかかる。だが、レフィーヤたちを支援するドリームイーターたちが、その猛攻を的確に凌いでいた。オバケゴーストが冷気を放射し、迫り来る芋虫型モンスターを次々と氷像に変えて進行を阻む。さらにオーラライオンがホーリーで芋虫型の群れを容赦なく蹂躙していく。

 その激しい乱戦の最中、ガンミフクロウ(ルクス)に両肩を掴まれ、空を飛翔するレフィーヤの視界に、猛烈な突進を仕掛けてくるパワータイプのギガースの姿が映った。

 

「【――雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】!」

 

 激しい回避機動の空中で完璧な並行詠唱を完了させたレフィーヤが、眼下に迫る巨兵へ向けて魔法の真名を解き放つ。

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 杖の先端から炎弾が撃ち出され、突進してくるパワータイプのギガースと正面から激突する。魔法が生み出す爆発的な熱波と破壊の力がギガースの突進の勢いを完全に上回り、ギガースは抗う間もなく大きく吹き飛ばされ、重々しい地鳴りを立てて仰向けに倒れ伏した。

 倒れたギガースが機能停止したかに見えたその時、おもむろに機体が身を起こし、機械的な駆動を伴って赤い鎧の胸部装甲が左右に開いた。その操縦席の奥から姿を現したのは、機体を操縦していたハートレスであった。ハートレスは何かに手を伸ばそうと藻掻くような動作を見せたかと思えば、直後に紫色の光の粒子を空間に撒き散らしながら、ふっと虚空へと溶けるように消え去ってしまった。

 

「やっぱりあれ、ソラが言ってたギガースだ」

 

 その光景を目撃したティオナが、確信を持った声で呟く。

 

「ティオナ!あんた、あの新種のモンスター知ってるの!?」

 

 驚愕に目を丸くするティオネに対し、ティオナは首を横に振った。

 

「あれはモンスターじゃないんだティオネ、レフィーヤ。あれはギガースって言って、ちょっと前にソラから聞いた外の世界の物なんだよ」

 

 ギガースの正体が、外の世界からもたらされたものだと知り、ガンミフクロウ(ルクス)から離れてダンジョンの床に着地したレフィーヤも思わず息を呑む。

 

「あれも、外からなんですか……」

 

 驚くレフィーヤに、ティオナが突拍子もない提案を持ちかけた。

 

「ねぇレフィーヤならあれを操縦できる?」

「無理ですよティオナさん!あれは外の世界の技術で作られたんですよね。だったらその知識がない私じゃ……」

 

 慌てて首を振るレフィーヤだったが、ティオナは一切の不安を感じさせない、自信満々の笑みを浮かべてレフィーヤの目を見つめた。

 

「大丈夫。ソラがそこまで難しくないって言ってたから、きっとレフィーヤにできるよ!」

 

 その根拠のない、しかし絶対的な信頼を寄せるティオナの真っ直ぐな瞳に押され、レフィーヤは小さく息を吐いて覚悟を決める。

 

「……分かりました」

 

 レフィーヤが力強く頷くと、ティオナは満面の笑みを浮かべた。

 

「よっし、それじゃ私がレフィーヤを連れていくよ!」

 

 言うや否や、ティオナはレフィーヤの身体を強引に背負い上げ、おんぶの体勢をとる。

 

「ひゃあっ!?」

 

 突然の行動にレフィーヤが驚きの声を上げる。

 

「飛んだ方がいいんじゃない?」

 

 危険な地上を走るティオナに対し、ティオネが呆れたように指摘する。しかしティオナは悪戯っぽく笑みを深めた。

 

「何が起きるか分からないし、それに実は試したいことがあるんだよね」

 

 妹の不敵な笑みに、ティオネは短くため息をついてから承諾した。

 

「分かったわよ。レフィーヤ、悪いけどあんたのこれ、借りていいかしら」

 

 ティオネが空を舞うガンミフクロウ(ルクス)を親指で指し示す。ガンミフクロウ(ルクス)が賢そうに頷くと、ティオネ、オバケゴースト、そしてガンミフクロウ(ルクス)の三者が眩い光に包まれた。

 光が収まると、ティオネは二体のドリームイーターの力を融合させたデュアルリンクスタイル、ゴーストドライブへと変化する。

 

「いっくよぉ!」

 

 ティオナが元気よく叫び、大地を蹴って走り出す。それと同時に、ティオナ自身もリンクスタイルであるライトハンマーへと姿を変え、さらにオーラライオンのリンクアタック、オーラライドを発動する。

 闘気のオーラを全身に纏ったティオナが一直線に駆けると、ティオナの身体からオーラの分身が出現し、ティオナ達を囲む芋虫型の群れを次々と切り裂いて道を切り開いていく。一方のティオネはゴーストドライブの力を駆使し、何度も空間の座標を飛び越えて転移を繰り返し、神出鬼没の奇襲を仕掛ける。立ち塞がる他のギガースたちを的確に吹き飛ばして、安全な進行ルートを完全に確保した。

 ティオナとティオネの連携によって敵陣の中央を突破したティオナは、標的である胸部の開いた空のギガースを見据え、背中のレフィーヤを思いっきり前方へと放り投げた。

 弾丸のように空を飛んでいくレフィーヤ。レフィーヤの視線の先には、空のギガースに新たに乗り込もうとしていた別のハートレスの姿があった。

 

「はぁあああ!!」

 

 レフィーヤは空中で瞬時にキーブレードを出現させ、機体に取り付こうとしていたハートレスを鮮やかに切り裂いて消滅させる。

 そのままの勢いで操縦席へと座り込むと、重厚な装甲が自動で閉じられた。直後、レフィーヤの目の前にある水晶板のようなモニターが起動し、外部の光景が鮮明に映し出される。モニターの左右の端には、機体の耐久状態や魔法兵装の残量を示すような未知の光の目盛りが表示されていた。

 

「え、えっと……よくわからないのがいっぱいありますけど!?」

 

 操縦席に並ぶ未知の計器類を前に、レフィーヤは焦りの声を上げる。だが、敵陣のど真ん中で迷っている暇はない。戸惑いながらも、手探りで左右にある操縦桿を握りしめた。まずは恐るる恐る左の操縦桿を傾けてみる。すると、モニターの視点が滑らかに連動して上下左右に動いた。

 

「こっちは視界……じゃあ、右は……きゃっ!?」

 

 右の操縦桿を少し前に倒した瞬間、ギガースの機体そのものが大きく前傾姿勢をとる。想像以上の反応の良さに慌てて操縦桿を引き戻し、機体の姿勢を立て直した。

 

「なるほど……左が視点、右が身体の動き…」

 

 基本的な操作の法則性を把握した直後、モニターの視界にシュータタイプのギガースが肉薄してくるのが映り込む。

 

「来ました!えっと、足元のこれは…」

 

 レフィーヤは咄嗟に足元にあった二つの踏み板のうち、右の踏み板を強く踏み込んだ。直後、機体の背部から猛烈な推進の炎が噴き出す。ギガースは予想を遥かに超える速度で前方に飛び出し、迫り来ていたシュータタイプの機体と激しく正面衝突した。

 

「きゃあっ!?」

 

 突然の加速と強烈な衝突の衝撃で前のめりになり、レフィーヤは思わず右の操縦桿の頂部にある大きめの装飾ボタンを強く押し込んでしまう。

 

「あ……えっ?」

 

 ボタンを押した直後、レフィーヤの乗るギガースが自動的に踏み込みの姿勢をとり、勢いよく豪快なストレートパンチを繰り出した。鋼鉄の拳がシュータタイプの胸部に深くめり込み、そのまま遠くへと吹き飛ばす。

 

「右のボタンは直接攻撃なんですね!なら、左のボタンは……!」

 

 戦術的な法則を推測したレフィーヤは、今度は意図的に左の操縦桿にあるボタンを押し込んだ。すると、機体の右腕に搭載された兵装が回転を開始し、魔力を編み上げた小型の光弾が連続して撃ち放たれた。光の弾幕が周囲の敵を的確に牽制していく。

 

「右が近接、左が射撃!分かりました、これならいけます!」

 

 操作の理屈を完全に掴み、エルフの少女が自信に満ちた声を上げる。だが、その光の弾幕の向こう側から、起き上がった別のシューターエースのギガースが、両腕の砲身から二つの大型の光弾をレフィーヤに向けて放ってきた。

 

「あっ!?えっと…右の踏み板は前進……なら、左の踏み板は!?」

 

 迫り来る破壊の光を前に、レフィーヤは一か八か、まだ試していない左の踏み板を深く踏み込んだ。下部の推進器が最大出力で点火し、レフィーヤの乗るギガースは大型光弾を紙一重で躱しながら、遥か高くへと跳躍する。

 

「飛びました!やっぱり……っ!」

 

 空中の軌道を左の操縦桿で制御し、シューターエースの眼前に重々しく降り立つ。着地と同時に、レフィーヤは今度は右操縦桿にあるもう一つのボタンを確信を持って強く押し込んだ。機体が深く前傾姿勢をとると、残存する推進の力を全て乗せた強烈なタックルを繰り出した。

 まともにタックルを受けたシューターエースが大きく吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に激突してもがくようにおもむろに起き上がる。だが、受けた破壊の蓄積により、先ほどのパワータイプと同じように胸部装甲が自動で開いてしまった。

 

「ふぅ……確かに、これは操作が容易ですね!」

 

 幾つかの試行錯誤を経て完全に機体を掌握したレフィーヤは、安堵の息を吐きながら誇らしげに呟く。そして、機体の状況を確認しようと、左操縦桿の奥にある、まだ押していない最後のボタンを不用意に押してしまった。

 

「え?あ、れ……!?」

 

 直後、けたたましい警告の光と共に操縦席全体が機体から射出された。どうやらそれは機体を放棄するための脱出装置だったらしく、レフィーヤは座席ごと胸部から空高く吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃあああっ!?」

 

 悲鳴を上げながら落下するレフィーヤ。だが、その落下軌道の先には、先ほど胸部が開いたばかりのシューターエースの機体が待ち受けていた。レフィーヤはそのまま、無防備に開かれたシューターエースの操縦席へと顔面からダイナミックにダイブし、見事に新たな機体を強奪してみせた。

 

「いいぞレフィーヤ!!」

 

 その見事な強奪劇に、地上からティオナが歓喜の声を上げる。

 

「外の世界には、あんなのがあるのね……」

 

 荒唐無稽なギガースの戦い振りに、ティオネが呆れ半分で感嘆の声を漏らした。

 戦局が完全に好転し、ギガースの群れを制圧しつつあると思われたその時であった。

 上から、まばゆい光の尾を引きながら、黄金と翠緑に彩られた明らかに異質な威容を誇る未知のギガースが急降下してきた。

 噴射される圧倒的な光の推進力が彗星を思わせる。

 空中で体勢を整えたその機体、ハイパーエースは、無骨で重厚な四肢を大きく広げた。両肩に備えられた巨大な筒状の武装から強烈な閃光が下方向へと放たれ、落下速度を急速に緩めていく。

 そして、大地を激しく揺るがすほどの衝撃を伴い、重々しく降り立った。赤く光る冷酷な眼差しと、すべてを引き裂く鋭い爪を持つハイパーエースが、ついにその全貌を現した。

 

「新手ですか…だったら…えっ!?」

 

 ハイパーエースはこれまでのギガースとは、機体の出力が完全に別次元の存在であった。宙に浮く特殊な機動によってダンジョンの床との摩擦を完全に消し去り、さらに空間そのものを跳躍する転移の魔法を連続で駆使する。視認することすら不可能な神出鬼没の挙動で、瞬きする間にレフィーヤの乗るシューターエースの死角へと回り込んだ。

 

「きゃっ!?」

 

 転移の直後、ハイパーエースは黄金に輝く力強いタックルを引き絞った。機体の全出力を一点に集中させ、大気を叩き割るほどの凄まじいタックルを放つ。圧倒的な重みと破壊の力がシューターエースの背面に直撃し、分厚い装甲を紙屑のように粉砕した。

 機体が制御を失って吹き飛び、操縦席に致命的な破壊を告げる赤い光が激しく明滅する。

 

「くっ……またですか!?」

 

 レフィーヤは機体が完全に崩壊する直前、再び緊急用の脱出機構を作動させた。操縦席ごと空高くへと射出され、大破したシューターエースが眼下で巨大な火柱を上げて爆散する。

 だが、ハイパーエースの追撃は止まらない。空中に放り出された無防備なレフィーヤと、地上にいるティオナたちを同時に殲滅すべく、両肩の兵装からアルテマボムを展開した。意思を持ったかのように浮遊する複数の光の爆弾が、全方位からレフィーヤたちを執拗に追尾し、逃げ場のない爆発の嵐を巻き起こす。

 

「レフィーヤ!!…って、何よこいつ!?」

 

 レフィーヤのピンチにティオネがテレポを駆使し助けに行こうとするがハイパーエースの影からさらなる乱入者が飛び出してきた。それは約2M(メドル)サイズのギガース、リトルエースであった。

 

「こいつ、さっきまでのより速い」

 

 たった一機のみの出現ではあったが、その機体は他のギガースと比べて小さくしかしその質量に対して過剰なまでの推進器を搭載しており、視界で捉えることすら困難な異常な飛翔速度を誇っていた。ハイパーエースの追尾攻撃を必死に避けるティオネ達をあざ笑うかのように、蝿のように縦横無尽に飛び回る。

 リトルエースの狙いは直接的な破壊ではない。レフィーヤたちの魔法の詠唱や回避行動の機先を的確に削ぐ『妨害』に特化していた。ティオネが反撃の魔法を紡ごうとすれば顔面めがけて小さな光弾を牽制で放ち、ティオナが跳躍しようとすれば空中で体当たりを仕掛けてバランスを崩させる。ハイパーエースの絶対的な火力を補助するという悪辣な戦術であった。

 

「ちょこまかと……うっとおしいのよ!!」

 

 度重なる妨害とに、ティオネが怒気を露わにして絶叫する。理性を怒りに染めながらも、ティオネは冷徹に敵の軌道を解析していた。

 リトルエースの機動は速いが、一定の法則に基づいた機械的な回避パターンが存在する。ティオネはオバケピエロの能力でちびティオネを派遣すると、目まぐるしく飛翔するリトルエースが次に切り返す空間の座標を完璧に見切って正確に投擲した。

 放たれたちびティオネは、リトルエースの回避の終着点へと先回りし、機体の頭部――外界認識を司るメインモニターへと見事に張り付き、その視界を完全に塞ぎ込んだ。

 物理的な攻撃を想定していたリトルエースを操縦するハートレスは、視界の突然の喪失という素早く対処しきれなかった。外界を認識できなくなったリトルエースは自慢の速度を制御できなくなり、空中でぎこちない迷走を繰り返して体勢を大きく崩す。

 

「そこだぁ!!」

 

 その決定的な隙をティオナが見逃すはずがなかった。ティオナはオーラの推進力を足元に爆発させて跳躍し、空中で無防備に悶えるリトルエースの胸部へと勢いよく飛び込む。ティオナは手にした大双刃(ウルガ)を一切の容赦なく突き立て、装甲を貫通して操縦席に潜むハートレスごと完全に貫いた。

 致命傷を受け、操縦者であるパイロットを失ったリトルエースの機体が、推進光を完全に失ってダンジョンの床へと重々しく墜落していく。

 ティオナはそのままリトルエースの機体に深く突き刺さったままの大双刃(ウルガ)の柄を力任せに掴み取った。

 

「いっけぇ!!」

 

 ティオナは巨大なハンマー投げのごとく大双刃(ウルガ)を乱暴に思いっきり振り飛ばす。突き刺さったままのリトルエースの機体が巨大な鉄球の弾丸と化し、空気を引き裂きながら、空気を引き裂きながら、元凶であるハイパーエースの巨体へと真っ直ぐに激突した。

 予期せぬ衝突をまともに受け、無敵を誇っていたハイパーエースが大きく体勢を崩して仰け反る。

 強引に体勢を立て直したハイパーエースは、無機質な赤い双眸を激しく明滅させ、自身に一撃を与えた下手人を探すように首を振る。そして両肩の武装から再びアルテマボムを繰り出そうとするが、その時にはすでに、怒れるアマゾネスの呪文が完成していた。

 

「【――運命(とき)を捕え、運命(とき)を止め、運命(とき)を蹂躙せよ】」

 

 ティオネの口から紡がれる、対象を縛り上げる拘束魔法の詠唱。

 

「【リスト・イオルム】!!」

 

 ティオネの鋭い叫びと共に、ティオネ、オバケゴースト、ガンミフクロウ(ルクス)による一人と2匹の魔力によって具現化した光のムチが空間に出現する。幾重にも枝分かれした光の縛鎖がハイパーエースの四肢に絡みつき、ハイパーエースを空中で完全に捕縛した。

 ハイパーエースは力任せに腕を振り、背部の推進器を最大出力で噴かせて絡みつく光の鎖を引き千切ろうと激しく藻掻く。圧倒的な出力によって光のムチに亀裂が入り始めるが、ティオネの狙いはハイパーエースを完全に破壊することではない。味方の最大火力を叩き込むための、ほんの数秒の停止時間を作り出すことだった。

 ハイパーエースが光の鎖を完全に破壊し、バリアを再展開するよりも早く、空中に放り出されて態勢を整えていたレフィーヤが、落下しながらキーブレードをアーク・ワンドへと姿を変え、真っ直ぐに構えて小さな言葉を紡ぐ。

 

「【――アルクス・レイ】」

 

 アーク・ワンドから放たれた五つの大閃光が、ダンジョンの暗黒を完全に払拭しながら一直線に飛翔する。極太の光の束は、空中で縛り付けられたハイパーエースの胸部装甲に直撃した。抗う間すら与えず、五つの大閃光がハイパーエースの巨体を完全に包み込み吹き飛ばすのだった。

 

 

 冷ややかな石造りのダンジョン内で、ガレスは身の丈を超えるグランドアックスを前面に構えて防壁とし、後退を余儀なくされていた。彼の背中に展開された翼が羽ばたくたびに、自身を中心とした強力な衝撃波が絶え間なく放たれ、迫り来る無数の刃や重撃を相殺しようと抗う。だが、その強固な防御陣と衝撃波による二重の防壁をもってしても押し込まれ、ガレスが一歩を踏みしめるたびに硬質な床材が粉々に砕け散り、深い轍を刻み込んでいった。

 ガレスが斧の凄まじい威力の打撃を戦斧の傾きと衝撃波で受け流した直後、生まれた死角を縫うように左下段から槍が突き出される。それを躱せば、今度は回避して体勢が崩れた瞬間を狙いすまし、頭上から巨大なモーニングスターが容赦なく落下してくる。防御の硬直、回避の隙、姿勢を立て直す瞬間。そのすべての隙を的確に狩ろうとする、無駄のない手数の暴力であった。

 

 装甲の上から骨髄を揺らすほどの衝撃が蓄積していく。強固な戦斧の表面で火花が散り、背後の翼が発する光が明滅するたび、ガレスの額から脂汗が床へと滴り落ちた。

 

「なんちゅうデタラメな手数じゃ!」

「いつまで押されてやがんだ、ジジイ!」

 

 防戦一方の状況を打ち破るように、ベートが戦場に割り込んだ。

 ベートが繰り出したフロスヴィルトによる強烈な刺突蹴りは、ウェポンマスターが放つ怒濤の連撃の隙間を完璧に縫い、無防備となった側腹部の関節へと正確に牙を剥いた。

 

「……ッ!?」

 

 だが、ウェポンマスターは奇襲に対して焦る様子も見せず、即座に武器を操る。ガレスを抑え込みながら、空いた手で刀とロングソードを交差させ、ベートの蹴りの軌道上に完璧な防御陣を構築した。

 重厚な空間に、甲高い軋轢が混じる。凄まじい勢いから生み出された怒涛の連続蹴りが、分厚い鉄壁の防御と衝突し、ダンジョンの暗闇に鮮烈なオレンジ色の火花を散らした。

 その超高速の攻防が激しさを増した瞬間、交差した刀の刀身が、周囲の光を吸い込むような禍々しい漆黒へと変貌した。

 それは通常の剣戟で見られるような予備動作など一切存在せず、まるで空間そのものを不気味に歪めるかのような、極めて不自然かつ滑らかな下段からの斬り上げであった。

 だが、迫り来る禍々しい一閃を前にしても、ベートの顔に恐れは一切ない。

 

「――甘ぇんだよッ!」

 

 口元に凶悪な笑みを浮かべたベートは、反射的にフロスヴィルトを装着した両脚でウェポンマスターの刃を正面から力任せに挟み込むと、そのまま決定的な一撃を粉砕し、致命的なカウンターを叩き込もうと身体を深く沈め込んだ。

 

「避けろベートォォォッ!!」

 

 ガレスの血を吐くような叫びが反響を切り裂くがベートがその言葉を認識した瞬間には、漆黒の刃は既にフロスヴィルトの堅牢な装甲と激突していた。

 

「あ……?」

 

 直後、ベートは自分の目で見ている光景と身体の感覚が合わず、予期せぬ感覚に混乱を覚えた。

 確実にフロスヴィルトで受け止めたはずの刀が、まるで幻影のようにフロスヴィルトの装甲をすり抜け、透過したのである。刀身から波紋のように溢れ出した黒光りはベートの肉体を真っ直ぐに貫通していた。

 

「ガァアアアアアアアアアッ!?」

 

 脳を揺らす激痛。空中で完全に身動きを奪われたベートの頭頂部へ巨斧が無慈悲に振り下ろされる。

 

「――ッ!?」

 

 絶体絶命のまさにその刹那、ベートの本人の意図を完全に無視して背中のマジックラビットがベートの肉体を強引に操り、同時にダークバリアを展開する。

 死闘の中で展開された唯一の防壁は、巨斧が誇る圧倒的な質量の前になす術もなく、一瞬で粉々に打ち砕かれたがウェポンマスターの斧の軌道からベートの首筋を間一髪で逸らさせた。

 

「ぐっ……ガ……ぁッ……!」

 

 頭を割りかける衝撃の中、意識の暗転を泥臭く突っぱねたベートは追撃として放たれた薙刀の一閃に対し、フロスヴィルトの側面を間一髪で滑り込ませ、強引にその軌道を弾き飛ばした。

 直後、爆風を蹴るようにして後方へ大きく跳躍したベートは、ガレスの足元へと着地し、低く荒い息を吐き出しながら体勢を立て直した。

 

「ハァッ、ハァッ……!ジジイ、なんだあれは!?」

「恐らく、オッタルがソラにしたのと同じ貫通する斬撃と言ったところじゃろう。しかも、儂がさっき喰らった感覚からして、距離ごと切ってきよる!ベート奴の武器が光ったら絶対に受け止めるな!なんとしてでも回避せい!」

「チッ……!冗談じゃねぞ!」

 

 ベートが歯鳴りをさせながら忌々しげに舌打ちし、荒々しい呼吸を無理やりに整えながら、ウェポンマスターの挙動からどうにか隙を見出そうと、双眸を細めて睨みつけた。

 体勢を立て直し、再び武器を構え直した二人の眼前。背後に広がる暗黒の空間から、突如として巨大な武器が空気を切り裂いて飛来した。

 視覚外からの完全な奇襲。しかし、ウェポンマスターは背後の脅威をも瞬時に感知し、ロングソードと刀を振り抜いて飛来物を的確に弾き飛ばした。金属同士が激突する音の後、弾き返された武器は床に落下することなく、淡い光の粒子へと分解されて空中に消失した。

 

「あの大双刃(ウルガ)は……」

「おっ待たせーっ!!」

「ちょっと遅れちゃったかしら!」

 

 死の緊張が激しく張り詰めていた空間を突き破り、弾けるような明るい二つの声が響き渡った。

 通路の奥、暗がりを力強く蹴立てて駆けつけてきたのは、ティオナとティオネの二人であった。頼もしい彼女たちが合流したことで、重苦しい死闘の空気が僅かに和らぎを取り戻す。

 

「それで? さっき遠目から見た時よりも色々と状況が変わってるみたいだけど、どういう感じなの?」

 

 ティオネは、疲労を隠しきれないガレスとベートの荒い呼吸、そして周囲の壁面に深く刻まれた凄惨な破壊痕を一瞬で見抜き、冷静に戦況の確認を求めた。

 

「奴の武器が光り出したら、絶対に受けずに横へ避けろ。防御も距離も無視して斬り裂いてくるぞ!それとレフィーヤはどうした?」

「大丈夫よ。レフィーヤには、あれを確実に吹っ飛ばすための準備をしてもらってるわ。一応、私のちびたちが一緒に護衛として付いてるから心配ないわ」

「そうか。ならば、大砲の準備ができるまで、ここは儂らで持ち堪えねばならんな。行くぞ!」

 

 ガレスが深く息を吸い込み、グランドアックスを力強く構え直す。彼の背中から生える魔力の翼が再び強く輝き、周囲の空気を震わせる。その静かな、しかし確固たる決意の動作に呼応するように、ベート、ティオナ、ティオネの三人もそれぞれの武器を構え、ウェポンマスターと四人の戦士たちによる、総力戦の火ぶたが切って落とされた。

 

「いくよーっ!」

 

 合流した四人が阿吽の呼吸で一斉に散開し、ウェポンマスターを東西南北から囲み込むように完全包囲する。

 一切の死角を潰した連携攻撃をウェポンマスターは八本の腕と六種の武器を、まるでそれぞれが別の生き物のように稼働させ、四人全員を同時に相手取る。

 

「おりゃああああっ!!」

 

 大双刃(ウルガ)を構えると同時に青白く輝く衝撃波を纏ったティオナは、勢いよく砲弾のような突撃を仕掛ける。

 だが、ウェポンマスター右腕の斧を盾のように構え、ティオナの突進を真正面から受け止めた。衝撃がぶつかり合い、周囲の空気が吹き飛ぶ。その拮抗の最中、左腕が蛇のごとき滑らかさで伸び、槍の鋭利な切っ先がティオナの視界の外側から急所を正確に狙い打つ。

 

「っとと!あぶなっ!」

 

 間一髪、野性の勘で槍の刺突を躱すティオナ。

 その僅かに生じた意識の偏りを突き、ティオネがゴーストドライブの能力で距離を一瞬で縮め、一瞬にして完全な無防備な背面へとテレポートする。

 

「もらった!」

 

 背中から首筋への致命的な一撃をウェポンマスターは振り返らず手首を不自然に曲げ、背後に向けて薙刀をプロペラのように大回転させた。鋼の暴風がティオネの斧槍を強引に弾き飛ばし、さらにエアロガを発生させる。

 斬撃への防御に意識を割いていたティオネは、至近距離で炸裂した竜巻の直撃を受け、為す術もなく空中へと吹き飛ばされた。

 その連鎖的な攻防によって上空に意識が向いた刹那、足元の死角に潜り込んだベートが、下から喉笛を貫くべくフロスヴィルトによる強烈な蹴り上げを放つ。しかし、ウェポンマスターは刀を下段へ滑らかに交差させ、ベートのメタルブーツを完璧に迎え撃った。

 火花が散る中、突如として刀身が、光を飲み込むようなドス黒い輝きを帯びる。

 先ほどの、内臓を直接焼かれるような激痛と、ガレスの切迫した警告がベートの脳裏にフラッシュバックする。

 

「クソがッ!!」

 

 ベートは防御という選択肢を完全に破棄し、全身のバネを総動員して強引に長距離のバックステップを踏んだ。

 直後、黒き斬撃が、ベートの鼻先数ミリの空間を静かに通り過ぎる。刃が空を切ったように見えたが、ベートの背後に存在していた頑強な壁が、斜めに両断され、ズレて崩れ落ちた。硬さなど関係なく、空間ごと斬り裂くような一撃だった。

 ベートが後退して生じた間隙を埋めるように、ガレスが重戦車のごとき安定した重心で進み出る。

 だが、今度はロングソードが、目を灼くような真っ白な光を放った。離れていても届く斬撃。見えない刃が距離を無視して、遠くにいるガレスの眉間と心臓を同時に急襲する。

 

「っ!」

 

 ガレスは背中に展開された翼を大きく羽ばたかせた。ショックウェーブを放ち、その圧力で見えない刺突の軌道を強引に逸らす。わずかな回避も合わせることで、間一髪で脳天への致命傷を避ける。頬の皮膚を浅く裂かれ、赤い血が空中に飛散するが、ガレスは痛みに顔をしかめることもなく、歩みを一切止めることなく距離を詰めていく。

 四人による怒濤の波状攻撃を、一歩も退くことなく完璧に捌ききったウェポンマスターは、ついに自身の誇る武具の圧倒的な質量と技術を全開にし、回避不能の物理連撃陣を展開し始めた。

 まず、右上の太腕が掴む巨大なモーニングスターが大旋回を始める。

 超絶的な筋力によって振り回される重厚な鉄球が、凄まじい遠心力を帯びていく。それは周囲の空気を力任せに切り裂く暴風兵器へと変貌を遂げた。地表を荒々しく叩き割っては大量のガレキを噴き上げさせ、凄まじい物理衝撃波によって、四人の退路と接近経路を一瞬にして分厚いガレキの嵐で封鎖してしまう。ダンジョン内に激しい風圧が吹き荒れ、暗い空間が不気味に軋みを上げた。

 

「うえっ、なにこの風!?」

 

 迫り来るガレキと衝撃波の嵐を回避せんとし、ティオナとティオネが反射的に壁を越えるべく上空へと高く跳躍する。

 だが、ウェポンマスターは残る腕で長槍と薙刀を上空へ構え、隙のない対空迎撃を敢行。さらに背中の武具群から飛刃を一斉に放ち、空を覆う鋼の雨となって上空の逃げ場を完全に死殺した。

 

「手数が多すぎるわね……!」

 

 下にはガレキと衝撃波、上には逃げ道を塞ぐ鋭利な鉄の弾幕。幾重もの武具が織りなす絶望の檻が襲い来る中で地上でガレキの嵐を凌ぎながら回避に専念するガレスとベートに対して黒光りする刀とロングソードの交差連撃の牙が向けられる。

 

「チッ、調子に乗ってんじゃねえぞ木偶の坊が!」

「ぬぉあああっ、この程度で押されっぱなしでいられるか!!」

 

 上下左右、逃げ場などどこにも存在しない場所で四人はこの理不尽極まりない猛攻を突破せんとしがみつく。

 ベートはマジックラビットとのリンクスタイルを活用し、頭部に生えたウサミミを躊躇いもなく地面の石畳へ深々と突き立てて固定した。そのまま全速力で大きく後方へと駆け下がっていく。ウサミミは千切れることなど一切なく、強靭なゴムのごとく限界を超えて伸び続けていく。ピンと張り詰めた両耳には激しい雷撃が不気味に帯電し始め、周囲の大気をバチバチと焦がしていった。極限まで引き絞られたウサミミの強烈な反発力と、溢れ出す雷の推進力が、放たれる一瞬に向けて爆発的に高まっていく。

 

「ぶっ飛べェ!!」

 

 ベートが足の踏ん張りを解き、固定を解除した瞬間。極限まで蓄積された反発力と雷の加速が掛け合わされた、猛烈なスリング突撃が敢行された。ベートの肉体は砲弾のような猛烈な速度で、迫り来る白黒の斬撃の網目を強引にすり抜け、そのままウェポンマスターの顔面に強烈な蹴りを入れる。

 

「よくやった!ベート」

 

 技を放つよりも先に顔面に強力な蹴りを入れられたウェポンマスターが退いた隙を狙い、ガレスは、グランドアックスとアックス・ローランを大きく振りかざしウェポンマスターの手に向けてグランドアックスとアックス・ローランを投擲。

 投擲された二振りはウェポンマスターの手に衝突するがウェポンマスターの武器を落とすことはできず武器の軌道を変えるだけに終わる。

 上空では、氷柱の豪雨と薙刀の暴風が迫る中、ティオネがティオナの身体を強く抱きしめ、ゴーストドライブの空間転移を限界突破の魔力消費で連続使用した。視界が明滅し、連続ワープによって、空中に構築された殺戮の檻から辛うじて脱出する。

 

「ハァッ……ハァッ……ッ!」

「ほんと、どんだけデタラメなのよ……!」

 

 絶望的な全武器と全魔法の合成による同時連撃を、それぞれが機転とリンクスタイルを駆使し、なんとか無傷で凌ぎ切った四人。

 しかし、未だ優位は依然としてウェポンマスターにある。反撃の糸口となる決定的な隙を探ろうとした、まさにその時であった。

 奥深くから、空気を震わせるほどの重低音が、一定のリズムを刻みながら響き渡った。

 猛スピードで突進してきたのは、先ほどまでティオナ達の前に立ち塞がっていたはずのハイパーエースだった。

 全身の関節部から高圧の蒸気を勢いよく吹き出しながら、地響きを立てて爆走してくる。その重厚な駆動音は、死闘の場にはいささか場違いなどこか気の抜けた響きを含んでいた。

 ガレスたちが驚愕に目を見開く中、ハイパーエースの巨大な肩の上には、レフィーヤが毅然とした態度で立っていた。

 

「皆さん、お待たせしました!!」

 

 さらに驚くべきことに、ハイパーエースの開いた胸部の操縦席の中では、四人の小さな分身であるちびティオネたちが、小さな手足でレバーやペダルに必死にしがみつき、完璧な連携でこの巨大な機体を操縦していたのだ。

 

「おいおいおい、嘘だろォ!?」

 

 ベートが思わず呆れたような言葉を漏らす中、ちびティオネたちの操縦によって最高速度に達したハイパーエースは、そのままの勢いで側面に強烈なショルダータックルを喰らったウェポンマスターは大きく体勢を崩し、盛大に仰け反った。

 

「いっくわよッ!!」

 

 ティオネが普段の冷静さを完全に投げ捨て、荒々しい声で鋭く叫ぶ。怒りと興奮が猛烈に渦巻くその咆哮とともに、ウェポンマスターへ叩き込むのはデュアルリンクアタック――カオススネーク。

 光と闇が渦を巻く極彩色のエネルギーの巨大鞭が、まるで意思を宿した大蛇のごとく空間を苛烈にうねる。大きく仰け反ったウェポンマスターの巨躯に喰らいついた瞬間、カオススネークが爆発的に弾け、無数の光の矢となって全方位から放射状に突き刺さった。

 解き放たれ、深々と穿たれた無数の光の矢の連撃。その凄まじい衝撃と束縛の極光が、ウェポンマスターの全身をその場に縫い付け、一時的な無力化へと追い込んだ。

 

「一気に片付けるぞ。合わせろ!」

 

 ガレスの腹の底から響く号令を合図に、完全に拘束された敵を中心として、ガレス、ベート、ティオナの三人が素早く散開し、回避不能の包囲陣を敷く。

 ガレスはグランドアックスを天高く掲げ。

 ベートはフロスヴィルトに氷の魔剣を込め、周囲の空気を凍結させる冷気を立ち昇らせた。

 ティオナは、大双刃(ウルガ)にオーラを収束させる。

 そして宙に浮くレフィーヤは、フェアリー・エピタフを対象へと真っ直ぐに突きつけた。

 

「「「「はあああああああああっ!!」」」」

 

 四人が極限まで魔力と力を高め、己の武器に全霊を込める。

 それぞれの意志と祈りが一つの焦点で共鳴し合い、薄暗い空間を真昼の太陽のように照らし出す、超巨大な光の魔法陣が展開された。

 全員の力が完全に同期した大技、トリニティリミット。

 魔法陣から放たれる眩い光が極限まで収束し、臨界点に達した瞬間。

 

「「「「消し飛べェェェェェェェェェッ!!!」」」」

 

 四人の絶叫とともに、展開された魔法陣の全方位から極大の光の奔流が一斉に放たれた。

 それは一切の闇を許さない、絶対的な浄化の光の柱であった。光の奔流は拘束されたウェポンマスターに直撃し、断末魔の叫びを上げる時間すら与えず跡形もなく消し飛ばしていく。

 圧倒的な光芒が周囲の影を焼き尽くし、やがてゆっくりと収束していく。

 数秒後、光の柱が完全に晴れた通路には、焼け焦げた黒い床と、耳鳴りがするほどの静寂だけが残されていた。

 限界を越えた死闘の末、ガレスたちはついに完全なる勝利を収めたのだった。

 静寂が訪れた空間の中で、四人はそれぞれ強張らせていた武器を下ろした。

 ピンと張り詰めていた空気がふわりと緩み、途端に全員の口から疲労を隠しきれない荒い息が漏れ出す。その場に座り込みそうになるのを堪えながら、彼らは確かな勝利の余韻をじんわりと噛み締めていた。

 崩れ落ちた壁の隙間から、どこからか冷たくも心地よい風が吹き込んできた。それは、過酷な死闘の終わりを告げる優しい風であった。

 ガレスは小さく息をつき、グランドアックスを肩に担ぎ直す。ベートは鼻を鳴らしながら、フロスヴィルトについた埃を軽く払い落とした。ティオナとティオネは顔を見合わせて無邪気に笑い合い、降り立ったレフィーヤはほっとしたように胸を撫で下ろしている。




一時期はキングダムハーツⅣが出るよりもダンまちとか他のラノベが完結する方が先なんじゃないかと思ってました
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