キングダムハーツ オラリオ ミィス   作:小説好きー

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ミステリアススター「命… 夢… 希望… どこから来て どこへ行く?」
もしケフカがダンまち世界にキングダムハーツのFFキャラみたいに最初からいたらどうなるかな。あまり設定変更を加えずにガストラ帝国があるとしてとか考えたら異端児編が結構変わりそうだなって思いました


第65話 妖星乱舞 第四楽章 舞い散る妖星、英雄たちの凱歌

 灼熱の業火と樹海が支配していた59階層の面影は、もはや世界のどこにも存在していなかった。

 ダンジョンの理が捩じ切れ、天地の境すらもが致命的なまでに歪み果てた黄金の隔離結界。冒険者たちの足場となるのは、虚空の海にあてもなく宙を漂う砕けた石畳の残骸のみであり、天上からは一切の慈悲を持たない冷酷なる純白の光が絶え間なく降り注いでいる。そこは神々が遊戯盤として創り上げた下界のダンジョンとは次元を異にする、完全なる別世界。その神聖にして異様なる次元の最奥で、悠然と宙に君臨するミステリアススターは、地に這うソラたちを意思なき羽虫のように見下ろしていた。

 純白の仮面に深く刻み込まれた三日月のような笑みは微動だにせず、黒く空洞化した眼窩の奥で、ただ命という矮小な存在を嘲笑うかのような虚無の光が鈍く明滅している。

 満身創痍の冒険者たちが、己の命を燃やして再び武器を構え直したその刹那、ミステリアススターは声を発することもなく、背に折り畳まれていた巨大な純白の翼を静かに広げた。

 羽撃きとともに、神域を照らしていた黄金の光が反転するように、底知れぬ漆黒の闇が空間を急速に侵食していく。大気中の温度が一瞬にして奪い去られ、肺に空気を取り込むことすら躊躇われるほどの、圧倒的な死の予兆が戦場を完全に覆い尽くした。

 

「この感覚は……!」

 

 かつてレイディアントガーデンで対峙したセフィロスと同じ致命の気配。それを心の芯で察知したソラが、全身の産毛を逆立てながら反射的に悲痛な叫びを上げた。

 

「守りよ!!」

 

 ソラの全力を注ぎ込んでリフレガを展開した直後、全方位を覆い尽くした大技【心ない天使】の不可視の呪詛が、空間を満たすあらゆる存在の心を直接抉り抜いた。

 対象の心を直接蝕み、生命力を極限まで削り取って強制的に瀕死へと叩き落とす無慈悲なる極大魔導。光の障壁によって直撃を紙一重で防ぎきったソラとは裏腹に、背後に展開していたロキ・ファミリアの一同に逃げ場は存在しなかった。

 不可視の巨大な鉤爪が胸の奥深くまで突き刺さり、命の源を強引に引き剥がされるような絶望的な激痛。肺から空気が根こそぎ奪い去られ、息を吸うことすら叶わない致命的な脱力感に襲われる。命の灯火が一瞬にして消え入りそうな細い糸へとすり減らされ、頑強な冒険者たちの膝が次々と砕け落ちた。

 肉体の物理的な損傷を超越した、魂そのものへの致命傷。彼らの精神力(マインド)は強制的に枯渇寸前の限界点まで追い詰められていた。

 倒れ伏すことなく歯を食いしばり、薄れゆく意識を辛うじて繋ぎ止めているフィン、リヴェリア、ガレス、そしてアイズたち第一級冒険者の姿は、まさにオラリオ最高峰の猛者と呼ぶに相応しい執念の結晶だった。だが、後衛を務めるラウル、クルス、ナルヴィ、アリシアたちの目はすでに焦点が合わず、呆然と大地に這いつくばるのが精一杯だった。

 

「クソッ……みんな……!」

 

 ソラが振り返ったその瞬間、趣味の悪い処刑を完遂せんと、ミステリアススターの周囲を不気味に旋回する三種類のスリースターズ【スリースターズ】が動き出す。鳥の羽を持つ頭部、鋭い刃の翼を持つ頭部、そして悪魔の角と蝙蝠の翼を持つ頭部。赤、青、黄の光を宿したスリースターズたちが、無力化した冒険者たちへ確実な死を運ぶべく、虚空に複合魔導の閃光を灯した。

 灼熱の業火、絶対零度の氷柱、そして紫電の雷獣。三つの属性が絡み合い、回避不能の死の弾幕となって冒険者たちへと降り注ぐ。

 

「させるかぁっ!!」

 

 一切の絶望を拒絶する少年の咆哮が、凍りついた神域の静寂を鋭く引き裂く。ソラは瞬時に手にしたキーブレードを強く握り直し、【アルテマウェポン】をその手に顕現させた。

 溢れ出す純白の光粒子が少年の全身を包み込み、星々の輝きを集めたかのような光の衣を纏う神々しい姿、【アルティメットフォーム】へと変貌を遂げる。

 ソラの不屈の意志に呼応し、虚空に幾十もの純光の剣が円環を描いて出現した。無数の剣が織りなす【ブレードウォール】が、倒れ伏すアイズたちの周囲を鉄壁の円陣のように囲い込み、降り注ぐ複合魔法の光弾を完璧に遮断して弾き返す。

 幾千もの魔法の爆発が盾の表面を叩き、空間を激しく揺るがす。しかし、ソラの展開した光の剣陣は一切の綻びを見せることなく、背後の仲間たちを確固として守り抜いていた。

 

「そこを……退けッ!」

 

 光の防壁が敵の複合魔力を弾き飛ばした瞬間、ソラは身を翻して【ブレードリベンジ】を解き放った。追従する無数の光の剣刃が嵐のような回転乱舞となって宙を切り裂き、迫り来るスリースターズたちを弾き飛ばす。

 ソラの攻勢は止まらない。瞬時に【十字振り&きりもみ突進】でミステリアススターの懐へと飛び込み、【縦回転振り&交差投げ】で無数の剣雨を浴びせかける。さらに神速の瞬間移動から【スパイラルダイブ】で急降下突撃を仕掛け、【シャイニングチャージ】で無数の光の剣と共に突進する。

 体勢を立て直したスリースターズが横槍を入れようとした瞬間、周囲に【サークルオブライト】を展開して全方位を薙ぎ払い、最後は全身の全身の力と回転を極限まで乗せた【前方旋風回転投げ】を放つ。凄まじい速度で回転するアルテマウェポンが、巨大な神像の胸郭へと力任せに叩き込まれた。

 空間を大きく抉るような衝撃波と共にミステリアススターが僅かに後退し、仮面の奥で不快げに沈黙する。

 しかし、ソラが単身で繰り広げる神速の攻防も、伏臥する一同の霞む視界には、底なしの絶望の淵における僅かな抗いにしか映らなかった。極限まで削り取られた生命力と精神力が思考を鈍らせ、勝機も見えず、希望すら摩耗しかけていた。

 自分たちはここで終わるのか。あの輝かしい地上へ戻ることは叶わないのか。

 満身創痍の冒険者たちの心が、暗い絶望の闇へと完全に呑まれかけたその時。

 空間を震わせる力強い咆哮と共に、フィンが泥を舐める大地にフォルテイア・スピアを突き立て、己の足で立ち上がった。

 フィンの碧眼が、不屈の輝きを取り戻して仲間たちを射抜く。

 

「君たち……に……っ、ソラと……ベルの真似は……難し、いかい……?」

 

 血を吐くような痛みをねじ伏せ、フィンは荒く乱れる呼気の合間から、今にも途切れそうな声で問いかけた。掠れ、震えるその声に、けれど微塵の翳りもない。

 

「彼らは……っ、どんな絶望が襲いかかろうと……決して、諦めない……。彼らの持つ……『繋がり』が、彼らを立ち上がらせ……常に……限界を、超えさせていく……っ! ならば……僕たちも……っ、立ち上がらなければ……ならない……!」

 

 途切れ途切れに絞り出されるフィンの魂の叫びが、重圧に沈む神域の空気を、胸を衝く鋭さで切り裂いていく。

 

「上で……待っている、みんなのところへ……帰るために……っ! そして……本拠(ホーム)で待つ彼らのために……っっ!!」

 

 その血の滲むような演説が、朦朧としていたラウルの意識に強烈な楔を打ち込んだ。

 帰還を信じて待つ仲間たちの顔。そして、かつての悲劇で命を落とし、記憶の中で笑うノアールたちの面影が、凍りついていた胸の奥底で鮮烈な炎となって燃え盛る。

 

「おおおおおッ!!」

 

 ラウルが意地と執念だけで大地を踏みしめ、全身の骨が軋むのも構わずに立ち上がった。

 その背中に勇気付けられるように、ティオナが、ティオネが、ベートが、椿が、そしてレフィーヤが、折れかけた膝を無理やり伸ばして武器を構え直す。第一級も第二級も関係なく、ロキ・ファミリアの絆が彼らを絶望の底から引き上げたのだ。

 戦意を取り戻した仲間たちを確認し、フィンが傷を癒やすための切り札であるラストエリクサーを懐から取り出そうとした、まさにその瞬間だった。

 

「ぬぉおお! 」

「【―我が名はアールヴ】」

 

 大地を震わせる咆哮と共に、倒れていたはずのガレスが豪快かつ不敵に笑いながら立ち上がる。その隣では、同じく再起を果たしたリヴェリアが凛とした声で防護の魔力を紡いでいた。

 ガレスの背後で、美しい精霊の姿をしたドリームイーターであるイイフラワーが、癒やしの波動を湛えた純白の祈りを捧げる。

 放たれたのは、ガレスとイイフラワーの魂と魔力が完璧に交わるリンクアタック【キュアサン】。そして、リヴェリアが展開する【ヴェール・ブレス】。

 夜明けの太陽の如き眩い浄化の輝きが神域全体を優しく包み込み、冒険者たちの肉体の損耗と、底を突きかけていた精神力(マインド)と体力を一瞬にして完全回復へと押し戻す。さらに清らかな光の息吹が全員の身体を覆い、物理と魔力の双方に対する強固な抵抗力を与えて絶対の守りを固めた。

 

「倒れてなかったのか、ガレス、リヴェリア」

「舐めるな」

「ここで醜態を晒せば情けないからな」

 

 驚き目を見開くフィンに対し、フィンたちは揺るぎない絆を瞳に宿して微笑み合う。

 頼もしい幹部たちの言葉に、フィンは戦士の貌となって不敵な笑みを深く刻んだ。

 

「さぁ、仕切り直しと行こうか!」

 

 完全回復を遂げたロキ・ファミリアのが神域の空気を激しく震わせる。全員が万全の状態でソラの援護とミステリアススター打倒に向け、反撃の狼煙を高らかに上げた。

 戦意が最高潮に達したその瞬間、前衛に立つアイズ、ティオネ、レフィーヤ、そしてラウルの身体が、突如として炎に包まれた。

 

「え……!?」

 

 突然の異変に一同が息を呑む。だが、全身を包むように燃え上がるその炎に熱さや痛みは一切なく、むしろ魂の奥底から尽きることのない温かな力が奔流となって湧き上がっていた。

 自らの両手を見つめるアイズが、困惑の中に確かな微かな温もりを見出す。

 

「この感じ……ベル……?」

「みんな、無事だったんだって、ええっ!?燃えてる!?い、癒し…!」

 

 敵の追撃を凌いで舞い戻ってきたソラが、仲間たちの無事を喜びかけた直後、白く燃え上がる姿を見て目を丸くする。慌てて【ケアルガ】を紡ごうとキーブレードをかざしたソラを、アイズが静かに制した。

 

「大丈夫……なんか温かくて、ベルを感じるの」

「え、本当か?」

「うん。多分…ベルの炎と、雷と、光が……身体を満たしてる?」

 

 アイズのその言葉に、ソラは直感的にすべてを理解した。

 

「そうか!ベルのお守りが、みんなに力を貸してくれたんだ!」

「どういうことだ、ソラ!」

「今のアイズたちは、ベルの魔法やスキルが使えるんだよ! まさかベルの作ったお守りが、こんなことになるなんて……!」

 

 ソラの言葉にフィンが驚愕の声を上げた直後、ミステリアススターが両腕を冷酷に交差させた。

 頭上の天幕に黄金の巨大な正三角形が幾重にも複雑な魔法陣として展開し、次々と地面を穿つ巨大な封殺結界【トライン】が発動する。冷酷な光の線が回転しながら戦場を隙間なく分割し、地面へと定着した瞬間に眩い光の奔流となって柱状に炸裂した。

 

「散れッ!」

 

 フィンの鋭い号令で全員が影を裂いて跳躍し、足の踏み場を逃げ場を一切残さずに奪い去る死の爆発を紙一重の神速で回避していく。

 ミステリアススターが放つ冷徹な【スリースターズ】の氷柱と雷獣が、容赦なく追撃として降り注ぐ。フォルテイア・スピアで極太の氷塊を砕き、回避行動を取りながら、フィンは頭を高速回転させた。

 

「ベルには申し訳ないが、実戦で使わせてもらうよ! 他にどんな感覚がある!」

「アタシなんかさ、光が集まって鐘の音が聞こえてきて、振ったら、いつもより強いのが出たんだけど!」

 

 大双刃(ウルガ)を構えながら、スリースターズの雷撃を弾き飛ばしたティオナが興奮気味に叫ぶ。遠方でアルテマウェポンを構えるソラが、風を裂いて叫び返した。

 

「英雄(ヒーロー)を思い浮かべるんだ! ベルの力は、想いの強さでどこまでも跳ね上がる!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、それぞれの胸の奥に不屈の英雄像が灯り、フィンの眼光が鋭利な刃の如く研ぎ澄まされた。勝利への盤面が、彼の脳裏で瞬時に組み上がる。

 

「これよりあのハートレスを討伐する。見せてあげようじゃないか、僕たちの力をね!」

 

 怒涛の反撃が開始される。

 高高度から降り注ぐのは、鳥の羽を持つ赤のスリースターズからの執拗な爆撃雨だった。空間を埋め尽くす劫火の弾幕に対し、後衛のクルスと彼のドリームイーターであるタイホウカブトが地を踏み締める。

 

「撃ち落とすッ!」

 

 クルスの絶叫と共にリンクアタック【ターゲットショット】が起動する。タイホウカブトの強靭な角から連射される極大の魔力弾が、空を覆う爆撃を次々と空中で相殺していく。そこにアリシアが長文詠唱で編み上げた極大の氷雪魔法が直撃し、赤のスリースターズの機動力を完全に奪い去った。

 その直下では、刃の翼を持つ青のスリースターズが、目で追うことすら不可能な神速の機動で空間を切り裂いていた。神速による見えない斬撃の嵐。だが、その不可視の領域に踏み込んだのは、【サンダーストーム】によって雷光をその身に宿したベートだった。

 極限の紫電を纏ったベートが、神速の軌道を無理やり蹴り砕いてスリースターズの横腹に肉薄する。しかし青のスリースターズは即座に刃の翼で迎撃姿勢をとった。

 

「遅えんだよ、間抜けがッ!」

 

 ベートが嘲笑うと同時、スリースターズの死角から空間が歪んだ。ティオネがデュアルリンクスタイル【ゴーストドライヴ】を発動させ、幾重もの残像を伴いながらテレポを駆使し不規則な機動で現れたのだ。神出鬼没の跳躍から放たれたティオネの連続強襲がスリースターズの姿勢を完全に崩し、そこへベートの雷光脚が痛撃を与えて戦列を撹乱する。

 さらに地上では、黄のスリースターズが、冒険者たちを押し潰そうと重力と呪縛の魔法を乱射していた。だが、その足元から突如として魔力の網が展開される。ナルヴィとハサミクワガタのリンクアタック【トラップショット】だ。

 不意を突かれた黄のスリースターズが拘束された瞬間、タツホースに騎乗し冷気を纏ったシールドを構えたラウルが、決死の形相で懐へと飛び込んだ。防御を捨てた突進がスリースターズの巨体を捉え、接触と同時に猛烈な凍気が解放され、その身を分厚い氷の彫像へと変えて足止めする。

 三体のスリースターズの連携が崩れ、ミステリアススターの絶対的な陣形に致命的な隙が生み出された。

 仲間たちが命懸けで隙を切り開く中、魔力を練るレフィーヤは、ガンミフクロウと共に虚空を翔けていた。彼女は誇りを胸に、リンクアタック【エアライドボンバー】を駆使し、上空から猛烈な突進でスリースターズたちの軌道を徹底的に塞いでいく。さらに接近してくる敵の残滓に対しては、キーブレードを振るい襲い来る脅威を鋭く切り裂いた。遠方の敵にはダークファイアなどの的確な魔法を次々と叩き込み、後衛でありながら前線を支える遊撃としての役割を完璧に果たしていく。

 その前衛では、ティオナとティオネのアマゾネス姉妹がそれぞれの得物を振るい、狂気じみた神域の空間で激しい死闘を繰り広げていた。

 敵の猛攻を大双刃(ウルガ)で弾き返しながら、ティオナの胸中には一つの想いが渦巻いていた。

 ――英雄。私が思う、英雄とは何か。

 戦いの中で、その問いの答えを探すように思考を巡らせる。幼い頃から大好きなアルゴノゥトの姿。そして、ダンジョンで、愚直なまでに前へ進み続け、自分たちに光を見せてくれた少年の背中。

 彼らの姿が、ティオナの心の中でピタリと重なっていく。自分も、誰かを救える英雄になりたい。絶望を打ち砕く光になりたい。彼女の心が確かな熱を帯びるにつれ、ティオナの身体から、かすかな鐘の音が鳴り響き始めていた。

 数分間にも及ぶ果てしない死闘。鳴り続ける鐘の音が次第に大きく重厚になっていく中、苛立ちを募らせたミステリアススターが、迎撃のために【破壊の翼】を振るった。

 空間そのものを断ち割る不可視の絶死の衝撃波が前衛をすり抜け、魔法を放ち終えた直後で無防備となっていたレフィーヤへと真っ直ぐに襲い掛かる。

 

「レフィーヤ!!」

 

 ティオナが声を荒げ、自らの身を投げ出してレフィーヤを強引に横へと吹き飛ばした。

 

「ティオナさん!!」

 

 自身を庇い、代わりに【破壊の翼】の直撃を受けたティオナの姿に、地面に転がったレフィーヤが悲痛な声を荒げる。

 防御を捨てた肉体に致死の威力が突き刺さり、鮮血が宙へ舞い散った。だが、魂に深く刻まれた【ラストリーヴ】により、消えゆく命の灯火をギリギリの淵で踏みとどまらせた。

 極限の瀕死状態。その刹那、彼女のスキル【狂化招乱(バーサーク)】と【大熱闘(インテンスヒート)】が同時に激しく牙を剥く。ダメージを負うごとに跳ね上がる異常な攻撃力と、窮地において全能力を超強化する二重の激情。そこへベルから託された【英雄願望(アルゴノォト)】の光が雪崩れ込み、破壊の翼にぶつかったティオナの身体からは絶えず重厚な鐘の音が響き渡っていた。

 その絶好の隙を突き、無数の【スリースターズ】がそれぞれの属性たる炎、氷、雷を全身に纏い、トドメを刺さんとばかりにティオナへ向けて猛然と突進し、魔法の弾幕を放ってくる。

 

「はぁあああ!!」

 

 気合の咆哮と共に、ティオナが手にした大双刃(ウルガ)を力任せに振り抜く。

 大鐘の響きと共に放たれたのは、夜明けの太陽を思わせる眩い黄金の残光だった。爆発的に噴き上がったその残光は、突進してきたスリースターズの弾幕をいとも容易く吹き飛ばし、そのままの勢いでミステリアススターの巨大な羽をも根元から完全に叩き折った。

 

「なっ……あれは…残光!?」

「ティオナ……!」

 

 規格外すぎる力の奔流に、ガレスが驚愕の声を上げ、ティオネが目を剥いた。

 

『――!?』

 

 神威を破られ、初めて仮面の奥で動揺と激怒の色を見せたミステリアススター。だが、ロキ・ファミリアの怒涛の連携は一切の隙を与えなかった。

 翼を失い姿勢を崩したミステリアススターの周囲で、スリースターズが軌道を立て直そうとする。

 完璧な支援によって生み出された最大の好機。

 椿が炎を纏った大太刀で空間そのものを溶断し、氷結し墜落してきた赤のスリースターズを一刀両断にする。

 ベートが銀の剛脚にベルの雷光を限界まで宿らせ、音速の跳躍蹴りでバランスを崩した青のスリースターズを完全に粉砕する。

 さらにラウルによって氷漬けにされ行動を封鎖された黄のスリースターズを、ティオネが豪快な蹴りで粉々に砕き割った。

 自らの両翼たる絶対の防壁の片割れと手駒たるスリースターズをすべて失ったミステリアススター。

 純白の仮面に刻まれた三日月の笑みが、初めて醜悪な狂気の歪みへと変貌を遂げた。

 激怒に震えるミステリアススターは、残された左腕と右腕の空間に、極限まで圧縮された光と闇の魔力を集束させる。

 ミステリアススターが、魔法による蹂躙を捨て、自らの膂力と狂気を剥き出しにした近接戦闘へと移行したのだ。

 空間を抉り取る衝撃波と共に、ミステリアススターが瞬きすら許さぬ速さで前衛陣へと突進する。

 迎撃に出たガレスが膂力を尽くしてグランドアックスを力任せに叩きつける。椿もまた、右手に握るアックスローランと左手のエクスカリバー・ローランを同時に閃かせ絶技を込めた猛攻で迎え撃つ。

 だが、交差した瞬間に発生した激突の余波は、彼らの想像を遥かに絶していた。

 

「ぬおおおおおッ!?」

「なんだこの重さはッ!」

 

 光と闇を纏った薙ぎ払いが放つ圧倒的な重みと威力の前に、二人の巨体が容易く吹き飛ばされ、神域の浮遊石に激突する。陣形が崩れかけ、ミステリアススターの追撃の刃が容赦なく二人に振り下ろされようとしたその時。

 眩い純白の流星と、翠緑の暴風が、眼前の虚空に割り込んだ。

 アルティメットフォームの光の衣を翻すソラと、ベルから託された炎、雷、そして光の魔力を全身の風に上乗せしたアイズだった。

 ベルの思いがもたらす温かな力が、彼女の風をかつてないほどに強く、そして優しく燃え上がらせていた。

 ソラの周囲を飛び交う無数の光の剣が、ミステリアススターの放つ薙ぎ払い軌道を強引に弾き返す。同時に、暴風と稲妻を纏い、極限の勢いを得たアイズの白銀の剣が、ミステリアススターの手刀と激しく斬り結んだ。

 天地四方の虚空を舞台にした、人智を遥かに超える激しい空中剣戟が幕を開ける。

 ソラは空間跳躍を駆使してミステリアススターの死角へと回り込み、アルテマウェポンによる神速の連撃を叩き込む。ミステリアススターがそれを足蹴りで弾き返そうとするたびに、アイズが背中の風を爆発させて神速で飛翔し、雷光を帯びた鋭い突きでミステリアススターの巨体を強引に押し返す。

 互いの死角を完璧に補い合う二人の剣舞。剣と剣が衝突するたびに、黄金の神域に雷鳴のような爆音が轟き、余波だけで周囲の浮遊岩が次々と粉砕されていく。

 息もつかせぬ空中戦の中、アイズは自らの内に溢れるかつてない力に驚愕しつつも、目の前の敵を打倒することだけに意識を研ぎ澄ませる。ソラの光の鍵剣とアイズの翠緑の風刃が完全に同調し、暴風の如き手数で次第にミステリアススターを上空へと押し込んでいく。

 苛立ちを隠せないミステリアススターが双剣を交差させ、全方位への破壊の衝撃波を放つ。だが、アイズは炎と雷を織り交ぜた風の装甲でそれを真っ向から耐え抜き、ソラが光の剣陣を展開して衝撃を完全に殺した。そして二人の刃が同時にミステリアススターの純白の仮面を掠め、不気味な傷跡を深く刻み込んだ。

 仮面を傷つけられ、神としての絶対の尊厳を汚されたミステリアススターが、ついに怒りの臨界点を突破した。

 ミステリアススターは神域の中心へとさらに高く浮上する。空間そのものが限界を超えた魔力に悲鳴を上げ、天を覆っていた黄金の雲が真っ二つに引き裂かれた。

 解き放たれたのは、最大にして最凶の奥義【妖星乱舞】。

 発動の直前、神域の空気を完全に凍り付かせるほどのおぞましい気配が膨れ上がるのを察知し、本能的な死の危機を感じ取った冒険者たちは、示し合わせたかのように後衛のリヴェリアの元へと一斉に集結した。

 天の裂け目から、世界を終わらせるかのような無数の巨大な漆黒の流星雨が降り注ぐ。同時に、神星の本体から幾重もの光と闇の極太の閃光が放射され、逃げ場を完全に塞ぎながら神域の次元そのものを純粋な破壊の宴へと沈めていく。

 全方位から襲い来る、圧倒的な死の嵐。

 雲を引き裂いて落下してくる流星の中には、家屋ほどもある超巨大な隕石がいくつも混ざっていた。その絶望的なまでに巨大な岩塊に対し、ガレスが一歩前に出る。ガレスはは全身の筋肉を限界まで膨張させ、血管が破裂せんばかりの力を両腕に込める。

 

「これしきッ!!」

 

 大地を砕く凄まじい踏み込みと共に、グランドアックスを下から上へと豪快に振り抜いた。恐るべき膂力が超巨大隕石を真正面から打ち据え、まるで脆いガラス球のように空中で粉々に粉砕する。

 さらにフィンがダークオーラで宙を舞い、降り注ぐ隕石の群れへと自ら飛び込んでいった。卓越した動体視力と戦術眼で、雨あられと降り注ぐ無数の隕石をフォルテイア・スピアによる乱撃を叩き込む。

 

「全員、リヴェリアの元へ集まってくれ! 頭上は僕とガレスで食い止めるッ!」

 

 空中で描かれた黄金の軌跡が、致死の隕石を次々と無害な石塊へと変えて岩塊の雨を凌いでいく。

 二人が命懸けで頭上の破壊を食い止めているその最中、本能的な死の危機を感じ取った冒険者たちは、示し合わせたかのように後衛のリヴェリアを中心として一斉に集結した。

 

「「【……障壁となって我等を守れ──我が名はアールヴ!!!】」」

 

 フィンの号令に応じたリヴェリアとレフィーヤが、完全に共鳴させた魔力と詠唱をもって【ヴィア・シルヘイム】を展開するが、それを嘲笑うかのように神星が放つ光と闇の閃光が間断なく直撃し、鼓膜を破壊せんばかりの衝撃が神域を激しく揺るがした。

 圧倒的な妖星乱舞の威力の前に、結界を支えるリヴェリアとレフィーヤの杖が激しく震える。リヴェリアは、額から滝のような汗を流しながらも、決して屈することなく魔力を注ぎ込み続ける。彼女の誇りと意志が結界の強度を底上げしていたが、それでも神星の規格外の魔力は容赦なく結界を削り取っていく。

 第一層、第二層の結界に瞬く間に亀裂が走り、その亀裂から溢れ返った奔流が第三層へヒビを刻み、第四層をも激しく震わせる。 莫大な魔力の逆流と負荷に、レフィーヤが鮮血を吐き出し、リヴェリアの端正な顔がかつてないほどの苦痛に激しく歪んだ。

 ついに限界を迎えたレフィーヤの膝が折れ、その身体が前へと倒れそうになった、まさに絶体絶命の瞬間。

 

「くっ……ぁ……っ! まだ……まだ、ここで折れるわけには……いかな……っ」

「レフィーヤ!」

 

 ソラが駆け寄ろうと身を乗り出した、その時。

 少年よりも早く、銀色の風がレフィーヤの傍らへと滑り込んだ。

 

「……ッ」

 

 倒れかけるレフィーヤの華奢な身体を、無言のまま伸びた力強い腕がしっかりと支え止めた。

 

「ベート、さん……」

 

 息絶え絶えになりながらも、レフィーヤは自身を支える人物の名前を呼ぶ。

 だが、ベートは何も返さず、ただ前方の敵を鋭く見据えたまま両腕を交差させて闇の魔力を極限まで引き出した。彼が無言で展開した巨大な【ダークバリア】が、崩壊寸前だった六重の結界を内側から覆うように展開され、七つの防壁が重なり合う。

 その瞬間、彼らの間に強い絆の光が奔った。ベート、レフィーヤ、リヴェリアの三人の意志が完全に共鳴しトリニティガードが顕現した。

 闇の防壁と魔導結界、そして心の光。

 すべての力が重なり合った絶対障壁が、降り注ぐ妖星の豪雨と光闇の奔流を真っ向から受け止める。

 想像を絶する衝撃波と爆風。世界の終わりにも似た暴風雨が障壁を激しく打ち据え、神域の岩盤が次々と消し飛んでいく。極限の精神力(マインド)消費にベートが牙を食いしばり、レフィーヤとリヴェリアの額から大量の汗が噴き出すが、彼らは誰一人として一歩も引かなかった。

 盾を構えるラウルが、祈るように両手を組むアリシアが、大太刀を握りしめる椿が、そしてすべてを出し尽くしたティオナとティオネが、互いの肩を寄せ合い、互いの命を預け合う。その絶対の信頼が、破壊の暴威を完璧に防ぎ切った。

 そして、永遠にも思えた狂乱の嵐が僅かに晴れた瞬間。すべてを出し尽くしたミステリアススターに、決定的な硬直が生じた。

 待ちわびたその絶対の勝機。

 嵐が止んだ静寂の神域を、フィンの最終号令が鋭く貫いた。

 

「決めるぞ!アイズ!!ソラ!!」

 

 障壁が解かれると同時に、三人の勇士が虚空へと飛び出した。

 全てを懸けた同時攻撃の布陣。

 それを迎え撃つべく、ミステリアススターの周囲に再びスリースターズの集団が姿を現す。ミステリアススターが腕を振り下ろすと同時に、虚空の石畳を突き破って巨大な氷結の山が無数に生え出し、三人を串刺しにせんと襲い掛かる。さらに上空からは、【もりもりサンダガ】が絶え間なく降り注いだ。

 フィンが跳躍し、迫り来る氷壁と雷撃の雨を掻い潜りながらフォルテイア・スピアを構え、詠唱を開始する。

 

「──【真(あらた)なる契りを此処に】──」

 ────────………………。

 ……………………。

 …………。

「真名(まな)、刻まれし光。右腕(うで)は裂け、傷口(きず)は哭き、五の一が開く】」

 

 響く詠唱。

 冒険者たちと、ミステリアススターの放つ猛攻の間を縫って渡る雄々しき歌。

 ミステリアススターが放つ狂気の嵐の中を、フィンは止まらない。降り注ぐもりもりサンダガの紫電を槍の石突で弾き返し、眼前にそびえ立った氷結の山を槍の穂先で砕き割りながら、戦場を真っ直ぐに駆け抜けていく。

 

「【語れ賢者(フィネガス)よ、神工輝斧の担手(にないで)よ。騙れ偽者(フィアナ)よ、汝は赤を名乗る者。報いし猟犬は既に数多の槍とともに】」

 

 槍は歌いながら駆ける。

 それはかつての騎馬を率いし騎士のごとく。

 その側面では、アイズが翠緑の暴風を纏いながら神速で躍動していた。彼女は行く手を阻む氷結の山を白銀の剣で次々と両断し、巨大な氷の破片を蹴り台にして、足場のない虚空を天高く駆け上がっていく。迫るもりもりサンダガの直撃を風と光の装甲で受け流し、ひたすらにミステリアススターの懐を目指した。

 

「【轟く馬蹄、終わらぬ蹄跡。騎士達の歌は今もなお高らかに響く。──すなわち誓約、小人(われら)が誇り。──すなわち狼煙、小人(われら)は守護者】」

 

 そしてソラは、スリースターズの猛追を振り切るため、アルテマウェポンを掲げてシュートロック【インフィニットサークル】を展開した。

 虚空に幾つもの巨大な光の魔法陣が出現する。ソラ自身が純白の閃光と化し、魔法陣から魔法陣へと凄まじい速度で乱反射しながら空間を縦横無尽に駆け巡る。飛び交う光の軌跡がスリースターズを次々と貫き完全に粉砕して撃墜した。

 

「【一族よ、集え。この御旗のもとに。同胞よ、続け。聖烈の光は今も先前に】」

 

 ソラはそのまま宙に踏みとどまり構えに入る。空中に無数の光の剣を円環状に顕現させ、剣先に限界まで光を集束させていく。

 後衛ではレフィーヤが、自らの残存精神力(マインド)のすべてとベルから託された力を融合させ、ガンミフクロウに運ばれながら、はるか上空のアイズの背に向けて神速の風を練り上げていた。

 

「【我が名は一走(いっそう)、蹄鉄とともに駆ける者。大いなる勇気(いし)のもと、今一度。もう一度。聖約(ゲッシュ)をこの手に】」

 

 壊れ果てる寸前の神域の奥で、空に浮かぶ黄金の王冠とミステリアススターは瞠目した。

 黄金の髪の輝きに、殺されるだけだった冒険者たちの心と魂が、息を吹き返す。

 

『…………!?』

 

 絶頂に至っていたミステリアススターも、砕けかけた純白の仮面を眼下に向け、気付いた。

 暴力的な『破壊の嵐』にも屈さず、この絶望の宴にも潰えることのない、勇気と心の反逆を。

 

「【もし許されるならば──】」

 

 魔力を秘め、瞳の色を真紅に変え、光を放ちながら。

 多くの傷を負い、それでもフォルテイア・スピアを握りしめる勇者──フィンは、『真勇』の名を離さなかった。

 

「【今ここに、女神の一槍を】」

 

 破滅の定めは転じ、光は闇に屈することを拒絶する。

 雄叫びを上げる冒険者たちの意志が宿り、絶望を砕く英雄たちの背を押す。

 ミステリアススターを討ち果たすべく、三人が紡ぎ出した力は限界を突破し、神域を揺るがす極限の熱量を宿し

 

「【…敵対者を薙げ。ゲイル・ブラスト!!】」

 

 レフィーヤが解き放った英雄願望(アルゴノォト)の白光を帯びた暴風がアイズの背を激しく押し出し、彼女の身体を目にも留まらぬ速さの砲弾として上空のミステリアススターへと射出する。白銀の剣には、重厚なる大鐘の響きが極限までチャージされていた。

 

「とどめだーーッ!!」

「これで……終わりッ!」

「【ティル・ナ・ノーグ】!!」

 

 ソラの咆哮と共に無数の光の剣が嵐のように乱舞し、天から幾筋もの極太の光の柱が降り注いでミステリアススターの巨体を貫く。そこへアイズの想いを乗せた一閃が迫り、フィンの渾身の『投槍魔法』が一条の閃光と化して解き放たれる。

 天空からの光の柱、剣撃、そして光槍。

 三方向から放たれた全てを懸けた三つの力が、神域の虚空で交差するように、全く同時のタイミングでミステリアススターの巨躯へと直撃した。

 光の柱が動きを縫い止め、神速の一閃が純白の仮面と狂気の核を真っ二つに叩き割り、光槍が心臓部を深々と刺し貫いて内部の魔力を塵に還す。

 三つの極大攻撃を同時に受けたミステリアススターが、内側から眩い光の亀裂を幾重にも走らせる。絶叫すら上げることは叶わず無数の光の粒子となって爆散し、虚空へと消滅した。

 

 ミステリアススターの崩壊に伴い、降り注いでいた黄金の光が霧散していく。

 隔離されていた世界が静かに融解し、彼らの周囲には再び、見慣れた59階層の光が広がっていった。

 モンスターもアンヴァースの姿もすでにない、静寂に包まれた焼け焦げた大地の上に、満身創痍の冒険者たちが静かに降り立つ。

 先刻まで次元そのものを歪ませていた神威は完全に消失し、ただひんやりとした微風だけが冒険者たちの頬を撫でていく。

 熱を帯びた空気を深く吸い込み、ソラは隣に立つ少女に向かって口を開いた。

 

「やったなアイズ」

 

 そのソラの言葉に、アイズは静かに微笑んで「うん」と深く頷いた。

 

「アイズ!ソラ!」

 

 そこに、オーラライオンに搭乗したティオナが猛スピードで飛び込み、二人の身体に勢いよく抱き着いた。

 

「やっと終わったっす……」

 

 後衛ではラウルたちが力尽きたように腰を落とし、深い安堵の声を上げて大の字に寝転がっている。

 

「大丈夫か、レフィーヤ?」

 

 息を整えるリヴェリアが、倒れ込んでいるレフィーヤに優しく問い掛ける。

 

「はい……やったんですね、私たち……」

 

 信じられないといった様子で言葉を零すレフィーヤに、リヴェリアは「ああ、よくやった」と静かに答え、彼女の頭を優しく撫でた。

 

「よくやった、ベート」

 

 武器を下ろしたフィンが、無愛想ながら近づいてきたベートに向けて静かに労いの言葉を掛ける。

 

「二度とやらん」

 

 ベートは顔をしかめ、照れ隠しのようにそっぽを向いて鼻を鳴らした。

 

「無事かいガレス」

 

 フィンが声を掛けると、傷だらけのガレスは斧を肩に担ぎ直した。

 

「大丈夫じゃわい!」

 

 ガレスの豪快な笑い声が、静かな階層に反響する。

 

「おーいフィン。ガレス!!」

 

 その時、陽気な声と共に椿が二人のもとへ歩み寄ってきた。二人が椿の方に振り向くと、彼女はそれぞれの手に武器を持っていた。それは、ミステリアススターとの死闘の最中には使われていなかった未知の武器に見える。それもそのはず、その武器は椿が鍛え上げたものではないのだから。

 それらはフィン達が倒した神像ウォーリング・トライアドが遺したドロップアイテムだった。

 椿が右手でぶんぶんと振り回しているのは、実体のない純粋な光で形作られた剣だ。透き通るような青白い刀身は、握る者の生命力に呼応するかのように眩い刃へと膨れ上がっている。その名は【アルテマウェポン】。

 そして左手に握られているのは、対照的に鈍い銀色の刀身に黄金の鍔が据えられた、重厚な鋼の幅広剣だ。触れずとも肌を焼くような黒い熱気が刃から滲み出ており、圧倒的な破壊の気配を漂わせている。その名は【ラグナロク】。

 二振りを両手に掲げ、鍛冶師としての抑えきれない好奇心を剥き出しにしながら、椿は子供のように無邪気な笑い声を上げていた。

 生き残った喜びと戦果に沸き立ち、59階層のあちこちで勝鬨の声が上がっている中、歓喜の声を上げていたティオナの身体が突然眩い光を放ち出した。

 

「ど、どうしたのよティオナ!?」

 

 横にいた姉のティオネが、予期せぬ事態に驚きの声を上げる。

 

「この感じ……」

 

 その光の波長を感じ取ったソラが驚愕に目を見開き、すぐさま自身の右手にキーブレードを出現させた。

 ソラが突然武器を取り出したことで、アイズもまたまだ戦いは終わっていないのだと即座に判断し、愛剣デスペレートを構え直して身構える。

 だが、攻撃の気配はなかった。暗雲が立ち込める不気味な上空に向かって、ティオナの胸元から放たれた一条の鋭い光が螺旋を描いて天へと昇っていったのだ。

 きらめく光の粒子と幾重もの光の輪が上空の虚空へと一点に収束していく。やがてそこに、まばゆい光を放つ巨大な『鍵穴』がゆっくりと姿を現した。

 その意味を理解したソラは、キーブレードを手に静かにその光景を見据えていた。

 深く息を吸い込み、低く身を沈めて構えを取ると、彼の足元から澄んだ光の輪が波紋のように広がり、キーブレードの切っ先へと清浄な光が凝縮されていく。

 狙いを定めるように、ソラがキーブレードを天へと突き出した。

 放たれた青白い光の奔流が、天空に浮かぶ巨大な鍵穴の中心を真っ直ぐに貫いた。

 光を受け止めた鍵穴は激しく脈動し、幾条もの光輪を周囲へ放射しながら圧倒的な輝きを増していく。

 そして次の瞬間、暗闇のダンジョン世界を一瞬にして塗りつぶすほどの、圧倒的な純白の閃光となって弾け飛んだ。

 視界を埋め尽くしていた光が静かに晴れ上がると、そこには本来の59階層の光景が完全に戻っていた。隔離結界の痕跡も、世界を歪めていた異形の気配も、残らず消え去っている。

 突然の超常現象に、ラウルたちは驚きのあまりに空いた口が塞がらないまま固まっていた。

 フィン、リヴェリア、ガレスの三人は、鍵穴を呼び出したティオナがセブンハーツの一人だったという事実に内心で驚愕していた。

 しかし、彼女の光が結果的にとはいえこの世界を救うための道標となれたことに、三人は静かに喜びの笑みを浮かべるのだった。




ティオナの残光ってこれでいけますかね?
これにて遠征を終了となります。次回からは時系列が少し戻って一方その頃ベルはという形になります。
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