「さて、聞きたいことがあるようだが、その前に――」
ベルセクスが淡々とした口調で場を掌握しようと口を開いた、まさにその瞬間だ。
これまで辛うじて理性を保ち、限界まで堪えていた三柱の神々が、弾かれたように一斉に席を蹴り飛ばした。そして、冷然と佇む黒コートの男へ向かって、食ってかかるように鋭く詰め寄る。
「アルテミスの身に何が起きているんだ! 今のアルテミスはまるで……っ!」
「アーディ……いや、ディラクスと会わせてくれ……!」
「ノアール達はいつ目覚めんねん!」
胸を掻きむしられるような焦燥を剥き出しにして叫ぶヘスティア。
苦渋と渇望の入り混じった眼差しを向け続けるガネーシャ。
怒りを爆発させ、今にも机を叩き割らんばかりの勢いで威嚇するロキ。
三者三様の切実な想いと激情の怒号が激しく交錯し、静謐だったはずの密議の場は、一瞬にして収拾のつかない大喧騒へと叩き込まれた。
だが――その熱に浮かされたような混乱を、一つの「声」が冷徹な刃のように切り裂いた。
『――落ち着け』
部屋の空気そのものをビリビリと微かに震わせる、重厚な低音。
声の主は、目の前の黒コートの男ではなかった。ベルセクスが無造作にポケットへと手を突っ込み、取り出したのはモバイルポータル。
そこから放たれる声の主に、ガネーシャがはっと息を呑んで背筋をピンと伸ばす。
「ウラノスか……!」
モバイルポータルの向こうにいるウラノスは、騒ぎ立てる神々を静かな声で伴って諭した。
『お前たちが聞きたいことはわかる。だが、まずは落ち着け』
「……そうそう、ウラノスの言う通りさ。彼は逃げやしないんだから、ここは一旦落ち着こうじゃないか」
ウラノスの言葉に便乗するように、ヘルメスは人懐っこい笑みを浮かべてみせる。しかし、弓なりに細められた切れ長の橙黄色の瞳の奥だけは、目の前にいるベルセクスを決して逃がさないとばかりに冷たく鋭い眼光を放っていた。
水を打ったように静まり返った室内で、ウラノスが真っ先に重い口を開く。
『かつて大抗争の果てにアストレアたちによって天界へ送還されたはずのお前が、なぜそのようなノーバディへと肉体を変化させ、再び下界へ舞い戻ったのか。……その経緯を聞こう』
厳格な追及を受けたベルセクスは、冷ややかな自嘲の笑みを浮かべた。そして、エレボスが天界へ還された直後に起きた、あまりにも過酷な未曾有の事態を語り始める。
退屈極まりないはずの天界で、当時、前代未聞の「戦争」が勃発していたのだという。
「なんや、神同士の内輪揉めか?」
「神々が争うなら、それは戦争ではなくただの喧嘩ではないのか」
ロキとガネーシャが怪訝そうに疑問を呈するが、ベルセクスは静かに首を横に振った。
「争っていた相手は神じゃない。天界の外側から侵入してきた、正体不明の侵入者だ」
その底知れぬ異形を目にした瞬間、たまたまその場に居合わせた神々は、『油断すれば下界はおろか、天界すら根こそぎ塗りつぶされる』と本能で背筋を凍らせたという。
ゆえに神々は
天界すら脅かす外敵の存在に神々が顔色を失う中、ベルセクスは淡々と経緯を紡いでいく。
怪異を滅した刹那、エレボスは気づいてしまったのだ。その侵入者とまったく同じ不吉で冷たい気配が、下界のダンジョンの底深くに巣食っていることに。
とんでもない事態が起きている。だが、すでに送還された身である彼には、下界へ干渉する術も再び降りる術もない。
さらに天界も、二度と外敵を招かぬよう神々の手によって強固な防壁で完全に閉ざされつつあった。
ならば、これから下界へと降りていく他の神にこの事態を伝え、警告しなければならない――そう思い至り、踵を返して歩き出した、まさにその時だった。
エレボスの足元に、突如として底知れぬ漆黒の闇が広がったのだ。
「抗う間もなく闇の底へと呑み込まれ、引きずり込まれた先は、上下も時間も存在しない漆黒の空間。放出した
ベルセクスは深く息を吐き出し、自らが下界へと堕ちたあの日の悪夢の光景を、静かに思い起こすように語り継いだ。
・
気づけば、俺は暗いどこかにいた。
上下の感覚すら曖昧な、湿り気を帯びた絶対の闇。自分が誰なのか、なぜこんな冷たい岩盤の上に倒れているのか、何一つとして思い出せない。胸の真ん中にぽっかりと巨大な風穴が穿たれたような、ひどく冷たい空虚さだけが全身を支配していた。
ただ、自らの肉体が尋常ではない強度と力を秘めていることだけが、冷え切った岩肌に触れる指先から伝わってくる。
ここはどこだ。俺はなんだ。
答えのない問いを反芻していたその時――空間そのものを軋ませるような激震と、鼓膜を破らんばかりの轟音が、闇の底から響き渡った。
引き寄せられるように足を運んだ先、巨大な地下空洞で繰り広げられていたのは、壮絶を極める死闘だった。
戦っていたのは、二人の人間――いや、放たれる気配は俺と同じ、心という決定的な核を欠いたノーバディだった。
灰色の髪をなびかせ、絶唱のごとき衝撃を叩きつける細身の女。
身の丈を超える骨の塊や大角を軽々と振り回し、大地を叩き割る巨漢の男。
二人はモンスターからドロップした
ヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンは口吻部分の突起から触れるもの全てを蒸発させる紫紺のレーザーを乱射するモンスターの装甲を砕きにかかっていた、その最中だった。
空間の底から、底知れぬ黒い泥濘が噴き出したのだ。
純粋な悪意と飢餓感。見ているだけで魂が凍りつきそうなその不吉な靄こそ、エレボスの心から生まれ落ちた――『エレボス・ハートレス』だった。
黒い靄は瞬く間にヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンへと群がり、その巨躯を漆黒のハートレスへと強制変貌させた。
その直後に放たれた一撃は、理不尽そのものだった。
空間を圧殺する暴威の奔流により、あれほどの強者だった二人が紙屑のように吹き飛ばされ、偶然にも物陰に潜んでいた俺の足元へと激突した。激しい損傷を受け、二人はピクリとも動かない。
逃げるなら、今だった。
記憶などない、この二人が誰なのかも知らないし、俺自身が何者なのかすら分からない。背を向けて一目散に駆け出せば、モンスターが二人を貪っている間に俺一人くらいは逃げ延びられる。
合理的に考えれば、それ以外の選択肢などあるはずがなかった。
――なのに。
俺の腕は、考えるよりも早く動いていた。
女の体を小脇に抱え、男の身体を反対の肩へと強引に担ぎ上げる。
ずしりと重みが骨身に軋む。なぜだ。なぜ俺は走っている?
捨てていけばいい。見知らぬ他人の抜け殻など放り出せばいい。それなのに、空っぽのはずの胸の奥底――心などない器の底に、べったりと焼き付いて離れない名もなき執念があった。他人のために身体を張るなどという理不尽な衝動が、俺の四肢を突き動かし、血を吐くような疾走を強いていた。
背後から、ハートレスとなったヴェノムスカイ・センチピード・ドラゴンの咆哮が轟く。怪物は自らの肉体から無数のムカデの分身を解き放ち、漆黒の津波となって迫り狂う。
必死にダンジョンの闇を駆け抜けたが、無慈悲にも行く手はダンジョンの壁によって塞がれていた。
行き止まりだ。
背中を冷たい岩壁に預け、荒い息を吐き出す。両肩の二人は目覚めない。眼前に迫るのは、逃げ場のない数千、数万の黒い顎。
ここまでか、と奥歯を噛み締めたその瞬間だった。
頭上の闇を切り裂いて、まばゆい光が降り注いだ。
赤く鋭い光線が無数に交錯し、壁一面を覆い尽くしていたムカデの群れを寸分の狂いもなく刺し貫いて消滅させたのだ。
「呆然とする俺の前に降り立ったのは……ゼムナスだった」
彼に連れられた先の拠点でベルセクスは、『本来であれば消滅するはずの自分や無数のノーバディが、なぜかこの世界へと引き寄せられ集っている』と聞かされる。
そこには、ソラ達に敗北し人間に戻るはずが気づけばデミックス共にいたルクソード、帰る途中で謎の渦に吸い込まれて理不尽な状況に怯えるデミックスと、彼に冷気の知覚と心への作用を説くヴィクセンのレプリカ、さらにはその背後に整然と並ぶ無数の同一のヴィクセン・レプリカたちが控えており、あまりにもシュールで異様な光景に当時のベルセクスは言葉を失ったという。
その後、ゼムナスたちの指導の下でノーバディとしての力を確立した彼は、一週間かけてエレボス・ハートレスを討伐。さらに一年ほど調査を進める中で、この世界の驚くべき真実を突き止めた。
この下界は、光・闇・狭間の世界とは異なる『裏側の世界』に近い場所であること。そして、太古のキーブレード戦争で散り散りになった世界の一部と不完全に融合してしまった結果、ソラが到達するまでの間、他の世界に比べて時間の流れが異常に加速する歪みが生じていたのだ。
底知れぬ世界の真実に、ヘスティアは口元を押さえて震え、ガネーシャ、そして水晶越しのウラノスすらも絶句した。
重い沈黙を振り払うように、ロキが鋭い視線を突きつける。
「……ほんなら、ノアール達はいつ目覚めんねん」
「彼らがいつ目覚めるかは正直俺にはわからん。ヴィクセンならばわかるかもしれんが、全員別の任務で調査に出向いているから、わかり次第連絡を入れるよ」
「なぁ……ベルセクス、他に人型のノーバディはいないのかい? ほら、大抗争の時代なら、それこそ強い心を持った
切れ長の瞳を細めたヘルメスが核心を突くような疑問を投げかけると、ベルセクスは彼の慧眼に小さく感心したように一つ頷いた。
「あぁ、実は……ジノール、ザディン、バクサル、ジルディスは正式な機関員じゃないんだ」
そう前置きし、彼はさらなる世界の裏側を明かした。
調査の中で繋がりが判明した『アストラル界』。この世界の真裏に重なり合う、エネルギーで形作られた鏡写しの位相であり、構造はこの世界と瓜二つでありながら生物は一切存在しない、完全な空っぽの世界。
そして、そこに点在する記憶の結晶『ピース』。そこにはあらゆる世界の過去・現在・未来の記録が刻み込まれており、この世界の記録も例外なく存在するという。
「じゃあ自分ら、この後何が起きるか知っとるんか?」
ロキが食い気味に身を乗り出すが、ベルセクスは肩をすくめた。
「残念ながら得たのは数千年後や1万年後だけ…。話を戻すが、俺たちはそのピースを利用することで、本来なら俺たちのような人型ではないノーバディに対し、アストラル界から回収した人間だった頃の肉体データを外殻として被せ、肉付けに成功した」
ただし、その肉付けのためには専用の機械と膨大記録の処理に時間がかかり、ここ数年でたった四体しか造れなかったのだと付け加える。
過去の記録を外殻にして人型を保たせるという常軌を逸した技術に、神々は言葉を失い、複雑な表情を浮かべるしかなかった。
「ディラクスと会わせてほしい」
重苦しい空気を破り、ガネーシャが一歩前に出て切実に願い出る。
ベルセクスはあっさりと頷き、コートの懐へと手を入れた。
「いいけど。その代わりと言ってはなんだけどガネーシャにある頼みごとがある」
そう言って取り出したのは、見るからに妖しい気配を放つ一冊の古びた本だった。ベルセクスがそれを卓上のロキの前へと無造作に滑らせる。
「なんやこれ……?」
ロキが眉をひそめて本を見つめた、その瞬間。本から突如として、おどろおどろしい声が部屋中に響き渡った。
『感じるぞ……あふれんばかりの、巨乳への恨み、妬み、憎悪……!』
「やかましいわボケェエッ!!」
ちょうど隣に座るヘスティアの豊満な胸元が視界に入っていたロキは、顔面を真っ赤にしてこめかみに血管を浮き上がらせ、立ち上がりざまに本をフルスイングでベルセクスへ投げつけた!
しかし、ベルセクスは身じろぎ一つしない。鋭い手刀の一閃で飛来した本を真っ二つに切断し、黒い霧とともに消滅させてしまった。
「このように呪詛や怨念、黒い情念が込められた代物は、通常なら手に持った者の肉体を操ったり迷惑な騒動を起こす程度で済むものの、今のオラリオでは撒き餌となってハートレスを呼び込みかねない危険な火種になる」
平然と解説するベルセクスは、さらに厄介な性質として、こういった代物は精神が揺らいでいる者や特定のコンプレックスを持つ者にのみ都合の良い声を聞かせて誘導してくると語る。
「今回は俺があらかじめそうなるように仕向けたのと……ロキの貧――」
「ぎゃあああっ!? 痛ったぁぁぁっ!!」
ベルセクスが地雷ワードを言い終えるよりも早く、ロキの渾身の右ストレートがベルセクスの頬へと直撃した!
ゴッ、と鈍い衝撃音が響く。だが、吹き飛んだのは殴られたベルセクスではなく、殴った方のロキだった。
自らの手首を押さえて床を転げ回るロキを冷ややかな目で見下ろし、ベルセクスは軽く頬をさする。
「今の俺は上級冒険者ぐらいの肉体の強度がある。下手に殴ればそっちの方が堪えるぞ」
「うっさいねんボケ! つうか上級冒険者並みの身体とか完全なルール違反やないけ!」
「今の俺は神じゃなくてノーバディだから関係ない」
涙目で抗議するロキを涼しい顔で受け流し、ベルセクスは改めてガネーシャと、卓上の通信水晶を真剣な眼差しで見据えた。
「通常ならはた迷惑で済む呪具が、今の状況下では致命的になる。だからこそ早速だが、ギルドの最深部に保管されているかつてのヘラ・ファミリアの遺品を直ちに回収、あるいは破壊してほしい」
ヘラの名前が出た瞬間、ヘルメスとガネーシャの顔色がサッと青ざめた。かつてのヘラの派閥が実際に着用していた衣服がハートレスを呼ぶなど大惨事にしかならないのだと確信が持てたのだ。
「ウラノス。お前の所の最深部だ。ガネーシャに回収の許可を出せ」
『……いいだろう』
事態の深刻さを誰よりも悟ったウラノスは、即座に承諾の意を示した。
「な、なぁベルセクス! 今のアルテミスはまるで……っ!」
ようやく話を遮る隙を見つけたヘスティアが、わたわたと焦りながらアルテミスへと視線を向けて声を荒げる。
ベルセクスは一瞥もくれず、冷然と事実だけを告げた。
「人間になってるだろ」
あまりにもあっさりとしたその一言にヘスティアが息を呑み、ロキ、ヘルメス、ガネーシャの目が鋭く細まる。
「ノーバディになるのはまだわかる! だけど、どうしてアルテミスが人間に……!?」
「数日ほど前、二度目のクノッソス攻略戦のことだ」
「いや、待てや。クノッソスってなんや?」
ロキが制止の声をかけると、ベルセクスは迷宮のさらに下層に隠された狂気の産物について静かに口を開いた。
「あの『ダイダロス通り』の地下に、初代ダイダロスの意思を受け継いだ子孫たちが密かに掘り進めていた人造ダンジョンだ」
「人造……ダンジョン……?」
オラリオの直下に、神々すら感知できなかったもう一つのダンジョンが存在していた。そのあまりにも現実離れした事実に、ロキは信じられないものを見るような目で呆然と呟く。だが、ベルセクスは冗談を言っている様子もなく、感情の抜け落ちた双眸で淡々と言葉を継ぐ。
「ああ。そしてあそこは今、『エニュオ』と名乗る神によって乗っ取られた
「なんやて……!? あの時のは扉を守るためのハートレスやったんかい!」
自らが遭遇した異変の裏に、どれほど根深い闇が隠されていたのか。点と点が最悪の形で繋がった事実にロキが愕然と目を見開く中、ベルセクスはさらなる絶望を突きつけた。
「そういうことだ。さらには以前ルクソードが、このダンジョンには外の世界の代物が流れ着いているという話をしただろう? クノッソスもまた例外なく外の世界からの物が流れ着いている。だがそれが問題でな……クノッソスには今、オリンポスの『冥界の呪い』が充満し始めている」
聞き慣れぬ不吉な言葉に、ヘスティアとガネーシャが息を呑み、ヘルメスも険しく眉をひそめる。
「あの中では力が強制的に制限され、魔法の威力も大幅に低下する。その反面、ハートレスは活性化し、通常時よりも格段に硬く凶暴化するんだ。さらには長時間滞在することで鉛のように身体が重くなり、体力と精神力が削られ続ける。長時間の探索や連戦が不可能なタイムリミットに追い込まれるというわけだ」
あまりにも理不尽で凶悪な仕様に、神々の背筋に氷をねじ込まれたような悪寒が走る。
「
「そのエニュオって一体どこの神や!?」
苛立ちと焦燥を抑えきれず、身を乗り出して食らいつくロキ。その厳しい追及に対し、ベルセクスは冷然と核心を告げる。
「エニュオの正体は、俺たちは闇と呼称している存在に肉体を奪われた神だ。誰なのかまではわからないが、少なくともタケミカヅチやアストレアは違う」
「どうしてそう言い切れるんや?」
「対峙したエニュオは、闇の力で本来なら全知無能であるはずの肉体でありながら戦えるようになっており、さらには肉体の主が培ってきた研鑽すらも己のものにできる。もし仮にタケミカヅチにアストレア、アルテミスが肉体が奪われていたなら、俺たちはもっと手こずっていたはずだからな。……だから、この二柱は潔白だし、協力者にすることはできるぞ」
神が肉体を奪われ、あろうことか築いてきた研鑽を振って戦う前代未聞の未知。そのおぞましい事態に戦慄しながらも、タケミカヅチやアストレアが無事であるという確証に、神々は安堵と緊張が入り混じった深い息を細く吐き出した。
だが、安堵の時間は一瞬で終わる。ベルセクスが放った次の一言は、彼らを決定的な絶望の底へと叩き落とした。
「そうしてエニュオと対峙したんだが、戦っている最中、エニュオはダンジョン内の闇を外へと放出し、エルソスの遺跡に封印されていたアンタレスをハートレスへと変貌させた。……さらに厄介なことに、ハートレスとなったアンタレスはアルテミスを取り込んだんだ」
その言葉に、ヘスティアたちの顔が真っ青に染まる。
事態の急変を察知した機関全員はすぐさま闇の回廊を開き、エルソスの遺跡へと急行した。
アンタレス改めルナ・フォールン・アンタレスの相手はゼムナス、ザリファ、ダルザクス、ゼムフェイティスの四人が受け持ち、周囲の蠍型モンスターやハートレス化したアルテミスの
「そうして心だけになったアルテミスに対し……俺がちょっとした好奇心で、手元にあったレプリカにアルテミスの心を入れたんだ」
「好奇心って何だい!! アルテミスを君のオモチャにするなよ!!」
ベルセクスがサラリと言ってのけたその瞬間、ついに堪忍袋の緒が切れたヘスティアが猛然と飛びかかり、黒コートの胸倉を力一杯掴み上げて激怒した。
しかしベルセクスは悪びれる様子もなく、涼しい顔で首を傾げる。
「結果論だが、アンタレスに力を奪われたことや心だけの状態になったこと、さらにはヴィクセン達が作ったレプリカの完成度が高すぎたせいで、アルテミスは人間と同じ存在になってしまった。今のアルテミスは
「子供……」
子孫という単語にアルテミスが、どこか熱を帯びた声で小さく呟いた。
その信じられない反応に、ヘスティアはツッコミを入れることすら忘れて完全に固まってしまう。
「さて、聞きたいことは全部答えたな」
ベルセクスは強引に空気を変えると、懐から分厚い紙の束を取り出し、ガネーシャへと手渡した。
「これは?」
「アストラル界で手に入れたピースから得た『スピリット』の製作方法を、この世界で再現できるようにヴィクセン達とゼムナスが改良したものだ。近々の
「これだけで本当にソラ君たちの注目を外せるのかい?
「ソラの強さの秘訣だとか、アンセムの研究成果だとでも言えばどうとでもなる。今じゃ『アンセム』の名は、
皮肉げに笑ったベルセクスは、背後に闇の回廊を開き、その中に歩みを進める中に立ち上がったヘスティアたちに顔を向けると…
「そんじゃヘスティア、アルテミスは任せた」
「え,ちょっと突然丸投げされても――!」
「待てや! 知っとること全部吐けや――!」
「待て、いつディラクスと会えるのだ――!」
ヘスティア、ロキ、ガネーシャが一斉に制止の声を上げるが、ベルセクスは聞く耳を持たず、闇の回廊へと颯爽と姿を消してしまった。
三神の叫びは虚しく部屋に響き渡り、嵐が去った後のような空虚な沈黙が落ちる。
そんな中、ヘルメスだけがやれやれと肩をすくめ、引きつった苦笑いを浮かべながら帽子の鍔を直して、パンッと明るく手を叩いた。
「それじゃ、今後のハートレス対策や
こうして、取り残された神々の長く重い密議が、ようやく幕を開けたのだった。
・
神々が重苦しい空気の中で世界の存亡をかけた密議を繰り広げていた、まさにその頃。
「おーい、ティオナ!もうちょっと右!あ、行きすぎ、半歩戻って!」
「こう?これでいいのー、ソラ!?」
「バッチリ!そのまま、手のひらを上に向けてピタッと止まってて!」
しゃがみ込んで板状の端末を構えるソラの視線の先で、ティオナが草原の遠く離れた岩場の上で無邪気にポーズを取っていた。画面を覗き込みながら、ソラは片目を瞑って微調整を繰り返す。カメラのすぐ手前に置いた自分の片手の上に、遥か遠くに立っているティオナがすっぽりと乗っかっているように見せる遠近法のトリック写真だ。
「よし、撮るよー!」
端末から軽快な音が鳴り響く。画面を確認したソラは、大成功だと白い歯を見せて笑った。写真の中では、あたかもソラの手のひらの上で小さなティオナが誇らしげに腰に手を当てて笑っているかのような、見事な錯覚写真が完成していた。
「見せて見せてーっ!」
草原を風のように駆け戻ってきたティオナが、ソラの肩越しに端末の画面を覗き込む。次の瞬間、彼女の琥珀色の瞳が爛々と輝いた。
「わああっ!すごーいっ、あたしがソラの手の上に乗っかってるーっ!ちっちゃくなっちゃったみたい!」
「だろ?遠くのものが小さく見えるのを利用して、手前にあるものと重ねて撮るんだ。ほら、次はあの樹をティオナがつまんでるやつ撮ろうぜ!」
「やるやるっ!今度はあたしがあの樹をヒョイって持ち上げてるやつね!」
すっかり新しい遊びに夢中になったティオナは、再び大草原をダッシュしていった。そんな彼女の背中を見送りながら、ソラは指先で画面を操作し、今撮った傑作写真を添付する。
「あ、…エイナにこれを送らないとベルたちのと一緒に…」
送信ボタンをタップする。通信機能を通じて飛ばされた画像データは、ベルたちへと瞬く間に転送されていった。
「……?ソラからだ」
怪訝そうに端末を取り出したベルは、画面に表示された画像を見るなり、目を丸くして立ち止まった。
「……!?ティオナさんが、ソラの手の上に……!?」
「ど、どうしたんですかベル様?……って、ひぇっ!?な、なんですかこの写真!ソラ様の魔法でティオナ様が
隣から画面を覗き込んだリリが、文字通り飛び上がらんばかりに驚愕の声を上げる。
「遠近法?っていう撮り方なんだってリリ」
「撮り方ということはソラ様の魔法ではないのですね」
遠近法についてはよくわからなかったベルではあるがソラが楽しそうでよかったの思うのだった。続いて届いた『次は中央樹を引っこ抜くティオナだよ!』という予告写真を見て、ベルは肩の力を抜き、困ったような、けれど温かい笑みをこぼした。神々がどんな修羅場を迎えているかも知らず、ただただ穏やかで平和な時間が流れていた。
用語説明
・アストラル界
キングダムハーツ ミッシングリンクにて出てきた単語だがミッシングリンクが中止されたので多分ないことになるが作者のミッシングリンクへの思いから登場。
ピースから得られる記憶としてはディズニー+で配信されている作品とダンまちのコラボしたことがある作品を見ることができますが機関が求めているのはダンまち世界の過去なので他の世界の記録は保管されているだけでディラクスは時間があればよく記録を見に行っています
やろうと思えばダンまちキャラが他作品を見るができる(進撃コラボの後に進撃の巨人全話をみたりとかは考えたことがあります)
ピースは記録を見る以外に記録された技の使用などができる。
極論ではあるのだがアルフィアのジェノス・アンジェラスのピースを10人が同時に使うことをできないことはない。
渡されたスピリットのレシピはユニオンクロスでチリシィが作成したやつです
あと人型になったノーバディは例外なくハートレスも解放され消滅すれば人間として戻り自分が死んだ場所で肉体が再生されます。
オラリオでのアンセムの扱いは
オリオンの矢はこの小説書き始めた頃では最終的にベルの心の中にアルテミスが入って転生したアルテミスとベルの心の中にいたアルテミスでアルテミスが二人になったり神々がベルを一瞬アルテミスと重なってみたりとか考えたのですがそれするとヒロインがアルテミス一強になってしまってしまうなどの理由でオリオンの矢はなくなりました