東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~ 作:地軸
宴会は、賑やかだった。
だが不思議と、凪の周囲だけ、流れが違う。
最初に寄ってきたのは、秋の神だった。
「ほら、これも食べなさい」
皿が増える。
「こっちも、まだ余ってるから」
また増える。
秋穣子と秋静葉。
理由を説明できるほど理屈立てているわけじゃない。
ただ――
「なんか、いっぱい食べた方がいい気がして」
「そうそう」
親戚のおばちゃんみたいなノリで、皿を置いていく。
霊夢にも、凪にも、分け隔てなく。
凪は苦笑して箸を取った。
「……いただきます」
「うんうん」
それで満足したのか、二人は別の卓へ行った。
次に来たのは、河童だった。
「いやあ、噂には聞いてたけどさ」
にとりが、興味津々といった目で覗き込んでくる。
「外の世界の人なんだって?」
「まあ、そんなところだ」
「じゃあさ」
身を乗り出す。
「何か、いい発明のアイディアないかい?」
凪は少し考えた。
「発明ってほどじゃないけど……
ハウス栽培とか、水耕栽培とか」
「なにそれ」
「天候に左右されずに作物を育てる方法だよ。
やり方まとめて広めれば、食卓はだいぶ安定する」
にとりの目が、ぱっと輝いた。
「はえー……」
一瞬感心した後、じっと凪を見る。
「……本当にさ」
「何だ?」
「霊夢のことしか考えてないんだね」
凪は否定しなかった。
「結果的に、みんなの腹も満たされるなら、それでいい」
「そりゃ助かるけどさ」
にとりは笑って去っていった。
その後、少し距離を置いて、白狼天狗が立っていた。
犬走椛。
じっと、凪を見ている。
「……失礼ですが」
「何だ?」
「あなたの目は、私が見えていないものを
見ている気がします」
真剣な顔だった。
凪は少し考え、空を見上げる。
「すぐ近くにあるそれは」
視線を戻す。
「どんなに遠くを見ても、見えるもんじゃないさ」
「……」
「それに」
凪は、はっきりと言った。
「妖怪が見るべきものでもない」
椛は、少し驚いた顔をしてから、深く頭を下げた。
「……失礼しました」
そのやり取りを、遠巻きに見ている影があった。
回っている。
近い。
やたらと、近い。
鍵山雛だった。
何も言わない。
ただ、凪の周囲をぐるぐると回っている。
「……?」
霊夢が気づいて、少し身構えた。
「厄、すごい」
雛が、ぽつりと言う。
「取ろうとすると、溢れる」
「取らなくていい」
凪が静かに言った。
「それは、俺の分だ」
雛は一瞬考え込んでから、少し距離を取った。
それでも、近くにいる。
宴会が終わるまで、ずっと。
射命丸文は、最後まで何も言わなかった。
だが、何度か視線が合う。
――記事にする気は、ないらしい。
凪は、それだけで十分だった。
夜が更けて、宴は続く。
誰も、山の話をしない。
ただ、それぞれが、それぞれの仕方で、
確認を終えている。
凪は、縁側で湯呑みを傾けながら、静かに思った。
――この世界は、案外、よく見ている。
そして何より。
霊夢は、隣にいる。
それでいい。
今は、それでいい。
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