東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~   作:地軸

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あけましておめでとうございます、日常回への序章です。


第十八話 帰って来た日常

湯気が、天井近くで溜まっている。

 

地霊殿の間欠泉が噴き上げた温泉は、

今もまだ、熱を残していた。

 

凪は湯船の縁に腰を下ろし、

水面を見つめていた。

 

揺れる湯が、光を反射する。

それだけで、胸の奥が少し落ち着く。

 

――帰ってきた。

 

そう思った瞬間、

遅れて実感が追いついてくる。

 

霊夢は、何も言わずに湯に浸かっている。

肩まで沈み、目を閉じて、静かに呼吸していた。

 

浮けなかったはずの身体。

それが今は、湯の中で、確かに力を抜いている。

 

凪は、視線を逸らした。

 

この距離で、

この状況で、

何をどう振る舞うのが正しいのか、分からない。

 

沈黙が続く。

 

湯の音だけが、二人の間を満たしていた。

 

やがて、霊夢が目を開ける。

 

「……」

 

少し考えるように、

それから、何でもないことのように言った。

 

「ねえ」

 

凪が、反射的に背筋を伸ばす。

 

「ほら」

 

霊夢は、湯船の縁に背を向ける。

 

「背中、流してよ」

 

凪は、一瞬、言葉を失った。

 

「……は?」

 

振り返る霊夢の顔には、

からかいも、照れもない。

 

ただ、自然だった。

 

「手、空いてるでしょ」

 

その言い方が、

島で世話をされていた時と、どこか重なる。

 

凪は、何か言おうとして、

結局、何も言えなかった。

 

「……分かった」

 

立ち上がり、

桶を取る。

 

背中に手を伸ばした瞬間、

霊夢がほんの少しだけ力を抜いたのが分かった。

 

それが、妙に重かった。

 

 

 

 

 

 

湯気が晴れた後。

 

霊夢は、白い浴衣を羽織り、

帯を結んでいた。

 

寝間着のような、簡素なものだ。

 

凪は、その様子を見て、

ようやく、口を開く。

 

「……霊夢」

 

「なに?」

 

帯を結びながら、振り返る。

 

凪は、少し言いづらそうに視線を泳がせた。

 

「俺はいいんだが……」

 

「?」

 

「さすがに、まずくないか?」

 

霊夢は、首を傾げる。

 

「なにがよ?」

 

凪は、一度、深く息を吸った。

 

「その……」

 

「流れでやっちまった俺も悪いんだけどな」

 

霊夢の眉が、わずかに動く。

 

「結局、俺が前も後ろも全部洗って、今に至るんだが」

 

「……」

 

「自覚、あるか?」

 

数秒。

 

霊夢は、きょとんとしたまま、

それから、ようやく理解したように目を瞬かせた。

 

「あっ……」

 

霊夢は一瞬固まり、

すぐに顔をしかめた。

 

「あんた、気づいてたなら途中でやめなさいよ」

 

「いや、その……」

 

凪は目を逸らす。

 

「つい、流れで……いつもの手順っていうか」

 

「あーやだやだ」

 

霊夢は腕を組む。

 

「あんた、流れで女の体洗い切るタイプ?」

 

「いや、でも霊夢だけだぞ」

 

……沈黙。

 

霊夢は、ゆっくりため息をついた。

 

「……そういう問題じゃないでしょ」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

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