東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~   作:地軸

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第二十三話 拾いなおし

「でさぁ、魔理沙、霊夢が言うにはさ」

 

「いや、それは霊夢が悪いと思うぜ」

 

人里の通りを、並んで歩いていた。

 

向こうから、青い髪の女が歩いてくる。

比那名居天子だ。

 

人混みの中でも、歩調は一定で、視線が高い。

 

目が合った。

 

俺は歩く速度を変えない。

進行方向も変えない。

 

向こうも同じだった。

 

二人の距離が詰まる。

通りの中央で、自然と正面に立つ形になる。

 

俺は一歩も避けず、そのまま進む。

女も足を止めない。

 

顔と顔の距離が、極端に近い。

 

どちらも瞬きをしない。

 

そのまま、すれ違った。

 

肩が触れるか触れないかの距離。

 

「……」

 

「でも、霊夢がさぁ」

 

「……いや、待て待て待て」

 

魔理沙が立ち止まり、振り返る。

 

「今の、なかったことにしようとしても無理がある」

 

「何がだ?」

 

「今、物凄い表情してたぞ」

 

俺は歩きながら、首を傾げる。

 

「キスするのかってくらい顔近づけて、

 メンチ切ってたよなぁ、おい」

 

「ん? 何の話だ?」

 

「……霊夢が言ってる通りだな」

 

魔理沙は肩をすくめた。

 

「お前、ほんと変な奴だぜ」

 

暫く里を歩いた後、

魔理沙が買い物があると言って別れた。

 

俺は今、

守矢で茶を飲んでいる。

 

「で、鈴仙から聞いたんですけど、

 あのシャンプー依頼したの、凪さんだって」

 

「はぁ、まぁ」

 

「やっぱり幻想郷に来てみた物はいいんですけど、

 外にしかない物もあってですね。

 スキンケアとか、色々困ってまして」

 

話が長い。

行ったり来たりしている。

 

里を歩いていたら、

早苗に捕まった、というだけの話だ。

 

神々が、襖の隙間からこちらを見ている。

そんな気配を感じながら、

俺はお茶をすすり、適当に相槌を打つ。

 

「で、このシャンプーと石鹸に守矢の名前を付けて、

 大々的に販売しませんか?

 香り違いも用意して、守矢の神の功徳として――」

 

「はぁ?」

 

「どうでしょうか?」

 

「んー……あれ、薬用だからな。

 美容用なら別で考えて、そっちでやったら?」

 

正直、乗り気じゃない。

やるなら勝手にやってほしい、が本音だ。

 

だが、襖の向こうからの視線が、

一段強くなった気がした。

 

「な、なるほど」

 

「そもそも、あれ守矢の神々関係ないだろ?

 なら、関係ある形で作り直した方がいいと思うし」

 

「薬用って、肌に合わない、髪に合わないってことも多い。

 コストも上がってるし、見直しは必須だぞ」

 

こいつ、

あの襖の奥から見てる諏訪子様を、

何だと思ってるんだ。

 

「そうですよね。

 コスメも必要ですし……

 えっと、どうしたらいいと思います?」

 

諏訪子様は、蛙と蛇の神だ。

ガマの油は天然の薬としては最高峰。

蛇は脱皮による再生と復活の象徴。

 

その風呂の残り湯だけで、

外の化学薬品よりよほど価値がある。

 

早苗は、

その神の後に風呂に入っている。

 

だから、

コスメもシャンプーも本来は不要だ。

 

自分の源流の神の出汁に浸かっている現人神が、

顔に異物を塗りたくる意味が、正直わからない。

 

「……ちょっと考えさせてもらえるかな」

 

そう言って、考える。

 

そもそも、

こういうことを教わっていない可能性が高い。

 

守矢の神々は、

やってみて、失敗して、次、という教育方針だ。

口出しして嫌われたくない、

そういう放置型のスパルタ。

 

諏訪子様の出汁を売るなんて、

俺が提案するのも不敬だ。

 

ガマの油は、場合によっては毒になる。

蛇もまた、毒と裏切りの象徴だ。

 

――責任を噛みたくない。

 

神と美しさと若さを結びつけると、

ろくなことにならない。

神々も、それを分かっているのだろう。

 

「あの……どうでしょう?」

 

「俺に相談する前に、

 そこの襖から見てる神々に相談すべきじゃね?」

 

俺は襖に視線をやる。

 

「新しく作るなら、

 別に俺、噛まなくていいでしょ?」

 

そう言って、間を置かず立ち上がる。

 

「お茶、ご馳走様」

 

逃げるように、守矢を後にした。

 

その日の夜、神社にて。

 

「まぁ、面倒な話は断って正解よ。

 よその家庭の事情まで踏み込む意味ないもの」

 

「まぁ、霊夢ならそう言うかなって。

 でも最近、人との関係、見直そうかと思ってたからさ」

 

「いいのよ。

 見直して、結果変わらなかったなら、

 元々正解だったってこと」

 

「なるほど」

 

「それより、あのシャンプーって薬なの?」

 

「薬ってほどじゃないけど、

 薬草入りの香油みたいなもんだな」

 

「ああ、たまに合わない人もいるものね」

 

そんな風に、

今日も日常は過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

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