東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~   作:地軸

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第二十四話 凪の独白

俺、飯田凪の朝は早い。……というより、幻想郷の夜が早いのだ。外の世界と比べて娯楽が少なく、皆が眠りにつくのも早い。

 

「おはよう、霊夢」

 

未だ眠る霊夢に小さく声を掛け、布団を出て朝食の用意を始める。

今日の献立は、納豆御飯と具沢山のみそ汁だ。米を研ぎ、釜で飯を炊く間に、豆腐、厚揚げ、ほうれん草、人参の入ったみそ汁を準備していく。

 

永琳さんと相談した栄養素を元にメニューを組み立てるが、あまり豪勢にしすぎても霊夢が嫌がるだろう。朝から重たい物は食べられないはずだ。

準備が整った頃、霊夢が目を覚ます。彼女の目覚めは、いつも規則正しく正確だ。

 

霊夢が顔を洗い始めたタイミングで、着替えを用意し、その手伝いをする。今更ながら、本当にこれで良いのだろうか、と自問自答してしまう。

 

食事を終え、彼女の前にお茶を注いだ湯飲みを置く。だんだんと霊夢好みの温度が分かってきた。

彼女がのんびりとお茶を飲む間、その髪に櫛を通す。特殊な香油をほんの少し塗り込みながら、彼女の力が、彼女自身を守ってくれるよう祈りを込めて。

 

境内の掃除を始める霊夢を横目に、俺は日課の狛犬拭きを始める。

俺が持っている「知識」というアドバンテージの一つ。この狛犬が、いずれ「あの彼女」になることを俺は知っている。

『緋想天』の時に助けてくれた彼女は、金の継ぎ目を残しながらも、未だここに静座している。

俺の願いのせいで、『天空璋』の時に動き出せないかもしれないという懸念はあるが、今はただ、祈るのみだ。

 

専用の布で拭き上げると、昼飯の準備に移る。

朝炊いたご飯と、鶏むね肉ときのこの照り焼き。

やはり霊夢の体を作るには、タンパク質が足りないらしい。

そもそも幻想郷の食生活は「江戸末期よりはマシ」というレベルだ。栄養バランスという概念が浸透しておらず、霊夢もまた例に漏れない生活をしていた。

霊夢は一度「死」という状態を経験している。生を維持するために食に気を遣うのは、対処療法としては真っ当なはずだ。

 

また一緒に昼食を食べ、縁側でお茶を飲む彼女の傍らで、足の爪を切って整えてやる。

今日のお茶請けは、里でもらった大福だ。

黙ってお茶を啜る音と、パチン、パチンという爪切りの音が響く、のどかな昼下がり。

やすりで形を整えていると、魔理沙がやってきた。変な笑いを浮かべ、勝手にお茶を飲み始める。

わいわいと二人が話す様子を眺め、今日の「レイマリ」を脳内にスクリーンショットしながら、夕飯の準備に取り掛かる。

 

御飯、ヒメマスの焼き魚、きのこと野菜のみそ汁、そして里でもらった蒸し野菜。

和食は海産物が無いと、どうしても制限が出てしまう。今度、紫さんに頼んでみるか。

裏庭のきのこも順調に育っているが、まだまだ足りないものばかりだ。

 

魔理沙は「最近のご飯は美味い」と言って、今日も食べて帰るらしい。まあ、彼女も年頃のわりには背が低いし、しっかり食べておくに越したことはない。

 

夕食を終え、魔理沙が帰路につくと、霊夢と風呂に入る。

霊力用……もとい、薬用の石鹸で彼女の背中を磨き、シャンプーで髪を労わる。

風呂から上がり、霊夢が冷たい水を飲んでいる間に布団を敷いておく。

 

「おやすみ、霊夢」

 

今日は平和な一日だった。

こんな風に、命の危険のない日々が、ずっと続けばいいのに。

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