東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~   作:地軸

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4話なんかおかしいと思ったら1話ぬけてた、慌てて挿入してみます。


第四話 未だ共にある

ちゃぶ台の上には湯気の立つお茶と、菓子皿が置かれている。

凪は慎重に茶をすすりながら、霊夢の表情を伺った。

 

「……なんか、機嫌悪そうだな」

 

小さな声だったが、室内の静けさのせいで霊夢にしっかり届いた。

霊夢は眉をひそめ、唇をきゅっと結ぶ。短く舌打ちをし、思わずちゃぶ台をバンと叩いた。

 

「なんで一人で何とかしようとしてんのよ!」

 

その音に凪は一瞬身をすくめた。

霊夢の表情は鋭く、怒りと不満が入り混じっているのがわかる。

 

凪は肩をすくめ、視線を落とした。

 

「いや、霊夢も大変なことがあったばかりだし、しばらく時間が必要かなって」

 

霊夢は腕を組み、ちゃぶ台越しに凪をにらむ。

 

「はぁ? それはアンタも一緒でしょう。それどころかあんたの方が……」

 

ちゃぶ台に軽く手をつき、身を乗り出して強調する霊夢の仕草が、凪に迫る心理的圧を伝える。

凪は手元の茶碗を弄り、わずかに息をつく。

 

「いや、そういう意味じゃなくて……でも、正直言うと、ちょっと考えちゃうんだ。若い女の子と二人で暮らすとかって……」

 

言葉を切り、視線は霊夢に向けられず、茶碗の縁に落ち着いていた。

霊夢は一瞬硬直し、目をギッと光らせた。

 

「私の裸どころか皮膚の内側まで見といて今更そんなこと言ってんじゃないわよ。それともなに? もう私とは暮らしたくないってわけ?」

 

ちゃぶ台越しに交わされる視線と、霊夢の強い怒りが、室内の空気をピリリと緊張させる。

 

 

 

(霊夢にそんなことを言われたら断る理由も無く、こうして縁側で茶をすすってるのだが)

 

凪はどことなく上機嫌な霊夢が、境内を掃除しているのを遠めに見ていた。

 

「なぁ、霊夢とはどこまでいったんだ? 教えてくれよ」

 

魔理沙がうざい。

 

空気がふっと揺れた。

まるで最初からそこにいたように、紫が扇子を広げて現れる。

 

「ふふ、何処までって、そりゃ黄泉までよねぇ」

 

魔理沙が目を輝かせて食いつく。

 

「おいおい、紫! それどういう意味だよ? 詳しく聞かせてくれよ!」

 

霊夢が境内から飛んできて、慌てて割り込む。

 

「紫! 余計なこと言わないで! 魔理沙も黙ってなさいよ!」

 

紫は優雅に笑って扇子を閉じる。

 

「あらあら、冗談よ。でも、凪くん。あなたには少しお話があるわ。ちょっとだけ、付き合ってもらえる?」

 

凪は戸惑いつつ頷く。

 

「え、俺? ……わかりました。」

 

紫の隙間が静かに開き、凪を優しく包む。

霊夢は魔理沙を追い返すのに気を取られてる隙に…。

 

(隙間の向こう、紫の住処みたいな静かな空間。

紫が座布団を勧めて、丁寧にお茶を淹れる)

 

凪は座ってすぐに頭を下げる。

 

「あの、紫さん。まずお礼を言わせてください。あの島から脱出させてくれて、ありがとうございます。それに、永遠亭での治療費も立て替えてもらったって聞きました。本当に、助かりました……俺みたいな人間のために。」

 

紫は扇子をゆっくり広げ、目を細めて凪を見つめる。

 

「ふふ、感謝は受け取ったわ。でも、あなたの正体について、少し掘り下げましょうか。幻想郷の外から来た人間、とはいえ……ただの外来人じゃないみたいね。どうしてあの島にいたの? あなたは何者?」

 

凪は座布団の上で少し身を縮め、息を吐く。

紫の視線が優しいけど、逃げられない雰囲気だ。

 

あの島で一人戦い続けた日々――

化け物の群れに囲まれ、漂流物で生き延びた孤独な時間を思い浮かべながら、覚悟を決めて口を開く。

 

「……わかりました。隠しても意味ないですよね。俺は、ただの外来人じゃなくて……もっと違う世界から来たんです。あの島に突然飛ばされたみたいに。」

 

紫の眉がわずかに動く。

 

「違う世界? 詳しく聞かせて。」

 

凪は視線を落とし、手を握りしめる。

あの浜辺で霊夢を見つけた瞬間の衝動が、胸に蘇る。

 

「俺の元の世界は……ここ、幻想郷を“観測”してるみたいな世界なんです。東方プロジェクトっていう作品があって、霊夢やあなた、魔理沙とかの話が、ゲームや漫画、物語として存在してる。俺はその世界の住人で、ファンだったんですよ。だから、原作知識があって……まるで未来予知みたいな感じで、異変の流れとか、キャラの性格とかを知ってるんです。でも……」

 

紫は扇子で口元を隠し、興味深げに首をかしげる。

 

「ふふ、東方プロジェクト? 面白いわね。観測者世界、か……それで、あなたは私たちの“物語”を知ってるの?」

 

凪は頷き、言葉を続ける。

島での夜明けまで戦い抜いた疲労を思い出し、声に力がこもる。

 

「ええ。でも、当てにならないんです。原作では霊夢は死んだりしないし、もちろん俺みたいな存在はいない。俺が関わったせいで、すべてが変わっちゃった……バタフライエフェクトみたいに。小さな変化が大きな違いを生むんですよ。今後どうなるかわからないし、そもそもこの世界が俺の知ってる“原作”の世界じゃない可能性もある。IF世界とか、パラレルワールドかも。例えば、魔理沙が実は男だったりするような……いや、それは極端だけど、似たようなズレがあるかもしれないんです。」

 

紫は静かに笑う。

扇子の向こうで目が輝く。

 

「なるほどね。観測者から参加者になったの? 黄泉返りの件も、あなたの知識が絡んでるのかしら。霊夢の運命を変えたのは、確かにバタフライエフェクトね。でも、面白いわ……」

 

「境界の住人として、こんな話は馴染みがあるわよ。パラレルワールドや観測理論、誤解なく理解できるのは私くらいかしら。永琳みたいな月の賢者ならわかるだろうけど、他の幻想郷の住人に説明するのは難しすぎるわね。この世界が“IF”なら、私たちも変わるかも。ふふ、魔理沙が男? 想像しただけで愉快だわ。」

 

凪は少し顔を赤らめ、声を低くする。

 

「俺、霊夢を助けたのは本気だったけど……この知識が役立つかはわからない。むしろ、邪魔になるかも。でも、紫さん。霊夢にはまだ言わないでください。ゲームの登場人物だって失礼な事言う意味も薄いから……そもそも説明が難しいんですよ。」

 

「まだあの島の少女と博麗霊夢の差を埋め切れてない俺が、急にこんな話したら混乱させるだけだと思うんです。」

 

紫は扇子を閉じ、懐から古めかしい紙を取り出す。

荒々しい筆致の文書――黄泉からの手紙だ。

 

「わかってるわよ。短く済ませるって言ったしね。でも、せっかくだからこれを見せておくわ。」

 

「イザナミ様から届いたのよ。

“死を覆し、道を戻りし者よ。黄泉の理に逆らうは人にあらず。この者は妻を捨てず、死の穢を恐れず、連れ戻した。ゆえに黄泉がえり、ここに正当と認む”――」

 

「ふふ、神様は夫婦だと思ってるようね、どうしてかしらねぇ」

 

凪は手紙を覗き込み、言葉を失う。

夫婦……その響きに、元の世界の記憶がフラッシュバックする。

 

「あっ……」

 

紫の目が鋭く輝く。

 

「あら? 心当たりがあるみたいな反応ね。どういうこと? 追及しちゃおうかしら」

 

凪は頰を赤らめ、視線を逸らす。

島での霊夢の惨状と、今の巫女姿のギャップが胸に去来するが、隠しきれず口を開く。

 

「……俺の世界に、博麗神社例大祭ってのがあって。期間限定で博麗神社のもどきをつくるっていうか、まぁそういうイベントがあるんですけど……」

 

「そこの絵馬に……“博麗霊夢は俺の嫁”って書いたことがあります。ファン心で、冗談半分だったんですけど……」

 

紫は扇子で口を覆い、くすくす笑う。

 

紫は扇子をゆっくり開き、目を細めて凪を見る。

「ふふ、面白い心当たりね。でも、イザナミ様のご機嫌がこれで説明つくかも。まあ、あなたが霊夢を蘇らせたのは事実だけど、それが幻想郷にどう影響するかは、まだわからないわ。

英雄の功績で終わらせるか、負担になるかは、これから次第ね。」

凪は少し身を固くする。島での霊夢の惨状が頭をよぎる。

「……紫さん、どうして俺がこの世界に来たんですか? 元の世界に戻る方法とか、わかりますか?」

紫はくすくす笑い、扇子で口元を隠す。

「あら? 貴方の知ってる私は、そう簡単に聞かれたことに答えるのかしら?」

(……そうだな。紫は幻想郷を愛してるし、霊夢が必要な存在だ。最悪切り離すかもだけど、よっぽどじゃない限りしないはず。説明しないのは、今知るべきじゃないか、一生知らないか、紫も知らないのどれかだろ。俺も別に帰りたいわけじゃないし……まぁ、いいか)

「そう、言われると納得です」

凪が神社に戻ると、霊夢が少し心配げに待ってる。

「どこ行ってたのよ? ……まあ、いいけど。」

 

 

 

隙間の中で紫は一人笑みを浮かべる。

 

「私は境界の向こうを見渡す事ができても万能ではないわ、お店に並んでる野菜がどこの畑の物か探すくらいがギリギリ、どこの畝の何番目に植えてあったかまでなんか分かりやしない。願わくば彼の存在が幻想郷にそして霊夢に良い影響を与えることを祈っているわ」

 

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