東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~ 作:地軸
幻想郷中の花が、季節外れに咲き乱れ、同時に幽霊が大量に出現した。
幽霊と亡者は違う――そう分かっていても、思い出さずにはいられなかった。
俺はこの異変を知っている。
だが、特段の害があるものではない。
それでも気になったのは、閻魔と死神が――
彼女を、博麗霊夢を、どう見るのかということだった。
俺は神社で、彼女の帰りを待つ。
彼女が最強であることは知っている。なぜなら、彼女は博麗霊夢だからだ。
境内に散った花びらを掃きながら、彼女を待つ。
彼女が弱いことも、俺は知っている。なぜなら、彼女は無人島の少女だからだ。
俺は、境内に立つ人影に声をかけた。
「なぁ、あんたは彼女を連れて行く気か?」
小野塚小町――死神が、境内に舞い降りていた。
「いや? 私の仕事は、あんたも霊夢も、まだ先の話さ。
でもね、ちょっと聞きたいことがあって」
ひとまず、敵対の意思がないことに安堵の息をつく。
命のやりとりなんて御免だ。
ましてや、文字通りの“死神”となど、やっていられない。
「聞きたいこと、か。霊夢じゃなくて、俺なんかに?」
死神をまっすぐ見据える。
「死神様の問いに、俺みたいなのが答えられるといいんだが」
「聞きたいんだよ。博麗の巫女じゃない、あんたに」
小町は肩をすくめた。
「黄泉返しの英雄様に答えられなきゃ、誰が答えられるっていうのさ」
「英雄?」
思わず鼻で笑う。
「それこそ霊夢のことだろ」
「あんたが、その霊夢を救ったんだろ」
「違う」
即座に言葉が出た。
「救われたのは俺だ。だからこそ――英雄は霊夢だ」
「じゃあ、あんたは何を背負って生きるつもりなんだい?」
「背負うんじゃない。霊夢のことも、あの島での自分のことも――全部、大切なものとして胸に抱えて生きるんだ。俗な理由じゃ片付けられない何かがある。それに答えを出すために、死ぬまで、生き抜く」
「……ほう。なかなか骨のある話ね」
「小町、貴方が結論を出す話ではありません」
「へぇ……閻魔様の裁定もまだなんですね。でも、今の俺の覚悟、少しは伝わってますよね……?」
「覚悟の問題でもないのです。そして裁定でもないのです。そもそも私は、死者の裁定をするものであり、生者たる貴方を裁くものではありません」
「では、何を?」
「私は閻魔であり、地蔵菩薩でもあります。迷える衆生への助言です」
俺は少し間を置き、言葉を噛みしめる。
「助言……か」
「貴方は、死を否定しました。それ自体は、善でも悪でもありません」
沈黙が少しだけ流れる。四季映姫の声は静かだが、揺るぎない重みがある。
「ですが、否定した以上、責任は生じます」
「救われた者が、再び死に向かうことを、貴方は――見過ごしてはならない」
俺は肩の力を抜き、拳を軽く握る。
「彼女を守れ、とは言いません。それは彼女自身の役目です」
言葉の重みを噛みしめながら、心の中で反芻する。
「ですが――彼女が帰る場所を、壊さないこと」
四季映姫の言葉が、深く胸に染み込む。
「それが、貴方がこれから詰める善行です」
視線を伏せ、ゆっくりと息をつく。
言葉は重い。だが、逃げる余地はない。自分が選んだ道だから。
俺は、ゆっくりと頭を下げた
(そもそも彼女達は、俺が好きだった幻想郷の彼女達でもある。その心遣いを俺は否定できない)
「ありがとうございます、肝に銘じます」
胸の奥に、ずっと引っかかっていた重みが、少しだけ溶けるような感覚があった。
肩の力も、自然に抜けていく。
四季映姫は静かに頷く。
「よろしい」
その声に、主人公の胸の奥で何かが確かに落ち着く。
覚悟でも、裁定でもない――だが、進むべき道はここにある。
そしてその道は、霊夢という存在と共に歩むためのものだと、はっきりと理解した。