東方帰還録 ~ Reclaiming the Bond ~ 作:地軸
夏の日差しが暖かなある日、涼しげな風が抜ける昼下がり。
静かな博麗神社の屋内、湯飲みが二つ置かれたちゃぶ台。
そのちゃぶ台を挟んで、博麗霊夢の向かいに、赤いドレスの吸血鬼が座っている。
傍らには完璧な瀟洒な従者が控えている。
少し離れた縁側の端で、俺はその光景を眺めながら、思わず口元を緩めていた。
(……すげぇ、完全に和室に湯飲みなのに亡き王女の為のセプテットが聞こえる(幻聴))
「で? 今日は何しに来たのよ」
お茶を啜る音だけが響く静寂を破ったのは霊夢だった。
「お茶が飲みたくなっただけよ」
そっけなく、答えるレミリアに霊夢は「そう」と短く返す。
「だったのだけど、……しばらく見ないうちに変な物を拾ったわね、霊夢」
「……変な物って」
霊夢は一瞬だけ視線を凪に向けて、すぐに湯飲みに戻す。
「まぁ、そうね」
「変って酷いなぁ」
と凪が自分の話題が出たことに幸いと声を返す。
「変よ」
「そうか?」
「そうよ」
「そうか…」
凪が苦笑いを浮かべるしかなかった。
「へぇ…」
霊夢と凪のやりとりに何か感じる物があったか、レミリアの口の端が持ち上がる。
レミリアが能力を使い、運命を垣間見る。
絡み合う糸に指を伸ばした、その瞬間。
――一本。
か細く、今にも切れそうな運命の糸が、
いつの間にか自分の首に掛かっていた。
……冗談じゃない。
引けば千切れる。
そう思った、その考え自体が、
僅かな重みとなって喉に食い込む。
レミリアは、指を止めた。
「人間、名前を名乗りなさい。聞いてあげるわ」
「凪だ、飯田 凪、貴方が覚える程の価値がある人間ではないですが、お見知りおきを」
凪は、威厳があるなぁ、優雅さと儚さがすげぇ、まじカリスマとかのんきに考えていた。
しかし、その思考とは別に凪の視線が動いた。
柱。障子。縁側。
開け放たれた廊下の先。
それから、赤いドレスの吸血鬼の背後。
最後に、完璧な従者の位置。
視線は、すぐに湯飲みに戻った。
「凪、覚えておくわ、それと会話の途中に視線を踊らせるものではないわよ」
咎められた。
博麗神社からの帰り道、レミリアは従者に声をかける。
「何よ、咲夜、言いたい事があるのなら言いなさいな」
「お嬢様は、何故、アレを名前でお呼びに?」
咲夜は分からなかった、アレを主が気に留める必要を認められなかった。
「私はね自分が躓くかもしれないものがあれば、それが何かくらいは確認するし、認識するわ」
咲夜は目を見開く。
運命は未だ訪れず、しかし確実にその時へと近づいて行く。