余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

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第11話:ダンジョン実習でボスが暴走。私の平穏な学園生活はここで終わるのか

嵐のような「視察団襲来イベント」が過ぎ去り、王立魔法学院には束の間の平穏が戻っていた。

 ……と言いたいところだが、俺――シルヴィア(男装名:シル)の周辺だけは、相変わらず台風の目の中にいるような騒がしさだった。

 

「シル! 今日の体調はどうだ? 顔色は悪くないか?」

「シル君、特製のお弁当を作ってきました! 消化に良いおかゆです!」

「おい、廊下の窓を開けるな! シルに隙間風が当たるだろうが!」

 

 1年A組の教室。

 俺が登校するなり、クラスメイトたちによる過剰なほどの「介護」が始まる。

 カイルは俺の荷物を持ち、リリィは甲斐甲斐しく世話を焼き、ガストンに至っては俺が歩く動線の障害物をどけて回っている。

 まるで、少しでも衝撃を与えれば砕け散るガラス細工のような扱われようだ。

 

(……ありがたいけど、重い。物理的にも精神的にも)

 

 俺は引きつった愛想笑いを浮かべながら、席に着いた。

 先日の「ポーションの空き瓶事件」で、アルフレッド王子に正体がバレかけた一件は、なんとか有耶無耶になったらしい。

 王子は「シルヴィアの残り香がした!」と騒いだものの、決定的な証拠が見つからず、側近たちに引きずられるようにして帰国したという。

 おかげで俺は、首の皮一枚で「ただの特待生シル君」という身分を保っていた。

 

 だが、安堵している暇はない。

 今日は、入学してから最初の大きな山場――「ダンジョン実習」の日なのだ。

 

 †

 

 王立魔法学院の地下には、広大な地下迷宮が広がっている。

 通称『旧王都地下遺跡』。

 古代文明の遺産であり、現在は学院が管理する訓練場として開放されている場所だ。

 低層階にはスライムやゴブリン程度の雑魚しか出ないため、新入生の実力試しにはうってつけとされている。

 

「えー、諸君。今回の実習の目的は、地下5階層までに生息する魔物から『魔石』を回収することである」

 

 ダンジョンの入り口前で、引率のギルバート先生が気だるげに説明する。

 薄暗い地下への階段からは、カビ臭い風と、微かな魔力の気配が漂ってくる。

 

「班分けは事前の通りだ。お互いに協力し、決して無理はしないように。……特に、そこの君」

 

 先生の視線が、俺に突き刺さる。

 意味深なウィンク付きだ。

 

「シル君、君はくれぐれも『出しすぎ』ないようにね。君が本気を出せば、この遺跡が崩落しかねないから」

「……善処します」

 

 俺は小声で答える。

 先生の中では、俺は「命を削って戦略級魔法を連発する歩く爆弾」という認識らしい。

 あながち間違っていないのが辛いところだ。

 

「よし、では出発! 制限時間は3時間だ!」

 

 先生の合図とともに、生徒たちが次々と地下へと降りていく。

 俺たちA組の班メンバーは、俺、カイル、リリィ、そしてガストンの4人。

 バランスの取れたパーティ……のはずだった。

 

 †

 

 地下1階層。

 石造りの通路を、俺たちは慎重に進んでいた。

 

「――陣形確認! ガストン、前衛! 俺が右翼! リリィは後方支援! そしてシルは中央で待機だ!」

 

 カイルが歴戦の指揮官のような顔で叫ぶ。

 俺は四方をガッチリとガードされ、まるで護送される囚人か、あるいはVIPのような状態で歩かされていた。

 

「あ、あのさ、みんな。ここまだ1階層だよ? 敵もスライムくらいしか……」

「油断するな!」

 

 ガストンが太い腕で俺を制する。

 

「スライムといえど、消化液は危険だ。シルのような柔肌に触れれば、ひとたまりもないぞ!」

「そうよシル君! 貴方はただでさえ貧血気味なんだから、魔力の消費は最小限に抑えて!」

 

 リリィも必死だ。

 いや、俺の肌、常時魔力コーティングしてるからスライム程度じゃ溶けないんだけどな。

 それに、貧血に見えるのは今朝ポーションを飲み忘れて、HPが自然減少(維持コスト分)しているだけだ。

 

「ギギッ!」

 

 その時、通路の曲がり角からゴブリンが3匹飛び出してきた。

 錆びた短剣を持った、最弱の雑魚モンスターだ。

 

(お、経験値(カモ)だ)

 

 俺が反射的に指を動かそうとした、その瞬間。

 

「させるかぁぁぁッ!!」

 

 ドゴォォォン!!

 

 ガストンの大剣が唸りを上げ、ゴブリンたちを粉砕した。

 一撃必殺。オーバーキルもいいところだ。

 

「ふん、雑魚が。シルには指一本触れさせん!」

「ナイスだガストン! よし、魔石を回収して次へ進むぞ!」

 

 カイルがテキパキと魔石を拾い上げる。

 俺の出番、ゼロ。

 

(……つまらん)

 

 俺は内心で溜息をついた。

 効率厨の俺としては、移動しながら広範囲魔法で敵を一掃し、掃除機のようにドロップ品を回収して最速でクリアしたい。

 だが、この過保護な親衛隊に囲まれている限り、魔法一つ使うことが許されないのだ。

 

「はぁ……。まあいいか、楽できるならそれに越したことはないし」

 

 俺は思考を切り替える。

 HPを温存できるのは良いことだ。

 今日の俺は「お姫様プレイ」に徹することにしよう。

 

 しかし、そんな俺の甘い考えは、階層が進むにつれて徐々に不安へと変わっていった。

 

 †

 

 地下3階層。

 様子がおかしい。

 

「……なぁ、敵がいなくないか?」

 

 カイルが不審げに呟く。

 確かに、2階層まではそれなりに遭遇した魔物が、3階層に入ってからパタリと姿を消した。

 通路は静まり返り、俺たちの足音だけが響いている。

 

「変ですね……。事前の情報だと、この辺りはオークの巣窟のはずですが」

 

 リリィが『灯火(ライト)』の魔法で周囲を照らす。

 壁には爪痕のようなものが残っているが、魔物の気配がない。

 それどころか、空気中に漂う魔素の濃度が、異常なほど濃くなっている気がする。

 

(……嫌な予感がする)

 

 俺のゲーマーとしての勘が警鐘を鳴らしていた。

 雑魚敵がいない場合、考えられる可能性は二つ。

 一つは、誰かが先行して狩り尽くした場合。

 もう一つは――そのエリアに、雑魚が寄り付かないほどの「捕食者」がいる場合だ。

 

「おい、引き返した方がよくないか?」

 

 俺は提案した。

 実習のノルマである魔石は、既に十分集まっている。

 これ以上進むリスクを冒す必要はない。

 

「そうだな。シルの体調も心配だし、一旦戻ろう」

 

 カイルが同意し、俺たちが踵を返そうとした、その時だった。

 

 ズズズズズ……ッ!

 

 地響き。

 地面が大きく揺れ、天井からパラパラと砂が落ちてくる。

 

「な、なんだ!?」

「地震か!?」

 

 ガストンが俺を庇うように覆いかぶさる。

 揺れはすぐに収まったが、今度は奥の通路から、とてつもない殺気が膨れ上がってきた。

 生臭い、腐肉のような臭い。

 そして、重低音の唸り声。

 

「グルルルルルルァァァァ…………ッ!!」

 

 その声を聞いた瞬間、俺の背筋が凍りついた。

 知っている。この声は、ゲームの中盤で登場する中ボス級モンスターの声だ。

 なんでこんな低層階にいやがる!?

 

「逃げろ! 早く!」

 

 俺が叫ぶと同時だった。

 通路の奥の壁が砕け散り、巨大な影が飛び出してきた。

 

 体長5メートルはあろうかという巨体。

 獅子の頭、山羊の胴体、そして蛇の尾を持つ合成獣。

 キメラだ。

 しかも、全身が赤黒い禍々しいオーラに包まれている。ただのキメラじゃない、「変異種(ネームド)」だ!

 

「キ、キメラだと!? なんでこんな所に!」

「あ、ありえないわ! 推奨レベルが違いすぎます!」

 

 カイルとリリィが悲鳴を上げる。

 キメラの適正レベルは40以上。

 対して、新入生の平均レベルは良くて10程度。

 勝負になるわけがない。虐殺だ。

 

「ギギギギギッ!」

 

 キメラの背中から生えた蛇の尾が、鞭のようにしなる。

 狙いは――俺たちの中で一番魔力が高い(ように見える)リリィだった。

 

「リリィ! 危ない!」

 

 ガストンが盾を構えて割り込む。

 

 ドォォォォン!!

 

 衝撃音が響き、巨漢のガストンがボールのように吹き飛ばされた。

 鋼鉄の盾がひしゃげている。

 

「ガストン!!」

「ぐぅ……ッ! 重い……なんて馬鹿力だ……!」

 

 ガストンが壁に叩きつけられ、血を吐く。

 一撃で前衛が崩壊した。

 キメラは止まらない。獅子の頭が咆哮を上げ、次の標的を定める。

 

 その瞳が、俺を捉えた。

 いや、正確には俺の後ろにいるリリィを。

 

(マズい、このままだと全滅する!)

 

 俺は瞬時に計算する。

 ギルバート先生は別の班を見ているため、ここにはいない。

 救援を呼ぶ時間はない。

 カイルの魔法では傷一つつけられない。

 リリィの回復魔法も、即死攻撃の前には無力だ。

 

 逃げるか? 『転移』を使えば、俺一人なら確実に逃げられる。

 だが、リリィたちは?

 見捨てるのか? こいつらを?

 

(……ふざけるな)

 

 俺の中で、冷徹な計算機(ゲーマー脳)とは別の、熱い感情が湧き上がった。

 こいつらは過保護で、鬱陶しくて、俺を勘違いして崇めている連中だ。

 だが、この一週間、俺の不味いポーション作りを邪魔しないように気を使ってくれたり、不味い学食のパンを俺のために交換してくれたりした、善良な馬鹿たちだ。

 

 それを、こんなデータ上の肉塊ごときに奪われてたまるか。

 

「……カイル、リリィを連れて下がれ」

 

 俺は静かに告げた。

 震える声を抑え込み、普段の「病弱な美少年」の仮面を脱ぎ捨てる。

 

「シ、シル? 何を言って……」

「いいから下がれッ!!」

 

 俺は一歩、前に出た。

 キメラと対峙する。

 その巨大な威圧感に、本能が警鐘を鳴らす。

 怖い。死にたくない。

 だからこそ――殺(や)る。

 

「……後悔するなよ、化け物」

 

 俺は右手をかざす。

 変装魔法を維持する余裕はない。

 出力制御? 知ったことか。

 ここで出し惜しみをして死ぬくらいなら、派手にぶっ放して生き残る!

 

 ――HP変換率、最大解放。

 ――リミッター解除。全リソースを攻撃に転用。

 

 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ!!

 

 心臓が暴れ回り、血管の中を溶岩が流れるような激痛が走る。

 全身の毛穴から魔力が噴き出し、周囲の空気を歪ませる。

 

「シル……君……?」

 

 背後でリリィが息を呑む気配がした。

 構うものか。

 俺の体から、認識阻害の魔法が剥がれ落ちていく。

 黒く染めていた髪が、本来の月光のような銀色へと戻っていく。

 茶色に見せていた瞳が、鮮血の紅へと変わっていく。

 

 キメラが警戒して足を止めた。

 本能が悟ったのだろう。

 目の前にいるのは、ただの獲物ではない。

 自分と同格、いや、それ以上の「捕食者」であると。

 

「消えろ――『深紅の葬送(クリムゾン・エンド)』」

 

 俺は、今できる最大火力の魔法名を紡いだ。

 代償として、喉の奥から大量の「コスト」が溢れ出した。

 

 ゴボッ!!

 

 口から、鼻から、鮮血が噴き出す。

 視界が真っ赤に染まる。

 だが、その赤よりもなお紅く、禍々しい魔力の光が、俺の手のひらに収束していく。

 

 ――さあ、課金の時間だ。




シルヴィア「これが俺の財布(HP)の力だぁぁぁッ!」
クラスメイト「(絶句)」

ついに正体バレの瞬間です。
男装が解け、真の姿(銀髪赤眼の美少女)に戻ったシルヴィアが、吐血しながら最大火力を放ちます。
このギャップこそが、ハーメルンにおけるカタルシスの真骨頂。

面白い、燃える! と思っていただけたら、
下の【お気に入り登録】と【評価(★)】をポチッとしていただけると、シルヴィアのHPが(読者の応援で)回復します!
次回、正体がバレたシルヴィアの運命やいかに。
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