余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる 作:実験体G
王立魔法学院の医務室。
俺ことシルヴィアが意識を取り戻してから数時間後。
事態は急変していた。
「……おい、なんだあの騒ぎは」
窓の外が騒がしい。
ベッドから身を乗り出して覗いてみると、校門の前に豪華な馬車が止まっていた。
そして、そこから降りてきた金髪の青年が、護衛を振り切って校舎へと猛ダッシュしているのが見えた。
「ア、アルフレッド!?」
俺はギョッとした。
先日、ポーションの臭いでニアミスしたばかりの元婚約者だ。
帰国したんじゃなかったのか!?
「シルヴィア様! 大変です!」
リリィが血相を変えて病室に飛び込んできた。
彼女は俺のベッドの前に立ちはだかり、決死の形相で叫んだ。
「アルフレッド殿下が……殿下がこちらへ向かっています! 『シルヴィアが倒れたと聞いた! 通せ!』と警備を突破して……!」
「うわぁ……」
俺はドン引きした。
情報が漏れるのが早すぎる。誰だ、チクったのは。
いや、あれだけの派手な魔法を使ったんだ。噂になるのは当然か。
「どうしますか? 隠れますか? それとも……私が追い返してきましょうか?」
リリィの手には、いつの間にか杖が握られていた。
その目には殺気が宿っている。
「聖女様の敵は排除する」という強い意志を感じる。頼もしいけど怖いよリリィちゃん。
「いや、無駄だろうな。ここまで来たら会うしかない」
俺は溜息をついた。
ここで逃げても、あいつは地獄の果てまで追いかけてくるタイプだ。
ならば、ここでハッキリと言ってやるべきだ。「もう関わらないでくれ」と。
俺は覚悟を決めた。
「通してくれ。……話をつける」
†
数分後。
医務室のドアが乱暴に開かれた。
「シルヴィアッ!!」
飛び込んできたのは、乱れた髪と息を切らしたアルフレッドだった。
かつての煌びやかな王子の面影はない。
目の下には濃いクマがあり、頬はこけ、まるで数日間寝ていないようなやつれ方だ。
彼はベッドに座る俺の姿を見るなり、時間が止まったように硬直した。
「……あぁ……」
銀色の髪。紅い瞳。
紛れもない、かつての婚約者の姿。
だが、その体は以前よりもさらに細く、儚くなっているように見えた(※ポーションダイエットの効果です)。
「本当に……生きて……」
アルフレッドはふらりと歩み寄り、そして――。
ドサッ!!
勢いよく、床に膝をついた。
土下座だ。
一国の王子が、平民(追放された罪人)の前で、額を床に擦り付けている。
「すまなかった……ッ!!」
絞り出すような謝罪の声。
俺とリリィは呆気にとられた。
「俺は……俺は愚かだった! 君が魔力を持たずとも、どれほど努力していたか……どれほど我々を想ってくれていたか、気づきもしなかった!」
「え、あ、はい?」
俺は困惑する。
努力? まあ、レベリングはしたけど。
想っていた? いや、殺意ならあったけど。
「聞いたぞ、ココル村の話を! そして今日のキメラ討伐の話も! 君はいつもそうだ……自分の命を削って、見返りも求めず、ただ誰かを救うために血を流す!」
アルフレッドが顔を上げる。
その瞳からは、ボロボロと涙が溢れていた。
「俺は、そんな君を『無能』と罵り、追放した……。死地へと追いやった……! 俺は万死に値する! 君に殺されても文句は言えない!」
「いや、殺さないけど……」
「殺してくれ! 君の手で!」
アルフレッドが自分の剣を抜き、俺に差し出してくる。
重い。
物理的にも、感情的にも、何もかもが重い。
「殿下、落ち着いてください。刃物は危ないです」
俺は冷静に剣を押し返す。
ここで彼を刺したら、それこそ国際指名手配だ。
俺はあくまで「被害者」のポジションを維持しつつ、穏便に彼を遠ざけなければならない。
「……殿下。過ぎたことはもう良いのです」
俺は聖女スマイル(営業用)を浮かべた。
慈悲深い声色を作る。
「私は今、この学園で新しい人生を歩んでいます。ですから、貴方様もどうか、ご自分の道を歩んでください。私のことは忘れて」
完璧だ。
これで「私は過去を許した。だからもう関わるな」というメッセージが伝わるはずだ。
だが、アルフレッドの反応は予想外だった。
「……忘れる? できるわけがないだろうッ!!」
彼は叫んだ。
そして、俺の手を両手で握りしめ、熱っぽい瞳で見つめてきた。
「許してくれなくていい。憎んでくれていい。だが、これだけは言わせてくれ。……俺は、今の君に心底惚れている」
「はぁ!?」
俺は素っ頓狂な声を出した。
リリィも「ええっ!?」と驚いている。
「以前の俺は、君の家柄や(見かけの)魔力量しか見ていなかった。だが今は違う。君のその、傷つきながらも他者を守ろうとする高潔な魂に……俺の心は奪われたんだ!」
アルフレッドの瞳が、危ない光を放っている。
これは……ヤンデレの目だ。
罪悪感が一周回って、歪んだ愛情へと変貌してしまっている。
「シルヴィア。国へ帰ろう。父上にも話は通す。君を『聖女』として正式に迎え入れ、俺の妃として……」
「お断りします」
俺は即答した。
食い気味に断った。
王城に戻る? 冗談じゃない。あんな堅苦しい場所で、しかも聖女として祀り上げられるなんて、スローライフの対極だ。
「な、なぜだ!? 俺では不服か!?」
「そういう問題じゃなくてですね。私はここで勉強がしたいんです。静かに暮らしたいんです」
「静かに……? そうか、体調が優れないから療養したいということか!」
アルフレッドが勝手に納得する。
「わかった。ならば俺もここに残ろう」
「はい?」
「俺は留学の手続きをしてくる。君の側で、君を守り抜く騎士となろう。それが俺の贖罪であり、愛の証だ!」
アルフレッドは立ち上がり、清々しい笑顔を見せた。
そして「待っていてくれ、シルヴィア!」と言い残し、風のように去っていった。
バタン。
ドアが閉まる。
後に残されたのは、頭を抱える俺と、呆然とするリリィだけだった。
「……ねえリリィ。あいつ、何しに来たの?」
「……ストーカー宣言をしに来たように見えましたが」
俺たちは顔を見合わせた。
最悪だ。
元婚約者が「贖罪」という名目で、公認ストーカーとして学園に常駐することになってしまった。
「……ポーション飲みたい」
「はい、どうぞシルヴィア様」
リリィが差し出してくれた激マズポーションを一気飲みする。
苦い。
だが、今の俺の人生ほど苦くはないだろう。
こうして、俺の学園生活に、新たなトラブルメーカー「粘着系元王子」が加わったのである。
アルフレッド「これが俺の愛だ!(激重)」
シルヴィア「(クーリングオフしたい)」
アルフレッドのヤンデレ化が止まりません。
彼は今後、シルヴィアに近づく男(虫)を排除する番犬として活躍(?)する予定です。
クラスメイトの親衛隊と、元王子のストーカー。
シルヴィアの周りはカオスを極めていきます。
面白い、続きが気になる! と思っていただけたら、
下の【お気に入り登録】と【評価(★)】をお願いします!
皆様の応援が、シルヴィアの防壁になります。