余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる 作:実験体G
元婚約者であるアルフレッド王子の「ストーカー宣言」から数日。
王立魔法学院は、かつてない熱気に包まれていた。
発端は、例のダンジョン実習での一件だ。
「特待生の美少年シルが、実は伝説の『血染めの聖女』であり、仲間のために命を削ってキメラを討伐した」
この衝撃的な事実は、箝口令を敷く間もなく、光の速さで学園中に拡散された。
いや、正確には俺のクラスメイト(A組)たちが、感動のあまり方々で語りまくったせいである。
その結果、どうなったか。
俺ことシルヴィアが登校すると、校門前から教室までの道のりが、まるで英雄の凱旋パレードのようになっていた。
「おはようございます、聖女様!」
「本日もお美しい……! 顔色が優れないようですが、ポーションはお持ちですか?」
「荷物は我々がお持ちします! 地面に絨毯を敷きましょうか!?」
すれ違う生徒たちが、次々と立ち止まり、敬礼し、あるいは手を合わせて拝んでくる。
男子生徒は頬を染め、女子生徒は黄色い悲鳴を上げる。
教師陣ですら、俺を見ると「おお……」と感嘆の声を漏らし、道を譲ってくれる始末だ。
(……居心地が悪い。死ぬほど悪い)
俺は引きつった笑顔を張り付けながら、リリィとカイルに挟まれて廊下を歩く。
俺の姿は、もう男装ではない。
あの時バレてしまった以上、今さら隠す意味もないと開き直り、女子制服に袖を通している。
銀髪をなびかせ、赤い瞳を隠さずに歩く姿は、皮肉にも「深窓の令嬢」そのものに見えるらしい。中身はポーション中毒のゲーマーなのだが。
「シルヴィア様、人気者ですね!」
リリィが無邪気に笑う。
彼女は今や、俺の「筆頭従者」のポジションを確立していた。
朝の支度から食事の世話、移動の護衛まで、完璧にこなすスーパーメイド(聖女)である。
「人気というか……これ、半分宗教じゃないか?」
「ふふっ、それだけ皆様、貴女様の高潔さに心を打たれたんですよ」
リリィは誇らしげだ。
いや、俺はただ生き残るためにぶっ放しただけなんだが。
だが、訂正する気力も起きないほど、周囲の熱気は凄まじかった。
教室に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。
「総員、起立! 聖女様に敬礼!」
ガストンの号令と共に、クラス全員がビシッと立ち上がり、一斉に礼をした。
黒板にはデカデカと『シルヴィア様をお守りする会・定例会議』と書かれている。
「……おはよう、みんな。何してるの?」
「おはようございます、シルヴィア! 君の護衛シフトについて話し合っていたんだ!」
カイルが爽やかに答える。
彼の手には分厚いシフト表が握られていた。
「通学路の警備、休み時間の巡回、トイレへの付き添い(女子生徒担当)……24時間体制で君をガードする計画だ」
「トイレは勘弁してくれ」
俺は即座に却下した。プライバシー皆無かよ。
「だがな、シルヴィア。笑い事じゃないんだ」
カイルが真剣な表情になる。
「君の存在は、今や国中で注目されている。特に、君の『生命変換魔法』を狙って、怪しい連中が動き出しているという情報もあるんだ」
「怪しい連中?」
「ああ。帝国の密偵や、闇ギルドの解剖マニア……そして何より、あの『アルフレッド殿下』だ」
カイルが嫌そうな顔をする。
そう、アルフレッドは宣言通り、留学の手続きを強引に進めているらしい。
近日中にこの学園に転入してくるという噂だ。
「あの王子、君への執着が異常だ。君を国へ連れ戻そうと画策しているらしい。俺たちは、君が望まない限り、絶対に渡さないと決めたんだ」
「……みんな」
俺は少し感動した。
方向性は間違っているが、彼らの善意は本物だ。
元悪役令嬢の俺を、ここまで必死に守ろうとしてくれるなんて。
「ありがとう。でも、あまり無理はしないでね。私のためにみんなが傷つくのは……(寝覚めが悪くて)嫌だから」
俺が本音をオブラートに包んで言うと、クラスメイトたちは「うおおおっ!」「なんてお優しい!」「一生ついていきます!」と感涙に咽んだ。
チョロい。善良すぎて心配になるレベルだ。
†
昼休み。
俺はリリィと共に、中庭のベンチでランチをとっていた。
食堂はパニックになるため、最近はこのスタイルが定着している。
「はい、シルヴィア様。サンドイッチです。今日はレバーペーストを多めにしておきました。造血作用がありますから!」
「ありがとう。……うん、血の味がする」
リリィの手作り弁当は美味しいのだが、最近やけに「鉄分」を推してくるのが玉に瑕だ。
俺がモグモグと食べていると、中庭の入り口が騒がしくなった。
「どけ! 私はシルヴィア嬢に話があるんだ!」
「なりません! アポイントメントのない面会は謝絶しております!」
怒鳴り声と共に現れたのは、白衣を着た男たちだった。
それを、ガストン率いる親衛隊の男子たちが体でブロックしている。
「あれは……」
「魔法研究所の連中ですね。また貴女様の血液サンプルをねだりに来たのでしょう」
リリィが冷ややかな目で言う。
ギルバート先生の論文(俺の体質についての勝手な考察)が出回って以来、俺の体は「生きた研究素材」としてマッドサイエンティストたちの垂涎の的になっていた。
「シルヴィア嬢! 血を! 血を一杯だけでいいんだ! 金なら払う!」
「君の髪の毛一本でもいい! その銀髪には魔力が宿っているはずだ!」
研究者たちが必死の形相で叫ぶ。
完全にホラーだ。
ガストンたちが「帰れ!」「聖女様を汚すな!」と押し返しているが、数が多い。
「……面倒だな」
俺はサンドイッチを飲み込み、立ち上がった。
「シルヴィア様? まさか、相手をなさるのですか?」
「いや、追い払うだけだ。彼らが怪我をしても寝覚めが悪いしね」
俺はすぅっと息を吸い込み、魔力を練る。
使うのは『威圧(プレッシャー)』。
ただし、俺流のアレンジ――HP消費による「殺気」の上乗せ付きだ。
――HP5%消費。変換。
ドクン。
俺の瞳が、妖しく紅く発光する。
周囲の空気が一瞬にして凍りつき、重く澱んだ。
「――騒々しいですね。静かにしていただけますか?」
俺はニッコリと微笑んで言った。
声量は大きくない。
だが、その声は研究者たちの脳髄に直接響くような、絶対的な強制力を持っていた。
「ヒッ……!?」
「あ、悪魔……いや、死神……?」
研究者たちが顔面蒼白になり、後ずさる。
彼らの目には、俺の背後に巨大な死の鎌が見えたのかもしれない。
実際、俺の魔力は「生命力を燃やした残りカス(死の気配)」を纏っているため、生物としての本能的な恐怖を煽る効果があるのだ。
「お引き取りください。……でなければ、私の『研究材料』になっていただきますよ?」
俺が指先でポーションの空き瓶(中身はドブ色)をもてあそぶと、彼らは「ひいいぃっ!」と悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「ふぅ。片付いた」
俺が振り返ると、ガストンたちが頬を赤らめて震えていた。
「す、すげぇ……」
「あんなに可憐なのに、あの迫力……!」
「ゾクゾクした……叱られたい……」
……どうやら親衛隊の中に、新たな性癖に目覚めた者がいるようだ。
見なかったことにしよう。
†
その日の放課後。
俺はギルバート先生の研究室に呼び出されていた。
「やあシルヴィア君! 今日も顔色が悪いね! 素晴らしい!」
先生は相変わらずだ。
部屋の中には、怪しげな実験器具と、俺のストーカー写真(隠し撮り)が貼られたボードがあった。
「先生、肖像権の侵害で訴えますよ」
「ハハハ、硬いことを言うな。それより、君に渡したいものがあってね」
先生が差し出したのは、一本の杖だった。
真っ白な木材で作られ、先端には紅い魔石が埋め込まれている。
シンプルだが、洗練されたデザインだ。
「これは?」
「特注の杖だ。君の『生命変換魔法』の負荷を軽減する術式が組み込んである」
俺は目を見開いた。
それは、俺が一番求めていたものだ。
変換効率が上がれば、それだけHP消費(コスト)が減る。つまり、ポーションの節約になる!
「……いいんですか? これ、かなり高価そうですが」
「構わんよ。私の研究データ収集に協力してくれた礼だ。それに……」
先生が真面目な顔になる。
「君が早死にしては、私が困るからな。その才能は、人類の宝だ。大切に使いたまえ」
(……なんだかんだで、この人は良い先生なんだよな。変人だけど)
俺は素直に杖を受け取った。
手に馴染む。魔力を通すと、吸い込まれるようにスムーズに流れるのがわかる。
「ありがとうございます。大切にします」
「うむ。……あ、ついでに血液をあと200ccほど……」
「それはお断りします」
俺は即答して研究室を出た。
廊下に出ると、窓の外は夕焼けに染まっていた。
杖を握りしめ、俺は思う。
入学当初の「目立たず平穏な生活」という計画は、完全に破綻した。
元王子には狙われ、学園中から崇拝され、変人教師には目をつけられている。
だが、悪くない気もしていた。
リリィやカイルたちのような、信頼できる(ちょっと重いけど)仲間ができた。
前世では孤独にゲームをしていた俺が、今ではこうして誰かに囲まれている。
「ま、なんとかなるか」
俺は独り言ちて、寮へと足を向けた。
その帰り道、寮の玄関で待ち構えていたアルフレッド王子(転入続き完了済み)と鉢合わせし、盛大な溜息をつくことになるのは、数分後の話である。
こうして、俺の正体バレ騒動は一応の決着を見せ、物語は次なるステージ――「国家規模の勘違い」へと進んでいくのであった。
ガストン「叱られたい……!」
シルヴィア「(変態が増えた)」
クラスメイトが完全に信者化しました。
これにより、シルヴィアがピンチになると集団で襲いかかってくる「親衛隊」システムが確立。
次章以降、この集団が暴走して敵を殲滅していく展開も増えるでしょう。
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