余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

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第14話:学園中が「聖女様親衛隊」を結成したようです

元婚約者であるアルフレッド王子の「ストーカー宣言」から数日。

 王立魔法学院は、かつてない熱気に包まれていた。

 

 発端は、例のダンジョン実習での一件だ。

 「特待生の美少年シルが、実は伝説の『血染めの聖女』であり、仲間のために命を削ってキメラを討伐した」

 この衝撃的な事実は、箝口令を敷く間もなく、光の速さで学園中に拡散された。

 いや、正確には俺のクラスメイト(A組)たちが、感動のあまり方々で語りまくったせいである。

 

 その結果、どうなったか。

 俺ことシルヴィアが登校すると、校門前から教室までの道のりが、まるで英雄の凱旋パレードのようになっていた。

 

「おはようございます、聖女様!」

「本日もお美しい……! 顔色が優れないようですが、ポーションはお持ちですか?」

「荷物は我々がお持ちします! 地面に絨毯を敷きましょうか!?」

 

 すれ違う生徒たちが、次々と立ち止まり、敬礼し、あるいは手を合わせて拝んでくる。

 男子生徒は頬を染め、女子生徒は黄色い悲鳴を上げる。

 教師陣ですら、俺を見ると「おお……」と感嘆の声を漏らし、道を譲ってくれる始末だ。

 

(……居心地が悪い。死ぬほど悪い)

 

 俺は引きつった笑顔を張り付けながら、リリィとカイルに挟まれて廊下を歩く。

 俺の姿は、もう男装ではない。

 あの時バレてしまった以上、今さら隠す意味もないと開き直り、女子制服に袖を通している。

 銀髪をなびかせ、赤い瞳を隠さずに歩く姿は、皮肉にも「深窓の令嬢」そのものに見えるらしい。中身はポーション中毒のゲーマーなのだが。

 

「シルヴィア様、人気者ですね!」

 

 リリィが無邪気に笑う。

 彼女は今や、俺の「筆頭従者」のポジションを確立していた。

 朝の支度から食事の世話、移動の護衛まで、完璧にこなすスーパーメイド(聖女)である。

 

「人気というか……これ、半分宗教じゃないか?」

「ふふっ、それだけ皆様、貴女様の高潔さに心を打たれたんですよ」

 

 リリィは誇らしげだ。

 いや、俺はただ生き残るためにぶっ放しただけなんだが。

 だが、訂正する気力も起きないほど、周囲の熱気は凄まじかった。

 

 教室に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。

 

「総員、起立! 聖女様に敬礼!」

 

 ガストンの号令と共に、クラス全員がビシッと立ち上がり、一斉に礼をした。

 黒板にはデカデカと『シルヴィア様をお守りする会・定例会議』と書かれている。

 

「……おはよう、みんな。何してるの?」

「おはようございます、シルヴィア! 君の護衛シフトについて話し合っていたんだ!」

 

 カイルが爽やかに答える。

 彼の手には分厚いシフト表が握られていた。

 

「通学路の警備、休み時間の巡回、トイレへの付き添い(女子生徒担当)……24時間体制で君をガードする計画だ」

「トイレは勘弁してくれ」

 

 俺は即座に却下した。プライバシー皆無かよ。

 

「だがな、シルヴィア。笑い事じゃないんだ」

 

 カイルが真剣な表情になる。

 

「君の存在は、今や国中で注目されている。特に、君の『生命変換魔法』を狙って、怪しい連中が動き出しているという情報もあるんだ」

「怪しい連中?」

「ああ。帝国の密偵や、闇ギルドの解剖マニア……そして何より、あの『アルフレッド殿下』だ」

 

 カイルが嫌そうな顔をする。

 そう、アルフレッドは宣言通り、留学の手続きを強引に進めているらしい。

 近日中にこの学園に転入してくるという噂だ。

 

「あの王子、君への執着が異常だ。君を国へ連れ戻そうと画策しているらしい。俺たちは、君が望まない限り、絶対に渡さないと決めたんだ」

「……みんな」

 

 俺は少し感動した。

 方向性は間違っているが、彼らの善意は本物だ。

 元悪役令嬢の俺を、ここまで必死に守ろうとしてくれるなんて。

 

「ありがとう。でも、あまり無理はしないでね。私のためにみんなが傷つくのは……(寝覚めが悪くて)嫌だから」

 

 俺が本音をオブラートに包んで言うと、クラスメイトたちは「うおおおっ!」「なんてお優しい!」「一生ついていきます!」と感涙に咽んだ。

 チョロい。善良すぎて心配になるレベルだ。

 

 †

 

 昼休み。

 俺はリリィと共に、中庭のベンチでランチをとっていた。

 食堂はパニックになるため、最近はこのスタイルが定着している。

 

「はい、シルヴィア様。サンドイッチです。今日はレバーペーストを多めにしておきました。造血作用がありますから!」

「ありがとう。……うん、血の味がする」

 

 リリィの手作り弁当は美味しいのだが、最近やけに「鉄分」を推してくるのが玉に瑕だ。

 俺がモグモグと食べていると、中庭の入り口が騒がしくなった。

 

「どけ! 私はシルヴィア嬢に話があるんだ!」

「なりません! アポイントメントのない面会は謝絶しております!」

 

 怒鳴り声と共に現れたのは、白衣を着た男たちだった。

 それを、ガストン率いる親衛隊の男子たちが体でブロックしている。

 

「あれは……」

「魔法研究所の連中ですね。また貴女様の血液サンプルをねだりに来たのでしょう」

 

 リリィが冷ややかな目で言う。

 ギルバート先生の論文(俺の体質についての勝手な考察)が出回って以来、俺の体は「生きた研究素材」としてマッドサイエンティストたちの垂涎の的になっていた。

 

「シルヴィア嬢! 血を! 血を一杯だけでいいんだ! 金なら払う!」

「君の髪の毛一本でもいい! その銀髪には魔力が宿っているはずだ!」

 

 研究者たちが必死の形相で叫ぶ。

 完全にホラーだ。

 ガストンたちが「帰れ!」「聖女様を汚すな!」と押し返しているが、数が多い。

 

「……面倒だな」

 

 俺はサンドイッチを飲み込み、立ち上がった。

 

「シルヴィア様? まさか、相手をなさるのですか?」

「いや、追い払うだけだ。彼らが怪我をしても寝覚めが悪いしね」

 

 俺はすぅっと息を吸い込み、魔力を練る。

 使うのは『威圧(プレッシャー)』。

 ただし、俺流のアレンジ――HP消費による「殺気」の上乗せ付きだ。

 

 ――HP5%消費。変換。

 

 ドクン。

 俺の瞳が、妖しく紅く発光する。

 周囲の空気が一瞬にして凍りつき、重く澱んだ。

 

「――騒々しいですね。静かにしていただけますか?」

 

 俺はニッコリと微笑んで言った。

 声量は大きくない。

 だが、その声は研究者たちの脳髄に直接響くような、絶対的な強制力を持っていた。

 

「ヒッ……!?」

「あ、悪魔……いや、死神……?」

 

 研究者たちが顔面蒼白になり、後ずさる。

 彼らの目には、俺の背後に巨大な死の鎌が見えたのかもしれない。

 実際、俺の魔力は「生命力を燃やした残りカス(死の気配)」を纏っているため、生物としての本能的な恐怖を煽る効果があるのだ。

 

「お引き取りください。……でなければ、私の『研究材料』になっていただきますよ?」

 

 俺が指先でポーションの空き瓶(中身はドブ色)をもてあそぶと、彼らは「ひいいぃっ!」と悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

 

「ふぅ。片付いた」

 

 俺が振り返ると、ガストンたちが頬を赤らめて震えていた。

 

「す、すげぇ……」

「あんなに可憐なのに、あの迫力……!」

「ゾクゾクした……叱られたい……」

 

 ……どうやら親衛隊の中に、新たな性癖に目覚めた者がいるようだ。

 見なかったことにしよう。

 

 †

 

 その日の放課後。

 俺はギルバート先生の研究室に呼び出されていた。

 

「やあシルヴィア君! 今日も顔色が悪いね! 素晴らしい!」

 

 先生は相変わらずだ。

 部屋の中には、怪しげな実験器具と、俺のストーカー写真(隠し撮り)が貼られたボードがあった。

 

「先生、肖像権の侵害で訴えますよ」

「ハハハ、硬いことを言うな。それより、君に渡したいものがあってね」

 

 先生が差し出したのは、一本の杖だった。

 真っ白な木材で作られ、先端には紅い魔石が埋め込まれている。

 シンプルだが、洗練されたデザインだ。

 

「これは?」

「特注の杖だ。君の『生命変換魔法』の負荷を軽減する術式が組み込んである」

 

 俺は目を見開いた。

 それは、俺が一番求めていたものだ。

 変換効率が上がれば、それだけHP消費(コスト)が減る。つまり、ポーションの節約になる!

 

「……いいんですか? これ、かなり高価そうですが」

「構わんよ。私の研究データ収集に協力してくれた礼だ。それに……」

 

 先生が真面目な顔になる。

 

「君が早死にしては、私が困るからな。その才能は、人類の宝だ。大切に使いたまえ」

 

(……なんだかんだで、この人は良い先生なんだよな。変人だけど)

 

 俺は素直に杖を受け取った。

 手に馴染む。魔力を通すと、吸い込まれるようにスムーズに流れるのがわかる。

 

「ありがとうございます。大切にします」

「うむ。……あ、ついでに血液をあと200ccほど……」

「それはお断りします」

 

 俺は即答して研究室を出た。

 

 廊下に出ると、窓の外は夕焼けに染まっていた。

 杖を握りしめ、俺は思う。

 入学当初の「目立たず平穏な生活」という計画は、完全に破綻した。

 元王子には狙われ、学園中から崇拝され、変人教師には目をつけられている。

 

 だが、悪くない気もしていた。

 リリィやカイルたちのような、信頼できる(ちょっと重いけど)仲間ができた。

 前世では孤独にゲームをしていた俺が、今ではこうして誰かに囲まれている。

 

「ま、なんとかなるか」

 

 俺は独り言ちて、寮へと足を向けた。

 その帰り道、寮の玄関で待ち構えていたアルフレッド王子(転入続き完了済み)と鉢合わせし、盛大な溜息をつくことになるのは、数分後の話である。

 

 こうして、俺の正体バレ騒動は一応の決着を見せ、物語は次なるステージ――「国家規模の勘違い」へと進んでいくのであった。




ガストン「叱られたい……!」
シルヴィア「(変態が増えた)」

クラスメイトが完全に信者化しました。
これにより、シルヴィアがピンチになると集団で襲いかかってくる「親衛隊」システムが確立。
次章以降、この集団が暴走して敵を殲滅していく展開も増えるでしょう。

面白い、続きが気になる! と思っていただけたら、
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皆様の応援に感謝を込めて。
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