余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

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すみません。強引に完結させました。


第16話:血染めの聖女は、最後まで効率的に生きた(そして生き続ける)

 

 

 夏休みが来た。

 静かに過ごせると思ったのに、リリィが「実家に来てください!」と言い出し、カイルが「俺たちも護衛につく」と言い出し、ギルバートが「近くに面白い遺跡がある」と言い出し、アルフレッドが「シルヴィアの行くところ、俺も行く」と言い出した。

 

 一人の休暇はどこへ消えた。

 

 †

 

 リリィの実家は田舎の小さな村だった。

 ココル村と似た雰囲気で、のどかで、平和で――そしてやっぱり、トラブルが待っていた。

 

 村の地下に古代遺跡があったのだ。

 ギルバートが「生命変換の起源に関する記録があるかもしれない」と目を輝かせるので、渋々調査に向かうことになった。

 

 遺跡の最深部で見つけたのは、古代語で刻まれた碑文だった。

 

『生命を捧げし者よ。汝の力は未だ半ばなり。

 消費と再生、二つの翼が揃いし時、命は巡り、永遠の循環と化す。

 再生の翼を得る条件――他者を救わんとする意志を以て、己の命を差し出すこと』

 

 ギルバートが興奮気味に解読する。

 

「つまり、君のスキルは本来【生命循環(ライフ・サイクル)】に進化するべきものだ。HP消費が循環型になれば、最大HPの減少は止まる。……要するに、余命問題が解決する」

「条件は?」

「他者を救う意志で命を使うこと、だそうだ」

 

 俺は黙った。

 俺がやってきたことは、全部「効率的な判断」だ。村を救ったのは道が塞がれていたから。クラスメイトを守ったのは巻き込まれたくなかったから。自己犠牲の意志なんて、一度もない。

 

 ……ないはずだ。

 

 †

 

 遺跡からの帰り道、事件が起きた。

 闇ギルドの連中が、俺の「生命変換」を狙って襲撃してきたのだ。

 

 数は多い。しかも帝国の皇太子レオンハルトまで「面白そうだ」と乱入してくる始末だった。

 

(なんで休暇中にまでこんな目に遭うんだ)

 

 カイルとガストンが前線で戦う。アルフレッドも剣を抜いて応戦する。

 リリィは後方で回復魔法を飛ばし続ける。ギルバートは……研究ノートにメモを取っていた。

 

(おい先生、戦え)

 

 だが、闇ギルドの幹部がリリィたちの背後に回り込んだ。

 俺のステータスを確認する。最大HPは、もうかなり減っている。ここで大魔法を使えば、余命が大幅に縮む。

 

 リリィが悲鳴を上げる。

 

「シルヴィア様、使わないで! お願い、あなたが死んだら――!」

 

 俺は考えた。効率的に。合理的に。冷静に。

 

 ……いや、考えるまでもなかった。

 

「――変換(コンバート)」

 

 心臓が跳ねる。血管が燃える。口から血が溢れる。

 だが、今回は何かが違った。

 

(……なんだ? 体の奥から、何かが湧き上がってくる)

 

 放ったのは『氷結牢(アイス・プリズン)』。HP40%の大技。

 闇ギルドの連中が、一瞬で氷に包まれた。

 

 そして同時に、俺のステータスウィンドウが明滅した。

 


 

 【ユニークスキル変化】

 生命変換(ライフ・コンバート)→ 生命循環(ライフ・サイクル)

 ※消費したHPが時間経過で自動回復する循環型に進化。最大HPの永続減少が停止。

 


 

「……マジかよ」

 

 俺は自分のステータスを二度見した。

 最大HPの減少が、止まっている。

 それどころか、微量ずつ回復し始めていた。

 

「条件を満たしたんだ!」

 

 ギルバートが叫ぶ。

 

「他者を救う意志! 君は今、合理的判断じゃなく、本心から仲間を守ろうとした! スキルがそれを認めたんだ!」

 

「いや、待て。俺はただ効率的に――」

 

「効率を考える前に体が動いていただろう?」

 

 ……反論できなかった。

 

 リリィが泣いている。アルフレッドも泣いている。カイルは拳を握りしめて笑っている。ガストンは無言でサムズアップしている。

 ギルバートだけが、手帳に「スキル進化の瞬間に立ち会えた!」と大興奮で書き込んでいた。

 

(……まあ、なんでもいいか。死なないなら、それに越したことはない)

 

 †

 

 帰り道。

 騒がしい仲間たちの後ろを歩きながら、俺はポーションを取り出した。

 

 一口飲む。

 

「…………まっず」

 

 不味い。相変わらず不味い。

 

 だが、この不味いポーションを飲む日が、これからもずっと続くのだと思うと。

 

「……悪くないか」

 

 俺はそう呟いて、空を見上げた。

 二つの月が、やけに綺麗に輝いていた。

 

 †

 

 こうして、効率厨の聖女の物語は、一つの終わりを迎えた。

 

 余命の問題は解決した。スキルは進化した。

 だが、シルヴィアの日常は何も変わらない。

 

 リリィは「筆頭従者」を続けるし、アルフレッドはストーカーを続けるし、ギルバートは変な実験を続けるし、カイルは護衛を続けるし、帝国の皇太子は「面白い女だ」と言い続ける。

 

 そして当の聖女様は、今日も血を吐きながら「効率的に」生きている。

 周囲が勝手にシリアスに受け取ってくれるので、本人は気楽なものだ。

 

 ――ただ、一つだけ。

 

 「自分のため」だと思っていた行動が、実は「誰かのため」でもあったこと。

 それに気づいたのか、気づいていないのか。

 本人だけが、まだ分からないでいる。

 

 血染めの聖女の物語は、これからも続いていく。

 不味いポーションと共に。

 


 

――完――

 

 




お久しぶりです。そして、ここまでお読みいただきありがとうございました。

長い間お待たせしてしまい、申し訳ありません。
この第16話で旧版は完結とさせていただきます。

そして、お知らせがあります。

本作は第1話から全面的に書き直したリメイク版として、新たに連載を開始しました。




リメイク版について

連載を止めている間、感想欄でいただいたご指摘を改めて読み返しました。
ポーションやナイフの出所が不明、レベルの認知経路が曖昧、ポーション残量の矛盾――どれも的確なご指摘で、このまま続きを書いても設定の綻びが広がるばかりだと判断しました。

そこで、設定を一から整理し直し、矛盾を解消した上で、完結までのプロットを組んだ状態で書き直すことにしました。

リメイク版で変わった点:
・設定の矛盾を全て解消(ポーション・ナイフの出所、インベントリの説明、HP表記の統一など)
・完結までのプロットを確定済み。エタりません
・「周囲シリアス×本人コメディ」のすれ違い構造をより強化
・掲示板回の世界観設定を明確化
・毎日投稿

作品の核である「効率厨の主人公が合理的に動いた結果、聖女と勘違いされる」という構造は変わりません。
むしろ、その面白さをもっと引き出せるように全体を再構成しています。

リメイク版はこちら
https://syosetu.org/novel/406721/

第1話から読めます。旧版を読んでくださった方も、最初から読み直していただけると嬉しいです。
序盤の展開は似ていますが、細部が全て変わっています。

旧版に評価・お気に入り・感想をくださった皆様、本当にありがとうございました。
皆様の反応がなければ、書き直そうとは思いませんでした。

リメイク版でも、シルヴィアは相変わらず血を吐きながら「効率的に」生きています。
よろしければ、また見届けてやってください。
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