余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

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第3話:【悲報】村を救うために魔法を使ったら、神の使徒だと誤解された

「……嘘だろ、おい」

 

 死の森を抜け、ようやく人里が見えてきた矢先のことだ。

 俺の目の前に広がっていたのは、牧歌的な田舎の風景――ではなく、黒煙を上げて燃える村と、そこへ雪崩れ込む魔物の大群だった。

 

 ゴブリン、オーク、そして指揮官クラスのオーガまで混じっている。

 数は優に百を超えているだろう。

 対する村の防衛戦力は、鍬(くわ)を持った農民と、数人の自警団のみ。

 勝敗は火を見るより明らかだった。

 

「……見なかったことにするか?」

 

 俺は木陰に身を隠し、冷徹に計算する。

 俺の目的は、平穏な隠居生活だ。

 ここで関われば、正体がバレるリスクがある。

 それに、俺は正義の味方じゃない。ただの元ゲーマーの悪役令嬢だ。

 

 だが、俺の視線は無意識に、オーガの腰にぶら下がっている袋に釘付けになっていた。

 

(あれは……『光るキノコ』!? しかも最高品質の!)

 

 俺の目は金貨を見る商人のそれになった。

 『光るキノコ』は、俺の特製ポーションに不可欠な触媒だ。死の森でも滅多に見つからないレア素材である。

 それを、あの薄汚いオーガが雑に扱っている。

 

(許せん。あの素材があれば、俺の生存確率は数%跳ね上がるのに!)

(それに……ここで村が壊滅したら、宿も食事も風呂もお預けだ。それは困る。非常に困る)

 

 結論が出た。

 慈悲心ゼロ、利己心100%の動機である。

 

「よし、殲滅(や)るか。目撃者は……まあ、混乱に乗じて立ち去ればいいだろ」

 

 俺は亜空間収納からフード付きのマントを取り出し、深く被った。

 これで顔は見えない。

 そして、右手には残り少ないポーションの小瓶を握りしめる。

 

「作戦開始。最大火力で一掃して、素材を回収して即撤収だ」

 

 俺は木の上から飛び降りた。

 

 †

 

「う、うわあああっ! もう駄目だぁ!」

「神様、お助けください……!」

 

 村の広場は地獄絵図だった。

 自警団の剣は折れ、村人たちは広場の中央に追い詰められていた。

 迫りくるオーガの棍棒が、泣き叫ぶ少女へと振り下ろされようとした、その瞬間。

 

「――邪魔」

 

 凛とした声と共に、真横から凄まじい衝撃波が叩き込まれた。

 

 ズドンッ!!

 

 轟音。

 巨大なオーガの上半身が、風船のように破裂して消し飛んだ。

 血肉の雨が降る中、砂煙を割って一人の少女が降り立つ。

 

 ボロボロの純白のドレスに、深紅のマント。

 フードの隙間から覗くのは、この世のものとは思えない銀色の髪。

 

「な、なんだ……?」

「女の子……?」

 

 村人たちが呆然とする中、俺は舌打ちを堪えていた。

 

(いっっったぁ……! オーガ一匹にHP15%も持っていかれたぞ。硬すぎだろアイツ)

 

 内臓が悲鳴を上げている。

 喉までせり上がった血を、ゴクリと飲み込む。

 ポーションを飲む暇はない。周囲はまだ敵だらけだ。

 

「ギギッ!? ニンゲン、コロス!」

 

 仲間を殺されたゴブリンたちが、怒り狂って殺到してくる。

 その数、およそ五十。

 普通なら絶望的な数だが、俺にとってはただの「経験値の群れ」に過ぎない。

 

「まとめて消えろ。――『氷結牢(アイス・プリズン)』」

 

 広範囲殲滅魔法。コスト、HP40%。

 俺の体力が半分以下にまで急落する。

 それと引き換えに、世界が凍りついた。

 

 カキンッ!

 

 一瞬だった。

 襲いかかってきた魔物の群れが、一瞬にして巨大な氷の彫像へと変わる。

 絶対零度の冷気が広場を支配し、燃え盛っていた炎すらも凍りつかせた。

 

「がはっ……!!」

 

 魔法の反動が、俺の体を蝕む。

 今度ばかりは飲み込めなかった。

 口から大量の鮮血が噴き出し、白い雪のような氷原を赤く染める。

 

「かはっ、げほっ……! (くそ、範囲広げすぎた! 貧血で目が回る!)」

 

 俺は膝をつき、肩で息をする。

 視界が明滅する。ポーション、ポーションを飲まないと死ぬ。

 だが、手持ちのポーションはあと一本しかない。ここで飲むか? いや、まだ残党がいるかもしれない。

 

 俺が葛藤していると、静まり返った広場から、震えるような声が聞こえた。

 

「……おお、神よ……」

 

 村の老婆が、涙を流しながら俺を拝んでいた。

 つられて、他の村人たちも次々と膝をつき始める。

 

「見てください、あの姿を……」

「大量の血を吐いておられる……。あんな凄い魔法を使って、お体に負担がないはずがない」

「我々を助けるために、御身を削ってくださったのか……!」

 

(ん? なんか空気がおかしいぞ?)

 

 俺は口元の血を拭いながら、彼らを見る。

 彼らの目は、恐怖ではなく、熱狂的な崇拝の色を帯びていた。

 

「聖女様だ……! 伝説の、血染めの聖女様が現れたんだ!」

「ありがたや、ありがたや……!」

 

(は? 聖女? 誰のことだ?)

 

 俺は困惑した。

 俺はただ、素材回収のついでに邪魔な敵を排除しただけだ。

 血を吐いたのも、単なるコストの支払いに過ぎない。

 だが、彼らの目には、俺が「命を賭して弱きを助けた慈愛の天使」に見えているらしい。

 

「あー、いや、私は……」

 

 弁解しようと口を開いた瞬間、村長の娘らしき少女が駆け寄ってきた。

 彼女は自分のハンカチを差し出し、涙目で訴える。

 

「あ、あの! 血が……! お怪我をされているのですね!? どうか、どうかご無理をなさらないでください!」

「……え、いや、これはただの必要経費で……」

「必要経費……? ご自分の命を、それほど軽く扱われるのですか!? なんて、なんてお優しい……っ!」

 

 少女は感動のあまり号泣し始めた。

 ダメだ、話が通じない。

 こいつらのフィルターはどれだけ分厚いんだ。

 

 その時、倒したオーガの死体から、目当ての『光るキノコ』が転がり落ちた。

 俺はとっさにそれを拾い上げる。

 

「(よし、回収完了。長居は無用だ)」

 

 これ以上ここにいると、変な宗教に勧誘されかねない。

 俺はマントを翻し、背を向けた。

 

「……礼には及ばない。私は通りすがりのただの旅行者だ」

 

 俺は精一杯のハードボイルドな口調で言い捨て、ふらつく足取りで森へと消えた。

 背後から、「聖女様ー!」「お名前をー!」という叫び声が聞こえたが、全力で無視した。

 

 木陰に入った瞬間、俺は隠し持っていたポーションを一気飲みした。

 

「んぐっ……ぷはぁ! 生き返った!」

 

 HP全快。

 俺は口元についたポーションのしずく(泥味)を拭い、満面の笑みを浮かべる。

 

「素材も手に入ったし、経験値も美味かった。今日は大収穫だな!」

 

 俺はホクホク顔で去っていった。

 その日、辺境の村に「血を吐きながら民を救い、名も告げずに去った美しき聖女」の伝説が爆誕したことを、俺だけが知らなかった。

 

 そして、その噂がやがて王都にまで届き、あの王子のストーカー心に火をつけることになるのだが……それはまた、別の話である。




村人A「聖女様が吐かれた血が、凍った大地に赤い花のように咲いていました……尊い……」
シルヴィア「(キノコうめぇ)」

第一村人発見、即宗教化。
ハーメルン名物「勘違い」の第一歩です。
ちなみにシルヴィアのマントが赤いのは、返り血が目立たないようにという実用的な理由ですが、周囲には「血染めの聖装」として認識されています。

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