余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

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第4話:ただの回復薬(激マズ)が、万病を治す聖水扱いされている件

森の中で野宿生活を続けて早一週間。

 俺ことシルヴィア・ル・ブランは、深刻な問題に直面していた。

 

「……風呂に入りたい」

 

 切実な悩みである。

 『清浄(クリーン)』の生活魔法は使えるので、泥や血汚れは落とせている。だが、精神的な充足感までは洗えない。

 ふかふかのベッド、温かい食事、そして湯船。

 前世の日本人としての魂が、文明的な生活を渇望しているのだ。

 

「あの村……まだ騒いでるかな」

 

 数日前、魔物の襲撃から救った「ココル村」。

 本当ならあそこに滞在して英気を養うつもりだったのだが、宗教的な崇拝ムードに恐れをなして逃げ出してしまった。

 だが、背に腹は代えられない。

 俺は変装用のフードを目深に被り直し、恐る恐る村へ戻ることにした。

 正体がバレないように、ただの「通りすがりの薬売り」という設定でいこう。

 

 †

 

 ココル村は、復興の活気に満ちていた。

 半壊した家屋の修復作業が進み、村人たちの表情も明るい。

 だが、村の広場には異様な光景があった。

 

 広場の中央に、祭壇のようなものが組まれている。

 そこには、俺が殲滅したオーガの角と、俺が吐いた血が染み込んだ(と思われる)凍った土の塊が、御神体のごとく祀られていたのだ。

 

(うわぁ……ドン引きだわ)

 

 俺は顔を引きつらせながら、なるべく目立たないように村の雑貨屋へ向かった。

 目的は、空き瓶の買い取りと、食料の調達だ。

 

「いらっしゃい。……おや、旅のお方かね?」

 

 店主の親父さんが声をかけてくる。

 俺は声を低くして答える。

 

「ああ。薬の素材を探して旅をしている。……空き瓶があれば譲ってほしいのだが」

「空き瓶かい? あるにはあるが……今はそれどころじゃなくてな」

 

 親父さんは暗い顔で奥の部屋を見た。

 

「村長が倒れちまってな。あの襲撃の際、子供を庇って深手を負ったんだ。医者に見せたが、もう助からないと……」

「ふうん」

 

 俺は興味なさげに相槌を打つ。

 正直、他人の生死になど関わっている暇はない。俺は自分の平穏だけで手一杯だ。

 

 だが、親父さんの次の言葉が俺を足を止めた。

 

「村長が死ねば、この店も畳むことになるかもしれん。空き瓶の在庫も、処分することになるだろうな」

 

(なんですと?)

 

 俺はピタリと足を止める。

 この店には、俺が喉から手が出るほど欲しい「耐魔ガラス製の小瓶」が大量にある。それが手に入らなくなるのは、今後のポーション生産ラインに致命的な打撃だ。

 

(……仕方ない。商売相手を生かしておくのも、効率的なプレイの一環だ)

 

 俺はため息をつき、懐から一本の小瓶を取り出した。

 中身は、例のドブ色をした特製ポーションだ。

 材料は『光るキノコ』『マンドラゴラの根』『オークの肝』などを煮詰めたもので、見た目も臭いも最悪だが、HP回復効果だけはチート級である。

 

「……これを飲ませてみな」

「なんだい、これは? すっげぇ色してるが……」

「秘伝の薬だ。死にかけでも治る。ただし、味は保証しない」

 

 親父さんは半信半疑だったが、藁にもすがる思いだったのだろう。

 俺を奥の部屋へと案内した。

 

 ベッドには、顔面蒼白で息も絶え絶えな村長が横たわっていた。

 傷口が化膿し、高熱を出している。現代医療なら抗生物質で治るレベルだが、この世界の医療水準では致命傷だ。

 

「ほら、口を開けて」

 

 俺は遠慮なく、村長の口にポーションを流し込んだ。

 

「んぐっ……!? おごっ、げほっ!!」

 

 村長が目を剥き、激しく咳き込む。

 あまりの不味さに、魂が拒絶反応を起こしているのだ。

 わかる、わかるぞその気持ち。俺も毎日飲んでるからな。

 

「な、何を飲ませたんだ!? 村長が苦しんで――」

 

 親父さんが詰め寄ろうとした、その時だった。

 

 カッ!!

 村長の体から、淡い光が溢れ出した。

 

「う……うおぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 村長がガバッと跳ね起きた。

 さっきまで死にかけていた人間とは思えない動きだ。

 彼の顔色は瞬く間に血色を取り戻し、包帯の下の傷口が、見る見るうちに塞がっていく。

 

「な、治った……? 痛みが、消えたぞ!?」

「ば、馬鹿な……あの傷が、跡形もなく……!?」

 

 親父さんと、付き添っていた家族たちが絶句する。

 俺は内心で「よし、効果確認」と頷いた。

 やはり他人に使っても効果は抜群だ。副作用(味覚破壊)を除けば。

 

「こ、これは一体……!? こんな奇跡の薬、王都のエリクサーでも見たことがねぇ!」

「ただの滋養強壮剤だよ。じゃあ、俺はこれで」

 

 さっさと立ち去ろうとした俺の袖を、村長の娘(前回号泣していた子)が掴んだ。

 彼女は、俺が差し出した空き瓶を見て、そして俺の顔を凝視し……ハッとした表情になった。

 

「その声……まさか、先日の聖女様!?」

 

(げっ、バレた)

 

 フードで隠していたが、声までは変えていなかった。

 俺は咄嗟に否定しようとしたが、彼女はポーションの空き瓶を手に取り、震える声で言った。

 

「この薬……とてつもなく苦い匂いがします。まるで、胆汁のような……」

「ああ、マンドラゴラの絞り汁だからな」

「いいえ違います! これは……貴女様の“血”なのでしょう!?」

 

「……はい?」

 

 俺は思わず素っ頓狂な声を出した。

 何を言っているんだコイツは。

 

「伝説で聞いたことがあります。高位の聖女様の血には、万病を治す力が宿ると……! 先日の戦いで流された貴女様の血……それを、私たちのような下賤な者のために、薬として分け与えてくださったのですね!?」

 

「いや違う。全力で違う。それはただのキノコ汁だ」

「隠さないでください! こんなに苦いのは、貴女様の苦しみが凝縮されているからです! 自分の命を削って作った薬だからこそ、死にかけの父が蘇ったのです!」

 

 論理の飛躍がすごい。

 だが、周囲の村人たちはその言葉を聞いて、完全に納得した顔をしていた。

 

「そうか……あのドブ色は、聖女様の血が凝固した色だったのか……」

「なんて尊いんだ……自分の血を薬に変えてまで……」

「ありがたや、ありがたやぁぁぁッ!!」

 

 再び始まる土下座の波。

 村長に至っては、「この命、聖女様に捧げます!」と叫んで五体投地している。

 

(違う! それはただのマズい汁だ! 俺の血なんて一滴も入ってない!)

 

 叫びたかったが、この雰囲気の中で真実を言えば、逆に「謙遜なさらないでください!」と火に油を注ぐだけだと直感した。

 

「……勘違いするな。私はただ、空き瓶が欲しかっただけだ」

 

 俺は精一杯の冷血な態度で言い放ち、代金代わりの空き瓶ケースをひったくるように受け取った。

 

「そ、そうですか……。見返りも求めず、ただ去っていくのですね……」

「聖女様、どうかお名前だけでも!」

 

 俺は答えず、逃げるように店を出た。

 背後から聞こえる感謝の合唱が、俺の罪悪感(極小)をチクチクと刺激する。

 

(くそっ、なんでこうなるんだ。俺はただ、効率的に生きたいだけなのに!)

 

 俺は村を脱出し、再び森の中へ駆け込んだ。

 手に入れた大量の空き瓶だけが、唯一の収穫だった。

 

 †

 

 ――数日後。

 ココル村には、新たな伝説が加わっていた。

 

 『血染めの聖女は、自らの血肉を分け与え、死者を蘇らせる力を持つ』。

 

 この噂は、行商人たちの口を通じて瞬く間に広がり、やがて隣国の耳にも届くことになる。

 そして、その噂を聞きつけたある人物――王立魔法学院の変人教師、ギルバートの興味を引くことになるのだが、それはまだ先の話だ。

 

 さらに、村に残されたポーションの空き瓶(わずかに液体が残っていたもの)は、村の宝として厳重に保管され、後に「聖女の聖水」としてとんでもない高値で取引されることになる。

 中身がただの激マズジュースだとは知らずに、それを飲んで「力が漲る!」と喜ぶ貴族たちが現れるのは、皮肉と言う他ない。

 

 一方、当の本人は。

 

「くしゅん! ……なんか寒気がするな。誰かに呪われてるんじゃないか?」

 

 焚き火の前で、俺は再び不味いポーションを飲み干していた。

 レベルは40に到達。

 そろそろこの森の魔物では経験値が不味くなってきた。

 

「潮時だな。……行こう、隣国へ」

 

 俺は立ち上がる。

 目指すは、魔法の聖地「グラン・マギカ王国」の隣にある中立国、「アカデミア連邦」。

 そこにある魔法学院なら、身分を問わず実力主義で受け入れてくれるはずだ。

 そこで静かに、誰にもバレずに暮らす。

 それが俺の完璧な計画だ。

 

「待ってろよ、文化的な生活! ふかふかのベッド!」

 

 俺は希望に胸を膨らませ、北へと歩き出した。

 その先に、さらなる「勘違い」と「修羅場」が待っているとも知らずに。




村人「この苦味こそが聖女様の慈愛の味……!」(集団幻覚)
シルヴィア「(舌がおかしいんじゃないか?)」

ポーション=聖女の血、という誤解が定着しました。
これにより、シルヴィアがポーションを飲むたびに、周囲は「自分の血を啜って魔力を回復している(吸血鬼的な神秘性)」と誤解することになります。

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