余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

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第6話:ほとぼりが冷めた頃に、性別と名前を偽って学園に入学しよう

「アカデミア連邦」。

 魔法技術の発展と研究を至上とするこの国は、身分よりも実力を重んじる気風で知られている。

 その中心にあるのが、「王立魔法学院」だ。

 

 巨大な城壁に囲まれた学園都市の門前に、一人の少年(?)が立っていた。

 

「ここが……俺の安住の地か」

 

 俺ことシルヴィアは、感慨深げに見上げる。

 変装は完璧だ。

 銀髪は魔法で黒く染め(HP5%消費)、瞳の色も認識阻害の眼鏡で隠した。

 服装は地味な学生服。胸にはサラシを巻き、体型も隠している。

 名前も偽名、『シル』として登録済みだ。

 

「これなら、あの『血染めの聖女』と同一人物だとは誰も思うまい」

 

 俺はニヤリと笑った。

 この学園には、世界中から優秀な魔導師が集まる。

 つまり、俺のような「ちょっと魔法が上手いだけの一般人」など、掃いて捨てるほどいるはずだ。

 目立たず、騒がず、平均点をキープして卒業し、どこかの研究所でコネを作ってニート生活を送る。

 完璧な計画である。

 

 意気揚々と門をくぐろうとした俺だったが――。

 

「――止まれ」

 

 門番の騎士に槍を突きつけられた。

 厳つい顔をした男が、俺をジロジロと見下ろす。

 

「受験生か? 受験票を見せろ」

「あ、はい。これです」

 

 俺は懐から受験票を取り出す。

 だが、騎士の視線は俺の顔に釘付けになっていた。

 

「おい、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

 

 騎士の声色が、急に優しくなった。

 それもそのはず、俺のHPは変装魔法の維持コストで常に90%前後をうろうろしている。

 加えて、元々の色素の薄さと虚弱体質も相まって、はたから見れば「今にも倒れそうな病弱美少年」にしか見えないのだ。

 

「い、いえ、生まれつきこういう体質でして……」

「そうか……無理はするなよ。試験中に倒れたら元も子もない」

 

 騎士は憐れむような目で俺の肩をポンと叩いた。

 

「お前みたいな華奢な子が、魔導師を目指すなんて大変だろうが……応援してるぞ」

「は、はぁ。ありがとうございます」

 

 すんなりと通された。

 どうやら「病弱」という属性は、同情を誘うのに役立つらしい。

 これなら、多少魔法が下手でも「体が弱いから」で言い訳ができるかもしれない。

 

 †

 

 試験会場である大講堂には、数百人の受験生が集まっていた。

 貴族の子弟、平民の秀才、他国からの留学生。

 皆、自信に満ちた顔をしている。

 

(ふふん、青いな若者たちよ。俺の中身は歴戦のゲーマーだぞ)

 

 俺は最後列の席に座り、周囲を観察する。

 筆記試験は問題ない。前世の知識と、この数週間の独学(魔物の解体など)で十分カバーできる。

 問題は実技試験だ。

 

 俺の魔法は、威力がデカすぎる。

 手加減しなければ、会場ごと吹き飛ばしかねない。

 かといって、弱すぎれば不合格だ。

 目指すは「ギリギリ合格ライン」。

 偏差値50のど真ん中を狙い撃つ必要がある。

 

「えー、それでは実技試験を開始する!」

 

 試験官の声が響く。

 壇上に現れたのは、ボサボサの白髪に瓶底眼鏡をかけた、いかにもマッドサイエンティスト風の男だった。

 

(げっ……あれは……)

 

 俺の記憶が警告を発する。

 あれは確か、原作ゲームのサブキャラ、ギルバート先生だ。

 魔法研究の第一人者であり、主人公(リリィ)の才能を見抜いて育成する重要キャラ。

 そして何より、「未知の魔法」に目がない変人である。

 

(マズいな。あいつに目をつけられたら、平穏な生活が終わる)

 

 俺は身を縮こまらせる。

 順番は受験番号順。俺の番号は最後の方だ。

 前の受験生たちが次々と魔法を披露していく。

 

「ファイアボール!」

「ウィンドカッター!」

 

 ……ショボい。

 いや、学生レベルなら十分なのだろうが、俺が普段使っている『殲滅用・極大火球(ヘルフレア)』や『空間断裂(ディメンション・カット)』に比べれば、花火とカッターナイフの違いだ。

 

(これなら、相当手加減しないとヤバいぞ)

 

 俺は冷や汗をかく。

 俺の魔法は「HP変換」という特殊なプロセスを経るため、出力調整が難しいのだ。

 HP1%消費でも、一般魔法の上級クラスの威力が出てしまう。

 

「次、受験番号404番! シル君!」

 

 名前を呼ばれた。

 俺は観念して立ち上がり、ふらつく足取りで壇上へ向かう。

 会場中の視線が集まる。

 「なんだあの貧弱そうな奴は」「魔法を使う前に倒れるんじゃないか?」というヒソヒソ声が聞こえる。

 

「君がシル君か。……ふむ」

 

 ギルバート先生が、眼鏡の奥で目を細めた。

 彼は俺の体をジロジロと舐め回すように見る。

 

「魔力反応が……ない? いや、微弱すぎて感知できないのか? だが、この奇妙な違和感は……」

 

(鋭いなオッサン!)

 

 俺は平静を装い、的(ターゲット)の前に立つ。

 的は、魔法防御が施された鋼鉄製の人形だ。

 

「えーっと、何でもいいので、この人形に魔法を当ててください。破壊できれば満点ですが、傷一つつかなくても魔力制御を見ますので」

 

 ギルバート先生が気だるげに言う。

 破壊すれば満点。つまり、破壊してはいけない。

 軽く凹ませるくらいがベストか。

 

(よし、最小出力でいくぞ。HP消費0.1%くらいをイメージして……)

 

 俺は右手をかざす。

 使うのは基本中の基本、『魔力弾(マナ・バレット)』。

 属性を持たない、純粋な魔力の塊をぶつけるだけの魔法だ。

 

 ――変換(コンバート)。

 

 ドクン。

 心臓が小さく跳ねる。

 指先に集まる熱量。

 ……あれ? なんか熱いな。

 

「……ていっ」

 

 俺は可愛らしい掛け声と共に、魔法を放った。

 

 ヒュンッ――

 

 放たれたのは、小石程度の大きさの光弾。

 それを見た受験生たちが「なんだあれ」「ちっさ」と失笑を漏らす。

 俺も「よし、これなら合格ギリギリだ」と安堵した。

 

 ――次の瞬間までは。

 

 パァァァァァァンッ!!!

 

 光弾が人形に触れた瞬間、凄まじい衝撃波が発生した。

 爆音。

 閃光。

 鋼鉄製の人形は飴細工のように捻じ曲がり、そのまま後方の壁ごと吹き飛んだ。

 

「うわぁっ!?」

「きゃあああっ!」

 

 会場が揺れる。天井からパラパラと粉塵が落ちてくる。

 爆煙が晴れた後には、上半身が消滅した人形と、壁に空いた大穴だけが残されていた。

 

「…………」

 

 静寂。

 会場の全員が、口をあんぐりと開けて固まっていた。

 

(やっべ、最小出力でも強すぎた……! ていうか、この人形脆すぎだろ!?)

 

 俺は顔面蒼白になる。

 これでは目立たないどころか、要注意人物確定だ。

 言い訳を考えろ。そうだ、魔力が暴走したことにしよう。

 

「あ、あれぇ~? 手が滑っちゃいました~」

 

 俺は棒読みで誤魔化そうとした。

 だが、その瞬間。

 

「ゴフッ!」

 

 魔法の反動(HP微減)と、緊張によるストレスで、俺の口から少量の血が零れた。

 真っ白なハンカチを取り出し、口元を押さえる。

 ハンカチに広がる赤い染み。

 

 それを見たギルバート先生が、目を見開いて叫んだ。

 

「ま、まさか君……今の威力で、魔力枯渇(ガス欠)ではなく、肉体的負荷がかかっているのか!?」

「え? あ、はい。ちょっと貧血気味で……」

「そうか……! そういうことか!」

 

 ギルバート先生が、何かに気づいたように興奮し始めた。

 

「魔力回路が未発達なゆえに、自身の生命力を直接魔力に転化する特異体質……! だからこそ、あのような純粋かつ暴力的な威力が! 素晴らしい、なんて素晴らしい検体なんだ!」

 

(なんか勝手に解釈してくれた! けど、その目はヤバい!)

 

 先生は俺の手を取り、ガシガシと握手をしてきた。

 

「合格だ! 文句なしの満点だ! 君のような『命がけの才能』を、この学院が見捨てるわけにはいかない!」

「い、いや、私は別に……」

「安心してくれたまえ! 君の体質は、私が責任を持って研究……いや、ケアしよう!」

 

 会場からは、一転して割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 「すげえ……」「あんな体で、あんな威力を……」「命を燃やしているのか……?」

 同情と畏怖の入り混じった視線が、俺に突き刺さる。

 

(終わった……俺のモブ生活、開始0秒で終了……)

 

 俺は遠い目をした。

 こうして俺は、不本意ながらも「病弱な特待生」として、学園生活をスタートさせることになってしまったのである。




ギルバート先生「見つけたぞ、世紀の大発見を!」
シルヴィア「(やめて、こっち見ないで)」

最小出力でも強すぎました。
人形が脆いのではなく、シルヴィアの火力がバグっているだけです。
そして案の定、吐血(少量)が良いスパイスとなり、勘違いを加速させてしまいました。

面白い、続きが気になる! と思っていただけたら、
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あなたの応援が、シルヴィアの平穏な生活への(届かぬ)祈りとなります。
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