余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる 作:実験体G
王立魔法学院の学生寮は、基本的に二人部屋だ。
これは「共同生活を通じて協調性を養う」という建前と、「貴族も平民も同じ釜の飯を食わせて差別意識をなくす」という学院の方針によるものである。
だが、例外もある。
成績優秀な特待生や、特別な事情がある生徒には、特別棟の個室が与えられるのだ。
「……ここが俺の部屋か」
案内されたのは、最上階の角部屋。
広々としたワンルームで、専用のバス・トイレ付き。キッチンまで完備されている。
窓からは学園都市の美しい街並みが一望できる、文句なしの優良物件だ。
「最高じゃないか。これなら誰にも邪魔されずにポーションが作れる」
俺はガッツポーズをした。
二人部屋だったら詰んでいた。
何せ、俺のポーション作りは見た目が完全に「魔女の儀式」だし、毎晩のように血を吐いては回復するという奇行を見られたら、即退学&隔離病棟行きだ。
さらに言えば、男装していることもバレるリスクがあった。
「ありがとうギルバート先生。あんたの研究対象になるのは御免だが、この部屋をくれたことだけは感謝するよ」
俺は荷物を解くと、早速キッチンのコンロに大鍋をセットした。
亜空間収納から、死の森で集めた大量の素材を取り出す。
『光るキノコ』『マンドラゴラの根』『オークの肝』、そして『スライムの粘液』。
「さて、煮込むか」
グツグツグツ……。
鍋から毒々しい紫色の煙が立ち上る。
部屋中に広がる、形容しがたい悪臭。
換気扇を全開にするが、追いつかないレベルだ。
「よし、隠し味に『聖水』を少々……これで中和されるはず」
俺は手際よく調合を進める。
このポーションは、俺の生命線だ。
学園生活では魔法を使う機会が増えるだろうし、HPの消耗も激しくなる。
在庫はいくらあっても困らない。
と、その時だった。
コンコン。
控えめなノックの音が響いた。
「ん?」
俺は作業の手を止める。
誰だ? ギルバート先生か? それとも寮監か?
この悪臭について苦情が来たのかもしれない。
俺は慌てて鍋に蓋をし、消臭魔法(HP1%消費)を使って空気をごまかすと、ドアへと向かった。
「はーい、どなたですか?」
ガチャリとドアを開ける。
そこに立っていたのは、金髪碧眼の小柄な美少女だった。
「あ、あの……こんばんは。お隣に入寮した者なんですが、ご挨拶に……うっ」
少女は言葉を詰まらせ、鼻を押さえた。
消臭しきれなかった残り香が漏れたのだろう。
「す、すみません。ちょっと薬の調合を失敗しちゃって」
俺は愛想笑いで誤魔化そうとして――固まった。
(……待て。この顔、見覚えがあるぞ)
ふわりとした金髪。大きな碧眼。守ってあげたくなるような小動物的なオーラ。
そして何より、胸元のリボンにつけられた「特待生バッジ」。
(リリィ……!? なんでお前がここにいるんだ!?)
そう、彼女こそが原作ゲーム『聖女と7人の誓約者』の主人公、リリィ・ホワイト。
本来なら平民寮に入るはずの彼女が、なぜ特待生寮(ここ)に?
いや、まてよ。原作でも彼女は類まれな光魔法の才能を持っていた。特待生になること自体はおかしくない。
問題は、なぜ俺の隣の部屋なのかということだ。
「だ、大丈夫ですか? 顔色が……」
リリィが心配そうに俺を見上げてくる。
マズい。今の俺は男装の「シル」だ。
だが、元婚約者のアルフレッドと一緒に俺を断罪した彼女だ。顔を見られたらバレるかもしれない。
俺は咄嗟に咳き込み、手で顔を覆った。
「ごほっ、ごほっ! い、いえ、持病の癪(しゃく)が……」
「大変! すぐに医務室へ……!」
「大丈夫です、薬はありますから。それより、君は?」
俺は話題を逸らす。
リリィはハッとして、慌てて頭を下げた。
「も、申し訳ありません! 私、リリィ・ホワイトと申します。光魔法科に入学しました。その、お隣からすごい音が聞こえたので、何かあったのかと……」
「ああ、実験に失敗して爆発させちゃってね。僕はシル。魔法科だ。よろしく、リリィさん」
俺はなるべく低い声を作り、握手を求めた。
リリィはおずおずと俺の手を握り返す。
「シル君……ですね。あの、失礼ですが……」
リリィが俺の顔をじっと見つめてくる。
心臓が早鐘を打つ。
バレたか? やっぱり変装魔法だけじゃ限界があったか?
「……どこかで、お会いしませんでしたか?」
(ひえっ)
俺は冷や汗をかいた。
女の勘ってやつか? それとも聖女特有の直感か?
「い、いいや? 僕は田舎から出てきたばかりだし、君のような可愛い子に会ったら忘れるはずがないよ」
「そ、そうですか……。すみません、変なことを言って」
リリィは顔を赤くして俯いた。
どうやら誤魔化せたらしい。
「でも……不思議ですね。貴方からは、とても懐かしい……そう、あの方と同じ匂いがします」
「あの方?」
「はい。私の命の恩人……『血染めの聖女』様です」
(ブフッ!)
俺は危うく吹き出しそうになった。
匂いってなんだ。ポーションの臭いか? それとも血の臭いか?
「わ、私はあの方に憧れて、もっと強くなりたくてこの学院に来たんです。いつかあの方のように、誰かのために命を懸けられるような立派な魔導師になりたいって」
リリィの瞳がキラキラと輝いている。
純粋すぎて直視できない。
やめてくれ、俺はそんな立派な人間じゃない。ただの効率厨だ。
「そ、そうなんだ。頑張ってね」
「はい! シル君もお体、大事にしてくださいね。何かあったら、いつでも呼んでください! 私、回復魔法だけは得意なんです!」
リリィはニコッと笑って、自分の部屋へと戻っていった。
バタン。
ドアが閉まる。
俺はその場にへたり込んだ。
「……寿命が縮んだ」
最悪だ。
お隣さんが原作ヒロインで、しかも俺(聖女バージョン)の信者だったなんて。
これじゃあ、うかつにポーション作りもできないし、血も吐けないじゃないか。
「壁ドン(物理)されたらどうしよう……」
俺は隣の壁を睨みながら、冷めかけたポーション鍋の蓋を開けた。
グツグツと煮えるドブ色の液体に、俺の暗い未来が映っているような気がした。
リリィ「シル君からは、聖女様と同じ香りがします(ポーション臭)」
シルヴィア「(ファブリーズ魔法開発しなきゃ……)」
早くも主要キャラとの接触イベント発生です。
リリィは純粋ゆえに、一度信じ込んだら一直線なタイプ。
これからシル(男装)と、聖女(正体)の狭間で、彼女の「勘違い」がどう転がっていくのか、ご期待ください。
面白い、続きが気になる! と思っていただけたら、
下の【お気に入り登録】と【評価(★)】をポチッとしていただけると嬉しいです!
皆様の応援が、シルヴィアの防音対策費になります。