余命僅かなTS悪役令嬢は、生きる為に吐血魔法で聖女と勘違いされる   作:実験体G

7 / 16
今回は短めです


第7話:なぜか特待生として合格したけど、寮が個室なのは助かる

王立魔法学院の学生寮は、基本的に二人部屋だ。

 これは「共同生活を通じて協調性を養う」という建前と、「貴族も平民も同じ釜の飯を食わせて差別意識をなくす」という学院の方針によるものである。

 

 だが、例外もある。

 成績優秀な特待生や、特別な事情がある生徒には、特別棟の個室が与えられるのだ。

 

「……ここが俺の部屋か」

 

 案内されたのは、最上階の角部屋。

 広々としたワンルームで、専用のバス・トイレ付き。キッチンまで完備されている。

 窓からは学園都市の美しい街並みが一望できる、文句なしの優良物件だ。

 

「最高じゃないか。これなら誰にも邪魔されずにポーションが作れる」

 

 俺はガッツポーズをした。

 二人部屋だったら詰んでいた。

 何せ、俺のポーション作りは見た目が完全に「魔女の儀式」だし、毎晩のように血を吐いては回復するという奇行を見られたら、即退学&隔離病棟行きだ。

 さらに言えば、男装していることもバレるリスクがあった。

 

「ありがとうギルバート先生。あんたの研究対象になるのは御免だが、この部屋をくれたことだけは感謝するよ」

 

 俺は荷物を解くと、早速キッチンのコンロに大鍋をセットした。

 亜空間収納から、死の森で集めた大量の素材を取り出す。

 『光るキノコ』『マンドラゴラの根』『オークの肝』、そして『スライムの粘液』。

 

「さて、煮込むか」

 

 グツグツグツ……。

 鍋から毒々しい紫色の煙が立ち上る。

 部屋中に広がる、形容しがたい悪臭。

 換気扇を全開にするが、追いつかないレベルだ。

 

「よし、隠し味に『聖水』を少々……これで中和されるはず」

 

 俺は手際よく調合を進める。

 このポーションは、俺の生命線だ。

 学園生活では魔法を使う機会が増えるだろうし、HPの消耗も激しくなる。

 在庫はいくらあっても困らない。

 

 と、その時だった。

 

 コンコン。

 

 控えめなノックの音が響いた。

 

「ん?」

 

 俺は作業の手を止める。

 誰だ? ギルバート先生か? それとも寮監か?

 この悪臭について苦情が来たのかもしれない。

 俺は慌てて鍋に蓋をし、消臭魔法(HP1%消費)を使って空気をごまかすと、ドアへと向かった。

 

「はーい、どなたですか?」

 

 ガチャリとドアを開ける。

 そこに立っていたのは、金髪碧眼の小柄な美少女だった。

 

「あ、あの……こんばんは。お隣に入寮した者なんですが、ご挨拶に……うっ」

 

 少女は言葉を詰まらせ、鼻を押さえた。

 消臭しきれなかった残り香が漏れたのだろう。

 

「す、すみません。ちょっと薬の調合を失敗しちゃって」

 

 俺は愛想笑いで誤魔化そうとして――固まった。

 

(……待て。この顔、見覚えがあるぞ)

 

 ふわりとした金髪。大きな碧眼。守ってあげたくなるような小動物的なオーラ。

 そして何より、胸元のリボンにつけられた「特待生バッジ」。

 

(リリィ……!? なんでお前がここにいるんだ!?)

 

 そう、彼女こそが原作ゲーム『聖女と7人の誓約者』の主人公、リリィ・ホワイト。

 本来なら平民寮に入るはずの彼女が、なぜ特待生寮(ここ)に?

 いや、まてよ。原作でも彼女は類まれな光魔法の才能を持っていた。特待生になること自体はおかしくない。

 問題は、なぜ俺の隣の部屋なのかということだ。

 

「だ、大丈夫ですか? 顔色が……」

 

 リリィが心配そうに俺を見上げてくる。

 マズい。今の俺は男装の「シル」だ。

 だが、元婚約者のアルフレッドと一緒に俺を断罪した彼女だ。顔を見られたらバレるかもしれない。

 

 俺は咄嗟に咳き込み、手で顔を覆った。

 

「ごほっ、ごほっ! い、いえ、持病の癪(しゃく)が……」

「大変! すぐに医務室へ……!」

「大丈夫です、薬はありますから。それより、君は?」

 

 俺は話題を逸らす。

 リリィはハッとして、慌てて頭を下げた。

 

「も、申し訳ありません! 私、リリィ・ホワイトと申します。光魔法科に入学しました。その、お隣からすごい音が聞こえたので、何かあったのかと……」

「ああ、実験に失敗して爆発させちゃってね。僕はシル。魔法科だ。よろしく、リリィさん」

 

 俺はなるべく低い声を作り、握手を求めた。

 リリィはおずおずと俺の手を握り返す。

 

「シル君……ですね。あの、失礼ですが……」

 

 リリィが俺の顔をじっと見つめてくる。

 心臓が早鐘を打つ。

 バレたか? やっぱり変装魔法だけじゃ限界があったか?

 

「……どこかで、お会いしませんでしたか?」

 

(ひえっ)

 

 俺は冷や汗をかいた。

 女の勘ってやつか? それとも聖女特有の直感か?

 

「い、いいや? 僕は田舎から出てきたばかりだし、君のような可愛い子に会ったら忘れるはずがないよ」

「そ、そうですか……。すみません、変なことを言って」

 

 リリィは顔を赤くして俯いた。

 どうやら誤魔化せたらしい。

 

「でも……不思議ですね。貴方からは、とても懐かしい……そう、あの方と同じ匂いがします」

「あの方?」

「はい。私の命の恩人……『血染めの聖女』様です」

 

(ブフッ!)

 

 俺は危うく吹き出しそうになった。

 匂いってなんだ。ポーションの臭いか? それとも血の臭いか?

 

「わ、私はあの方に憧れて、もっと強くなりたくてこの学院に来たんです。いつかあの方のように、誰かのために命を懸けられるような立派な魔導師になりたいって」

 

 リリィの瞳がキラキラと輝いている。

 純粋すぎて直視できない。

 やめてくれ、俺はそんな立派な人間じゃない。ただの効率厨だ。

 

「そ、そうなんだ。頑張ってね」

「はい! シル君もお体、大事にしてくださいね。何かあったら、いつでも呼んでください! 私、回復魔法だけは得意なんです!」

 

 リリィはニコッと笑って、自分の部屋へと戻っていった。

 

 バタン。

 ドアが閉まる。

 俺はその場にへたり込んだ。

 

「……寿命が縮んだ」

 

 最悪だ。

 お隣さんが原作ヒロインで、しかも俺(聖女バージョン)の信者だったなんて。

 これじゃあ、うかつにポーション作りもできないし、血も吐けないじゃないか。

 

「壁ドン(物理)されたらどうしよう……」

 

 俺は隣の壁を睨みながら、冷めかけたポーション鍋の蓋を開けた。

 グツグツと煮えるドブ色の液体に、俺の暗い未来が映っているような気がした。

 




リリィ「シル君からは、聖女様と同じ香りがします(ポーション臭)」
シルヴィア「(ファブリーズ魔法開発しなきゃ……)」

早くも主要キャラとの接触イベント発生です。
リリィは純粋ゆえに、一度信じ込んだら一直線なタイプ。
これからシル(男装)と、聖女(正体)の狭間で、彼女の「勘違い」がどう転がっていくのか、ご期待ください。

面白い、続きが気になる! と思っていただけたら、
下の【お気に入り登録】と【評価(★)】をポチッとしていただけると嬉しいです!
皆様の応援が、シルヴィアの防音対策費になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。