俺は今、訓練施設にいた。
俺は訓練の時間を今までサボって図書館にいたので1週間ぶりの訓練となる。そんな俺はとにかく色んな奴の動きや魔法をただ見ることに徹していた。
ちなみに俺は魔法の適正はなかった。つまり魔法を当てにする事はできない。戦い方がだいぶ限られてくるなぁ……
そして肝心の『情報収集』の技能だが、予見が出来るようになるのはまだまだ先のようだ。今の俺ではまだ予想の域を出ない。
動いている相手から情報を得るのはかなり難しい。特に筋肉等の細かなところから情報を得るのは出来る気がしない。
要するに解析を完璧に出来るようにならないといけないんだよな……それが出来ないと他のことも出来やしない。
そんなこんなでしばらく見ていると不意に話しかけてくる奴がいた。
「あ?誰かと思えば今まで訓練をサボってた雑魚じゃん。お前がここにいても意味ないだろが。無能よりも使えない雑魚なんだしよ〜」
話しかけてきたのは檜山だった。
普段はハジメにちょっかいかけてるけど、いつも俺が邪魔してたからな……今回はその腹いせか?
「でも俺優しいからさ〜そんな雑魚のお前のために稽古つけてやるよ。あの時みたいにな」
こいつ、訓練初日の時のことを言ってるのか?流石に初日は参加せざるを得なかったからな。その時にも俺はこいつと戦った。まぁ、あの時はただのサンドバッグのようなものだったが……
でも今はちょうどいいや。そろそろ実戦をやってみたかったしな
「いいぜ。ぜひ稽古つけてもらおうじゃないか」
檜山は勝ちを確信してるのか笑みを浮かべながら、俺から距離を取る。
俺は檜山のじっと見ながら静かに両手で剣を構えた。
とりあえずは八重樫のところの剣道の動きでやってみるか。さて、どこまで戦えるかな……?
——その時、俺の後ろから不意打ち仕掛けてくる奴がいた。
「バレバレなんだよな……」
「なっ……!?」
俺はあっさりとその不意打ちを躱す。そのまま隙だらけの不意打ち野郎の頭を剣の持ち手の部分で思いきり殴る。すると不意打ち野郎は痛みで悶え始めた。
不意打ちを仕掛けてきたのはいつも檜山と一緒にいる3人のうちの1人の近藤だった。檜山が1人でやってきた時点でこうなるのは予想できてたし、足音がよく聞こえたからどこでどのタイミングで攻撃するのかも全部よく分かった。
「出てこいよ。どうせ残りの2人も隠れてるんだろ?」
「ちっ……!」
檜山が舌打ちをし、残りの2人の中野、斎藤が姿を見せる。そして悶えていた近藤が頭を押さえながら動き出し、俺を取り囲むように4人が並ぶ。
「気にくわねぇなぁ……!余裕そうな顔しやがってよぉ……!こうなったら4対1で叩きのめしてやるよ!」
檜山がそういうと俺に攻撃しようとする。
「お前らってほんと分かりやすくてありがたい……良いチュートリアルだぜ?」
俺はそう言って手で見えないくらい極細の糸を引っ張る。すると近藤がバランスを崩す。
戦闘をやりやすくするために用意しておいたものでハジメに剣のことを頼む時に一緒に頼んで糸状に変えてもらった鋼糸だ。さっき殴った時にこっそり仕掛けておいた。悶えてしばらく動かなかったから仕掛けやすかった。
糸を引っ張ると同時に近藤がいたところから囲いから抜け出すと近くにいる近藤に剣を首に当てながら近藤を盾にするように隠れる。
3人の動きが止まった瞬間に思いきり檜山たちのところへ蹴飛ばす。一瞬だけだが檜山たちの視線が近藤に向く。
その隙に近藤の剣の鞘ごと盗んだので鞘に収まったままの剣を中野目掛けて投擲。そこまで距離は離れていないので頭に思いきり直撃。これで2人無力化した。俺の予想が正しければこの後檜山たちは……
「ここに焼撃を望む——〝火球〟」
「ここに風撃を望む――〝風球〟」
檜山と斎藤は同時に魔法を放つ。
予想通り、やはり最高のチュートリアルだ。
俺は2人が詠唱してる間に投擲した剣につけておいた鋼糸を引っ張って手元に戻していた。
そして魔法の軌道は檜山たちの手のひらが教えてくれる。だから迷いなく躱せる。そのままの流れで再度剣を斎藤へ投擲。流石に躱されるが糸を使って、投げた剣を斎藤が動いた位置へ動かして横に薙ぎ払い、それが直撃。
「ここに焼撃を望む——〝火球〟」
俺が斎藤に攻撃してる間に檜山が仕掛けてきたが、そんな攻撃は想定内。危なげなく回避に成功し、その回避行動で檜山との距離を詰めた。
そして俺の剣を檜山の首元に寸止めする。
「これで終わりだな」
いや〜最後まで予想通りの展開だった。
とはいえ、今回のは相手が油断してくれていたからこそ勝てたようなものなんだよな。もし警戒されていたら普通に負けていたかもしれない。
「クソ……!」
檜山たちはすごく不機嫌な顔をしながら逃げるように去っていった。
「それで何の用だ?見せ物ではないんだけど?」
「あら?気づいてたのね。私はただ優が心配だっただけよ。4対1で囲まれてたから……」
現れたのは雫だった。
相変わらず俺の心配してくれているようだ。
「大丈夫だっただろ?俺だって戦えるんだから、そんなに心配するな。何のために八重樫流の剣術を学んでたと思ってるんだ」
「優が自分の心配をしないのが悪いのよ。何度言っても聞かないんだから……」
「う……それはごめん……」
いざとなったら他人を優先するのが俺だ。もちろん、そのいざという時が来ないように今は頑張って戦えるようになろうとしてる訳だが……
「これだけは言っておくけれど、絶対に無茶はしないでよ」
「分かってる、流石に命は惜しいからな。何があっても必ず生きて帰るよ」
「いまいち信用に欠けるわね」
「え?俺そんなに信用ない?」
それは普通にショックなんだけど……
「ふふ、冗談よ」
そう言って雫はその場を去っていく。
それにしても雫のやつ、相当不安を抱えてやがるな。まぁ命がかかってる訳だから当たり前ではあるか。そんな雫に俺がこれ以上不安にさせる訳にはいかない。そのためにも……
「頑張るか……!」
その後からは色んな人に模擬戦してもらった。
勝率は五分五分と言ったところ。と言っても最初は舐めてくれる奴が多く油断による隙をつけたが、それで勝っていった結果、後半からはめちゃくちゃ警戒されて負け続けた。
結果として魔法による敗因が多かった。俺はどうしても近距離戦に持っていかないと勝ち目がないのだが、ステータスが低いのもあって近距離戦に持ち込む前に魔法の対処が出来ずに終わる。予想が外れることが多々あるのもあり、なかなかに苦戦していた。
「やっぱり『情報収集』をなんとか使いこなせないと厳しいな。後はステータスか……これは筋トレとかで何とかするしかないか」
そう俺が考え事をしていると鈴が話しかけてきた。
「ユウユウって何気に教えるの上手いよね」
「うん?そうか?」
「そうだよ。アドバイスが的確だってみんな驚きながらも感謝してたよ」
「そうか……まぁ役に立ったなら何よりだ」
俺は模擬戦した相手に模擬戦で得た情報と図書館で得た知識を基にアドバイス的なことをしていた。偉そうにしてしまったかと思っていたのだが、感謝されてるのなら良かった。
「それで私とは模擬戦してくれないの?」
「鈴がそこまで好戦的だったとは知らなかったな」
「いや戦いたいとかじゃなくて、せっかく守る力があるんだから誰かを守れるように強くなりたいでしょ?」
「分かってるよ。ただ手加減とかはしないからな。覚悟しとけよ」
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そんなこんなで模擬戦をしていって、さらに1週間が経過した。
俺は模擬戦以外にもステータス向上のための筋トレ、解析を完璧に出来るようにするために『情報収集』でひたすらに解析することの2つをした。
その結果がこれだ。
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神代 優 17歳 男 レベル:2
天職:情報屋
筋力:12
体力:12
耐性:10
敏捷:12
魔力:10
魔耐:10
技能:情報収集[+万物鑑定][+探知][+情報分析]・頭脳強化[+五感強化][+反射神経強化][+判断力強化]・言語理解
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だいぶ派生技能が増えている。こんな簡単に増えていくものじゃなかった気がするけど……まぁ、こういうこともあるか
そして1週間解析し続けて漸く『情報分析』の派生技能を習得した。これによりだいぶ情報を得るのが楽になったが、まだ予見や再現をするには足りない。もっと頑張らないとな。
そして……
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」
メルド団長より、突然そう言われた。
オルクス大迷宮か……一応、書物で知ってるけど実際に見ると全然違うんだろうな……ていうか王都外の魔物の実戦訓練って何?俺それ知らないんだが?
この時の俺は知る由もなかった。
明日のオルクス大迷宮で俺の運命が大きく動きだすことになることを