ありふれた才能を極めて   作:夢幻人.

4 / 6
オルクス大迷宮

 

とある日の聖教教会にて

 

「今しがた神託を授かった」

 

教皇イシュタルは教会の者たちに向けて言う。

 

「エヒト様が召喚された勇者様たちの中にいる神代優という者を殺せと……奴はいずれ人間族を裏切る危険人物であると」

 

 

******

 

 

俺たちはオルクス大迷宮へ挑戦する冒険者たちのための宿場町ホルアドに到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる事となった。

 

俺の部屋はハジメと同じ部屋だった。

そして現在、俺はその部屋の机で黙々と作業中。

 

「お前、何やってるんだ?」

 

「アーティファクトの作成が出来るようになっておこうと思って……その勉強とかそんな感じだよ」

 

ハジメがそう尋ねてきたので答えを返す。

アーティファクト——現在のトータスでは再現できない強力な能力を持った魔法道具のことである。それゆえに貴重な代物であり、それが俺のような弱者の手に渡ることはほとんどない。一応、見るだけなら出来たから解析の練習がてらその構造などは一通りある程度は把握している。

だからいっそなこと自分で作れるようになろう、とそういう魂胆なのだ。

 

「そのためにお前が錬成を使うところをじっくり見させてもらったんだよ。アーティファクトの作成には欠かせない技能になるからな」

 

俺はハジメが錬成の技能を使うたびにその様子を見させてもらっていた。解析できれば多少なり使えないことはないからな。

ちなみにまだ解析出来ていないが使っている様子は隅々まで記憶に残っているため、後はこの記憶を解析すれば良いのでもう見る必要はない。

 

「別に必要なら俺が手伝うけど……」

 

「お前に頼っても良いけど、いつまでもお前に頼りきりになる訳にもいかないからな。お前も勉強しといた方がいいと思うぜ?今なら色々教えてやるよ」

 

「確かに……錬成師になんだし、自分に合ったアーティファクトが作れた方が良いな」

 

そんなわけでハジメに色々教える事になった。

途中で俺がトイレで席を外して戻ってくるとハジメと香織が話をしていたため、邪魔しないように部屋に戻るのを後回しにして適当にその辺を歩き回る事にした。

 

「それにしても、もう深夜になってたのか。気づかなかったな」

 

そんな事を呟きながら歩いていると雫の姿が目に入る。

 

「どうしたんだ?こんな遅い時間に」

 

「あ、優。香織のこと見なかった?気づいたらいなくなってて……」

 

「ああ、それなら今俺らの部屋でハジメと話してたぞ。俺は空気読んでこうして適当に時間潰してたところ」

 

「それなら良かった」

 

俺が答えを返すと雫は胸を撫で下ろしてそう言った。

 

「やっぱり心配し過ぎじゃないか?少なくともこんな所で何か起きることはないだろ。不安を抱えすぎるのはあまり良くないぞ」

 

「それは、分かってるけど……」

 

「周囲に気を配りすぎなのと夜遅くまでの自主練……俺には自分を大切にしろとか言うくせにお前自身は色々溜め込んで全然自分を大切に出来てないだろ……」

 

「うぐ……」

 

雫は図星なのか特に何も反論せず、顔を顰める。

 

「はぁ……お前の事だ。多分自分の恐怖心を紛らわすためなんだろうけどさ……お前はもっと我儘になっていい。あの時みたいに愚痴ってみろよ」

 

あの時とは小学生の時に雫がいじめられていた時のことである。

その時に天之河に頼ったそうだが、逆に状況が悪化。それで放っておけなくなって俺が雫を庇ったのだ。

ちなみにその時が雫との初対面だった。あの時は天之河にあんな悪癖があるとは微塵も思っていなかったな……

 

「……………私は——」

 

そして雫は絞り出すかのように少しずつ本音を言い始めた。

主な内容としては戦うのが怖いこと、そして家族に会いたいことだった。

そんな誰もが抱いて当たり前な恐怖や不安を吐き出していく。

 

「——優が訓練施設で言ってた『必ず生きて帰る』って言葉。あれ信じていいのよね?」

 

一通り本音を言った後、突然そんな事を聞いてきた。

 

「当たり前だ。そのために今俺がどれだけ頑張ってると思ってるんだ。マジで大変なんだからな?」

 

「ふふ、それは知ってるわよ……ありがとう。だいぶ楽になったわ」

 

さっきまでとは比べるまでもなくスッキリした感じの良い顔をしている。

 

「それは良かった。さて、そろそろ自分の部屋に戻っておけよ。明日はオルクス大迷宮に行くんだし、寝不足は辛いだろ」

 

「そうね、そうするわ」

 

そう言って雫は自分の部屋へ向けて歩きだした。

 

「俺も部屋に戻りますか」

 

そうして部屋に戻ると香織はもう居ないようだったので明日に備えてさっさと寝た。

 

 

******

 

 

翌日、オルクス大迷宮にて

騎士団員に守られながらの実戦訓練。みんな優秀なのもあって順調に勝ち進んでいった。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長がみんなに油断しないように呼びかけた。

ちなみに俺はここまでは大して何もやっていない。ここまでの魔物は本能に忠実すぎて予想外な事態にはならず、相手にならない。

そのことが分かったため、解析の練習も兼ねて様子見に徹していたのだ。

 

しばらく進んでいると先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。魔物が現れたのだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

「ロックマウントか……これかなりの群れだな。しかも結構な数が隠れてやがる。確実に10体以上はいるか……」

 

メルド団長が注意を呼びかける。俺は探知により分かった情報から万が一に備えていつでも戦闘出来るように構えておく。

 

ロックマウントは擬態能力持ちのゴリラのような魔物だ。そんなロックマウントの固有魔法は『威圧の咆哮』という相手を一時的に硬直状態にするものなんだが——

 

すると前方に1匹姿を見せたと思った瞬間……

 

「「「「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」」」」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が4体同時に前方周辺から発せられた。

そしてぞろぞろと俺らを取り囲むようにロックマウントたちが出てくる。

 

「ぐ……しまった……!なんて数だ……こんなに沢山いるのは見たことないぞ」

 

硬直したのは先頭の方にいた天之河、龍太郎、雫、香織、鈴、恵理そしてその6人のフォローをしていたメルド団長とその他騎士団員だ。

 

ロックマウントたちは一斉に攻撃を仕掛けてくる。シンプルに突撃してきたり、岩の姿をしたロックマウントを投げつけたりしている。

みんなは突然現れた大量のロックマウントを前に動揺してまともに動けていない。

 

「ハジメ!前方に巨大な落とし穴を作れ!」

 

「分かった……!」

 

俺はハジメにそう言って剣を握って前方の方へ。

他のところはまだ動ける騎士団員がいるのでそちらに任せられるが、前方は軒並み硬直してしまっている。つまり、守れる者がいないのだ。

 

空中にいる投げられたロックマウントは妙に目が血走り鼻息が荒い。そのまま香織たちに飛んでくる。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて顔を青ざめていた。

 

突撃してくるやつはハジメに任せて俺は投げられたロックマウントを見て軌道を予測する。そしてそのロックマウントの首に当たるように剣を投げつけた。

 

「グガァ!?」

 

見事にロックマウントの首へ直撃する。剣が当たった事で軌道が逸れて誰もいないところへ落ちていく。だが俺はそれを見ずに走りながら先ほど投げつけた剣に繋がれている鋼糸を取り出して剣を引っ張って自分の元へ戻す。まだ投げられたロックマウントはいるのだ。だからそれの対処をする。

 

既にロックマウントは着地しており、今にも香織たちを襲わんとしている。それをすぐにそのロックマウントの目を切って一瞬動きが鈍った隙に心臓部を刺してロックマウントを倒す。

 

ふと天之河たちの方を見ると落とし穴がいくつか出来ており、見事に落とし穴に落とす事に成功したっぽい。そして硬直していたメルド団長たちが動けるようになり、ロックマウントにトドメを刺していく。

 

他のクラスメイトの奴らは騎士団員が数の多さに苦戦しているのに任せたきりにして動けていない。一部のものは俺らの思わぬ活躍に驚いているようだ。

 

「お前らさ、俺らよりも強いんじゃなかったっけ?俺らのこと無能とか雑魚とか言ってたもんなぁ?なのに何ビビってんだよ、情けねぇ……俺らで何とか出来る程度のものだぞ?お前らも何とかやってみせろよ!!」

 

俺はそんな驚いてる奴らを煽るように発言すると面白いくらいに乗せられて、負けてたまるかと奮起していく。

おお……正直、あんな煽りでここまで効果があるとは思わなかった……

 

結果として何の問題もなくロックマウントたちを倒す事が出来たのだった。

 

「この大量のロックマウントの群れ……一体何が……?」

 

メルド団長は今回のこのロックマウントの群れに対して不思議に感じているようだ。確かに書物の方にもこのような前例はなかったから何かがあったと考えるのが普通だろう。今まで以上に警戒した方が良さそうだ。

 

すると、香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

今の戦いで壁が崩れていたらしい。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になっていた。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石——簡単に言えばただの綺麗な宝石だ。貴族に大人気な大変高価なものである。

 

「素敵……」

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

香織がそう言うと唐突に檜山が動き出した。

グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

メルド団長が止めようとするが、止められず檜山はグランツ鉱石に触れてしまった。すると赤い光が発せられる。

 

「トラップ……!ダメだ、もう間に合わねぇ!」

 

俺たちは1人残らず転移させられたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。