俺たちは転移トラップにより、別の場所へと移動させられた。
その場所は巨大な石造りの橋の上。そのちょうど中間の位置にいた。そして橋の下には全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。
それだけではない。この橋の両端にはそれぞれ奥につづく通路と上階への階段があるのだが、階段側からはトラウムソルジャーという剣を持った骸骨戦士が数えきれないほどいて、通路側からはベヒモスという角の生えた四足歩行の怪物がこちらに迫ってきている。
「くそ……!とにかく退路の確保が優先だ。あの骸骨どもを蹴散らすしかない!」
「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
俺が動き出すのとメルド団長が指示を飛ばすのは同時だった。
天之河はメルド団長の指示を聞かず自分も戦うと言って聞く耳を持たない。あのバカは本当に……肝心な時に役に立たねぇな!
他のクラスメイトも殆どが突然の出来事に今までとは比べ物にならないほどの強く、大量の敵を前にパニック状態になっており、まともに戦える状態じゃない。
ふと周囲を見渡して見ると栗毛に切れ目が特徴のクラスメイトの1人、園部優花がトラウムソルジャーに襲われて地面に押し倒されているのを見かけた。今にも剣が振り下ろされそうだ。
「させるかよ!」
俺は他のトラウムソルジャーから剣を奪い取って、奴に向かって投擲。見事に直撃して倒す事に成功した。
だが他のトラウムソルジャーも園部に寄ってきている。
俺は急いで園部の元へ行って抱きかかえる。お姫様抱っこというやつだ。俺はそのままトラウムソルジャーたちから距離を取る。
「ふえ?ちょ、ちょっと神代——」
「すまんが今は余裕がない。少し我慢してくれ!」
分かってたけど、俺1人じゃ到底無理だ……いや一応騎士団員の人がいてくれてるけど、それでも人手が圧倒的に足りない。今比較的冷静でいられてるのは——
「恵理!鈴!この場にいるパニックになって戦えそうにない奴らをカバーしてくれ!園部は他の奴らを立ち直してくれ。お前ならそれが出来る。そしたら他の奴らと連携して魔物を倒してくれ、頼んだぞ」
俺は園部を降ろしながら指示を飛ばす。ふと天之河の方を見るとハジメと話しているのが見えた。
あのバカの事を頼んだぞ。こんなものはその場しのぎしかならないからな……不本意だが、今はどうしても天之河の力が必要だ。
そうしてしばらくして、メルド団長たちがこちらにやってくるのが見えた。ハジメはベヒモスの足止めをしているようだ。
「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!」
天之河もやってきて形勢逆転し、そのままトラウムソルジャーを一掃。階段前の安全を確保する事に成功した。
そして次にハジメを助ける事となった。やることは至って単純。ハジメの魔力がなくなってその場を離脱したら遠距離の魔法でベヒモスを足止めし、ハジメがこちらに着いたら直ちに階段へ撤退するのだ。
各々がいつでも撃てるように魔法の準備をし始める。
…………それにしても、何だか嫌な予感がする……何というかさっきから誰かに見られてる?妙に殺気らしきものを感じるんだが……
俺がそんな事を考えているうちにみんなが魔法を撃ち始めた。
そしてその瞬間、俺にははっきりと見えた。放たれた魔法の1つがハジメの方に向かっていく——そんな未来のイメージが
俺はすぐにハジメのところへ走り出す。すると途中で天之河に腕を掴まれて止められた。
「危ないぞ!早く後ろに下がっているんだ!」
この野郎……てめぇに構ってる暇なんかないってのに……!
「放せ!早くしないと——」
その時だった。魔法がハジメのところへ着弾し、爆発音が鳴り響いた。
天之河はそれを見て驚いたのか一瞬、力が緩んだ。俺はその隙に強引に振り払ってハジメの元へ向かう。
「ハジメ!!」
俺は必死になって手を伸ばすが届かない。そのままハジメは奈落へと消えていった。
「マジかよ……」
——それは俺がそう呟いた瞬間のことだった。
「……………は?」
突然強烈な風が吹いてきたかと思えば、俺は空いた穴へ放り出されていた。
威力からしてまず間違いなく魔法の類だ。だが撃ったのはクラスメイトでもメルド団長率いる騎士団員でもない。俺の視界の端に見知らぬ人物が見えた。すぐに隠れてしまい、服の切れ端しか見えなかったがあれは——
「聖教教会……!」
俺はそう呟いて奈落へと消えていったのだった。
******
「痛……そうか。俺は奈落に落ちたのか……」
全身がズキズキと痛む。だが痛みなど元の世界で散々受けてきてある程度は慣れていたため、このくらいではどうと言うことはない。そんなことより、服が濡れている方が問題だ。めっちゃ寒い……それに動きづらい。何で濡れたんだ……
「とりあえずは、安全の確保が優先だな。魔物だっているだろうし……気をつけないと」
俺が立ち上がって周囲を確認していると早速、兎の魔物がやってきた。確実に気づかれている。
そして兎は後ろに残像を引き連れながら超高速で俺に向かって突撃してくる。
俺は兎の行動を分かっていたかのように必要最低限の動きで回避する。
すると兎は空中を足場にして即座に切り返して攻撃してくる。
「読めてんだよ」
俺は立ち上がる際に拾っていたそれなりの大きさの石で攻撃してきた兎を思い切りぶん殴る。攻撃を受けた事で兎に大きな隙が生まれる。それを逃さず剣で心臓部を突き刺す。しばらく踠いていたが、じきに動かなくなった。
すると休む暇もなく今度は狼の魔物が3匹現れた。
「次から次へと……逃げる事は無理だろうし、頑張って倒さないと生き残れねぇな」
俺は静かに剣を構えた。
******
響き渡り消えゆくベヒモスの断末魔。ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。
そして……
瓦礫と共に奈落へと吸い込まれるように消えてゆく南雲ハジメと神代優。
「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」
そう叫んで自ら奈落へ飛び込もうとする香織を光輝と雫は必死に羽交い締めにする。
(最後に優に放たれた魔法、あれは……)
強いショックを受けて動揺している香織とは裏腹に雫はこんな状況になっても比較的冷静でいられた。それは単に優の『必ず生きて帰る』という言葉を信じきっているからこそだった。そして優が生きているのならハジメも生きているだろうと根拠のないがそれでも信じていた。
雫は優が落ちる瞬間の事を思い出す。その時に優が言っていた『聖教教会』という言葉。声が小さく殆どの者には聞こえなかったが、雫にはちゃんと聞こえていた。
(まさか、聖教教会が優を殺そうとしたというの……?)
例えそれが事実であったとしても、まだ何の証拠もないし迂闊に動けば何をされるか分かったものではない。だから雫は警戒に留めておく事にした。
あの2人が戻ってくるその時まで私がみんなを守らないと……!
そして、優の最後の言葉が聞こえていたものがもう2人いる。中村恵里と谷口鈴だ。
「今のって一体何が……起きて……」
鈴は衝撃的な出来事の連続でまだうまく事態を飲み込めていない。他のクラスメイトたちも同じ様子だ。
「…………」
「え、恵里……?」
ほんの一瞬であったが、恵里が恐ろしい顔をしていたのを見て鈴は少し怯えた様子で恵里の名前を呼ぶ。
「皆!今は、生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」
すると、光輝が皆にそう叫んで脱出を促した事で鈴は恵里と話す事なくその場を離れる事となった。