元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第十話:チカラ

「サイゴクの山道にはトロッゴンがよくいるって聞いてたけど……こんな道路にも出てくるものなんですか!?」

「アホ!! 出てくるわきゃねーだろ!! こんな危ない奴らが出てくる場所に道路は通さねーよ!!」

 

 完全にキャンピングカーはトロッゴンやセキタンザンに包囲されている。

 常に蒸気を噴き出している彼らは、背負った固形燃料を常に体内で燃焼させている。

 やろうと思えば、フユキ達をこの場で丸焼きにすることも可能ということだ。

 

「ちょっとちょっと、すごい急ブレーキでしたよ……サハリさん、運転が上手いのが数少ない取り柄なのに──ギャーッッッ!!」

 

 キャンピングカーからふらふらと降りて来たコゴメは震えあがる。

 辺りを取り囲むトロッゴン達を前にして、今がどれほど危機的状況なのかを一瞬で理解するのだった。

 

「おはよう寝坊助、どうせなら寝たままの方が良かったな──後、明日の朝飯は無いモンと思えよ」

「えーと、これ遺書を書かないといけないやつですか……?」

「諦めるのが早すぎるよ、コゴメちゃん!! そうだ、イワークの”じならし”で一掃すれば──」

「やめとけ、こいつら水タイプだぞ。山の湧き水をたらふく飲んで変異したリージョンフォームだからな、体内には水も大量に溜め込んでる」

 

【トロッゴン(サイゴクのすがた) ねんりょうポケモン タイプ:炎/水】

 

【綺麗な湧き水を飲み、体内の熱で蒸気に変える。蒸気の力で山道を難なく走るぞ】

 

 そうなれば幾らイワークと言えど、集中砲火を受けて一撃で倒されてしまうのは目に見えていた。

 かと言って、チコリータでも炎技の集中攻撃で蒸発してしまうのは分かり切っている。

 炎と水タイプの組み合わせという隙の無さに、初心者ながら感心してしまうフユキであった。

 尤も、感心している場合ではないのであるが。

 

「……こいつらは本来、湧き水のあるような深い山奥に住むポケモンだ。それがどうしてこんな場所に……」

 

 

 

「やあやあ、これはこれは奇遇だ!! 調査局の諸兄ではないか!!」

 

 

 

 その時であった。

 セキタンザン達の近くに堂々と一台の黒塗りリムジンが停車する。

 そして──その席から優雅に髪をたなびかせながら降りるのは、ホストクラブのキャストのように煌びやかなスーツを身に纏った大男。

 蓄えた顎髭を撫で、長い脚をアスファルトに着けると──何事も無かったかのようにトロッゴン達の間を分け入り、彼はサハリの前に立つ。

 サハリは露骨にげんなりした顔で肩を落とした。

 

「ゲッ……オマエは……!!」

「なんだこの人、野生ポケモンの近くで堂々と──ッ!!」

「……悪いねえ。俺の友達がお前達を通せんぼしちまったみたいだ。だが丁度良い──俺も調査局に用があってな。もし、調査局が俺の頼みを聞いてくれるってんなら、こいつらを退かしてやってもいい」

 

「な、なに言ってるんだ、この人!? さっきから──」

「……あー、フユキ。お前は見るのが初めてなんだったっけか」

 

 スーツ姿の男は恭しく礼をする。

 そしてサハリが説明する前に名乗るのだった。

 

「──俺は()()。”ようがんのおやしろ”のキャプテン……要するにヌシポケモンの世話役だ」

 

【ようがんのおやしろ”キャプテン”シシ】

 

「ッ……キャプテン……ヌシポケモンの世話役!?」

 

 フユキは目の前の男──シシから嫌なものを感じとる。

 高圧的かつ傲慢な笑み。全く隠そうともしない威圧感。

 だが、明らかに場慣れしている物怖じ無さ、そして──狂気を帯びた目に有無を言わさぬものを感じとる。

 

「調査局の車がベニシティを出るのが見えたもんで──後をつけさせて貰ったよ。足止めをした無礼、お許し願いたいマドモアゼル」

「ケッ、心にも無い歯の浮く言葉、ゲロが出るぜ……ッ!!」

「どうやって、これだけの数の野生ポケモンを従えてるんだ……ッ!? しかもオヤブンまでいるのに!!」

「オヤブンが言う事を聞くポケモンなんて一匹しかいねえよ!!」

「……その通り」

 

 シシが大きく腕を開くと共に、その背後に火の玉が落ち、轟音が鳴り響く。

 セキタンザン達はそれに畏怖を感じるかのように道を開けていく。

 周囲の温度が一層上がった。 

 ぽた、ぽた、と雫の落ちるような音と共にアスファルトが溶解していく。

 

「──ぎゅらるるるるるるるるうううううっっっ!!」

 

 背筋が凍るような鳴き声だった。

 それは、当たり前のようにシシの傍に傅く。

 首回りや頭部にはどろどろに溶けた鉄が纏わりついており、胸元にはどくんどくん、と鋼の炉心が鼓動を刻んでいる。

 ただのポケモンではない、と一目でわかってしまった。

 

「……まさか、こいつが……ヌシポケモン……ッ!?」

「おっと。見るのは初めてかァ? この方こそ、ようがんのおやしろを治めるブースター様よッ!!」

 

 ブースター、と聞き──フユキが真っ先に思い浮かぶのは、コゴメの手持ちのイーブイの進化系の一匹だ。

 だが、それはこのような姿ではなかった、とも思い出す。

 少なくとも、このようにどろどろに溶けた鉄を纏ったような姿ではなかった。

 

(ってことは、そのブースターもリージョンフォーム……ッ!!)

 

「ぎゅらるるるるるるるるるる……ッ!!」

 

【ブースター(サイゴクのすがた) ようてつポケモン タイプ:炎/鋼】

 

「あの、俺達……此処を通りたいんですけど……何の用なんですか? こんな事して、キャプテンもヌシポケモンも随分と暇なんですね……!!」

「おい馬鹿刺激するんじゃねえ!! なんてこと言うんだ!!」

「カハハハハハ! 威勢の良いガキはキライじゃあない」

 

 何処からともなく──ワイングラスを取り出したシシは、その中身を一気に飲み干す。

 そして、あくまでも余裕しゃくしゃくな態度を崩さないままサハリに告げた。

 

「……俺の用事は、そこの研究員だ。調査局の局長が倒れたってんで……何処に一報入れようかと迷ってたんだが……丁度良い」

「……あたしの一存で調査局が動くとでも思ってるのか」

「動かすさ。要求は唯一つ──今日まで中立の態度をとってきた調査局だが──いい加減、態度をハッキリしてもらいたい!」

「態度……?」

「調査局は”ようがんのおやしろ”に全面的に協力し、その支援を惜しまない──その一言を言って貰えれば、それで構わない」

 

 サハリの顔が強張った。

 そしてフユキも──この封鎖の意図を理解した。

 これは脅迫である。 

 それも、ヌシポケモンに加え、オヤブンを入れた野生ポケモン達まで使った──恫喝だ。

 

「ふらふらふらふら、ズバットのような態度は頂けない。竹を割ったような爽やかな態度を願いたいものだ。ビジネスの世界では──常識だぜ? マドモアゼル」

「何がビジネスだ、こんなの選択肢が無いじゃないか……! これがキャプテンだって言うんですか、サハリさん……!」

「……シシは裏社会の王様だ。汚い手を使う事に躊躇ってもんが無い」

「そんな……ッ」

「どうやらあたし達は、ハナから目をつけられてたみたいだな……ッ!!」

「中立というのは、中立を貫ける力があってこそ成り立つものだぜマドモアゼル。局長が倒れた今、調査局にどれ程の影響力があるとお考えかね?」

 

 ボールを構えようとするサハリ。

 しかし、幾ら何でも多勢に無勢が過ぎる。

 サメハダーであっても、この数のセキタンザンやトロッゴンが相手ではタダでは済まない。

 そして、サメハダーが斃されれば、もう対抗できる手段は今のフユキ達には存在しないのだ。

 

「さあ、早く答えてもらおうか? ……ヌシ様は待たされると機嫌が悪い。待たせた挙句”できません”では良心が無い」

「ぎゅらるるるるるるるるるるる……ッ!!」

「あたし一人なら絶対首を横に振らなかったんだがな……」

 

 ちらり、とサハリは──フユキとコゴメの方を見遣る。

 サハリからすれば、二人の命を預かっている立場だ。

 最優先は彼らの安全となる。

 

「……しゃーねえ。要求を──」

「一つ、良いですか?」

「あ?」

 

 サハリを押しのけ──前に出るのはフユキだ。

 

「何でこんな事をするんですか?」

「……バカ、オマエ──」

「面白い、続けたまえ」

 

 笑みを浮かべながら、シシは続きを促す。

 

「……ヌシ同士の争いに勝つのって、そんなに大事な事なんですか? 色んな人が迷惑を受けていると聞いてるし──これじゃあ神様は神様でも悪神です」

「……終わった。折角人が穏便に済ませようとしていたのに……」

 

 サハリが気の抜けた顔で言った。

 

「オマケに、こんなチカラづくじゃないと言う事を聞かせられないなんて──おやしろとやらの求心力も知れた物じゃないですか」

「お前、サイゴクの人間じゃあないな? その割には気骨がある。気に入った」

 

 ワインボトルから直にグラスにワインを濯ぐシシ。

 彼は試すようにサハリの方を見遣る。

 

「……そこの腰抜け研究者より、よっぽど……な」

「コイツ……」

「確かに外の人間からすれば、ポケモンに振り回されているキャプテン、ひいてはサイゴクが滑稽に見えてもおかしくはない。正直、俺もそう思う」

「……なら、何故──」

「俺も馬鹿じゃない。ヌシ様は俺を利用しているに過ぎない。だが同時に、俺もまたヌシ様を利用している。俺達は──対等なビジネスパートナーだ」

「ビジネス……パートナー……?」

「サイゴクに統治者は何人も要らない。何匹も必要ない。()()()()()()()()だ。その為に俺達は協力しているに過ぎないのだよ」

 

 一点の曇りの無い眼でシシは言ってのける。

 

「……ブースターの意思は、サイゴクの他のヌシポケモンの排除。俺の意思は──サイゴク全ての統治。俺の思い通りに全てを動かすことだ。金も流通も、全て俺の思った通りに動く。それが正しい経済の在り方だ」

「ッ……王様にでもなるつもりですか」

「つもりじゃない、なるんだよ」

 

 一切の淀みが無い物言いだった。

 

「船頭多くして船山に上る、って言葉がある。地方を動かす頭は、一つだけで十分なんだよ。多いと混乱の元だ。何より、スピーディーに物事が決まらねえ。治安も経済も、頭が一つ、チャッと決めれば──スムーズに決まる」

「……それが、貴方の理想ってわけですか」

「そういうことだ。その為に俺はチカラを欲した。そして──ブースター様に選ばれた。ただ、それだけの事だ。満足いったか?」

 

 あまりの現実離れした言葉の数々に、フユキは眩暈がした。

 しかし、シシという男はそれを実現することを全く疑っていない。

 ヌシポケモンと自らの持つ権力。その全てで、サイゴクという地方を統治しようとしているのだ。

 否、この男がサイゴクで満足できるとは到底フユキには思えなかった。

 恐らくその気になれば、列島どころか他の地方にまで手を伸ばそうとしている。

 底の無い欲望。そして自信。それを裏打ちするのは──圧倒的なチカラ。

 彼自身の腰に巻かれたベルトにはモンスターボールが6つ嵌められており──彼自身も優秀なトレーナーであることを示していた。

 

「ところで──そこのオマエ。見た所、ポケモントレーナーとしてはヒヨッコだな?」

「ッ……それが、どうかしましたか」

「威勢は良いがチカラが伴っていない。結局の所、どう綺麗言をほざいたところで──最終的に勝つのはチカラがある方だ。皆自分の命が可愛いからな。そして、ちょっと賢ければ──死んだらどうしようもない事も理解している」

「ぎゅらるるるるるるるるうううううっっっ!!」

 

 ブースターの炉心が大きく脈打つ。

 既に──炎技を撃ち放つ準備が出来ているのだ。

 

「……答えをもう一度聞こうか? 調査局──俺達”ようがんのおやしろ”に協力してもらおうか?」

「スゥウウウウウウウ──」

 

 その時だった。

 息を大きく吸い込んだのは此処まで一切言葉を発していなかったコゴメだった。

 

「”止まってください”ッッッ!!」

 

 コゴメの眼が大きく開かれる。

 その瞳は緑色に光っており、周囲のポケモン達の眼も何かに乗っ取られたかのように発光する。

 オヤブンであるはずのセキタンザンは勿論、ヌシのはずのブースターも、だ。

 驚いたように周囲を見回したシシだったが──既にフユキ達は再びキャンピングカーに乗り込んでいた。

 追撃しようにも、ポケモン達は全く動く様子が無い。

 

「ッ……へえ。そういうのが使えるのか」

 

 勢いよく発進するキャンピングカー。

 それがトロッゴン達の間を縫うようにして走り抜けていく。

 キャンピングカーが見えなくなったところで──セキタンザンやトロッゴン、ひいてはブースターも追いかけようとするが──

 

「やめときなァッ!! ……そっから先は、領地の境だ」

「ぎゅらるるるるるるるる……!!」

「うっかり踏み越えれば、また”なるかみのおやしろ”の連中に攻め入る口実を与えちまう。此処は引くぞ、ブースター様」

「……るるるるるるる……!!」

 

 リムジンに再び乗り込みながら──シシは不敵に笑みを浮かべる。

 

 

 

「……覚えておくぜ、あの小僧。チカラは無い癖に威勢は一丁前だったが……()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「成程な!! おべんちゃら並べてたのは、コゴメが”チカラ”を使うまでの時間稼ぎだった訳だ!!」

「コゴメちゃんが目配せしてきて……()()しか突破方法が無いと思ったので……でも……ッ」

「……結果オーライだ。あいつらの言いなりになるか、消し炭になるか、それに比べればよっぽど良い! ……すっげー胸糞悪いし、己の不甲斐なさに腹が立つがなッ!!」

 

 キャンピングカーの後部座席で──息を荒げながら苦しそうに悶えるコゴメ。

 あれだけのポケモン相手に”チカラ”を使ったのは彼女にも大きな負荷がかかったようだった。

 額に手を翳すと、凄まじい熱が伝わってくる。体温計で測ると39度を超えていた。インフルエンザのような発熱がコゴメを苦しめているのだ。

 

「コゴメちゃん、ごめん……! 無理させて……」

「ぅ、あ、ぐ……ふ、ゆき、さん……」

「チコリータ、君の出番だ! えっと……こんな事もあろうかと、技マシンを買っておいて良かった……!」

 

 ベニシティを出る前に、フレンドリィショップで幾つか技マシンのディスクを購入していたフユキ。

 その目的は勿論、このような不測の事態に備えるためだ。

 ボールから飛び出したチコリータは、苦しそうにするコゴメの首筋に蔓を伸ばす。

 

「”いやしのはどう”! これで、少しでもコゴメちゃんを楽にするんだ!」

「ちこり!」

 

 暖かい波動がコゴメの身体を駆け巡る。

 しばらくしただろうか──彼女の呼吸が少しずつ落ち着き、苦しそうな顔が緩むのだった。

 

「……ふ、ゆきさん……?」

「コゴメちゃん、安心して。もうすぐ町に着くから」

 

 ふにゃり、とコゴメは笑みを浮かべた。

 こんな時でも心配させまい、とフユキを気遣っているのだ。

 それが彼には申し訳が無かった。

 

(俺が戦えれば……もっと強ければ、コゴメちゃんにこんな想いをさせずに済んだのに!!)

 

「ッ……フユキ!! あいつら追ってきてるか!?」

「もう追ってはきてないみたいです!」

「だろーな、こっから先は”なるかみ領”!! ”なるかみのおやしろ”の縄張りだッ!! あいつらも踏み越えたら面倒な事になるって理解してるだろうぜ!!」

「……それにしてもなんて連中だ……あんな無理矢理な方法で仲間に引き入れようとしてくるなんて!」

「これが今のおやしろなんだよ……! 先代のヌシとキャプテンの頃は……こうじゃなかったらしいけどな……クソッ!!」

「サハリさん、これから──」

「インターチェンジから……ダイダイシティに向かう! そこの夜間外来に急ぐぞ!」

「はいっ……!」

 

 目的地であるシャクドウシティの東に座すは──なるかみ領の最東、ダイダイシティ。

 そこにキャンピングカーは急ぐ──

 

 

 

「……うん?」

 

 

 

 ごろん、と何かが転がる音がした。

 思わずフユキは足元に目を向ける。

 そこには──青い岩のようなものがポツンと置かれていた。

 

「な、なんだ? こんなのあったっけ……?」

 

 思わずフユキは両手で拾い上げた。

 その時──ぎょろり、と岩の表面に目玉のようなものが浮かび上がる。

 

「タドッッッ!!」

「ギャーッッッ!! ポケモンンンンッ!?」

「ちこりーッッッ!?」

「おいなんだ、うるせーぞッッッ!?」

 

 すぐさま岩のようなポケモンは真っ赤に赤熱。

 思わずフユキはそれを落っことしてしまうのだった。

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