元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第十一話:資格

「おい、何とかなったのか? 運転中だから後ろは見れねーぞ」

「何とか……なりましたよ」

「ちこり……」

 

 チコリータが蔓でぐるぐる巻きにした岩のポケモンは微動だにしない。

 フユキが図鑑を翳すと「タンドン」という名前が出てきた。

 

【タンドン せきたんポケモン タイプ:岩】

 

【サイゴク地方では、ある時期になると泥炭地に出没するようになる。】

 

【進化:タンドン→トロッゴン→セキタンザン】

 

「……トロッゴンの進化前のポケモンだ。初めて見たよ」

「ちこりちこり!」

「タドドドド……」

 

 岩タイプであるが故か、チコリータの蔓に絡めとられてしまうと成す術が無いようであった。

 キャンピングカーに、タンドンのものと思われる石ころが落ちていたので、恐らくさっきの騒ぎに便乗して車の中に入ってきてしまったのだろう──とフユキは考える。

 

「タドドドドド」

「当たり前のようにキャンピングカーに入ってきた辺り、人間の物に怖がっていないようだ」

「じゃなきゃ着いてきてねーだろうからな。一緒に連れていってやったらどうだ?」

「一緒に……ですか」

「タド、タド」

 

 イワークに続く第三の手持ちポケモン。

 岩に刻まれた単眼と目を合わせながらフユキは不思議な気持ちになる。

 あれほど怖い目に遭わされたトロッゴンやセキタンザン達だが、幼体のタンドンは驚く程に無抵抗で──無邪気だ。

 

「……そうだね。旅は道連れって言うし」

 

 こつん、とボールを当てると──タンドンは驚く程あっさりと中へと入るのだった。

 そのまま汚れた車内を軽く掃除して、フユキは助手席に座る。

 コゴメの呼吸は大分落ち着いた。後は病院に急ぐだけである。

 

「……ったく、あまりにもあんまりな一晩だったな……」

 

 ハンドルを握りながらサハリが恨めしそうに言った。

 

「オメーらには迷惑かけたな……多分これからも似たような事、あるぜ。イッシュに帰るなら今のうちだぞ」

「……帰りませんよ。きっとイッシュに居たままだと経験出来なかったことだし」

「お前、タフだな……」

「それに──見てみたいんです。ヌシポケモンと歩んできたこの地方が……これから、どんな変化を辿っていくのか。きっと、この地方は今……激動の最中にあると思います」

「違いないね。……長らく安泰だったものが崩れつつある。オヤブンポケモンの件と言い、ヌシとキャプテンの件と言い……な」

「きっとそれが……俺の探してる答えに繋がると思ってるんです」

「……答え?」

「ポケモンと人間の関わり方。その答えです。俺はずっと──それを探してるんです」

「……難しく考えすぎさね、お前は」

「そうでしょうか?」

「そうだよ」

 

 サハリはぼんやりと目の前を見ていた。

 

「……あたしが手持ちを持ってない理由、話したっけか」

「まだ聞いてないですけど」

「……盗られたんだわ、ポケモン」

 

 フユキは口を噤んだ。

 

「あたし昔、イッシュ地方に居たんだよ。オマエと同じだな」

「……そう、なんですか。奇遇ですね」

「そんで──新人トレーナーらしくジムバッジ集める旅に出た。だけど……プラズマ団に……ポケモンを奪われた」

 

 声も出なかった。

 何も無かったかのように淡々と語るサハリだが──その目は昏い。

 何より、二世団員とはいえかつてプラズマ団だったフユキにとっては──胸の内を抉るような内容だった。

 

「子供が、大の大人二人に囲まれて、怖くて仕方なかったよ。向こうもポケモン連れてたしな。戦うなんて考えもしなかった」

「……」

「ショックでトレーナーなんか出来なくなっちまったよ。ハハ、あたしも──昔はカワイイ子供だったんだなあ」

「……戻ってきたんですか。そのポケモンは」

「ああ。数年して、プラズマ団が解散して……盗られたポケモンも戻ってきた」

「……そ、そうだったんですか。良かったですね、戻ってきて」

 

 思わずそう口走る。

 フユキの頭は真っ白になっていた。

 「良かった」で済まされることではないことなど、フユキが一番分かっているはずなのに。

 

「……喜べれば良かったんだがなあ」

 

 サハリは無念そうに語る。

 

「……そいつな、完全にあたしの事忘れて、あたしに向かって威嚇してきたんだ」

「ッ……」

「長い事、プラズマ団で酷使されてた所為で……すっかりその環境に慣れきっちまって……ストレスで荒れちまってな」

 

 ──プラズマ団によって「解放」されたり奪われたポケモンの多くは、プラズマ団の手駒として使われたという。

 そして、持ち主に返還されても、既に持ち主の事を忘れてしまったポケモン、心に大きな傷を負ったポケモンが後を絶たなかった。

 フユキが「プラズマ団は間違っていた」と声を高らかにして言えるのは──このケースを何度も見せられたからだ。

 サハリと、そのポケモンも──数多くのケースの1つであり、決して特筆して不幸な事例ではない。

 だが、このような事例を多々生み出してしまったことこそがプラズマ団の罪である、とフユキは思い知っていた。

 

「そのポケモンは今……どうしてるんですか」

「……実家で暮らしてる。会わせる顔がねーんだ……あたしが弱かった所為で、あいつは……辛い目に遭って、あたしの事も忘れちまった」

 

 居たたまれない顔でフユキは目を伏せた。

 

「あたしの所為なんだ。全部。あたしが悪い。あたしに……手持ちのポケモンを持つ資格なんてねーんだよ」

 

 そんな事無い、とフユキは言いたかった。

 だが、言えるはずもないし言う資格も無いと思ってしまった。

 他でもない自分は──元・プラズマ団なのだから。

 

「……結局、人間とポケモンの関係ってのも……脆いモンだなーって思うぜ。ふとしたことで壊れちまう」

「……」

「だから、オメーは難しく考えんなよ。今、お前が手にしてるポケモンを大事にしてやれば良い。それだけの話だろ? あたしみたいになるなって事さね」

「……」

「おいどうした? 気分悪いのか?」

「……い、え。大丈夫です」

 

 本当は──吐きそうになるほど気持ちが悪かった。

 罪悪感で胸が押し潰されてしまいそうだった。

 フユキが直接ポケモンを巻き上げたり奪ったわけではない。

 だが──自分がそのような組織に所属していたこと自体が重く圧し掛かってくる。

 自分は何処までいっても、咎人の子なのだ、と思い知らされる。

 そう考えるうちに、今度は──被害者であるサハリの気持ちに全く寄り添えない自分に嫌悪感すら抱いてくる。

 

 いっそのこと、ここで全部ぶちまけて楽になってしまいたかった。

 

「お前、ちょっと寝ろよフユキ。色々あって疲れただろ」

「いえ……サハリさんに比べれば」

「ガキが大人に気を使ってんじゃねーよ。なんつーの、辛気臭い話しちまったけど、あたしの中じゃもう折り合いはついてんだよ」

「……分かり、ました」

 

 ふらふら、とよろめきながらフユキは後部座席のベッドに向かい、横になった。

 頭の中でいろんな考えが堂々巡りした。

 やはりこのままイッシュに帰ってしまおうか。

 サハリに本当の事を正直に話していっそ嫌われてしまおうか、とか。

 だが、それでも──自分を助ける為に今も苦しんでいるコゴメや、此処まで一緒に戦ってきた手持ちポケモンの事を考えると──投げ出す事は出来なかった。

 

(俺に、君達と一緒に居る資格は……あるのかな)

 

 ボールの中のポケモン達は答えない。

 ぐるぐるとした胸を抱えながら──フユキは眠りについた。

 もう直に、車はダイダイシティへのインターチェンジに入ろうとしていた。

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