元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第二話:ボールの中

 ※※※

 

 

 

 ──少年は、物心がついた頃にはポケモンを持つことを親から禁じられていた。

 ポケモンを戦わせることはポケモンを傷つけることであり、ポケモンをボールに閉じ込めるのはポケモンの自由を奪うことである、と教えられていた。

 

 人間はポケモンを傷つける。現に少年も、人間に傷つけられて保護されたポケモンの姿を見てきた。

 

 人間がポケモンを持つことは悪い事なのだ、と教えられた。

 

 それが──イッシュ地方を一時期騒がせた「プラズマ団」の教えだった。

 

 親も、周りの大人も白い服を着て町に出た。そして「ポケモンを解放する」という演説の下に、多くのトレーナーからポケモンの入ったボールを受け取った。

 

 だが、年を経るにつれ、少年もプラズマ団に疑問を持つようになっていった。ニュースはプラズマ団の問題行動を報じるようになっていったからだ。

 

「えっと……周りの皆がポケモンを持ち出してて。やっぱり俺もそろそろ自分のポケモンが──」

 

 少年は──初めて本気で親に殴られた。

 両親は心底失望した目で少年を見下ろしていた。

 

 オマエは悪い子だ、教えを守れないなら家には置いておけない。

 

 そう言われ、泣く泣く謝った。

 

 テレビも新聞も「外」の情報を得るものは一切家から無くなった。

 

 少年は──プラズマ団が正しいのだ、と信じるしかなかった。

 

 ──プラズマ団が幼い少年の見えない所で何をしているのか、そして受け取ったポケモンがどうなったのかも知りもせずに。

 

「……プラズマ団は解散したよ。君の両親は……しばらく帰って来れない」

「……」

「いや、ひょっとしたらもう……」

 

 ある日突然、プラズマ団は解散した。

 プラズマ団を滅ぼしたのは──たった1人の少年だった。

 フユキは国際警察の手に保護された。彼と似た境遇の「2世団員」達と同じように。

 

「……教えてください」

「……」

 

 フユキは──真っ白な部屋の中で刑事に問うた。もう、反抗する気力も無くなっていた。

 

「プラズマ団は……父さんと母さんは、間違っていたんですか。ポケモンを人の手から解放するのは……間違っていたんですか」

「プラズマ団は集めたポケモンを道具のように扱っていた。結局あいつらも……ポケモンを傷つけていた」

 

 勿論、本気でポケモンの救済を願っていた人もいるけどね、と刑事は続ける。

 だが──プラズマ団アジトで、餌もロクに与えられずに瘦せ細ったヨーテリーやミネズミの写真を見せられると、少年は──今まで信じていたものに罅が入っていくようだった。

 

「そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。子供をあんな場所に……置くなんて」

 

 刑事はそう言い放つ。

 少年の顔には、殴られた痕の青痣が残っていた。

 プラズマ団の施設で──過酷なトレーニングを強制的に積まされた痕だった。

 

「君はもう……ご両親とは会わない方が良い」

「そんな」

「そして君はきっと、今後……一生消えない後ろ指を指される事になると思う。君は両親についていっただけだろうが……世間のプラズマ団への目はとても厳しい」

「……ッ」

 

 そうしてしばらくして。

 少年には──「フユキ」という新しい名前が与えられた。社会に出る上でプラズマ団としての過去を指差されないようにするために。

 しかし。心の傷は消えない。

 

 両親も、プラズマ団も間違っていたのか。

 

 ポケモンを思う為に活動していたのも間違っていたのか──と自問自答する日々が続いた。

 

 町中でポケモンを連れている人を見る度に──自分の信じていたものが間違っていたのだ、と言われているような気がした。

 

(モンスターボールがポケモンの自由を奪って戦わせるためのものなら……そこら辺に居るトレーナーとプラズマ団。何が違うんだっていうんだ……)

 

 最初はそう思っていた。

 だが「外」に出て、ポケモンと過ごす人達を見るうちにフユキの考えは変わっていった。

 

「戦わせたりはしないな。一緒に居たいから一緒に居るだけ」

 

 バイト先の同僚が──そんな事を言った。

 

「前にケンカして……ボールから家出しちゃったことがあるのよ、うちのマメパト。探しに行って仲直りして戻ってきたけどね」

 

 上司が──そんな事を言った。

 

「当たり前のように一緒に居るから忘れるかもしれないけど、ポケモンって人間より強いからな。オマケに、元気いっぱいならボールからいつでも出ようと思えば出て来れちまう」

 

「だから……ポケモンが人間と一緒に居てくれるのは……ポケモンも人間と一緒に居たいからじゃないかなって」

 

 閉ざされた家の中で。耳も目も塞がれて。

 フユキは自分が何も知らなかったのだ、と思い知らされた。

 

「結局、人間とポケモンの関係に……プラズマ団が外からとやかく言うのが……間違っていたのかもな」

 

 フユキはいつしか──人とポケモンの関係に強く興味を持つようになっていた。

 それは、今までポケモンとの関わりを抑制されていた反動からであった。

 

 だが同時に──楔を打つようにフユキの胸には「教え」が染みついていた。

 いざ、ボールを手にしようとするとブレーキが掛かった。元プラズマ団の団員という罪悪感が彼を襲った。

 

 プラズマ団がどうこうではなく──もう二度と会えないであろう両親とフユキを繋ぐのが「教え」だったからだ。

 

 あれだけの目に遭わされても、フユキにとって──結局、両親は血の繋がりのある家族だった。

 

「一度、イッシュを離れよう」

 

 そう決めたのは、ごく最近だった。

 両親。プラズマ団。過去。この地には、彼にとってしがらみが多すぎた。

 

 いっそのこと、イッシュとは真逆の自然豊かな地方なら──見た事無いような人とポケモンの関係がみられるかもしれない。

 

 自分も変われるかもしれない──と。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(今。動かなきゃ、ダメなんだ……動かなきゃ、全部滅茶苦茶になってしまう……!!)

 

 

 

 過去を振り切るようにボールを投げた。

 ボールから飛び出したのは──

 

 

 

「ちぃー!!」

 

 

 

 頭から大きな葉っぱを生やしたポケモンだった。

 

「ちこ?」

「ッ……今は」

 

 掌を握り締め、フユキは叫ぶ。

 両親の──否、プラズマ団の教えは今でも胸に突き刺さっている。それが正しいか間違っていたか、それを今考える余地はフユキには無い。

 目の前のポケモンの名前も知らない。だが──スマホロトムが飛び出し、データを表示する。

 

【チコリータ はっぱポケモン タイプ:草】

 

【技:はっぱカッター、たいあたり、しっぽをふる】

 

「チコリータって言うのか、君は──今は君の力を貸してほしいッ!! チコリータ、”はっぱカッター”!!」

「ちこりっ!!」

 

 チコリータが頭から葉っぱを何枚も飛ばす。

 それらは真っ直ぐにイワークの胴体に飛び、突き刺さった──思わずフユキはガッツポーズ。全発命中だ。

 

(確か岩タイプも地面タイプも草タイプの攻撃に弱い……はずッ!! この勝負、貰っ……)

 

 

 

「グゴォォォォーッッッ!!」

 

 

 

「て、ない……ッ!?」

 

 思わずチコリータを俵のように抱きかかえた。

 間もなく空から再びイワークの落とした岩が降り注いできたからである。

 

「何で倒れてないんだよ!! 苦手な草タイプの技だろーッ!?」

「旅人さんッ! イワークは防御力がとても高いポケモンです、幾ら草タイプの技でも物理技じゃあ削り切れませんッ!!」

「物理ィ!? 何だよソレ……!!」

 

 向こうからコゴメの声が飛んでくる。岩の向こうに居るのでサッパリ姿は見えないのであるが。

 

「ち、ちこ、ちこり……」

 

 そして、いきなり呼び出された挙句にデカブツと戦わされたチコリータは既に泣く寸前であった。

 岩は次々にフユキを狙うようにして降ってくる。

 

「ぐっ、ごめんよ、いきなりこんな目に遭わせて……!!」

「ちぃ……」

「だけど……安心して。俺はあいつを止められないけど……()()()()()()()()()()()ッ!!」

 

 戦いに巻き込んだ責任は必ず取る、とフユキは決めていた。

 そして、その為の力がフユキにはあった。

 地面を蹴り、イワークが出現させた岩の上に飛び乗る。そして、それを足場にしてさらに高く跳び──近くの建物の屋根上に飛び乗った。

 

「君に攻撃は当てさせないッ!!」

「ちこり……!」

「君は、奴に攻撃を当てる事だけ考えれば良い!!」

 

 プラズマ団での過酷なトレーニングは無駄ではなかった、とフユキは振り返る。

 イワークが口から岩の弾丸を射出するが、チコリータを抱きかかえたままフユキはそれを次々に避けていく。

 

(この高さからなら、奴の頭に”はっぱカッター”を当てられる……けど、あいつの攻撃が激しすぎる!)

 

 どんな生き物でも急所は頭だ、とプラズマ団の科学者が言っていたのをフユキは思い出す。

 現にこうして建物の上に登ったのは上からイワークの頭を狙う為だ。しかし──降りかかる岩の雨に、足を止めている余裕はない。

 そう思っていた矢先だった。

 

 

 

「イーブイ、”あなをほる”ですッ!!」

 

 

 

 何処かから聞こえてきたコゴメの声と共に──イワークの下顎目掛けて何かが飛び出した。

 イーブイだ。

 イーブイの頭突きがイワークに炸裂し、怯んだイワークは一瞬態勢を崩してだらんと大きく口を開ける。

 

「グッ、ゴォ──!?」

「今だチコリータ!! ヤツの口の中に”はっぱカッター”!!」

「ちこりっ!!」

 

 最も無防備で最もデリケートな箇所。

 装甲に守られていない口の中目掛けて葉っぱが叩き込まれる。

 堪らずイワークは仰向けに倒れ込む。

 アスファルトに巨体が沈み込み、何度かのたうち回ったがそのまま動かなくなるのだった。

 

「大丈夫でしたか!?」

「まあ何とか」

 

 建物の屋根から降りたフユキは、追いかけて来たコゴメと対面する。

 

「すごい身のこなしです! まるで、忍者のようでした!」

「ニン……ジャ……? そ、それよりイワークは」

「えっと──捕獲すべき、だと思います」

 

 コゴメが空のモンスターボールをフユキに手渡した。

 

「……良いのかい? 俺が捕まえても」

「きっと、それがあの子にとっても一番幸せな道だと思うので」

「……それは、イワークに聞くとするよ」

 

 フユキはボールを手に取りイワークに近付く。 

 イワークは震えながら起き上がろうとするが、力が入らないのか倒れてしまうのだった。

 

「……どうする? 俺達と一緒に来る? それとも……また暴れて痛い目を見る?」

「グ、グゴ……」

「この地方の人達は君みたいなポケモンに慣れてるはずだ。きっと此処で逃げても俺じゃないトレーナーが君を倒しに来る、と思う。俺よりもっと強くて、俺よりもっと情け容赦のないトレーナーかも」

「……グ、グゴゴ……」

「俺は──少なくとも君に悪いようにはしない。約束するよ」

 

 こくこく、とイワークが小さく頷いた。

 フユキは──空のボールをイワークの鼻先に当てる。

 間もなく、巨体はボールの中へと吸い込まれていき──カチリ、とロック音が鳴るのだった。

 

「……捕まえた。生まれて初めてポケモンを」

「ちこりっ!」

「やりましたね、フユキさんっ!!」

「いや、コゴメちゃんがアシストしてくれたからだよ。それと──チコリータもありがと」

「ちこり!」

 

 すりすり、とチコリータがフユキの脚に顔を擦りつける。

 

「……今一緒に戦っただけなのに、もうすっかり仲良しじゃないですか?」

「この子……君の手持ちじゃないのかい」

「いえ、実は……ジョウト地方の研究所から預かった子達だったんです」

 

 そう言ってコゴメは残る二つのモンスターボールを宙に投げる。

 現れたのは、青い毛皮を持つネズミのようなポケモン。

 そして、大きな顎を持つ二足歩行のワニのようなポケモンだった。

 

「ひねずみポケモン・ヒノアラシ。おおあごポケモン・ワニノコ。そして、はっぱポケモンのチコリータ。この3匹はボクの知り合いに届ける予定だったんですけどぉ……」

「それなら返さないといけないんじゃない?」

「ちこッ!?」

 

 チコリータがギョッとした顔で蔓を伸ばし、フユキの足に巻きつけた。

 

「……どうやら、チコリータの方から離してくれるつもりは無さそうですね」

「ええ? あんな無茶なことさせたのに」

「いや、無茶なことしてたの貴方の方でしょ。どうしてチコリータ抱えてあんなに走ったり跳んだりできるんですか」

「え、えと、それは……」

 

 フユキが言いよどんでいる間に、何台もの大型車両が道路の穴の周りにやってくる。

 彼らは道路の封鎖を行い、慣れた様子で作業に入るのだった。

 車両にはいずれにも「SG」の二文字が刻まれており、同じグループであることを示していた。

 そして、そのうちの一台──キャンピングカーを改造したらしいそれがフユキ達の前に止まった。そして、そこから──

 

「……返却の必要は無い。君の戦いっぷりはドローンから見せてもらった」

 

 真っ白な長い髪に、白衣。

 コゴメよりも更に一回り小さな少女──というよりも幼女が運転席から出てくる。

 

「えっ、子供……なのに運転──あだっ!?」

 

 何かがフユキの顔面に飛んでいき、地面に落ちた。拾うと、目の前の幼女の顔写真が貼られた免許証だった。

 

「ソイツは免許証だ。大型トレーラーも運転出来るぞ」

「ウッソ、23──俺よりも年上!?」

 

 外見年齢と実年齢の一致しなさにフユキはハンマーで殴られたような衝撃を覚えるのだった。

 

「ア、アハハハ……尋ねるよりも先に来ちゃうなんて」

「立ち話も何だ。有望なトレーナーには何人居ても困らないからな、歓迎するよ」

「えと、貴方は一体……あだっ!?」

 

 またもフユキの顔面に何かが飛んで行く。

 手で取ると──それは名刺のようだった。

 

「あたしはサハリ。()()()()調()()()の研究班だ」

 

【”サイゴク調査局・研究員”サハリ】

 

「後、次に子供って言ったら死のドライブがお前を待っているぞ」

「……もしかしなくても機嫌悪い?」

「子供って言ったからだと思います……」

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