元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第三話:サイゴク調査局

 ──寒いのに立ち話も何だ、ということでフユキはコゴメ共々キャンピングカーの中に招かれた。

 中には物々しい計器のようなものが沢山置かれていたが、そんな中で遠慮なく真っ白幼女──中身は成人だが──はコーヒーを沸かしてマグカップの中に注いだ。

 

「調査局って何ですか……?」

「ポケモンの事なら何でもお任せ。迷子のチョロネコ探しから、山で暴れるガチグマの捕獲まで。原因も調査して課題を解決する。それが調査局だ」

「一応、サイゴクの公的な機関なんです。怪しいトコロじゃないですよ」

「人を怪しいみたいに言うな」

 

(トレーラー運転できる幼女は十分怪しいかな……)

 

「おいオマエ、今失礼な事考えただろ」

「考えてないですよ!?」

 

 フユキは首を横に振った。考えていることが分かるらしい。

 

「コゴメは手伝いでな。こいつの他にも、色んなトレーナーに調査局は協力を依頼してる」

「ひょっとして人手が足りないんですか?」

「サイゴクは広いし自然も険しい。優秀なトレーナーに報酬を渡してでも調べてもらいたいことは山ほどある」

「えへへへ、優秀だなんてそんなぁ、サハリさんも漸くボクの事が──」

「まかり間違ってもオマエの事じゃねーぞコゴメ」

「ぐぅっ……」

 

 コゴメは顔を顰める。

 

「いやでも、今回イワークを捕獲できたのはコゴメちゃんのおかげで……」

「あんま調子に乗らせんなガキ。コゴメは超が付くドジっ娘だ」

「そ、そんなことはないですよ!?」

「バスの代金」

 

 蒸し返した途端、コゴメはキャンピングカーの隅でいじけてしまった。

 閑話休題。

 

「そうだ。サハリさん、ジョウトの研究所から預かったポケモンを──」

「ああ。チコリータ、ワニノコ、ヒノアラシの3匹か」

「なんですけどぉ、チコリータが……俺に懐いちゃったみたいで」

「ちこり?」

 

 首を傾げるチコリータ。既にフユキの腕の中が定位置だと言わんばかりにそこから動かない。

 

「良い、一部始終はドローンで見ている。そこのガキンチョにくれてやれ」

「良いんですか?」

「その3匹は最近サイゴクで野生での生息が確認されたポケモンだ。だからこっちでもデータを集めるために、わざわざジョウトから取り寄せたんだが……」

「聞いてくださいね、フユキさん。チコリータも、ワニノコも、ヒノアラシも! サイゴク地方では滅多にみられない稀少なポケモンなんですよ!」

「猶更俺が受け取って良いんですか?」

「ちこっ!」

 

 ぷくり、と頬を膨らませたチコリータが首の蕾から蔓を伸ばしてフユキの腕に絡ませた。離れるのはイヤだ、と言わんばかりに。

 

「……おーおー熱いね。なんて口説いたの?」

「口説いたわけじゃないんだけど……」

「あたしとしても、トレーナーがモニタリングしてくれた方が助かるんだ。チコリータであのオヤブン相手にあそこまで戦えるなんて見所があるからね」

「オヤブンってすごく強いんですよ! 幾ら防御力が高いと言えど、普通のイワークだったら、きっと最初の”はっぱカッター”で倒れていたはずですから」

「……そうなのかな」

「とにかく。ベニシティを助けてくれた礼だ。そのチコリータは受け取れ。あたしからの気持ちだ」

「ッ……ありがとうございます?」

「ちこりー!」

 

 甘えて首を擦り付けてくるチコリータを撫でるフユキ。

 しかし、彼の興味は──町に突如として出現したオヤブンイワークにあった。

 

「それにしてもどうなってるんですか、この地方は。観光で来たのに、まさかオヤブンが町中に出るだなんて。調査局は何も掴めていないんですか?」

「その説明をする前に、今の調査局の情況を理解する必要がある。長くなるぞ」

「理解する必要ある?」

「疲れてるんですよサハリさん。もう3徹目なんで、そろそろ言葉がおかしくなってくる頃合いです」

「いや寝ろよ」

「あたしを子供扱いするんじゃねえ!!」

「いや寝ろよ……」

 

 よく見ると、この合法幼女の目元には隈が出来ていた。

 こんな状態で運転などせずに速やかに眠ってほしいものである。

 しかし、そんなの構わずにサハリはノートPCの電源を点けたのだった。

 

「前提として、調査局は人手不足だ。局長が自ら音頭を取ることも珍しくなかった。その結果──局長が過労で倒れた」

「倒れちゃったの!?」

「そして、今は局長代理が代わりに指揮を執っている。さあ、テレビ電話だ。局長室に繋がっている。局長代理の姿が見えるぞ」

「局長代理!?」

 

 ごくり、とフユキは息を呑んだ。

 いきなり上層部とのお目見え、そして相手が自分の素性について知っている人物ではないか、という憂いが過る。

 ノートPCのテレビ電話ソフトが起動し、目の前に映ったのは──

 

 

 

「オレヌシー」

 

【”サイゴク調査局・局長代理”シャリタツ】

 

 

 

 ──オレンジ色の魚とも竜ともどっちつかずなポケモンであった。

 喉にはまるで握り飯のような袋がくっついており、それが膨らんでいる。

 一言で言えば寿司のような形状の小さなドラゴンであった。

 

「……あの、これは?」

「全員”礼”だッ!! 彼女は局長代理のシャリタツさんだッ!!」

「オレ……シャリシャリ、オスシ、オシメー」

「おっと部屋の暖房を上げておかないと」

 

 今時のエアコンはPCからでも遠隔操作できるのである。便利。

 

「……というわけだ。シャリタツさんに礼をしろ礼を」

「いや荷が重いだろ!!」

 

 全てがおかしい絵面であった。

 何をまかり間違ったのか、この調査局という組織はポケモンに局長代理を任せているのである。

 

【シャリタツ ぎたいポケモン タイプ:ドラゴン/水】

 

「フユキさん……調査局の方達は全員疲れてるんです」

「疲れてるとかそういうレベルじゃない!!」

「ボクにどうこうできる問題ではないので……」

 

 コゴメは遠い目。この調査局の終わりっぷりに呆れなど既に超越した後のようだった。

 

「あんまりシャリタツさんをナメるんじゃないぞ。局長の手持ちの一匹であり、特技は潜入捜査。寿司に擬態して敵を欺いた事もあるらしい」

「それは敵が無能だっただけだろ」

「局長は入院の間……自らの手持ちのシャリタツに全てを任せる事にした。あたしらも同意した。当然上手くいくわけが無かったんだが……

 

(調査局はバカばっかなのか?)

 

「そこで直撃してきたのが、オヤブンの大量発生。サイゴクの各地に一匹でも手を焼くオヤブンポケモンがわんさか湧いている。今回のイワークみたいに町に入ってくる奴らもいずれは出てくるはず」

「お終いだね、サイゴクは……」

「勝手に終わらせんな」

 

 腕を組んだサハリはコーヒーの続きを飲んだ。どうやらこの期に及んでまだ起きているつもりらしかった。

 速やかに入眠してほしい、と願うフユキの想いは無駄に終わる。

 

「本題に入ろう。チコリータの見返りってわけじゃないが、あんたの腕を見込んで調査局の調査に協力してくれないか?」

「ッ……」

「なぁに調査はあたしも同行する。それに調査以外の時は好き勝手に観光してくれて構わない」

 

 フユキは息を飲む。

 旅行スレで見た「ミアレの救世主」と同じような道を辿っているような気がしないでもない。

 しかし──

 

(ポケモンと人間の関係……それを知る良い機会かもしれない。危険な自然と共に生きるこの人達の事をもっと知りたい)

 

「俺──」

 

 「やります」とフユキが言いかけたその時だった。

 

「ところでうちは人手不足だが──仕事が危険な分、金回りは良くってね。前金でこれくらい振り込めるくらいの財力はあるんだが?」

 

 ──スマホロトムの通帳アプリに通知が入る。

 唐突な入金に、フユキは寒気がしたが──その金額を見て目を飛び出させた。

 サイゴクへの滞在を数日ほど伸ばせる額が振り込まれていた。

 

「……やりまァすッ!!」

 

 ……綺麗な決意に若干ケチがついてしまった気はするが、結果は変わらない。

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