元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」 作:タク@DMP
──その後。
サハリが目を覚ましたので、一行はオオイ山の山道をキャンピングカーで登り始めた。
尤も、怪談でたっぷり怖い思いをしたサハリはずっと拗ねていたのであるが──
「はァァァー、クソクソクソ、ほんとクソ、ガキの癖に一丁前に怪談なんざ嗜んでんじゃねーよガキの癖に」
「ごめんなさい、機嫌直して? サハリさん」
「可愛く言われても許さねーぞコゴメ! あんな怪談聞かされた後でこのクソ山道をクソ運転させられるあたしの身にもなれってんだ……!」
「へえー、やっぱり怖かったんですねぇー? 普段散々ボクのことガキ呼ばわりするくせに」
「いや怖くねーし。別に怖くねーし? あたし大人だし。この中で唯一の大人だし。ちょっとハンドル持つ手が震えてるけどコレは武者震いだし!!」
「貴女の運転のがよっぽど怖いよ!! コゴメちゃんもあんまり揶揄わない!!」
真っ青な顔で蛇行運転し始めたサハリ。
あわやガードレールからはみ出して落下する勢いである。
「……二人は結構気安いけど、意外と付き合いが長いのかな」
「去年、サハリさんに拾ってもらって以来の付き合いでしょうか」
「拾う……? どういうことなんだい」
「ソイツな、記憶喪失なんだよ」
「……え」
衝撃的な事実にフユキは閉口した。
しかし同時に納得する。何処か自分の事を他人事のように語っていたさっきのコゴメの事を。
「大雨の日にゴミ捨て場で項垂れてたところをあたしが拾った」
「そんな捨てガーディみたいな……」
「”拾ってください”って書かれた段ボールの中には入ってませんよ」
「コゴメちゃん、記憶喪失って……何処まで覚えているんだい」
「……名前も、今まで何してたかも、覚えてなくって。持ち物はカバンだけ。その中に入ってたのは──財布と、この怪談ノートだけだったんです」
ボロボロのノートをコゴメは見せる。かなり長い間使いこまれた形跡があった。
これだけが今の彼女の記憶を繋ぎとめるもののようだった。
「記憶を失う前のボクがどんな人だったのか……家族はどうしてボクを探さないのか……分かんない事だらけで」
「コイツの戸籍も分かんねーし。誰なのかも分からねえ。だから仮の戸籍を与えて、あたしが面倒を見てる」
「でも気にしないで下さいね! 忘れるくらいなら大した過去なんてボクにはないんですよ。家族だって……今はサハリさんがいますから」
(……俺とは似てるようで逆、か)
捨てたい忌まわしき過去。本当の名前を捨てて生きているフユキにとって──コゴメは似ているようでとても遠い存在に思えた。
彼女の過去は、名前は──彼女が望んで捨てたものではなかったからだ。
「でも、ノートはちゃんと大切にしているんだね。過去を思い出したいんでしょ? コゴメちゃん」
「それは……そうですけど。自分が何者かも分かんないし。でも、思い出すのも……ちょっと怖いんです」
「怖い?」
「はい。ボク、今がとても楽しいから。もしも過去が……ボクにとって辛いものだったら、どうしようって……」
「……そっか、羨ましいな」
「え?」
「……何でもないよ」
自分も出来る事なら記憶喪失にでもなってしまいたい、と一瞬思ってしまったフユキは──己を不謹慎だと詰り、そして自嘲した。
忘れたところで、プラズマ団そのものの犯した罪も、宿業も消えるわけではないのだから。
「んまあ、のんびりやっていけばいいだろ。思い出そうと思って思い出せるモンでもねーんだから……──がッ!?」
いきなりサハリはブレーキを踏んだ。
キャンピングカーが大きく揺れて、タイヤが鳴き声を上げる。
目の前に無数のライトが光っていた。いずれも単車、バイクのフロントライトだ。
1台や2台ではない。何台ものバイクが道を封鎖している。
「んだコイツらァ!? ブッ潰……ブッ殺されてェのか!?」
「なんで物騒な方に言い直したんですか!?」
威嚇するサハリだが、ハンドルを握り締めたまま震えている。
普段の口調こそ荒っぽいが、怪談に怖がっていた件と言い意外に小心者なのである。
「ッ……どうやら此処を通してくれはしないようだね」
バイクに乗っているのは柄の悪そうなチンピラの男達だった。
ご丁寧にポケモンまで連れている。すぐさまフユキは助手席から飛び出すのだった。慌ててコゴメも後に続く。
「悪いけど、退いてくれないかな。上の廃鉱山に用があるんだけど」
「ヒャッハー!! 夜のオオイ山は俺様達のモンだーッ!! 帰りな帰りなーッッッ!!」
「良い子はおねんねの時間だぜーッ!! オオイ山は俺達、”ドクバリ団”が封鎖しているぜッ!!」
【トレーナーズクラン”ドクバリ団”】
皮ジャンにトゲトゲのファッション。
まさに、一昔前の暴走族とでも言わんばかりの出で立ちだ。
「封鎖!? ……要求は何ですか!! 普通に危ないし邪魔です!!」
「コゴメちゃん、下がってて」
「でも!」
前に出ようとするコゴメをフユキが手で制す。
ポケモンバトルは慣れていないが人間の悪意には慣れているつもりだった。
しかし、目の前の彼らを見るに──違和感がフユキの中で過る。
「みっつ! みっつ、質問がある」
「んだぁガキ! 良い子は寝る時間だ! 大人しく引き下がりなッ!!」
フユキは下っ端の怒号を袖にしつつ指を三つ立てる。
「ひとつ。
「そんな事は関係ねえだろ!!」
「……夜型の人が多いからじゃないでしょうか?」
「ふたつ。どうしてこんな辺鄙な山を根城にしているか、だ。サイゴクは山がとても多い。廃鉱山があるとはいえ、怪談まで伝わってるオオイ山をわざわざアジトにする理由は?」
「廃鉱山施設がたむろするのに丁度良いからでしょうか?」
「じゃあみっつ──」
帽子を深く被り、フユキはボールを放った。
飛び出したのはさっき捕まえたばかりのイワーク。ずしんと音が立ち、ドクバリ団のポケモン達も慄いて引き下がる。
「──
そして、当のドクバリ団たちはイワークを見るなり都合の悪いものでも見たかのように騒ぎ始めるのだった。
「ソ、ソイツが何でお前のところに……!?」
「やっぱり!! イワークが町に降りてきたのは君達の所為か!! ポケモンの住処を荒らす行為、悪いけど見過ごせないね!!」
フユキはトレーナーの事は分からぬ。
だが──ポケモンが人から危害を与えられることには人一倍敏感だった。
特にイワークは山から下りた後に大きな被害を出してしまっている。フツフツとフユキの中に静かな怒りが湧いていた。
「グゴオオオオオオオオオーッッッ!!」
イワークの怒りの咆哮が響く。しかし──団員の1人が前に出て弁明するように言った。
「おい待て! そりゃあ言い掛かりだ!! 俺達の所為でソイツが目覚めたわけじゃねえ!!」
「一体どういう……!?」
「……おい。何をやっている? 此処は誰も通すな、って俺様は言った筈ダゼ」
団員達の後ろから一際大きなエンジン音が響いた。
見ると──そこには見上げる程に大きなモンスタートラック。
その車体の上に誰かが乗っている。そして発せられる声は、ノイズ混じり。ボイスチェンジャーで声を濁らせているようだった。
「マ、マヤ様ァ!? これは……」
「様ってことは、団のボス、ですか!」
「……丁度良い。上の人間に話を聞くのが手っ取り早いと思ってたんだ」
フユキは──モンスタートラックの上に乗る人物に声をかけた。
「ねえ! 君がボスなのかな! どうしてここを塞いでるのか教えてくれないだろうか!」
「……威勢がいいヤツはキライじゃないゼ」
ボスと思しき人物──マヤはトラックから飛び降りてくる。
体つきは華奢で、顔には鉄仮面が嵌められており、ボイスチェンジャーの所為で男か女かも分からない。
ライダースーツを纏っており、夜の闇に溶け込んでいる。
「そしてそのキャンピングカーは調査局か。敵対すると面倒だ。だけど、こっちにも事情ってもんがあんダゼ」
ボスは──団員達に目線をやった。彼らは怯えた顔のまま引き下がる。
「だからこうしようゼ。俺様とバトルで勝てたら通してやろうじゃねえカ!!」
「……バトル」
フユキはボールを握り締める。目の前のイワークは──完全にやる気だった。
「……うん、分かった。それが君の意思なら」
「あの、フユキさん。此処はボクが──」
「売られたバトルは受けなきゃいけないのがトレーナーの流儀……らしい。それに、イワークがドクバリ団に礼をしたいようだ」
フユキはイワークを見遣る。
イワークがドクバリ団との間に何があったのか──フユキはそれを知りたい。
「何より……隠されると暴きたくなるのが人間のサガってもんじゃないかな」
「暴きたくなる? この俺様をか」
「素顔を隠す仮面、声を隠す機械。一体、何を隠してるんだい?」
「……勝手に言ってな!! 全ては俺様に勝てれば、の話ダゼ!!」
ボールを投げるマヤ。
──飛び出したのは、月光に照らされ妖艶に笑みを浮かべる毒蛾。
「カカカーッ!! マヤ様に勝てるわきゃねーだろが!!」
「俺達の中で一番強いんだからなーッ!! やっちまってくださいよ、マヤ様ーッ!!」
「……俺様が強いんじゃなくて、オメーらが弱いだけだろが……ったく、しょうのねぇ子分共ダゼ」
【ドクバリ団クランヘッドのマヤが勝負を仕掛けてきた!!】
「……ドクケイルの毒は……バイクよりも速く回るゼ!! 出番だッ!!」
「ギャキャキャキャッ!!」
【クランヘッドのマヤはドクケイルを繰り出した!!】