元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第六話:毒蛾、そして毒牙

「オマエの手持ちはッ!!」

「二匹……ッ」

「丁度良い。俺様も二匹ダゼ。ただし──鍛えに鍛え上げた二匹だけどナッ!!」

 

 咆哮して飛び掛かるイワーク。

 しかし、それを見事に躱してみせるドクケイル。

 両者の戦いが始まった。それを見て──車から降りてきたサハリが目を見開く。

 

「マッズい、ドクケイルだと──ッ!?」

 

【ドクケイル どくがポケモン タイプ:虫/毒】

 

 すぐさまサハリはカバンからガスマスクを取り出して装着する。

 しかし、手を大きく振り上げたマヤは飛び回る自らの下僕に対して命じる。

 

 

 

「ドクケイル。鱗粉を辺り一帯にばら撒くんダゼッ!!」

「──ダメだ吸うなッ!!」

 

 

 

 運転席から飛び出すサハリの声を聞き、咄嗟に腕で口元を塞ぐフユキ。

 間もなくドクケイルが大きく羽ばたいて突風が辺りに吹き荒れる。

 反応が一歩遅れたコゴメはそれを吸ってしまい──

 

「ん……ふぁ、あ……」

 

 がくり、と膝を突いて首をもたれて昏倒してしまうのだった。

 

(コゴメちゃんッ!?)

 

「遅かったか──ドクケイルの鱗粉は人が吸うと直ちに昏倒するシロモノだ!! ポケモンなら毒を浴びるだけで済むがな──ッ!!」

 

 イワークが飛び回るドクケイルに岩を落とし、風は止む。

 コゴメの脇を掴んで背中に担いだサハリは──もう1つのガスマスクをフユキに投げ込む。

 

「ッ……そんなものをおかまいなしにッ……!!」

 

 ガスマスクを被ったフユキだったが、それでも眼球から鱗粉が入ったのか、目にごろごろするようなかゆみが襲い掛かる。

 だが、そんな事よりも──人間に対してポケモンの鱗粉を容赦なく浴びせかけるマヤに対してフユキは怒りが湧いてくるのだった。

 

「おいッ!! コゴメちゃんは関係ないだろッ!! 元に戻るんだろうなッ!!」

「安心しナ。この戦いが終わったら、”どくけし”をくれてやルゼ。それを持ってとっとと此処から失せなッ!!」

「……こいつ……ッ!!」

「オマエ、何か勘違いしてネーカ? これは公式戦でも何でもねえ野良試合。()()()()()()()()()()()()()()()()()んダゼ!!」

「フユキ、熱くなるなッ!! コゴメはあたしに任せて──オマエはバトルに集中しろッ!!」

「だけどッ……!」

「”彼を知り己を知れば百戦危うからず”」

「ッ……!?」

 

 サハリが諭すように言った。

 

「ウチの……()()が言ってた言葉だ。あたしはバトルはからっきしだが……それだけは言える。オマエ、イワークの出来る事は知ってるのか? 耐性と弱点は? ドクケイルのタイプや習性は? 何にも知らねえだろ」

「……それは──」

「怒りに任せて無暗やったらに突っ込むのは、ポケモンの為にもならねーしコゴメの為にもならねーぞ。初心者のオマエにそれを言うのは酷かもしれねーが──バトルを受けたのなら、腹ァ括れ」

 

 フユキは──息を大きく吸い込む。

 夜の闇、そしてガスマスク。ただでさえ悪い視界は更に最悪になっている。

 だが、目の前で戦うイワークの姿はハッキリと分かる。

 

(イワークの出来る事……岩を落とす、とか……穴を掘って移動する……──公道に穴を掘って開けたら大変だ、後は──技!! だけど、ドクケイルに翻弄されていて、それどころじゃない──)

 

「グゴォッ……!!」

 

 イワークが視線をフユキに遣った。

 「指示を」。そう言っているようだった。

 

(落ち着け俺ッ!! そして腹を括るんだッ!! 勝負を受けたんだろッ!! ちゃんとやれよ、イワークが可哀想だッ!!)

 

 スマホロトムを開く。

 図鑑アプリでイワークをスキャンする。

 使える技は4つ──”いわおとし”、”ロックブラスト”、”たいあたり”、”ロックカット”──

 

「……”いわおとし”は飛んで避けられてしまう、それなら──もっと速くッ!! イワーク、”ロックカット”だッ!!」

「ッ……!?」

 

 イワークが身体の岩を高速で回転させ、磨き上げる。

 そして、これまでにないほどの速度でドクケイルを追いかけ始めた。

 当然、更に高度を上げて飛翔することで逃げようとするドクケイルだが──

 

「”ロックブラスト”ッ!!」

 

 ──まるで機関銃の掃射の如し。

 高速で放たれた幾つもの岩の礫がドクケイルを撃ち抜き、そのまま地面へと叩き落とすのだった。

 地面に落ちたドクケイルの羽根はボロボロになっており、とてもではないが既に飛べる状態ではなかった。

 

「……よっし!! 倒した!!」

「……成程、これで一匹か。だけどなァ──オマエ、一つ勘違いしてるゼ」

 

 

 

「グ、ゴォッ……」

 

 

 

 ぐらり、とイワークが倒れ伏せる。

 両者相討ち──イワークもドクケイルも戦闘不能だ。

 

「えっ……な、何で……!!」

「ドクケイルが何もせずに飛び回っていただけかと思ったのカ?」

「……あっ!!」

 

 思わずフユキは地面を見て顔を蒼褪めさせた。

 ひし形の形状の物体が無数にばら撒かれている。

 そこからは危なさすら感じさせる靄が沸き立っていた。

 

「……流石に手強いな。毒使いのマヤ……と言われるだけはあるね」

 

 感心するようにサハリが言う。

 得意げにマヤは種明かしをした。

 

「”どくびし”ダゼッ!! ドクケイルは飛びながら”どくびし”をばら撒き続けていた!! それを踏んだイワークは毒を浴びたんダゼッ!!」

 

(”どくびし”!? 踏んだ相手を毒で侵すだけじゃなく地面に残り続けるから──後に出すポケモンも踏んだら毒を浴びる!!)

 

 スマホロトムに表示されたデータを見て、フユキは自分が追い詰められていた。

 フユキは残る手持ちのチコリータのボールを握り締めた。

 毒タイプは草タイプに対して相性が非常に悪い。

 ”どくびし”が撒かれている場所にチコリータを出してまで戦うのが正しいのか、とフユキは逡巡する。

 

「さぁて。俺様の手持ちも後一匹。そっちの手持ちも後一匹、ダロ?」

「ッ……」

「やるのか。やらないか。さあ、抜けよ、オマエのモンスターボールを」

 

 チコリータが短い前脚でモンスターボールを内側から叩いている。

 出せ。戦わせろ、と言わんばかりに。

 

「……君は、戦いたいのか」

 

 ──ちぃっこ!!

 

「……トレーナーとして、引き際を見極めねえといけねえ場面はあるよ。だけどな──ガキ。やる前から諦めるのは違うだろ?」

「……そうだ」

 

 イワークを倒され、短い間とはいえ行動を共にした女の子を巻き添えにされて──このまま黙って帰って良いのか。

 そう自問自答した時、フユキはボールを投げていた。

 

「行けッ!! チコリータッ!!」

「ボールを抜いたってことは戦うってことダゼッ!! 貫け、スピアーッ!!」

 

 夜の闇に赤い複眼が光る。

 降り立ったチコリータはびくりと体を震わせた。

 彼女を狙うのは──両腕に大きな槍を携えた毒蜂のポケモンだ。

 

「……ドクケイルに続いて虫タイプ複合の毒タイプか。チコリータにとっては最悪の相手だな……ッ!!」

 

【スピアー どくばちポケモン タイプ:虫/毒】

 

「コイツは俺様の切札ダゼ──ッ!! 覚悟は良いかッ!!」

「ッ……ち、ちこり!!」

「……!」

 

 一瞬たじろぐチコリータだったが、それでも戦う意思を見せると言わんばかりに後ろ脚で地面を蹴ってみせる。

 しかし、既に彼女の足元にはドクケイルの毒菱が撒かれており──苦痛が容赦なくチコリータを蝕んだ。

 

「……チコリータの技──何かスピアーに有効打は──ッ!!」

 

(素早さそうなポケモンだ、勝つにせよ負けるにせよ勝負は一瞬でつく!!)

 

 スマホロトムを見たフユキ。

 そして──覚悟を決めた。

 出来る事は、チコリータを信じる事だけだ。

 

「オラオラオラァッ!! スピアーの戦い方は単純明快ッ!! 毒で弱った相手を毒針で突いて、突いて、突きまくる、ダゼッ!!」

 

(……彼を知り、己を知らば百戦危うからず……か)

 

 翅を羽ばたかせれば爆撃機を思わせるような重い音が響く。

 獲物目掛けてスピアーは飛び掛かり、チコリータを仕留めにかかる。

 一瞬で勝負はつく。まともに攻撃を受ければ、チコリータは仕留められるのは確実だった。

 

(今の俺が出来るのは……チコリータを信じる事だけだ!!)

 

「スピアーッ!! ”ダブルニードル”ッ!!」

 

 襲い掛かるスピアー。

 

「──1発は躱せるはずだッ!! 2発目を受け止めろッ!!」

「ちこっ!!」

 

 右腕の針による一撃目がチコリータを狙うが、彼女は転がってそれを躱す。

 地面に毒針が突き刺さったが──軽やかにスピアーはそれを引き抜き、今度は左腕の針を無防備なチコリータの腹に突き刺した。

 

「──貰ったゼッ!」

 

 致命傷を与えた、と確信したスピアーはすぐさま飛び立とうとする。トドメを腹部の毒針で刺す為だ。

 しかし──スピアーは飛び立つことが出来なかった。

 

「……チコリータ、今だッ!! スピアーの首に蔓を巻きつけろ!!」

「ちぃこっ!!」

 

 毒に侵され、弱点を受けても尚──チコリータは首の蕾から蔓を伸ばし、スピアーの首に巻き付ける。

 

「何ッ!? こんなことして──無駄な事をするんじゃネエッ!! スピアー、”ダブルニードル”──」

「蔓を引き戻してスピアーを引き寄せろッ!!」

「ハァ!?」

 

 そして、思いっきり蔓を引き戻し、スピアーの顔面を引き寄せた。

 両者の顔と顔は急接近する──

 

 

 

「これで終わりだ──”カウンター”ッ!!」

「ちぃこりッッッ!!」

 

 

 ──強烈な頭突きがスピアーの額を砕いた。

 硝子のように脆い外骨格には罅が入り──赤い複眼から光が消え失せた。

 スピアーの首から蔓が解かれ、ぐらりと揺れたかと思えば地面に落下する。

 

【スピアーは倒れた!!】

 

 そして、チコリータはゼェゼェと息を切らせながらも──確かに立っているのだった。

 

「は、う、ウソ、何で──そんな、技を──ッ!?」

「……覚えていたんだから使うに決まってんだろ。これしか手は無かったんだ」

 

 信じられない光景にマヤは驚愕して膝を突く。

 一瞬で仕留めるのは此方のはずだったのに──逆に一撃で仕留められた。

 その衝撃が、彼女の胸を打ち砕いていた。

 

 

 

【クランヘッドのマヤに勝利した!!】

 

 

 

「エンストした……俺様とスピアーが……」

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