元プラズマ団員「旅行先が修羅の国過ぎる件」   作:タク@DMP

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第七話:キテルケテルミテル

「……か、勝った……」

「ちーこりっ!」

 

 ぴょーん、と飛び跳ねるチコリータ。

 そのまま回れ右すると、フユキに飛びついてくる。

 勝利の喜びをめいっぱいフユキと分かち合いたいようだったが──肝心のフユキの顔は浮かばれなかった。

 カウンター。それが、受けた物理技の威力を倍増させて跳ね返す技であることは図鑑を読んだことで理解していた。

 だが、それは同時に──チコリータが痛打を受けることが前提の戦術だったわけで。

 

「ごめんっ、チコリータ!! 痛かっただろう!?」

「ちこ?」

 

 首を傾げるチコリータ。

 しかし、スピアーの毒針のダメージは決して小さくはない。

 首元の蕾は既に枯れかけており、彼女自身も空元気を振り絞っているようだった。

 もっといい方法は無かったのか、そもそも闘うのが間違っていたのではないか、という思考すら湧いてくる。

 だが──すぐに後ろからサハリが駆け寄ってきた。

 

「ほれ、”かいふくのくすり”! そいつ打ち込んだら、毒もサッパリ消える!」

「……サハリさん」

「ゴメンじゃない。ありがとう、だ」

「えっ……?」

 

 煮え切らないフユキに、呆れたようにサハリが付け加えた。

 

「ポケモンが勝ったのに、トレーナーがそんな顔でどうする。勝負した相手にも、全力尽くした自分のポケモンにも失礼だ」

「ッ……は、はいっ」

 

 チコリータを抱きかかえたまま、フユキは渡された回復薬の注射をチコリータに打ち込む。

 短い針が幾つも並んでいるタイプのもので、痛みも最小限で済むのだという。

 すぐにチコリータの蕾は元気を取り戻し、彼女の活力も直に漲ってきたようだった。

 

「よ、よかっ……わわ!」

「ちこり! ちーこっ!」

 

 そのまま勢いよく圧し掛かってくるチコリータ。

 元気を取り戻した身体で、好意と喜びをありったけぶつけてくる。

 

「……チコリータ。ありがとう」

「ちーっ!」

「……さて。問題は、あっちの暴走族女の方だが」

 

 サハリが怪訝な顔を浮かべながら──敗北に打ちひしがれているマヤの方に目を向けた。

 ドクバリ団の団員達もどうすれば良いのか分からない、といった顔でオロオロしていたが──

 

「大変だーッッッ!!」

 

 ──その時だった。

 上の道から、モトトカゲ達が何匹も降りてくる。

 その背中にはドクバリ団の団員が乗っていた。

 

「ヤツが!! とうとうヤツが降りてきましたッ!! リーダーッッッ!!」

「ッ……!?」

 

 その報告を受けて、マヤは顔を上げた。

 

「ヤ、ヤツが!? ……マ、マズい……抑えきれるのか!?」

「それが、歯が立たず……」

 

 只ならぬ空気を前にサハリは叫ぶ。

 

「オイコラ!! 項垂れてんじゃねえ、どういうことだ!!」

「……マヤさん。此処を封鎖していた理由を聞かせて貰いたいのだけど」

 

 血気盛んなサハリを制して前に出るフユキ。

 彼としては、未だに目を覚ましていないコゴメが気掛かりだった。

 サハリにはコゴメの面倒を見ていてもらいたいのである。

 

「サハリさん、ドクケイルの毒に効く薬はあるのかい」

「ある! 時間はちとかかるが……!」

「……じゃあ、コゴメちゃんをお願いするよ」

「ダメだゼ!! ヤ、ヤツは……”ヤツ”はマズい!! 全員早く此処から逃げロ!!」

 

 血相を変えて叫ぶマヤ。

 

「”ヤツ”ってのは……何なんだい、マヤさん」

「俺達ドクバリ団は……あいつを捕まえる為に廃鉱山を張り込んでいた! だけど……調べていくうちに、あいつは絶対に山の下に降ろしちゃいけない生き物だって気付いた! ヤツは夜だけに現れる──ッ!!」

 

 マヤが倒れたスピアーをモンスターボールに戻したその時だった。

 

「リーダーッ、気を付けてッ!!」

 

 誰かが叫んだ。

 黒い靄のようなものが、マヤのモンスタートレーラーの下から湧き出ている。

 そして、それが独りでに持ち上がったのだ。

 

 

 

 ──身の毛がよだつような咆哮と共に。

 

 

 

「マオモオオオオオオオオオーッッッ!!」

 

 

 

 心胆を寒からしめる悍ましい叫び。

 この世のモノとは思えないようなものを前に、その場の全員が竦み上がった。

 持ち上がったモンスタートレーラーを支えるのは、全身が瘴気に塗れた熊のようなナニカ。

 着ぐるみのような巨体に、丸太のような大腕。

 その全てが虚実綯い交ぜ、生きているのか死んでいるのかも曖昧な存在。

 つぶらな瞳は、赤い炎のようなものが灯っており──殺意をその場の全員に振り撒く。

 

「キテルグマ……の、亡霊!?」

 

 その名を──思わずフユキは呼んでいた。

 モンスタートレーラーを下から両手で持ち上げたソレは──マヤ目掛けて降り下ろそうとする。

 

「ぁ……」

 

 死を悟ったような気の抜けた声が響く。

 だが、その前に一気に距離を詰めたフユキが──マヤの身体を抱きかかえ、そのまま搔っ攫った。

 フユキが思ったよりも体重が軽い、と感じたのも束の間。

 凄まじい音と共にモンスタートレーラーが地面に叩きつけられ、爆発し炎上する。

 

「ちこりーっ!?」

 

 助けに入ろうとしたチコリータだったが、炎上するトレーラーを前に近付くことが出来ない。

 一方のフユキも、マヤをお姫様抱っこしたまま、炎上するトレーラーをただ見つめる事しか出来なかった。

 

「と、とんでもない怪力だ……!! これじゃあ、チコリータじゃ勝ち目がない!!」

「あいつは、イワークを住処から追い出しちまったんだゼ……!! あ、あと、降ろせ……ッ!!」

「ああ、ごめん……!」

「……謝んナ。助けられたのは事実だからナ。あんがとだゼ」

 

 フユキの腕から降りたマヤだったが、まだ足が震えているようだった。

 圧倒的な力を見せつけるキテルグマを前に、流石に竦み上がっている。

 通常個体を遥かにしのぐ巨体に加え、ゆらゆらと瘴気を纏わせた生気を感じさせない真っ白な体毛のキテルグマ。

 耳と身体の一部だけが黒いのは、まるでヤンチャムやゴロンダを思わせる。

 ピンク色の体毛の通常種とは明らかに体色が違う。

 

「見た事が無いキテルグマの姿だ……!!」

 

 吼えるキテルグマはモンスタートレーラー目掛けて腕を振り下ろす。

 その隙に、フユキとマヤはチコリータの下へと走るのだった。

 

「ちこっ! ちこりっ!」

「ごめんチコリータ、心配かけさせたね! だけどあいつは……俺達じゃあ何ともなら無さそうだ」

 

 逃げないと、とフユキはマヤに目配せした。

 既にドクバリ団の団員も麓に危機を伝える為に次々に逃げていっている。

 

「……アレは、皆が束になっても勝てねえゼ……!! だからせめて、誰も近付けねえようにしてたんだゼ……!!」

「リージョンフォームってヤツだな」

 

 サハリが──震えあがるチコリータを押しのけるようにして前に出てくる。

 まさかの行動にフユキは目を丸くした。

 

「サハリさんッ!? コゴメちゃんは──」

「薬打ち込んで寝かせてあるッ! ……それよか、今はこいつを何とかするのが先だろが!」

「なんとかって……あんなの勝てっこないですよ!!」

「……此処で止めないと、奴は麓に降りて被害を出すだろうぜ。その前に──鎮圧する」

 

 サハリは白衣からモンスターボールを取り出した。

 それを虚空に投げる。

 

「……緊急事態だ。頼むぞ──サメハダーッ!!」

「ジョォオオオオオオオオオオオズ!!」

 

 巨大な顔面を持つ鮫のポケモンが──サハリの前に飛び出した。

 

「サハリさん、ポケモン持ってたんですか!?」

「こいつは()()()()()()()()ポケモンだ! あたしのじゃねえよ! だけど……多分、この場で一番強いポケモンだッ!」

「ジョォオオオオオオオオオズ!!」

 

【サメハダー きょうぼうポケモン タイプ:水/悪】

 

 尾びれから溜め込んだ海水をジェット噴射し、サメハダーはキテルグマに喰らいつく。

 それを叩き潰そうとするキテルグマだったが凄まじい速度で地上を滑走するサメハダーの動きを捕える事が出来ない。

 

「──”かみくだく”ッ!!」

 

 そのまま跳んだサメハダーが、キテルグマの腕に喰らいつき──嚙み千切る。

 あまりにも鮮やかな手際に、フユキは感心してしまうのだった。

 だが同時に──千切れたキテルグマの腕はすぐさま消えてしまい、更にキテルグマの腕は靄と共に急速に再生していく。

 これが意味するのは、やはりキテルグマが普通の生き物ではないという点であった。

 

「オオイ山の怪異の正体見たり、だなッ!! やっぱり駆除されたキテルグマの幽霊……それがポケモンになったんだッ!!」

「ゴーストタイプになってる、ってことですか!?」

「ああ、だが悪タイプの技で確実にダメージは入ってる──」

 

 

 

「──ブモォオオオオオオオオオオンッ!!」

 

 

 

 怒り狂うキテルグマ。

 再生した腕で樹木を引き抜いたキテルグマは、見境なく辺りに振り回し始める。

 

(こ、これが本当の野生ポケモン……! 人間なんて手が届かない領域に居る怪物……!)

 

 改めてフユキは、人間の脆弱さ。

 そして──目の前に立ち塞がる存在の恐ろしさを思い知るのだった。

 

「こうなりゃ一撃必殺だ。ヤツの喉笛を噛み千切って大人しくさせるしかねえ!!」

「できるんですか、サハリさん……!」

「サメハダーの特性は”かそく”。時間が経てば経つ程に素早さが上昇する。そして──」

 

 サハリは白衣の袖を捲り上げる。

 そこには、真鍮で作られた腕輪が嵌められている。

 腕輪にはオパール状の宝石が埋め込まれていた。

 

「サハリさん、それは……!」

「……その素早さで勝負を決める」

「ジョォオオオオオオオオオズ!!」

 

 宝石に手を翳すサハリ。

 同時に、サメハダーの身体が突如、夜の闇も消し飛ばす勢いで輝き始める。

 

 

 

「借り物だがやれるだけやってやる!! サメハダー……メガシンカだッ!!

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